第十九話 「ペア@」
幾分かマシになったとは言え、世間からの信頼が完全回復したわけではない。殊クロウに至っては謝罪の文言がなかっただけに、未だ厳しい評価を下す人間もそれなりの数を占めていた。無論、神羅側も事態は把握している為にそれ相応の対処で彼女の処遇を決めるとのことではあったが、(結論から言えば力を抑える方向の)ドーピングを施していたにも関わらず、彼女が過去に挙げた実績は歴代の1stの活躍と比較しても光るものがある。上役による処分への審議は二週間にも及び、尚且つ下された内容はとても“処分”と表するには至らないものであった。
「むしろ感謝して欲しいものだね。君の実力、実績を大きく推し出した結果なのだから。」
ラザードはそう言って椅子の背もたれに大きく背中を預けた。ジェネシスの件以降、度々起こる騒動は決まって彼の管轄内の出来事である。加えて今回はプレジデントやルーファウス含めた上役を交えての会議が長く続いた。疲れが溜まっているのも仕方のないことではある。が、その様子を目の前にしている当の本人は至極不服そうな表情で光景を見下ろしていた。
「出来ると思うのか。」
「出来る出来ないの話ではないんだよ。それが会議で下された決断なのだから君はそれを全うしなければならない。信頼回復はまず身内からということだ。」
「―――で、当分の任務俺とペアってわけ?」
「喋りかけるな駄犬。足引っ張れば殺す。」
ヘリへの道中、不満の意たっぷりの顔つきでビル内を早足で進むクロウに対し、駄犬と罵られた少年―――――ザックスは、それでもしたり顔のままその横を歩いていた。
そう、クロウに下された処分とは、新人1stの実践教育。そして訓練兵の実技指導といった簡素なものであった。ちなみにどちらも無期限である。
本来このような教育はそれ専門の兵士が監督役として就くわけであるが、アンジールのように性格や実力共に適任と判断された1stが買って出る場合もある。とは言いつつも、1stクラスが指導にあたることなど滅多になく、例え希望があったとしても、1st昇格後の実績が認められなければ指導には入ることが認められない。そういった面を思えば、今回の処遇は寧ろ彼女の功績を重視した大抜擢と言っても過言ではないのであろうが、ツォンから聞いた1stのメンバーの評判や、神羅襲撃時等、実際に自分が目の当たりにしたクロウの性格を考えれば、教育係なんてものは彼女が最も苦手とする分野であろうことは容易に想像出来た。
「無期限なんだろ?その態度何とかしてくんなきゃ永遠にペアで行動させられるかもだぞ?」
「・・・・・・・・・。」
反応がないのでちらと横目を流して隣の少女を見遣る。眉間にこれでもかという程皺を寄せ、薄く開いた唇から確認出来る犬歯のせいでその様はまさに悪鬼羅刹だ。
「おー、こわッ!」
「・・・・・・・・・。」
先程から何を呟いてもスルー状態が続くので、ザックスは逆に開き直りを見せた。外見が変わっただけで中身はあの生意気な子どもと同じなのだ。勿論、幾分か成長した外見は、似ても似つかないと思っていたロゼのそれを思わせるように、良い方向に変わっている。幾分か、というよりも随分女らしくなったことは認める。そんな考えが頭の中をよぎった瞬間、ザックスの興味がそちらへと転換された。
「―――なぁ、それで何歳なわけ?あの子どもの姿って、何年分くらい若返ってんの?7〜8歳くらい?」
16歳で180p近くあるザックスからしてみれば、隣を歩くクロウはだいぶ小さく見えた。頭一つ分とはいかないまでも、15pは差があるように感じる。この間スラムの教会で出会った少女―――――エアリスと似たような身長だ。しかし、長く1stにいる為付いた貫禄か、雰囲気は彼女のそれとはとても似つかない。以前にも感じたが、外見と中身の年齢が一致していないように感じるのである。
「見た感じ・・・、18〜9歳ってところかn―――――」
「15だ。」
反射的に返したのであろうか。どうせ返事はないだろうと一人言葉を並べていたザックスが言い終えるか終えないかのところでクロウが口を開いた。15だ。確かに彼女はそう言った。
「え、うっそ!!俺の方が年上!?」
廊下を抜けて、飛行場への扉を開けるなり差し込む眩しい夕日。視界いっぱいに広がる明るさを前に瞼を閉じるどころか逆に大きくその目を見開いて。ザックスはここ最近で一番驚いたと付け加えた。本当にそうなのだろう、離陸準備を行っているヘリを中心に巻き起こる強風を全身に受けながらも、そんなことは意識の外だと言わんばかりに猛烈にクロウに詰め寄っては興味津々な様子でその風貌を凝視している。
「なんだぁ!態度がでっかいからてっきり年上だと思ってたけど!じゃあ人生経験は俺の方が先輩だな!!」
「たかが一年だろ。」
「おっ、一年をなめてるな?一年の差ってでかいんだぞ?んで、そんな一年、人生をたくさん経験した先輩から一言!」
下らないと先々ヘリへと歩いていくクロウの前方へと回り込み、身長差もあってか余計に得意気に見える表情でザックスは右手の人差し指を一本立てて見せる。アドバイスしてやるよ、とでも言っているような姿勢だ。そんなザックスを、どけ邪魔だと無言のうちに睨んでいたクロウは、ふと伸びてきた両手に頭部を掴まれる。急に狭まる視界。その僅かな視界一面に位置するザックスの顔。それだけでクロウのイライラは募っていくというのに―――――・・・。
「眉間に皺ばっか寄せてると、モテないぞ〜?」
両親指で眉間の皺を伸ばされ、ついでに頭上から降ってきた余計な一言。無論、この後ザックスが体格差などどこへやらといった見事な投げ技を喰らい地面に叩きつけられたことは、機内で一部始終を見ていたタークスのおかげで社員の殆どが知るところとなったのは言うまでもない。
任務自体は比較的楽なものだった。というのも、以前ザックスが壊滅させたウータイへと赴き、ミッドガルに侵入する残党のもとを絶ってこい、それだけだったからである。その所為かクロウの機嫌は悪くなる一方で、道中一向に口を開く様子はなかった。ミッドガルへの帰路を辿る現在でさえ、視線を窓の外へと貼り付かせたまま、動かない。その視線がどこを見据えているのか。今回の任務内容に対しての不貞腐れだろうか、それとも極力他人と関わらないようにしているのか。どちらにせよ、今のクロウの孤立のしようと言ったら、腫物を扱っているかのような、そんな雰囲気を狭い機内に充満させていた。
そうして早一週間が過ぎ去ったが、与えられる任務は驚くほど簡単なものばかりで、これにはさすがのザックスもほとほと困り果てていた。内容だけで言えば2nd以下に与えられるような任務ばかり。1stクラス二人に課すようなものではない。今回なんて最悪で、大量発生したモルボルの討伐だけ。不服なのだろう、クロウはウータイ以降は任務中一向に動く気配を見せない為、成果の殆どはザックスが挙げたものである。干されていた時期を思えば実践が経験出来るだけ幾分かマシではあるが、それでもひどい内容であることに変わりはなかった。
「これじゃ連帯責任食わされてるみたいで・・・。」
セフィロスに関しては相変わらずだが、聞くところによれば、ロゼにはそれなりの大きな仕事が与えられているという。思い返せば敵対していた組織を一人で壊滅させるなど、彼は何をするにも華やかなイメージがあった。一時期はクロウ相手にもそんな勝手なイメージを抱いていたが、こうした処分を受けている現在ではそんなものは見事に吹き飛んでしまっている。いつになればそれらしい任務に就けるのだろう。そう思い盛大な溜息を吐いた矢先、最早日課となったように顔を窓に貼り付かせていたクロウが、珍しく口を開いた。声を聴くのは6日ぶりだ。
「―――お前の心身が向上しない限りはいつまで経ってもこのままだ。早くその稚拙な構えを何とかしろ。」
凡そ見物を決め込んでいる人間の発言だ。同じくその発言を聞いていたツォンは呆れたように目頭を押さえると、クロウの投げやり且つ横暴な言葉を制止する。
「確かにザックスの技術向上が鍵ではある―――が、お前がそれを指導しない限りは上は姿勢を変えないだろうな。」
「―――下を見ている余裕はない。」
いつもの彼女なら食って掛かるような反応を示すであろう文言を口にした筈であったが、ここのところの様子は酷く落ち着いている。会話の最中でもその目は一向に窓の外からこちらを捉えようとはせず、ただ夜の闇を見据えているように見えた。いや、位置の問題だろうか。彼女より基本前に腰を下ろしていたザックスは、先程の彼女の発言からその双眸が見据える先が単なる闇ではないのではないか、とふと思う。確証こそ持てなかったが、夜特有の現象であろう、窓に映る自身の瞳を見詰めているように見えたのだ。ザックスはそんな様子を何となしに見ていたが、少女の神妙な面持ちは、彼女にも何かしらの考えが存在している事実をしみじみと感じさせた。他者にも確固とした自我がある。そんな当たり前のことを、以前までは興味すら抱かなかったこの相手に対し認めた瞬間である。
強くなりたいって根本は一緒だもんな・・・。
そういや、騙してたは守る為とかって言ってたっけ・・・?
そんな風には見えないけど、クロウもクロウなりに街のこととか考えてたりすんのかな。
でも何なんだろう、何かが―――――・・・
・・・―――――何かが違うような。
「・・・―――案外追いつくかもしれん。それに、どのみちザックスに成果が見られなければお前は永久に強さとは無縁の世界に放置されたままだ。」
「―――そんな処罰は受けていない。」
「意外だな。気付いていると思っていたが。・・・要するに、弱いままの1stと一緒では大役はとてもじゃないが任せられない、ということだ。」
「はぁ!?弱い!?それって俺のこと!?」
ツォンの言葉にザックスが食い付いたが、クロウは騒々しさなど蚊帳の外だと言わんばかりにポケットから携帯を取り出した。言い合いを繰り広げる男二人を他所に、淡々と話を終えたクロウは、終話ボタンを押すと深い蒼をザックスへと向ける。
「明日、朝10時に科学部門前へ来い。装備を忘れるな。」
「―――――え?」
唐突な出来事に頭が付いていかず、何のことかと問いかけてみても、あの一言以降、クロウは再び窓にべったりになってしまい口を聞いてくれなかった。取り敢えず言われた通り、実地用の装備をして科学部門の扉まで来てみると、約束の5分前だと言うのに当の本人の姿はなかった。代わりに、自分以上に規格外な体格の男を確認し、やれ今日は1stで会議でもするのかといった脈絡もクソもない考えまで浮かんできてしまった。
「セフィロス?何で?」
「?―――今日はお前の対人訓練の見学と、ついでに助言役を頼まれたんだが。」
「え?」
「おー、揃ってるね!お二人さん!!」
真っ白だった頭に怒涛のラッシュを決め込んでくる情報軍。セフィロスの一言を皮切りに、今度はその向こうからもう一人の1st―――――ロゼの声まで聞こえてくるのだから、今日は会議ではなく命日だったのかと真顔で思った。そうして固まっているとロゼの背後にクロウの姿を見つけ、考えるよりも先に体が彼女の方へと詰め寄って行き、ついでに自分でも驚く声量で矢継ぎ早に質問を浴びせまくった。自分でも制御が効いていない、ところどころ裏声になっている。取り敢えず唾が飛ばない距離まで後退すると、クロウは質問云々をすっ飛ばし一言、
「お前今から―――――私と、戦え。」
「むしろ感謝して欲しいものだね。君の実力、実績を大きく推し出した結果なのだから。」
ラザードはそう言って椅子の背もたれに大きく背中を預けた。ジェネシスの件以降、度々起こる騒動は決まって彼の管轄内の出来事である。加えて今回はプレジデントやルーファウス含めた上役を交えての会議が長く続いた。疲れが溜まっているのも仕方のないことではある。が、その様子を目の前にしている当の本人は至極不服そうな表情で光景を見下ろしていた。
「出来ると思うのか。」
「出来る出来ないの話ではないんだよ。それが会議で下された決断なのだから君はそれを全うしなければならない。信頼回復はまず身内からということだ。」
「―――で、当分の任務俺とペアってわけ?」
「喋りかけるな駄犬。足引っ張れば殺す。」
ヘリへの道中、不満の意たっぷりの顔つきでビル内を早足で進むクロウに対し、駄犬と罵られた少年―――――ザックスは、それでもしたり顔のままその横を歩いていた。
そう、クロウに下された処分とは、新人1stの実践教育。そして訓練兵の実技指導といった簡素なものであった。ちなみにどちらも無期限である。
本来このような教育はそれ専門の兵士が監督役として就くわけであるが、アンジールのように性格や実力共に適任と判断された1stが買って出る場合もある。とは言いつつも、1stクラスが指導にあたることなど滅多になく、例え希望があったとしても、1st昇格後の実績が認められなければ指導には入ることが認められない。そういった面を思えば、今回の処遇は寧ろ彼女の功績を重視した大抜擢と言っても過言ではないのであろうが、ツォンから聞いた1stのメンバーの評判や、神羅襲撃時等、実際に自分が目の当たりにしたクロウの性格を考えれば、教育係なんてものは彼女が最も苦手とする分野であろうことは容易に想像出来た。
「無期限なんだろ?その態度何とかしてくんなきゃ永遠にペアで行動させられるかもだぞ?」
「・・・・・・・・・。」
反応がないのでちらと横目を流して隣の少女を見遣る。眉間にこれでもかという程皺を寄せ、薄く開いた唇から確認出来る犬歯のせいでその様はまさに悪鬼羅刹だ。
「おー、こわッ!」
「・・・・・・・・・。」
先程から何を呟いてもスルー状態が続くので、ザックスは逆に開き直りを見せた。外見が変わっただけで中身はあの生意気な子どもと同じなのだ。勿論、幾分か成長した外見は、似ても似つかないと思っていたロゼのそれを思わせるように、良い方向に変わっている。幾分か、というよりも随分女らしくなったことは認める。そんな考えが頭の中をよぎった瞬間、ザックスの興味がそちらへと転換された。
「―――なぁ、それで何歳なわけ?あの子どもの姿って、何年分くらい若返ってんの?7〜8歳くらい?」
16歳で180p近くあるザックスからしてみれば、隣を歩くクロウはだいぶ小さく見えた。頭一つ分とはいかないまでも、15pは差があるように感じる。この間スラムの教会で出会った少女―――――エアリスと似たような身長だ。しかし、長く1stにいる為付いた貫禄か、雰囲気は彼女のそれとはとても似つかない。以前にも感じたが、外見と中身の年齢が一致していないように感じるのである。
「見た感じ・・・、18〜9歳ってところかn―――――」
「15だ。」
反射的に返したのであろうか。どうせ返事はないだろうと一人言葉を並べていたザックスが言い終えるか終えないかのところでクロウが口を開いた。15だ。確かに彼女はそう言った。
「え、うっそ!!俺の方が年上!?」
廊下を抜けて、飛行場への扉を開けるなり差し込む眩しい夕日。視界いっぱいに広がる明るさを前に瞼を閉じるどころか逆に大きくその目を見開いて。ザックスはここ最近で一番驚いたと付け加えた。本当にそうなのだろう、離陸準備を行っているヘリを中心に巻き起こる強風を全身に受けながらも、そんなことは意識の外だと言わんばかりに猛烈にクロウに詰め寄っては興味津々な様子でその風貌を凝視している。
「なんだぁ!態度がでっかいからてっきり年上だと思ってたけど!じゃあ人生経験は俺の方が先輩だな!!」
「たかが一年だろ。」
「おっ、一年をなめてるな?一年の差ってでかいんだぞ?んで、そんな一年、人生をたくさん経験した先輩から一言!」
下らないと先々ヘリへと歩いていくクロウの前方へと回り込み、身長差もあってか余計に得意気に見える表情でザックスは右手の人差し指を一本立てて見せる。アドバイスしてやるよ、とでも言っているような姿勢だ。そんなザックスを、どけ邪魔だと無言のうちに睨んでいたクロウは、ふと伸びてきた両手に頭部を掴まれる。急に狭まる視界。その僅かな視界一面に位置するザックスの顔。それだけでクロウのイライラは募っていくというのに―――――・・・。
「眉間に皺ばっか寄せてると、モテないぞ〜?」
両親指で眉間の皺を伸ばされ、ついでに頭上から降ってきた余計な一言。無論、この後ザックスが体格差などどこへやらといった見事な投げ技を喰らい地面に叩きつけられたことは、機内で一部始終を見ていたタークスのおかげで社員の殆どが知るところとなったのは言うまでもない。
任務自体は比較的楽なものだった。というのも、以前ザックスが壊滅させたウータイへと赴き、ミッドガルに侵入する残党のもとを絶ってこい、それだけだったからである。その所為かクロウの機嫌は悪くなる一方で、道中一向に口を開く様子はなかった。ミッドガルへの帰路を辿る現在でさえ、視線を窓の外へと貼り付かせたまま、動かない。その視線がどこを見据えているのか。今回の任務内容に対しての不貞腐れだろうか、それとも極力他人と関わらないようにしているのか。どちらにせよ、今のクロウの孤立のしようと言ったら、腫物を扱っているかのような、そんな雰囲気を狭い機内に充満させていた。
そうして早一週間が過ぎ去ったが、与えられる任務は驚くほど簡単なものばかりで、これにはさすがのザックスもほとほと困り果てていた。内容だけで言えば2nd以下に与えられるような任務ばかり。1stクラス二人に課すようなものではない。今回なんて最悪で、大量発生したモルボルの討伐だけ。不服なのだろう、クロウはウータイ以降は任務中一向に動く気配を見せない為、成果の殆どはザックスが挙げたものである。干されていた時期を思えば実践が経験出来るだけ幾分かマシではあるが、それでもひどい内容であることに変わりはなかった。
「これじゃ連帯責任食わされてるみたいで・・・。」
セフィロスに関しては相変わらずだが、聞くところによれば、ロゼにはそれなりの大きな仕事が与えられているという。思い返せば敵対していた組織を一人で壊滅させるなど、彼は何をするにも華やかなイメージがあった。一時期はクロウ相手にもそんな勝手なイメージを抱いていたが、こうした処分を受けている現在ではそんなものは見事に吹き飛んでしまっている。いつになればそれらしい任務に就けるのだろう。そう思い盛大な溜息を吐いた矢先、最早日課となったように顔を窓に貼り付かせていたクロウが、珍しく口を開いた。声を聴くのは6日ぶりだ。
「―――お前の心身が向上しない限りはいつまで経ってもこのままだ。早くその稚拙な構えを何とかしろ。」
凡そ見物を決め込んでいる人間の発言だ。同じくその発言を聞いていたツォンは呆れたように目頭を押さえると、クロウの投げやり且つ横暴な言葉を制止する。
「確かにザックスの技術向上が鍵ではある―――が、お前がそれを指導しない限りは上は姿勢を変えないだろうな。」
「―――下を見ている余裕はない。」
いつもの彼女なら食って掛かるような反応を示すであろう文言を口にした筈であったが、ここのところの様子は酷く落ち着いている。会話の最中でもその目は一向に窓の外からこちらを捉えようとはせず、ただ夜の闇を見据えているように見えた。いや、位置の問題だろうか。彼女より基本前に腰を下ろしていたザックスは、先程の彼女の発言からその双眸が見据える先が単なる闇ではないのではないか、とふと思う。確証こそ持てなかったが、夜特有の現象であろう、窓に映る自身の瞳を見詰めているように見えたのだ。ザックスはそんな様子を何となしに見ていたが、少女の神妙な面持ちは、彼女にも何かしらの考えが存在している事実をしみじみと感じさせた。他者にも確固とした自我がある。そんな当たり前のことを、以前までは興味すら抱かなかったこの相手に対し認めた瞬間である。
強くなりたいって根本は一緒だもんな・・・。
そういや、騙してたは守る為とかって言ってたっけ・・・?
そんな風には見えないけど、クロウもクロウなりに街のこととか考えてたりすんのかな。
でも何なんだろう、何かが―――――・・・
・・・―――――何かが違うような。
「・・・―――案外追いつくかもしれん。それに、どのみちザックスに成果が見られなければお前は永久に強さとは無縁の世界に放置されたままだ。」
「―――そんな処罰は受けていない。」
「意外だな。気付いていると思っていたが。・・・要するに、弱いままの1stと一緒では大役はとてもじゃないが任せられない、ということだ。」
「はぁ!?弱い!?それって俺のこと!?」
ツォンの言葉にザックスが食い付いたが、クロウは騒々しさなど蚊帳の外だと言わんばかりにポケットから携帯を取り出した。言い合いを繰り広げる男二人を他所に、淡々と話を終えたクロウは、終話ボタンを押すと深い蒼をザックスへと向ける。
「明日、朝10時に科学部門前へ来い。装備を忘れるな。」
「―――――え?」
唐突な出来事に頭が付いていかず、何のことかと問いかけてみても、あの一言以降、クロウは再び窓にべったりになってしまい口を聞いてくれなかった。取り敢えず言われた通り、実地用の装備をして科学部門の扉まで来てみると、約束の5分前だと言うのに当の本人の姿はなかった。代わりに、自分以上に規格外な体格の男を確認し、やれ今日は1stで会議でもするのかといった脈絡もクソもない考えまで浮かんできてしまった。
「セフィロス?何で?」
「?―――今日はお前の対人訓練の見学と、ついでに助言役を頼まれたんだが。」
「え?」
「おー、揃ってるね!お二人さん!!」
真っ白だった頭に怒涛のラッシュを決め込んでくる情報軍。セフィロスの一言を皮切りに、今度はその向こうからもう一人の1st―――――ロゼの声まで聞こえてくるのだから、今日は会議ではなく命日だったのかと真顔で思った。そうして固まっているとロゼの背後にクロウの姿を見つけ、考えるよりも先に体が彼女の方へと詰め寄って行き、ついでに自分でも驚く声量で矢継ぎ早に質問を浴びせまくった。自分でも制御が効いていない、ところどころ裏声になっている。取り敢えず唾が飛ばない距離まで後退すると、クロウは質問云々をすっ飛ばし一言、
「お前今から―――――私と、戦え。」
■作者メッセージ
年内に10話更新は無謀でした。卒業論文の存在を完全に忘れておりました、はい。今年もやはり亀更新は間違いないと思われますが、皆様どうぞよろしくお願いします。
内容に関しましては今回は補足することもないかなぁ。ザックスが思いっきりとばっちりを受けてます。最後の1st勢揃いは書いててなかなか良い方向に変な展開になってしまったと思いました。何気にロゼとザックスを絡ませるのが初なので、テンションが上がっております。
話が少しそれますが、個人的なイメージをぶっこむと、現状在籍する1stの中じゃセフィロスはかなり天然な部類に入るんじゃないかなとか思ったり。
ザックス→天真爛漫、子犬
セフィロス→真面目なんだけど少し天然混じってそう
ロゼ→怒らせちゃいけないタイプの人
クロウ→常怒ってる人
みたいな。これから先セフィロスが天然を発揮することは話の流れ上おそらくないでしょうが、番外編的なの書ければこういったイメージ盛り込んでいきたいなとか思ってたり思ってなかったり。科学部門前集合なので天然発揮どころか血管浮かび上がらせてキレそうな展開の方が予想しやすいけど。
・・・と今回は好き勝手言っておりますが、ここまで読んで下さった皆様、ありがとうございます。
因みにですが、クロウ、ロゼ、ルシアの設定画を載せたい云々と以前の投稿で書いたように思うのですが、画像の容量がでかすぎてとても既定のサイズ内におさめられそうにありません。―――――ので、思い切ってTwitterに小説アカウントを作ってきました。そこに随時設定画や次回更新のお知らせを流していく予定です。皆様よろしくおねがいしますです。
それでは次回更新まで!!
内容に関しましては今回は補足することもないかなぁ。ザックスが思いっきりとばっちりを受けてます。最後の1st勢揃いは書いててなかなか良い方向に変な展開になってしまったと思いました。何気にロゼとザックスを絡ませるのが初なので、テンションが上がっております。
話が少しそれますが、個人的なイメージをぶっこむと、現状在籍する1stの中じゃセフィロスはかなり天然な部類に入るんじゃないかなとか思ったり。
ザックス→天真爛漫、子犬
セフィロス→真面目なんだけど少し天然混じってそう
ロゼ→怒らせちゃいけないタイプの人
クロウ→常怒ってる人
みたいな。これから先セフィロスが天然を発揮することは話の流れ上おそらくないでしょうが、番外編的なの書ければこういったイメージ盛り込んでいきたいなとか思ってたり思ってなかったり。科学部門前集合なので天然発揮どころか血管浮かび上がらせてキレそうな展開の方が予想しやすいけど。
・・・と今回は好き勝手言っておりますが、ここまで読んで下さった皆様、ありがとうございます。
因みにですが、クロウ、ロゼ、ルシアの設定画を載せたい云々と以前の投稿で書いたように思うのですが、画像の容量がでかすぎてとても既定のサイズ内におさめられそうにありません。―――――ので、思い切ってTwitterに小説アカウントを作ってきました。そこに随時設定画や次回更新のお知らせを流していく予定です。皆様よろしくおねがいしますです。
それでは次回更新まで!!