第二十四話 「リバーシ」
後日、セフィロスが深手を負ったと社内が騒然となった。任務に行っているわけでもないのに何が原因なんだと道行く人間大騒ぎであったが、ザックスだけはその原因に心当たりがあった。その『変化』は必然たるものだと当人は語ったが、あまりにも突然の出来事だった為にセフィロスの攻撃回避が遅れたのだ。いや、自分ならば避けられただろうか。『アレ』は回避しようとしてそう簡単に避けられるものでもなかった。“そういう”規模だった。直径二十メートルはあったのではないか。その規模の巨大な雷が、セフィロスの正宗目掛けて落雷したのだ。
攻撃を仕掛けた本人でさえ事態には驚きを隠せないでいた。しかし、滅多に見ることが出来ないその驚嘆した表情は、見ている此方を驚愕させるような喜色を次第に帯び始める。鬼神とは誰が名付けたものか、これほど的確な別称もないであろう。仮にも今、自身の攻撃により一人の人間が重傷を負ったというのに、悪びれる様子もなければむしろその逆―――――これ以上に場に不釣り合いな表情もないであろう、不敵な笑みを浮かべて。クロウは光景をただじっと見詰めていた。
「そうか。奴が言っていた『属性』とはこのことか。」
何のことかもさっぱりな台詞を呟いては、驚くほど余裕の顔つきでクロウは此方に歩み寄ってきた。片膝を付き、倒れ伏す英雄の傷口の症状を暫く観察すると、回復魔法で取り敢えずといった感じの応急処置を施す。
「処置が済めばお前も手伝え。この巨躯を私一人で運ぶには絵面的に問題があろう。」
「わ、分かった!」
絵面如何こうの問題ではない気もするがザックスは黙っていた。そうしてものの五分で応急処置を終え、クロウはザックスに上半身に回るよう指示し自身はセフィロスの両足を抱えてトレーニングルームを出る。途中申し訳なさそうに視線で訴えるセフィロスと何度か視線がぶつかったがクロウは何も言わなかった。
そうして科学部門へと辿り着くと宝条に事の経緯を大雑把に説明し、セフィロスはそのまま治療ブースへと運ばれた。英雄のやられようにひどく興味を示した痩躯の男により、クロウは別室にて特殊実験を受けることとなり、アドバイザーに指導教官と同時に二人がいなくなってしまったザックスは、特にやることもないので久し振りの自主練へと戻ることにした。
噂は瞬く間に社内に広がった。未だ全快しないセフィロスの様子や、珍しく任務からの帰還が遅れているロゼのことを考慮してか、上層部は予想より早く二人を実践へと送り出す決断を下した。
「―――――ペアが解消されるということではないらしい。が、当分は任地へはお前一人で向かうことになる。」
「何で?」
「訓練兵の指導だ。付け加え、上二人のスケジュールとの兼ね合いになるが当分は私が一級任務へ赴くことになる。」
任地への道中そんな会話をした。誤算だったのだろう。神羅側も不本意ではあろうがそうする以外に任務効率を維持するのが難しくなっているようだ。
外傷は既に綺麗さっぱり回復しているにも関わらず、神経系に一部損傷が出ているのかセフィロスの調子は未だ良くない方向にあった。あの規模の落雷を受けたのだ、感電の際に伝達機能辺りがやられていてもおかしくはない。更にはもう一人の巨大戦力、ロゼも、先刻出向いた任務から未だ帰還が果たせないでいる。当人との連絡はつかないでいたが、作戦に同行している2ndやタークスからの情報によれば、どうやらジェネシスが一枚噛んでいるようだった。
実力的にはその次を張るクロウが二人の損失を当面補うのであろう。現状としては神羅と大きな抗争を繰り広げる組織はほぼ壊滅したと言ってもいいのであろうが、反抗的な勢力は幾つも存在するのが現実だ。大量脱走事件についても解決を得られていない。それどころか、ホランダーの研究が日に日に進んでいる所為か、それとも被験体の優秀さがものを言っているのか、兎角コピーのレベルが上がってきており2ndでも太刀打ち出来なくなってきているのだ。このままなだれ込んでペア解消、といきたいところだが、セフィロスを負傷させたなどクロウは何かと神羅の評判を下げる事案に関わってきた為その可能性はないだろう。とは言え、実践に出られるのは有難いことだと思う。
「さーて、暴れるぞー!」
ザックスはここ数日溜めていた鬱憤とトレーニングの成果を出すべく気合を入れた。
ロゼが帰還した。今回の任務の報告書をまとめて上へ提出しに行くところを見かけたが、ジェネシス絡みということもあってかその姿はかなりやつれて見えた。しかしやつれていてもその様相は風格を損なうことなく『女王』たり続けており、ここに彼の強さを垣間見たように思えた。
ロゼの出社はおよそ六日ぶり。彼の帰還により神羅に現状在籍する1stが全員揃ったことになるわけだが。クロウはこの間本人が口にしていたように、今は訓練兵の指導にあたっておりさして変わった様子も見られない。セフィロスは調子も回復し万全の状態となった筈だが、ここのところ連絡がつかない。任務には出ていないとラザードが話してくれたことを思うと社内にいることはいるのであろうが、それにしても何故繋がらないのか。
一方で嬉しい変化もある。ジェネシスの神羅襲撃時に知り合った少女―――――エアリスから頻繁に連絡が来るようになった。ついこの間は協会に咲いている花を売り歩く為に花売りワゴンを作ってやると約束した。目まぐるしく状況が変化する中で、彼女の醸し出す雰囲気は癒しそのものだった。どこかの毒舌少女とは似ても似つかない、そんな和やかなオーラが彼女にはある。
ここのところ大きな任務もない。やることと言えば自主トレーニング、ただそれのみ。休暇に近いこの自由な時間を使って、ザックスはエアリスとの距離を確実に縮めていった。そうして今日も今日とてスラムの教会へと足を運んだわけであるが、そこで目にしたのは想定外の光景だった。
「ロゼ、久し振り。だけど元気、なさそう・・・。」
「ここんとこバタバタしてたからかな。エアリスと会うのも久し振りだね。連絡もしないでごめんね。」
「いいよ、大変だったの知ってるから。」
どことなく漂う甘い雰囲気に顔中の血の気が引いていくのが分かる。目の前の男女は互いが互いを気遣うように、優しい視線を伴った柔らかな表情で慎まし気に言葉を交わしていた。まるで恋愛ものの映画でも見ているかのような出来上がったムードを前に、ザックスは言葉を掛けようにも掛けられない状態のまま立ち尽くすことを余儀なくされる。
想定外も想定外。ダメージが大き過ぎる。初めて会った時にもっと一緒にいたいと言われのぼせ上がっていた所為だろうか。いや違う。おそらくはロゼに対して抱いていたイメージとのギャップが余計に事態を受け入れられないでいるのだ。
『女王』と冠されるようにその美貌たるや、端正な顔立ちの多いクラス1stの中でも群を抜いて美しく―――――すらりと伸びたしなやかな肢体に滑らかな銀糸、中性的という概念を通り越し最早性別の枠を超えた美しさを誇る形貌―――――と、彼の容姿は男という性別に捕らわれることなく独立した存在のようなものだ。更に圧倒的な実力と自信を兼ね備えた余裕の表情を以て、彼はまさしく神羅の『女王』として現在の地位に君臨している。性格についても誰にでも分け隔てなく接することが出来、且つ包容力も高いなど申し分ない。尚一部では、女性関係の噂が全く立たないことや1stメンバーに向けられる彼の嬉しそうな表情を理由に同性愛者疑惑が浮上していたり、妹―――――嘗ては弟と認識されていた―――――クロウへの過保護っぷりからシスコンではないかと噂されていたりもするが。しかし、どちらであるにせよ彼はそういった世俗的なものとは一種かけ離れた特殊な存在というイメージが大半の人間の中に植え付けられているのは間違いない。
そんな彼が妹とも仲間とも違う普通の少女相手に微笑まし気な態度で恭しく接している。ちゃんと恋愛している。誰が想像など出来たであろうか。
「あ、クロウ。それにザックスも。」
ザックスが一人立ち往生していると、その存在に気付いたエアリスが声を掛けてくる。毒舌少女の名前と共に。
「・・・何故お前がここにいる?」
何故ご立腹なのか。付け加え何故ここに居合わせたのか。二人に向かって歩を進めていたクロウはザックスの存在に気が付くともう見慣れてしまったあの眉間に皺たっぷりの表情で此方を睨み付けてきた。色々とタイミングが悪い。
「―――何でって、エアリスに会いに来たんだけど・・・。俺邪魔だったかな・・・。」
「邪魔?何で?」
不思議そうに首を傾げてくるエアリス。状況をいち早く把握したロゼは、しょぼくれるザックス向かって盛大に大笑いすると、手招きして彼を自身の元へと招き寄せた。
「俺とエアリスが恋人同士に見えたんだろう?違うよ、俺にとってエアリスは妹みたいな存在なんだ。だから色々心配でね、たまにこうして様子を見に来てるだけさ。」
「そうなの!?」
「そう。ロゼは私にとって、お兄ちゃんみたいな人なの。クロウと私がまだ小さかった時、こうして、よく教会まで来てくれた。」
杞憂とはこのことか。恋人ではないという言葉に安堵すると共に、どこからか温かい気持ちに見舞われる。
「懐かしい。あの頃はクロウがまだタークスで・・・。でも、どっちも小さかったから、ロゼ、心配する妹が増えたみたいって、言ってた。」
「だって五歳の子を五歳の子が守るって可笑し過ぎるでしょ。」
そう言って二人は笑った。クロウは、自分を他所に繰り広げられる昔話に少々不満の意を見せていたが、それでも何も言わず黙っていた。クロウがタークスだったことや、エアリスを守っていたことなど疑問に思う点はいくつかあったが、血の繋がらない仲にも確かな絆が結ばれていることに対しての嬉しさが、ザックスに、この温かな関係を前に頬を緩めて笑わせるだけの力を及ぼした。
■作者メッセージ
ここまで読んで下さった皆様、ありがとうございます。
今回はロゼとクロウ、二人の描写の緩急をタイトルに「リバーシ」とさせていただきました。前半シリアスっぽいのに後半一気に和やかなんですけど…、と思われた方、正解です。二人の持つその二面性をオセロの白と黒に喩えてのタイトルです。オセロは周りの石の影響で裏表がどんどん変わるゲームですから、二人が今後どのようになるのかに注目していただければと思います。
さて今回新たに付け加わった情報として、クロウがタークスだったという過去が挙げられますね。養成施設に預けていたのは前回までの通りですが、あの施設に預けてクロウが駄々をこねないわけないので。何年も前から構想していた内容になります。
この時代を掘り下げる予定はないのでここで少しお話させていただくと、タークス時代のクロウの任務がエアリスの監視兼保護役になります。設定上二人の年齢は同じなので、エアリスにとって気の合う友達になれば成長過程に大きく期待が出来るという上層部の思惑もありました。ロゼは5歳にそんな仕事出来るわけないと任務帰りに度々様子を見に来ていた為、エアリスのことをもう一人の妹のように思うようになったということです。
また本編CCFFZでタークスの最年少記録はシスネが保持していますが、クロウはタークス登用後割とすぐにソルジャーへと転属していますので、正式な活動記録も殆どありません。その為クロウの神羅での実績は実質ソルジャー転属後からのカウントになっており、タークス時代の記録は抹消されたに等しい扱いを受けています。ここにシスネが最年少記録保持者たる理由をつけようと思いました。
ちなみに今回はロゼの特徴に文字数割いた箇所がありますが、彼が同性愛者やシスコンなのはあくまで噂です。シスコンは際どいとこですが、あくまで彼のクロウに対する感情は親愛でありそれ以上には成り得ません。兄妹で対人訓練を行う際は割とボコボコに負かしていたりする上、彼女が傷だらけになったりどこぞの男と恋愛関係に発展したりしても「そうなんだ。」の一言です。優しいって部分を強調したいだけのキャラなので、そこのところはご理解いただければ嬉しい…です…(´・ω・)
では次回更新まで!
今回はロゼとクロウ、二人の描写の緩急をタイトルに「リバーシ」とさせていただきました。前半シリアスっぽいのに後半一気に和やかなんですけど…、と思われた方、正解です。二人の持つその二面性をオセロの白と黒に喩えてのタイトルです。オセロは周りの石の影響で裏表がどんどん変わるゲームですから、二人が今後どのようになるのかに注目していただければと思います。
さて今回新たに付け加わった情報として、クロウがタークスだったという過去が挙げられますね。養成施設に預けていたのは前回までの通りですが、あの施設に預けてクロウが駄々をこねないわけないので。何年も前から構想していた内容になります。
この時代を掘り下げる予定はないのでここで少しお話させていただくと、タークス時代のクロウの任務がエアリスの監視兼保護役になります。設定上二人の年齢は同じなので、エアリスにとって気の合う友達になれば成長過程に大きく期待が出来るという上層部の思惑もありました。ロゼは5歳にそんな仕事出来るわけないと任務帰りに度々様子を見に来ていた為、エアリスのことをもう一人の妹のように思うようになったということです。
また本編CCFFZでタークスの最年少記録はシスネが保持していますが、クロウはタークス登用後割とすぐにソルジャーへと転属していますので、正式な活動記録も殆どありません。その為クロウの神羅での実績は実質ソルジャー転属後からのカウントになっており、タークス時代の記録は抹消されたに等しい扱いを受けています。ここにシスネが最年少記録保持者たる理由をつけようと思いました。
ちなみに今回はロゼの特徴に文字数割いた箇所がありますが、彼が同性愛者やシスコンなのはあくまで噂です。シスコンは際どいとこですが、あくまで彼のクロウに対する感情は親愛でありそれ以上には成り得ません。兄妹で対人訓練を行う際は割とボコボコに負かしていたりする上、彼女が傷だらけになったりどこぞの男と恋愛関係に発展したりしても「そうなんだ。」の一言です。優しいって部分を強調したいだけのキャラなので、そこのところはご理解いただければ嬉しい…です…(´・ω・)
では次回更新まで!