第三章 三剣士編第八話「襲撃! KR」
ゼロボロスとシンメイがビフロンスへ到着して、少しの時間が経った。
居城から南、町を抜けた先に広がるは動物たちが棲息する森で警護の一端として、赤髪の男――イザヴェルが森の中を歩き回っていた。
「――町はゼツたちにミュロス、城にはアイネアスと来たばかりの二人組・・・俺は一人か」
別段、気にはしないが若干やれやれとため息をはいて、彼は森の外へ休憩していた。
その時だった。森の頭上に空間がゆがみ、何体もの鎧の騎士が飛び出た。
「!?」
唐突の襲撃、まさか町ではなくはずれの此処から狙ってくるとは―――イザヴェルは驚きの声を殺し、出てきた騎士たちへと炎弾を何十発にも分裂してはなった。
だが、出てきたのは騎士だけじゃあなかった。
「はあっ!」
炎弾の全てが光の壁のようなバリアに防がれ、騎士たちを守った。
騎士たちは襲ってきたいザヴェルに視点を向け、虚空から剣を抜き放つ。
無骨で、鈍色に彩られた鍵状の刀身をした剣を。
「!!」
まさか、と思わず絶句する彼に騎士の一体が魔法を放った。
―――雷光のレーザーが、彼の胸を射貫いた。
「ぐっ―――」
間髪入れず、騎士たちが一斉に同じように雷光のレーザーをイザヴェルに放った。
体の各所、あげくに頭を打ち抜かれた彼は吹き出す血と共に地面に崩れ落ちた。
「よせ」
攻撃を静止する屈強な仮面の男の命令が響き、騎士たちは魔法を撃つの止め、剣を下ろす。
倒れているイザヴェルに駆け寄った仮面を付けた十字の形をした剣を手に、女性が生存確認をした。
「死んでる」
呼吸はおろか、頭部に打ち抜かれた痛々しい痕がある。女性は静かに開ききった瞼を閉ざして、戻った。
報告を聞いた仮面の男はうなずき返し、目的を話す。
「よし、我々が城を、こいつ等は町を攻撃する」
「これらが全部破壊されたら私たちも撤退する、だろ」
別の仮面の男が言い、
「なら行こう」
もう一人の仮面の女が町へと指を指して、騎士たちともに空を飛んでいった。
「――――――ちっ、厄介なやつらだ」
むくりと起き上がった彼は打ち抜かれた頭部――額を一撫ですると、あっという間に傷跡は残らず消えた。
打ち抜かれた全身も炎に包まれ、一瞬で散ると無傷の彼へと治った。
『不死の炎』の異名を持つイザヴェルと、彼と契約した炎の大悪魔『ヴォルカニカ』の特殊な力によるものだった。
穴だらけの服にややため息をたらすもやるべき職務を果たすべく、特別強固な『栞』を取り出し、在る人物へと連絡をとった。
「――ミュロス、そっちに敵がやってきた。数は鎧の騎士みたいな奴らおおよそ30ほど、他に操られた人間たちが4人」
連絡の相手に、この栞の所有者ミュロスと連絡した。
アイネアス、サイキの二人はこのビフロンスを作り出した半神、当然、空間を抜けて此処に来た侵入者の気配を感じ取る事ができる。今頃、防衛の準備を行い始めているだろう。
『結構な数ね』
ミュロスもやや感嘆めいた声で、返ってきた。
「馬鹿、早く町に結界なり張り巡らせろ。ゼツたちを町の外にだして迎撃、お前は町の結界の維持。城に向かわせないようにするんだ」
『言われなくても、もう展開済みよ』
遠くに見える町がドームのようなバリアに包まれるのを視認した。
ミュロスは自身が魔法を本『マテリアル・ブック』に栞(カード)として差し込んでおり、すぐに発動できる即効性と、威力がある。
「さすが」
『アンタも治ったのなら追いかけていきなさいよ。挟み撃ちするわよ? 相手もきっと、死んでいるやつが襲ってきてびっくりするだろうし』
「おうとも。―――最後に、気をつけろ。騎士たちは全員『キーブレード』のようなものを武器にしている」
『!!? ほ、本当に?』
絶句、続いて怪訝に問うた彼女にイザヴェルは率直に返す。既に彼は町へ向かって走り出していた。
「ああ。見た限りはキーブレードと同じ鍵状の刀身だ。贋物かどうかは1体くらいぶんどって調べ上げるしか無いな」
『―――敵影が見えてきたわ』
「本当に気をつけろよ?」
『ええ、皆にもいっておくわ』
栞との連絡を終え、イザヴェルは町へと駆け出していく。
一方、町の外。
ゼツ、シェルリア、ラクラ、アナザ、フェンデル、フィフェルの迎撃部隊が敵の姿を確認した。
ゼツは栞からミュロスと連絡し、敵の情報を聞いていた。
「来たな」
一歩、ゼツが前に出た。黒く染まった片刃剣を手に、大きく紫に光を帯びた黒炎を纏わせ、一気に振り下ろす。
同時、騎士たちの頭上に黒い円陣が巨大に展開され、その中から黒い炎で固めた片腕が叩き潰そうと迫った。
「――七星、聖盾!!」
激突する寸前、おそらく操られた人間の一人が剣をかかげ、防御の技を繰り出していた。
七つの星に光を纏って、ゼツの繰り出した技『ディスノア・』と衝突し、両者ともに相殺される。
「来るわよ」
アナザの言う通り、攻撃を防がれているうちに騎士たちが猛スピードでこちらへと迫ってきていたのだ。
ゼツたちはそれぞれ武器を構えた。最後に、彼のもつ栞から、
『空で戦った方がいいわね』
ミュロスは空中でも自由に動ける詩魔法を発動し、不思議な光が彼らを見に包んだ。
光が消え、ゼツたちは一斉に空中へと飛翔した。
騎士たちは数人ずつわかれ、彼らへと攻撃を開始した。ある騎士は魔法による攻撃、剣による接近、同時に襲いかかっても来た。
「っ!」
「背中合わせでも面倒ね」
ゼツとシェルリアは互いに背中合わせに騎士たちと対峙していた。息のあった連携とカバーで、苦戦せずに戦っている。
「――おい、4人の奴らは!?」
騎士を突き倒すにつれ、ラクラがはっとなてゼツたちに訪ねた。
「見失ったじゃ、大変よ。中身は『空っぽ』ね、こいつら」
フェンデルは騎士の頭上から真下まで、思い切り大槍で真っ二つに斬り裂いた。彼女の言う通り、騎士の中身は空洞で、倒すとハートレスのように『ハート』が浮かび上がって消えていった。
「いない」
フィフェルは大剣を振り回し、周囲を見たが誰一人いない事を小さくつぶやく。表情は悔やんでいる。
その側、
「大変ね―――城よ」
アナザは騎士の首を刎ね飛ばし、すかさず四肢を切り落とす。最後はとどめを刺さず拘束する魔法で地面にたたき落として、確保した。
城には4人の仮面をつけた男女がやってきていた。迎え撃つのはゼロボロス、シンメイだけだった。
アイネアスとサイキはこのビフロンスの心臓でもある為、無闇に戦線に出る事ができない。
ベルミスは居城の防衛に回っている。彼女の空間転移は相手の攻撃を空間転移で跳ね返すことができるからだった。
「―――やれやれ、ゼツたちはどうやらまんまとしてやられたな」
「うむそうじゃな。あえて大隊の数で迎撃を押さえ、残りの少数がこっちを攻める」
シンメイは扇子を閉じ、内に浮かべていた笑みも閉ざす。鋭い金色の瞳で4人を睨み据える。
「ゼロボロス、此処での変身はなしじゃぞ?」
「お前こそな」
ゼロボロスは片笑みを浮かべ、構える。彼の人間時の武器は肉弾戦だった。
シンメイは扇子を再び広げ、風をあおぐ。
「来やがれ」
「2つに分ける、速攻で沈めろ」
大斧のような剣を持った男が一喝し、他の3人は瞬時に2つにわかれた。
ゼロボロスの前には、大斧の男と十字剣の女。
シンメイの前には長剣の青年、小刀の女。
二人はまず互いに距離をあけた。敵方もそれぞれ二人を追いかけていった。
居城の城壁、アイネアスが密かに様子を見ていた。
「――頼みます、ゼロボロス、シンメイ」
この城壁もまた、生命線だった。詩魔法を維持するのは謳ったものの力によるものだ。
故に、この城壁で輪をなして、永久機関と同等の機能を宿している。
どこかが破壊されれば、事態も修復も大変、困難極まるのだった。