Another chapter7 Terra&Aqua side‐3
セントラルステーションの入口がある、駅前広場。
そこに、ゼロボロスに連れられてアクア達はやってきた。
「わぁ…!」
「これは、壮大な眺めですね…」
街を一望できる場所から見える、遠くで輝く夕日に二人は感嘆の声を漏らす。
この二人の様子に、満足そうにゼロボロスは笑みを浮かべた。
「前にこの世界には来た事がありましてね。その時に見つけたんです」
「ありがとう、ゼロボロス」
アクアはお礼を述べると、再び赤く染められた街と遠くにある夕日を見る。
そうしていると、不意に脳裏に一つの記憶が甦ってくる。
「また…三人で見れるよね」
アクアは小さく呟きながら、ポケットから『繋がりのお守り』を取り出して見つめる。
キーブレードマスターの試験の前日。旅立つ前に見た、流れ星が降り注ぐあの夜空。
あの時は、三人で笑い合いながら夜空を眺めた。今は離れ離れになってしまっているが、もう一度そんな日が来て欲しいと願う。
「――クウさん、こっちですよ!」
そんな時、後ろから女の子の声が聞こえてきた。
何処か楽しそうな声に、アクアは思わず微笑する。
「テラさんも早くっ!」
「テラ!?」
続けて聞こえた女の子の言葉に、アクアはすぐに振り返る。
すると、そこには自分達から背を向けて手を振っているレイアがいる。さらに、何かを話しているクウとテラがセントラルステーションから出てきた所だった。
「おい、レイア。あんまり急ぐなって」
「それだけ嬉しいんだろう。いいんじゃないか、少しぐらい――っ!?」
クウと話していたテラもこちらを見て、ようやくアクアの存在に気づく。
思わぬ再会に驚くも、二人の間に気まずい空気が流れた。
「…アクア、なのか?」
「テラ…」
どう答えればいいのか分からず、アクアは視線を逸らす。
そんな二人を見て、レイアはテラを見ながら首を傾げた。
「えっと…テラさん、知り合いですか?」
「あ、あぁ…」
レイアに頷くが、テラもアクアと同じ感情を抱いているのか顔を逸らす。
そんな中、ウィドは目を細めてゼロボロスに小さく声をかけた。
「ゼロボロス」
「大丈夫…あの時みたいに、妙な感じはしない。彼は本物かもしれない…確証はないけど」
オリンポスコロシアムでクォーツによって作られた偽物と比べると、魔力で構成された感じはしない。だが、油断は出来ない。
二人が最低限の警戒をしていると、アクアが恐る恐る口を開いた。
「え、えっと…あの――」
胸に当てていた手をテラに伸ばしていると、突然手を掴まれる。
アクアが気づいた時には、何と優しく手を取って顔を近づけるクウがいた。
「美しいレディ。こんな素敵な夕日の中で出会うなんて、気運を感じませんか?」
「ハ…ハイ?」
考えもしなかった行動と口説き出すクウに、思わずアクアが目を丸くする。
後ろにいたテラさえも訳が分からない顔をしているが、クウは気にすることなく顔を近づけたままアクアに優しく笑みを浮かべた。
「ああ、自己紹介が遅れましたね。俺はクウと言うものです、あなたの名前はそこのテラから聞いてます。彼から聞いた通り、何と麗しい方「『サンダガ』ァ!!!」ごあああああっ!!!??」
一方的に自己紹介するクウに、突然巨大な雷が真上から直撃した。
これにはアクアだけでなく、テラやウィド達も唖然としているとレイアが怒りのオーラ纏わせて杖を握りしめていた。
「クーウーさーん!? 何さりげなくナンパしているんですか!!? しかも、相手はテラさんの“恋人”じゃないですかぁぁぁ!!!」
「んなぁ!?」
「はいぃ!?」
レイアから放たれた単語に、テラとアクアの顔が一気に真っ赤に染まる。
そんな二人に、ウィドとゼロボロスが何処か面白そうに目を細め出した。
「そうですかぁ…いやぁ、友人と聞いてはいましたが本当はそんなご関係でしたかぁ」
「キーブレードマスターと言えど、まだ十代の女の子。何だかんだで、あなたも青春を楽しんでいるようで安心しました」
ニヤニヤと笑いながら語る二人に、アクアは恥ずかしさと怒りによって更に顔を真っ赤にした。
「ち、違うわよ!! テ、テラァ!! 一体どんな説明したのよ!?」
「ご、誤解だっ!! 俺はちゃんと二人には仲間で友人と説明したんだっ!! そうだろ、レイア!!」
「ふえ? そうだったんですか?」
「「そうだ(なの)っ!!!」」
首を傾げるレイアに、テラとアクアは一緒になって叫ぶ。
さっきまでの空気がクウとレイアによって吹き飛んでしまい、ウィドとゼロボロスは軽く肩を竦めた。
「…やれやれ、緊張していたのが馬鹿らしくなってきました」
「そうですね…その点に関しては、あの二人のおかげでしょう」
ゼロボロスはそう言いながら、立ち上がっているクウに近づくレイアを見る。
すると、クウはレイアの頭に手を置いて軽く笑いかけていた。
「ナイスだ、レイア」
「何がですか? それよりクウさん…知り合いの人をナンパするってどんな神経ですか?」
「い、いやぁ…つい、身体がな…」
「今回は良いですけど、次は…分かってますね?」
笑顔を浮かべるレイアから放たれる無言のオーラに、クウは顔を引くつかせた。
「ハ…ハイ…!!」
どうにかクウは返事を返しつつ、テラの方に目を向けると丁度こちらの紹介をする所だった。
「ア…アクア、紹介する! 二人はクウとレイア、今は二人ともう一人…無轟と言う人と一緒に旅をしているんだ!」
「え、えっと…こちらはゼロボロスとウィド! 本当はもう一人、ルキルって子がいるんだけど…私も今、彼らと旅をしてるの!」
「そ、そうか! えっと…!」
「それで、その…!」
これ以上会話が続かず、二人は顔を赤くしたまま口籠ってしまう。
この二人の様子に、クウは苦笑しながら頭を掻きだした。
「…予想以上に爆弾が効いたな」
「私の所為、ですよね…どうしましょう?」
原因を作ったレイアが困った表情で聞くと、こちらに近づきながらウィドが笑いかけた。
「いいじゃないですか、これはこれで楽しいですし」
「ウィドって、意外とそんな趣味持ってるんだね」
ウィドの言葉に、ゼロボロスも苦笑しつつ傍観を決める。
さすがにレイアがオロオロしながらクウを見るが、どうにも出来ずに目を逸らす。だが、不意に眉を潜めた。
「…ウィド?」
何かが引っ掛かったような表情で呟くと、クウはすぐにウィドに目を向ける。
その視線に気づき、ウィドはすぐにクウを見返えした。
「何か?」
「あ、いや…」
そう言ってウィドから目を逸らすと、顔を歪めながら頭を押さえた。
「何処かで会った…訳、ないよなぁ……じゃあ、この違和感は…」
「クウさん?」
ブツブツと小さく呟くクウに、レイアが不思議そうに首を傾げる。同じように、ウィドとゼロボロスもクウに視線を向ける。
「――これはこれは、随分と人が増えたようだな?」
その時、アクア達にとって聞き覚えのある声が上から発せられた。
「この声…!?」
今まで顔を赤くしていたアクアが我に返り、すぐに声の方に目を向ける。
駅の入口にある屋根の上で、こちらを見下ろす様にフェンが立っていた。
「ったく、この場所には何か因縁があるのか? 少し前には妙なガキが現れるしさぁ」
「ごちゃごちゃうるさいですよ、何の用ですか…フェン」
ウィドが冷めた声で返すと、すぐに腰を落として抜刀の構えをする。
それに倣うようにアクアとゼロボロスも武器を取り出し、フェンに向かって構えを取る。
そんな三人を見て、テラはフェンを見ながらアクアに声をかけた。
「アクア、敵か?」
「ええ…」
アクアが頷くのを見て、テラもすぐにキーブレードを取り出す。同時に、クウとレイアも武器を構える。
それを見て、フェンは目を細めながら何処か歪んだ笑みを浮かべた。
「ったく、まーたキーブレード使いが増えたか……本当にムカつくんだよお前らぁ!!!」
辺りに響く怒りの叫びと共に、フェンの隣で巨大な水柱が湧き上がった。
「何ですか、あれ!?」
レイアが驚きながら水柱を見ているが、すぐに収まると中から水で構成された女性が立っていた。
よく見ると、長い髪の女性の形をしており全体が水で構成されているからか淡く透き通っている。
この登場に全員が驚く中、女性は感情の篭ってない瞳でゆっくりとフェンを見た。
「――お呼びでしょうか、フェン様」
「マリェース、あいつらを消せ…跡形も無くよぉ!!!」
「了解しました…『フラッド』」
フェンの命令に、マリェースと呼ばれた女性は手を上げる。
すると、地面のあちこちから水柱が激しく噴き上がった。
「くっ!?」
「きゃあぁ!?」
アクアが跳躍すると同時に、それぞれがバラバラに水柱を避ける。
だが、レイアは反応が遅れて水柱に呑み込まれて吹き飛ばされてしまった。
「やろ…!!」
それを見たクウは、すぐにフェンを睨みつける。
同時に、彼の背に黒の双翼が現れて屋根の上にいるフェンへと飛んだ。
「翼っ…!?」
「覚悟しろ、てめぇ!!!」
ゼロボロスとは違う翼にウィドが驚く中、クウが拳を握り込んでフェンへと攻め込む。
そんなクウに、フェンの前にマリェースが立ち憚る。だが、気にすることなくクウはさらに翼を羽ばたかせた。
「――激しい怒りは禁物だ」
「ッ…!?」
突然後ろから囁き声が聞こえ、クウは思わず動きを止める。
その一瞬の隙に、空中にいる自分の横から強い衝撃を受けて思いっきり吹き飛ばされた。