Another chapter7 Terra&Aqua side‐6
「『エアリル・アーツ』!!」
クウは、上空に飛んで一気にセヴィルに急降下して蹴りを放つ。
だが、攻撃を読んでいたのか後ろに跳んで回避した。
「まだだぁ!!」
しかし、クウは動きを止めずに拳を放つ。
あまりの速さにセヴィルはキーブレードで防御し、押し合いが始まった。
「『ナックル・フィスト』か…さすが、と言いたいが…」
ギチギチと拳とキーブレードが鳴る中、セヴィルが笑う。
クウがそれに気付いた時には、キーブレードに光が纏いだした。
「焦りで狙いが定まってないぞ? 『陽狼光』」
「がっ…!?」
弾き返すと同時に、眩い狼の闘気がクウを襲う。
それによりダメージを受けて吹っ飛ばされ、更に至近距離で光を直視してしまい視力が奪われる。
目の部分を押さえてよろよろとするクウに、セヴィルが向かおうとすると衝撃波が飛ぶ。
足を止めて見ると、ウィドが剣を振るった状態で舌打ちしていた。
「ちっ…!!」
「遠くからの遠距離で攻めるか…その傷を負っていたら当然だが、まだ考えが未熟だな」
そう言うと、セヴィルはウィドを見ながら笑った。
「教えてやろう…これが俺のやり方だ。『陰招旋風・周』!!」
「「うぐっ!?」」
先程の黒い暴風が今度はセヴィルの周りから広範囲に放たれ、二人は怯む。
さらに、追い打ちをかける様にセヴィルはウィドに狙いを定めた。
「『陽炎閃』!!」
「つぁ!?」
「くそっ、どこだ…!?」
まるで陽炎のように揺らめくと、一瞬でウィドを切り裂くように背後へと移動する。
その悲鳴にクウが反応するが、まだ視力が戻らず二人の位置が分からない。
そんなクウとは別に、ウィドは顔を訝しんでセヴィルを見ていた。
「どうして…当てようと思えば、当てれたのに…!!」
そう。実際は攻撃されていなかった。あまりの速さに斬られたと錯覚したのだ。
ウィドが訝しんでいると、セヴィルは笑いながらキーブレードの切っ先を向けた。
「言っただろ? あまりにも未熟だから“教えて”やったと」
「舐めるなぁ!!」
この言葉に、ウィドがセヴィルに近づいて斬りつける。
だが、セヴィルはクウのように剣をキーブレードで防御した。
「舐めてないさ。お前は姉と違って、魔法を使う素質がないからな…戦う力は剣術のみと言った所か」
「それが何だぁ!!?」
更に逆鱗に触れたのか、ウィドは怒りを露わにして弾き返す。
しかし、セヴィルは先に後ろに下がって衝撃を軽減させた。
それにイラついていると、後ろから何かが投げられると同時に身体が軽くなった。
「あんまり動くな!! 火傷が広がるぞ!!」
「うるさい…!!」
視力が回復して『ポーション』を使ってくれたクウを、ウィドは邪険に足払う。
そのままセヴィルの元に向かうウィドに、クウは思わず舌打ちした。
「この意地っ張りが…!! これだけ酷いとあいつを思いだ――」
口から吐き出した愚痴に、何かを感じて止める。
それからウィドを見ると、初めて出会った時の彼を見た時の違和感の正体を掴みかける。
会った事はないのに、会ったような錯覚。よく見れば、ウィドは《彼女》に似てる。
「まさか…でも…」
「何を考えてるんだ、クウ?」
「っ!?」
セヴィルの言葉と共に、足元から噴き出す闇が襲い掛かる。
どうにか空中に飛んで避けると、魔法を放ったセヴィルを睨みつけた。
「とにかく、詮索は後ってか…」
そう呟くと、クウは翼を羽ばたかせて戦いに集中した。
「おらおら!! さっきの威勢はどこ行ったぁ!!」
「ここまで来ると、苛立ちも湧きますね…!」
火傷の傷もあり、ゼロボロスは翼まで展開させて上空を飛んで逃げていた。
それに調子に乗ったのか、飛んでいる自分に向けて炎や氷などの魔法を連射するフェンに苛立ちを覚える。
「鳥野郎が…撃ち落としてやるよ!! 『サンダーブラスター』!!」
「くっ!?」
扇状に放たれた雷の魔法に、ゼロボロスはとっさに急降下して避ける。
どうにか避けつつ、ポケットから『ポーション』を取り出して飲み込んだ。
(このまま逃げていても、火傷で体力を削られる…だからと言って、無理に責めてもこの状態では押し切られる…)
アクアの使った回復魔法や『ポーション』である程度体力は回復するが、少しもしない内にその分は火傷によって削られてしまう。
しかも、元凶の火傷も抑える事は出来ても治る事も無くじわじわと浸食している。そんな状態で攻めても、後が不利になるだけだ。
(今は『式』の状態でこうして動けるからいいけど…何か、方法はないか…!?)
そうやって、ゼロボロスが必死に頭を捻らせていた時だった。
「『グラビティ・ヘヴィ』!!」
「なっ…!?」
フェンが魔法を放つと同時に、ゼロボロスに魔法の煌きが包む。
すると、重力が全身に押しかかり地面に落とされそうになる。
「こっ…のぉ!!」
だが、ゼロボロスは歯を食い縛り、翼を羽ばたかせる。
そして、全身に纏っていた白黒の炎を霧散させると同時に魔法を打ち破った。
「チッ、失敗したか…」
「あ、危なかった…! 『式』を全身に纏ってて正解だった…」
舌打ちするフェンに対し、ゼロボロスは冷や汗を掻きながら息を荒くする。
その状態で不意に視界を上げると、美しい夕日が目に入る。
同時に、自分の中にある古い記憶が甦った。
(そう言えば…『式』の元である『自在法』ってのを教えて貰ったのは、この世界で出会った《あの子》のおかげだっけ…)
もう何十年も前になる。たまたま訪れたこの世界で、ある異界の化け物に襲われた際に一人の少女によって助けて貰った。
燃えるような赤い髪と瞳を宿したその少女には名前が無い。しかし、彼女や彼女に力を与える異能の存在との会合は滅多に出来ない体験により、今も鮮明に覚えている。
その際に手に入れたのが、この『式』だ。己の『力』を消費させる事で、在り得ない事象をこの世に顕現させる一種の魔法。それを自分なりにアレンジし、主にこうして体に炎を纏う事で身体強化として使っている。
(在り得ない、事象…魔法や薬でも、治せない火傷…)
『式』について思い出していると、ゼロボロスの脳裏に何かが過る。
そのまま顔を俯くと、フェンに気づかれないようにニヤリと笑った。
「…今回はとことん、あの子に感謝だね」
それだけ言うと、ゼロボロスは再び上空へと飛び上がった。
「また逃げるか!!」
それを見て、すぐさまフェンは雷の魔法を放つ。
ゼロボロスは繰り出す魔法を避けながら、何と火傷の部分に白黒の炎を纏わせた。
「さーて、ここからは時間との勝負だ…!!」
二つの戦いが拍車を駆ける中、もう一つの戦いにも動きがあった。
「『クラッカーファイガ』!!」
アクアがマリェースに一つの大きな火球を飛ばす。
「ふっ!」
マリェースはすぐに手を上げ、何と水の壁を作り出す。
その壁に当たり火球は大きく爆発するが、壁の向こう側にいるマリェースには届かなかった。
しかも、マリェースは先程の魔法によって出来たあちこちの水溜りを操るように、細い鞭を作り出した。
「貰った」
そう呟くと同時に、アクアの後ろで火傷によって蹲っているテラとレイアに鞭を振り下ろす。
「『デトネチェイサー』!!」
「うぐぅ?!」
しかし、アクアがキーブレードを掲げて周りに地雷を作る。
すると、地雷はマリェースだけでなく周りの鞭にも向かって爆発した。
「テラには、指一本触れさせはしないっ!!」
こうしてマリェースの操った水をも消すと、アクアはチラリと後ろを見る。
マリェースの攻撃によって中断した回復魔法を再度かけるテラとレイアの姿に、胸が締め付けられた。
(私の所為で、テラはあんな怪我を負った…――だったら、私がテラを守らないと…!!)
自分がこうして無傷でいられたのは、テラが身を挺して庇ってくれたからだ。
旅の途中で思わずテラを疑ってしまい、離れ離れになったのは自分の所為だ。それでも、テラはこうして助けてくれた。
キーブレードマスターとしてテラを、ヴェンを闇から…ヴァニタスから守る。それなのに、こんな所で守れなくてどうすると言うのだ。
「やあぁ!!」
気持ちを切り替え、アクアはマリェースに向かってキーブレードで振りかかる。
その頃、『ケアル』で回復したテラは、隣で魔法を唱えるレイアを見ていた。
「…『エスナ』」
魔法を唱え終わると、浄化の光がテラを包む。
それを見て、レイアは辛そうな表情でテラを見た。
「どう、ですか…?」
「幾分、楽にはなったが…完全には、治せないようだ…」
テラはそう言うと、身体の火傷を見る。
先程よりも火傷は小さくなったが、それでも体力を削りながらまた徐々に広がっていく。
そんなテラに、レイアは再び杖を握りしめた。
「私…他の魔法も、試してみます…」
「俺の事は、いい…レイア、援護を頼めるか…?」
他の魔法を唱えようとするレイアにそう言うと、テラはキーブレードを持って立ち上がる。
再び戦おうとするテラに、レイアは目を見開いて腕を掴んだ。
「だ、駄目ですよ…!! まだ、火傷は治ってないんですよ…!?」
「それでも…アクアを、一人で戦わせる訳にはいかない…!! 大丈夫だ…最初に比べて、楽にはなった」
レイアに優しく笑いかけると、すぐに戦っているアクアに目を向ける。
体力を削り、広がる火傷。いや…そんな傷が無くても、マスターに選ばれる実力を持つアクアにとって自分は足手纏いかもしれない。
それでも、このまま一人で戦わせる訳にはいかない。今では闇に染まってしまったが、アクアとの絆は無くなっていないのだから。
「でも…その火傷がある限り、体力はこうして削られるんですよ…? それなのに――」
必死で引き留めようとレイアが話すと、何故か途中で言葉を止める。
テラが目を向けると、レイアは顔を俯かせてブツブツ呟いていた。
「体力を…削る…?」
「レイア?」
思わずテラが声をかけると、レイアが真剣な目でこちらを見た。
「――テラさん…もしかしたら、治せるかもしれません…」
さて…ここで、セヴィルとの戦いに視点を戻そう。
「『ダークブラスト』!!」
「『風陣斬刀』!!」
クウとウィドは遠距離でそれぞれ闇の球体の魔法と無数の鎌鼬をセヴィルに放つ。
「『守護陽光』」
しかし、セヴィルはキーブレードを地面に突き刺し、光の衝撃波で爆発する球体と鎌鼬から身を守る。
さっきから攻撃が一向に与えられない状況に、クウは歯軋りした。
「くっそ…!! 早くしないと、こいつがヤバいのに…!!」
横目でウィドを見ると、息が荒く足に付いた火傷もさっきより大きくなっている。
だが、回復の魔法も効かないし、アイテムも体力を回復させても火傷までは完全に治せない。
体力も火傷も完全に治す方法など、存在するだろうか。
「完全、に…? そう言えば…!」
ここでクウはある事を思い出し、コートの内側に手を入れる。
それを見たセヴィルは、目を細くして両手でキーブレードを握り出した。
「さて…そろそろ、手加減も飽きた。俺も本気を出すとしようか」
「何っ…!?」
「あれは…!?」
ウィドが驚く中、セヴィルの構えにクウは顔を青ざめる。
同時に、セヴィルはキーブレードに光と闇を纏わせて再度地面に突き刺した。
「『陽陰破邪醒』っ!!!」
すると、二人の地面の周りから次々と大きな光と闇のレーザーが噴出し出した。
「マズ…ッ!!」
クウはすぐさまウィドの手を取るなり、引き寄せる。
すると、そのまま両手で持ちあげるように抱えて上空に飛び上がって地面からの攻撃を避ける。
一方、お姫様抱っこの要領で抱えられたウィドは顔を真っ赤にしてクウを睨んだ。
「ちょ…何を――!?」
「いいからじっとしてろっ!! これは防御出来ない!!」
「だからって…どうして、こんな…!?」
「うっせぇ!! こうしてた方が両手使えるだろ!? それより、俺の内側のポケット調べろ!!」
「内、側…?」
こうして口喧嘩していたが、クウの怒鳴った言葉に思わずウィドは口を止める。
言われた通りにクウのコートに手を入れ、ポケットを調べると何かが指先に触れる。
それを握りしめて取り出した代物に、ウィドは目を見張った。
「これは…!」
「効くかどうかは分からない。だが…試してみる価値はあるぜ?」
未だに地面から放たれるレーザーを避ける中、クウはニヤリと笑いかけた。
クウは、上空に飛んで一気にセヴィルに急降下して蹴りを放つ。
だが、攻撃を読んでいたのか後ろに跳んで回避した。
「まだだぁ!!」
しかし、クウは動きを止めずに拳を放つ。
あまりの速さにセヴィルはキーブレードで防御し、押し合いが始まった。
「『ナックル・フィスト』か…さすが、と言いたいが…」
ギチギチと拳とキーブレードが鳴る中、セヴィルが笑う。
クウがそれに気付いた時には、キーブレードに光が纏いだした。
「焦りで狙いが定まってないぞ? 『陽狼光』」
「がっ…!?」
弾き返すと同時に、眩い狼の闘気がクウを襲う。
それによりダメージを受けて吹っ飛ばされ、更に至近距離で光を直視してしまい視力が奪われる。
目の部分を押さえてよろよろとするクウに、セヴィルが向かおうとすると衝撃波が飛ぶ。
足を止めて見ると、ウィドが剣を振るった状態で舌打ちしていた。
「ちっ…!!」
「遠くからの遠距離で攻めるか…その傷を負っていたら当然だが、まだ考えが未熟だな」
そう言うと、セヴィルはウィドを見ながら笑った。
「教えてやろう…これが俺のやり方だ。『陰招旋風・周』!!」
「「うぐっ!?」」
先程の黒い暴風が今度はセヴィルの周りから広範囲に放たれ、二人は怯む。
さらに、追い打ちをかける様にセヴィルはウィドに狙いを定めた。
「『陽炎閃』!!」
「つぁ!?」
「くそっ、どこだ…!?」
まるで陽炎のように揺らめくと、一瞬でウィドを切り裂くように背後へと移動する。
その悲鳴にクウが反応するが、まだ視力が戻らず二人の位置が分からない。
そんなクウとは別に、ウィドは顔を訝しんでセヴィルを見ていた。
「どうして…当てようと思えば、当てれたのに…!!」
そう。実際は攻撃されていなかった。あまりの速さに斬られたと錯覚したのだ。
ウィドが訝しんでいると、セヴィルは笑いながらキーブレードの切っ先を向けた。
「言っただろ? あまりにも未熟だから“教えて”やったと」
「舐めるなぁ!!」
この言葉に、ウィドがセヴィルに近づいて斬りつける。
だが、セヴィルはクウのように剣をキーブレードで防御した。
「舐めてないさ。お前は姉と違って、魔法を使う素質がないからな…戦う力は剣術のみと言った所か」
「それが何だぁ!!?」
更に逆鱗に触れたのか、ウィドは怒りを露わにして弾き返す。
しかし、セヴィルは先に後ろに下がって衝撃を軽減させた。
それにイラついていると、後ろから何かが投げられると同時に身体が軽くなった。
「あんまり動くな!! 火傷が広がるぞ!!」
「うるさい…!!」
視力が回復して『ポーション』を使ってくれたクウを、ウィドは邪険に足払う。
そのままセヴィルの元に向かうウィドに、クウは思わず舌打ちした。
「この意地っ張りが…!! これだけ酷いとあいつを思いだ――」
口から吐き出した愚痴に、何かを感じて止める。
それからウィドを見ると、初めて出会った時の彼を見た時の違和感の正体を掴みかける。
会った事はないのに、会ったような錯覚。よく見れば、ウィドは《彼女》に似てる。
「まさか…でも…」
「何を考えてるんだ、クウ?」
「っ!?」
セヴィルの言葉と共に、足元から噴き出す闇が襲い掛かる。
どうにか空中に飛んで避けると、魔法を放ったセヴィルを睨みつけた。
「とにかく、詮索は後ってか…」
そう呟くと、クウは翼を羽ばたかせて戦いに集中した。
「おらおら!! さっきの威勢はどこ行ったぁ!!」
「ここまで来ると、苛立ちも湧きますね…!」
火傷の傷もあり、ゼロボロスは翼まで展開させて上空を飛んで逃げていた。
それに調子に乗ったのか、飛んでいる自分に向けて炎や氷などの魔法を連射するフェンに苛立ちを覚える。
「鳥野郎が…撃ち落としてやるよ!! 『サンダーブラスター』!!」
「くっ!?」
扇状に放たれた雷の魔法に、ゼロボロスはとっさに急降下して避ける。
どうにか避けつつ、ポケットから『ポーション』を取り出して飲み込んだ。
(このまま逃げていても、火傷で体力を削られる…だからと言って、無理に責めてもこの状態では押し切られる…)
アクアの使った回復魔法や『ポーション』である程度体力は回復するが、少しもしない内にその分は火傷によって削られてしまう。
しかも、元凶の火傷も抑える事は出来ても治る事も無くじわじわと浸食している。そんな状態で攻めても、後が不利になるだけだ。
(今は『式』の状態でこうして動けるからいいけど…何か、方法はないか…!?)
そうやって、ゼロボロスが必死に頭を捻らせていた時だった。
「『グラビティ・ヘヴィ』!!」
「なっ…!?」
フェンが魔法を放つと同時に、ゼロボロスに魔法の煌きが包む。
すると、重力が全身に押しかかり地面に落とされそうになる。
「こっ…のぉ!!」
だが、ゼロボロスは歯を食い縛り、翼を羽ばたかせる。
そして、全身に纏っていた白黒の炎を霧散させると同時に魔法を打ち破った。
「チッ、失敗したか…」
「あ、危なかった…! 『式』を全身に纏ってて正解だった…」
舌打ちするフェンに対し、ゼロボロスは冷や汗を掻きながら息を荒くする。
その状態で不意に視界を上げると、美しい夕日が目に入る。
同時に、自分の中にある古い記憶が甦った。
(そう言えば…『式』の元である『自在法』ってのを教えて貰ったのは、この世界で出会った《あの子》のおかげだっけ…)
もう何十年も前になる。たまたま訪れたこの世界で、ある異界の化け物に襲われた際に一人の少女によって助けて貰った。
燃えるような赤い髪と瞳を宿したその少女には名前が無い。しかし、彼女や彼女に力を与える異能の存在との会合は滅多に出来ない体験により、今も鮮明に覚えている。
その際に手に入れたのが、この『式』だ。己の『力』を消費させる事で、在り得ない事象をこの世に顕現させる一種の魔法。それを自分なりにアレンジし、主にこうして体に炎を纏う事で身体強化として使っている。
(在り得ない、事象…魔法や薬でも、治せない火傷…)
『式』について思い出していると、ゼロボロスの脳裏に何かが過る。
そのまま顔を俯くと、フェンに気づかれないようにニヤリと笑った。
「…今回はとことん、あの子に感謝だね」
それだけ言うと、ゼロボロスは再び上空へと飛び上がった。
「また逃げるか!!」
それを見て、すぐさまフェンは雷の魔法を放つ。
ゼロボロスは繰り出す魔法を避けながら、何と火傷の部分に白黒の炎を纏わせた。
「さーて、ここからは時間との勝負だ…!!」
二つの戦いが拍車を駆ける中、もう一つの戦いにも動きがあった。
「『クラッカーファイガ』!!」
アクアがマリェースに一つの大きな火球を飛ばす。
「ふっ!」
マリェースはすぐに手を上げ、何と水の壁を作り出す。
その壁に当たり火球は大きく爆発するが、壁の向こう側にいるマリェースには届かなかった。
しかも、マリェースは先程の魔法によって出来たあちこちの水溜りを操るように、細い鞭を作り出した。
「貰った」
そう呟くと同時に、アクアの後ろで火傷によって蹲っているテラとレイアに鞭を振り下ろす。
「『デトネチェイサー』!!」
「うぐぅ?!」
しかし、アクアがキーブレードを掲げて周りに地雷を作る。
すると、地雷はマリェースだけでなく周りの鞭にも向かって爆発した。
「テラには、指一本触れさせはしないっ!!」
こうしてマリェースの操った水をも消すと、アクアはチラリと後ろを見る。
マリェースの攻撃によって中断した回復魔法を再度かけるテラとレイアの姿に、胸が締め付けられた。
(私の所為で、テラはあんな怪我を負った…――だったら、私がテラを守らないと…!!)
自分がこうして無傷でいられたのは、テラが身を挺して庇ってくれたからだ。
旅の途中で思わずテラを疑ってしまい、離れ離れになったのは自分の所為だ。それでも、テラはこうして助けてくれた。
キーブレードマスターとしてテラを、ヴェンを闇から…ヴァニタスから守る。それなのに、こんな所で守れなくてどうすると言うのだ。
「やあぁ!!」
気持ちを切り替え、アクアはマリェースに向かってキーブレードで振りかかる。
その頃、『ケアル』で回復したテラは、隣で魔法を唱えるレイアを見ていた。
「…『エスナ』」
魔法を唱え終わると、浄化の光がテラを包む。
それを見て、レイアは辛そうな表情でテラを見た。
「どう、ですか…?」
「幾分、楽にはなったが…完全には、治せないようだ…」
テラはそう言うと、身体の火傷を見る。
先程よりも火傷は小さくなったが、それでも体力を削りながらまた徐々に広がっていく。
そんなテラに、レイアは再び杖を握りしめた。
「私…他の魔法も、試してみます…」
「俺の事は、いい…レイア、援護を頼めるか…?」
他の魔法を唱えようとするレイアにそう言うと、テラはキーブレードを持って立ち上がる。
再び戦おうとするテラに、レイアは目を見開いて腕を掴んだ。
「だ、駄目ですよ…!! まだ、火傷は治ってないんですよ…!?」
「それでも…アクアを、一人で戦わせる訳にはいかない…!! 大丈夫だ…最初に比べて、楽にはなった」
レイアに優しく笑いかけると、すぐに戦っているアクアに目を向ける。
体力を削り、広がる火傷。いや…そんな傷が無くても、マスターに選ばれる実力を持つアクアにとって自分は足手纏いかもしれない。
それでも、このまま一人で戦わせる訳にはいかない。今では闇に染まってしまったが、アクアとの絆は無くなっていないのだから。
「でも…その火傷がある限り、体力はこうして削られるんですよ…? それなのに――」
必死で引き留めようとレイアが話すと、何故か途中で言葉を止める。
テラが目を向けると、レイアは顔を俯かせてブツブツ呟いていた。
「体力を…削る…?」
「レイア?」
思わずテラが声をかけると、レイアが真剣な目でこちらを見た。
「――テラさん…もしかしたら、治せるかもしれません…」
さて…ここで、セヴィルとの戦いに視点を戻そう。
「『ダークブラスト』!!」
「『風陣斬刀』!!」
クウとウィドは遠距離でそれぞれ闇の球体の魔法と無数の鎌鼬をセヴィルに放つ。
「『守護陽光』」
しかし、セヴィルはキーブレードを地面に突き刺し、光の衝撃波で爆発する球体と鎌鼬から身を守る。
さっきから攻撃が一向に与えられない状況に、クウは歯軋りした。
「くっそ…!! 早くしないと、こいつがヤバいのに…!!」
横目でウィドを見ると、息が荒く足に付いた火傷もさっきより大きくなっている。
だが、回復の魔法も効かないし、アイテムも体力を回復させても火傷までは完全に治せない。
体力も火傷も完全に治す方法など、存在するだろうか。
「完全、に…? そう言えば…!」
ここでクウはある事を思い出し、コートの内側に手を入れる。
それを見たセヴィルは、目を細くして両手でキーブレードを握り出した。
「さて…そろそろ、手加減も飽きた。俺も本気を出すとしようか」
「何っ…!?」
「あれは…!?」
ウィドが驚く中、セヴィルの構えにクウは顔を青ざめる。
同時に、セヴィルはキーブレードに光と闇を纏わせて再度地面に突き刺した。
「『陽陰破邪醒』っ!!!」
すると、二人の地面の周りから次々と大きな光と闇のレーザーが噴出し出した。
「マズ…ッ!!」
クウはすぐさまウィドの手を取るなり、引き寄せる。
すると、そのまま両手で持ちあげるように抱えて上空に飛び上がって地面からの攻撃を避ける。
一方、お姫様抱っこの要領で抱えられたウィドは顔を真っ赤にしてクウを睨んだ。
「ちょ…何を――!?」
「いいからじっとしてろっ!! これは防御出来ない!!」
「だからって…どうして、こんな…!?」
「うっせぇ!! こうしてた方が両手使えるだろ!? それより、俺の内側のポケット調べろ!!」
「内、側…?」
こうして口喧嘩していたが、クウの怒鳴った言葉に思わずウィドは口を止める。
言われた通りにクウのコートに手を入れ、ポケットを調べると何かが指先に触れる。
それを握りしめて取り出した代物に、ウィドは目を見張った。
「これは…!」
「効くかどうかは分からない。だが…試してみる価値はあるぜ?」
未だに地面から放たれるレーザーを避ける中、クウはニヤリと笑いかけた。