Another chapter7 Terra&Aqua side‐8
「『ソロアルカナム』!!」
「があああっ!?」
アクアと戦っていたマリェースは、テラによってキーブレードで何度も叩きつけられている。
これを見て、フェンだけでなくアクアも目を丸くした。
「テラ!? 大丈夫なの!?」
思わず聞き返していると、代わりに別の声が響いた。
「光の力…聖なる刻印と化しなさい!! 『シャイニング・クロス』っ!!!」
「うああああああああああっ!!!??」
マリェースを中心に巨大な光の十字架が現れ、激しい光が彼女を襲う。
続けざまの攻撃に茫然となりかけるが、すぐにアクアは振り返る。
そこには、魔法を出し終えて杖を下しているレイアがしっかりと立っていた。
「レイア!?」
「アクアさん、今です!!」
レイアが叫びに反応して、アクアはマリェースを見る。
あれだけの攻撃を喰らったからか、マリェースの身体のあちこちが消えかかっている。
あと一押しだと分かり、アクアは素早く近づいて魔力を高めて身を屈めた。
「『マジックパルス』っ!!!」
「がはぁ!!?」
アクアの周りから放たれた魔法の球体が直撃し、マリェースは思いっきり吹き飛ばされる。
そうして倒れ込んだ近くでは、フェンが驚きの表情でテラとレイアを見ていた。
「な…!? 火傷があるのに、何だってピンピンしてる!?」
そう。二人にはまだ火傷がある。それなのに、何事も無く戦闘をこなしているのだ。
アクアも不安そうに二人を見ていると、その心の内を消し飛ばすようにレイアは笑って説明した。
「この火傷は、私達の体力を徐々に削る…でしたら、体力を徐々に回復する『リジェネ』をかければと思いまして」
「おかげで火傷はあるが、俺達はこうして動いても問題が無くなった。火傷もこれ以上広がらないし、体力も削られる事が無い」
「くそっ…!! おい、あんた!! その二人をさっさと始末してこっちを――っ!?」
ゼロボロスとは違う二人の処置に、最後の望みとばかりにフェンはセヴィルに振り返る。
だが…。
「「セヴィルゥゥゥ!!!」」
クウの拳とウィドの剣が同時に迫るが、セヴィルはキーブレードを両手で握って受け流す。
やがて隙を見つけて、キーブレードを大きく振るって二人を払い除ける。しかし、二人は受け身を取って着地し地を滑り止まると再度構える。
油断も隙もない二人の様子に、セヴィルは苦笑しながらフェンに言った。
「悪いが、こっちはこっちで手一杯だ…体制を立て直したらしい」
「こいつもだとぉ!? 何をどうしたら!?」
クウはともかく、ウィドは足に火傷を負っていた筈だ。しかし、よく見ればゼロボロスと同じように火傷が消えている。
そんなフェンに、クウはニィっと笑うと懐に手を入れた。
「簡単な事だ。こいつを使ってみたんだよ」
そう言って取り出したのは、回復薬の中でも身体の異常はもちろん、体力共に精神を最大にまで治す効果を持つ代物―――『エリクサー』だ。
この意外な方法にフェンが呆気に取られていると、ウィドが軽く息を吐いて明後日の方角を向いた。
「希少価値が高いアイテムな分、効果は絶大ですね。体力だけでなく、治らないと思った火傷まで治す効果もあったんですから」
「すごいな、クウ! 『エリクサー』を持っていたのか!?」
効果が高い分、手に入れにくいアイテムなのを知っているのでテラが嬉しそうに話しかける。
すると、クウはフッと決める様に笑うと、軽く髪を掻き上げる。
「俺ってモテるから、ナンパするとたまにこう言ったアイテムをタダで貰えるんだよな〜! いやー、愛って凄いだろ?」
「…レイア、後で『メガエーテル』をやろう」
「はい…後でじっくりと燃やします」
「テ、テラ? 変な冗談が上手くなったなぁ、ハハハッ…」
人が変わったように冷たい視線を送るテラに、冷や汗を掻きつつもクウは苦笑いを返す。
しかし、彼らはこうして厄介な火傷を治しそれぞれに打撃を与えた。形成は逆転した。
「何がともあれ…これで、チェックメイトですね」
「覚悟して貰う!!」
ゼロボロスの言葉に続く様に、テラがキーブレードを構えて睨みつける。
残りの四人もそれぞれ武器を構えて睨む中、フェンは歯軋りしながら倒れたマリェースを見る。
マリェースは立ち上がろうとするものの、限界なのか少しずつ透けだしている。これを見て、フェンは六人を睨んだ。
「くそぉ!! こうなったらヤケだ!!」
再びあの茜色の炎を剣に纏っていると、目の前に腕が立ち憚る。
視線を向けると、何とセヴィルが自分の一歩前に進んで腕を伸ばしていた。
「フェン、下がっていろ」
「あぁん!? 何を「『レイプレッシャー』」ごへぇ!?」
口答えした瞬間、頭上から一つの光線が落ちてフェンに直撃した。
そうして地面に叩きつけると、唖然とする六人にゆっくりとキーブレードを突きつける……否、その中にいたウィドにのみ。
これにはテラ達も動揺や顔を顰めていると、ウィドは何かを感じたのかゆっくりと口を開いた。
「――皆さん、下がってくれませんか?」
それだけ言うと、ウィドはゆっくりと剣を下ろしセヴィルの元へと歩いていく。
「待って、危険だわ!!」
一人で戦おうとするウィドを見て、思わずアクアが手を伸ばす。
しかし、届く前にテラに肩を掴まれて引き留められた。
「テラ、何を――!?」
「行かせてやってくれ」
反論するアクアに、テラは静かにそう言う。
何処か真剣なテラの表情に、さすがのアクアも折れてウィドを見る。
そんな中、フェンはチャンスとばかりに剣を握った。
「ハン、一人で来るとは馬鹿か――っ!!」
「いいからてめえも下がってろぉ!!!」
「げぶぉ!?」
すぐにでも襲おうとするフェンに、即座にクウは黒い羽根をフェンにぶつける。
こうしてウィドも対峙すると、セヴィルが笑いかけた。
「急に大人しくなったな」
「興奮しても、あなたに攻撃が届かないって分かりましたから。そして――」
そこで言葉を切ると、剣を鞘に納める。
全員が見守る中、ゆっくりと腰を屈めて居合抜きの構えを作り…――叫んだ。
「――あなたに“教えて”貰った技を、こうしてぶつけて欲しい事もねぇ!!!」
銀色の剣を引き抜き、風を斬るように振るう。
同時に、セヴィルの周りに暴風が起きて衝撃波となって襲い掛かる。
こうして衝撃波の中にセヴィルを呑み込むと、ウィドは肉眼では見えない斬撃を次々と浴びせた。
「『空衝煉獄斬』っ!!!」
最後に剣を振るって一閃を与え、ウィドはセヴィルの背後へと移動する。
この光景に、フェンも含めた全員が目を丸くした。
「す、凄い…」
「これが、彼の力か…!?」
アクアとテラが呟く中、一人だけクウは心臓を激しく鳴らしていた。
「あの技…――じゃあ、あいつはやっぱり…!!」
今ウィドが行った技は、自分の記憶にある《彼女》の技と何もかもが瓜二つだ。それにより、嫌でも確信が持ててしまう。
思わず顔を俯かせていると、セヴィルがキーブレードを杖にして膝を付いた。
「やった…?」
ゼロボロスが警戒を解いていると、クウが目を細める。
それとほぼ同時に、セヴィルが蹲ったままウィドを見て笑った。
「その技を習得したか……だが、まだ姉には及ばないな」
「どう言う――!?」
意味深な言葉にウィドが振り返った直後、身体が硬直する。
いつの間にか、目の前にセヴィルがいたのだ。しかも、首元のスカーフ越しの首筋にキーブレードを当てて。
油断していた分、声すらも出なくなったウィドに対し、セヴィルは急に目を細めた。
「話はここまでだ…『陽壁』」
光の障壁に包まれると同時に、キーブレードを振り上げる。
ウィドが目を閉じると、セヴィルはキーブレードを振り下ろした。
後ろで足を振り上げ、蹴りを放ったクウに。
「おい、セヴィル…俺の事忘れてんじゃねーよ!!」
踵の部分でどうにか受け止めると、手に持った黒い羽根をセヴィルの足元と投げつける。
すると、黒い炎が地面から湧き上がり、セヴィルを呑み込む。
この一連の行動にウィドが後退りする中、『ダークフレイム』を使ったクウも後ろに跳んで距離を置く。
そうして黒い炎が収まると、何とセヴィルが無傷のまま光に包まれていた。
「クウ、分かってないな。今の俺に闇は効かない」
「てめえこそ分かってねーな」
光の障壁に守られながらセヴィルが言うと、クウも言い返す。
セヴィルが眉を寄せていると、クウは拳を握り込み黒の双翼を広げ出した。
「俺が扱うのは…闇だけじゃねーって師匠に聞かなかったかぁ!!?」
睨みながらセヴィルに向かって叫ぶと、何と先程よりも激しい黒い炎がクウを包み込む。
それとほぼ同時に、クウが一気に詰め寄った。
「セヴィル!! てめえごと、焼き尽くすっ!!!」
クウは炎を纏いながら拳と蹴りを容赦なくセヴィルに浴びせる。
「『ダークブレイス・アーツ』っ!!!」
最後に最大限に拳に力を溜め、一歩踏み出すと同時に思いっきり殴りつける。
セヴィルはそのまま吹き飛ばされるが、その途中で闇を纏って姿を消した。
「やったの…!?」
アクアが茫然と呟くが、返事は誰からも返ってこない。そんな中、クウは険しい表情のまま何故かフェンの方向を見る。
するとそこから闇が立ち上り、何とあちこちに傷を負ったセヴィルが現れる。
二人の猛攻を受けたにも関わらず、平然と立っている様子にまだまだ力量を隠しているのが分かる。六人が警戒すると、セヴィルはキーブレードを消してクウに笑いかけた。
「――さすがだ、クウ。クロが見たら呆れられるがな」
「予想はしたが…やっぱ、これじゃあんたは倒せねーか」
「分かってるんだな」
何処か余裕を見せるセヴィルに、クウは真剣な目で口を開いた。
「敵に手の内を全て見せるな―――あんたが教えて、師匠に叩き込まれた言葉だ」
「…そうだったな」
その時の事を思い出したのか、セヴィルが苦笑を浮かべる。
と、ここで後ろにいるフェンを見ながら言った。
「フェン、お前は先に帰れ。俺はまだ用を終わらせていない」
「何ぃ…!?」
「もう精霊さえも維持する力がないお前が、勝てると思うのか?」
「…くそぉ!!」
セヴィルの言葉に反論出来ないようで、フェンはマリェースに手を振って光に包む。
そうやってマリェースを帰還させると、『闇の回廊』を出して入り込んだ。