Fragment7‐3
怒りのオーラを身に纏い、三人を睨むシャオ。
先程までと打って変わったシャオの変化に、フェンとマリェースは訝しげに身構える。
そんな二人を見て、シャオは弓に手をかけて叫んだ。
「これは、ボクが手に入れたキーブレードだ!! 作り物なんかじゃないっ!!!」
「黙って聞いてれば…作り物が調子に乗るなぁ!!!」
シャオの言葉に怒りを覚えたのか、フェンは怒鳴りながら魔法を放とうとした。
「『ウィングアロー』…最大出力っ!!」
しかし、すぐにシャオが幾つもの光の矢を扇状に放つ。
思わぬ攻撃に、すぐにフェンは攻撃を中断しマリェースと共に矢を避ける。
だが、その時にはシャオは次の行動に移っていた。
「『ウィングレイド』!!」
「ぬぉ!?」
フェンを標的としているのか、シャオは何と弓を投げつける。
回転しながら迫る弓をフェンは身を低くしてギリギリで避けると、弓はブーメランの要領でシャオの手に戻っていった。
「弓を投げるなんて、なんてガキだ…!!」
「言い忘れてたけど、『フィルアーム・モード』は――」
冷や汗を掻くフェンに言いながら、弓を光らせる。
そうして横に振って光を霧散させると、何とガンブレード型のキーブレードに変化した。
「もう一種類あるんだっ!!! 『ブリザドバレット』!!」
シャオは剣先を向けて引き金を引き、氷結の弾丸を素早く飛ばしてフェンにぶつけた。
「くそっ…!!」
「貴様ぁ!!」
攻撃の当たった部分を押さえるフェンに、マリェースが腕を刃に変えて向かう。
それを見て、シャオは一回転して周りに赤い光を出現させて引き金を引いた。
「『フェイテッドサークル』!!」
赤い光を起爆させ、爆発で身を守ると共にマリェースを一気に吹き飛ばした。
「がはっ…!?」
「大人しくしててよね、今のボク最っ高に機嫌が悪いんだから」
地面に倒れるマリェースに、何処か冷めた目でシャオはそう言う。
そんなシャオを、フェンもまた冷めた目で見ていた。
「さすがは、作り物だな…」
「うるさい、黙れ…!!」
フェンの放った言葉に、シャオは思いっきり睨みつける。
だが、それに怯む事も無くフェンは馬鹿にしたように笑い返した。
「何言ってるんだ? 大体、その能力は全部他人の者なんだろ? お前自身の物は何もないんだ」
「そんな事、ない…!!」
「じゃあ、今までの光景はどう説明するんだ? 妙な変化する前から、お前自身の記憶は映っていなかったんだろ?」
「それは…!!」
今までの幻を思い返し、シャオは顔を俯かせる。
この部屋で作り出されていた記憶の中に、自分は何処にもいなかった。全て、他者の記憶しか映っていない。
何も言い返せなくなったシャオに、フェンは更に言葉を畳み掛ける。
「結局、お前は作り物…――人形は人形のままなんだよ」
「あ、あぁ…!!」
顔に絶望を浮かべ、シャオはキーブレードを落として膝を付いてしまう。
もはや何もする事が出来ず、茫然と目を見開くシャオ。それを見て、フェンは歪んだ笑みを浮かべて近づいた。
「一つ、教えてやる。人形ってのはな、遊ぶ為にあるんだ…――最後には飽きて、捨てて、壊れるまでなぁ!!!」
「ぐわあぁ!!?」
シャオは頭を掴まれ、思いっきり床に叩きつけられる。
思わず悲鳴を上げるが、フェンは更にシャオを叩き続ける。
「お前みたいな人形がキーブレードに選ばれた? 俺は認めねえ……認めてたまるかぁ!!!」
「うっ…!! ぐはぁ!! がっ!?」
「てめえみたいに意思を持った人形は人間じゃない…――化け物なんだよっ!!!」
「げふっ!? あがぁ!!」
何度も何度も叩きつけられ、シャオの意識が痛みに蝕まれて朦朧となる。
そんな時、一際強い衝撃がシャオに襲いかかる。
どうにか視線だけ上げると、何とフェンが自分を床に押さえつけてあの金色の剣を振り上げていた。
「化け物は封じてやるよ…――この剣でなぁ!!!」
そう叫ぶと同時に、剣を振り下ろす。
それをシャオは虚ろな目で見ながら、別の事を考えていた。
(ボクは、人形…化け物…――本当のボクは…誰なの…?)
今にも迫る剣に恐怖も怯えも感じず、ただそれだけを考える。
そうして、シャオは剣に斬り裂かれる―――直前、甲高い金属のぶつかりあう音が響いた。
「なっ…!?」
「あいつは!?」
驚くフェンとアウルムの声に、シャオはボンヤリとしてた焦点を合わせる。
フェンの握っていた剣は、弾き返されたのか後ろの方で突き刺さる。ここでようやく、押さえつけている筈の腕が放されているのに気づく。
そして、自分の目の前には黒と白の翼を持った人影がフェンに向かって足を振り上げていた。
「ぐはぁ!!」
「うぐっ!?」
回し蹴りをモロに喰らって吹き飛ばされるフェン。さらに、吹き飛んだフェンにぶつかったマリェースも巻き込まれてしまう。
この一連の様子に言葉を失っていると、助けてくれた人物は不機嫌そうに手に持っている武器を肩に乗せて睨みつける。
白と黒の翼で出来たキーブレード―――『対極の翼』を。
「オイコラ。俺の『弟子』に何してやがんだ、あぁ?」
見間違えの無い、あの記憶の幻影よりも若干年を取った姿。この言い草。
居る筈のない人物に、シャオは目を丸くして呟いた。
「“師匠”…?」
茫然としながら、シャオは目の前の師を見る。
すると、師匠と呼ばれた男はシャオに目を向けて担いでいたキーブレードを下ろす。
次の瞬間、シャオの頭に思いっきり拳を叩きつけた。
「あぐぉ!?」
「シャオ、てめえもてめえだ。何やられっぱなしでいやがるんだよ?」
「うぁぁ…久々の拳骨は痛いよ…――って言うか、これって幻じゃ…!?」
肩を震わせながら頭を押さえると、不意に疑問が過る。
ここは記憶を見せる場所。ならば、この師匠も幻なのにどうしてこうして話が出来るのだろうか。
そう考えているシャオに、彼の師匠は優しくニット帽の上から手を当てて笑いかけた。
「――シャオ、自信を持て。お前はお前だ、それは自分自身が分かってる筈だ」
「でも、ボクは…」
「守りたいんだろ、お前の大切なモノ? だから、このキーブレードを持てたんじゃないか」
「守る…」
師匠の言葉に、シャオの中で何かが湧き上がる。
思わず胸を押さえていると、師匠は小さく笑って頭を少し乱暴に撫でる。
「お前の両親だって、そうやってキーブレードを手に入れたんだ。誰の物でもない、自分自身の武器をな」
「師匠…!」
何処か優しく語る師匠に、シャオも笑みを浮かべる。
そんな二人に、フェンはマリェースを下敷きにしつつも立ち上がった。
「さっきから無視して話すとはいい度胸だなぁ!!!」
魔法を放とうとするフェンを見て、シャオは即座に手を翳す。
そうして落ちていたキーブレードを光らせて手元に戻すと、そのまま銃口を向けた。
「『カオスティックレーザー』!!」
引き金を引くと同時に、大きな黒いレーザーがフェンに襲い掛かる。
その威力を感じ取ったのか、フェンとマリェースはすぐに横に避けてレーザーをかわした。
それを見ながら、シャオは息を整えつつ少しだけ笑った。
「微弱だけど、ルシフの力も持ってて良かった…」
安堵の息を吐きつつ、友達でもある気弱な金髪の少年を思い浮かべる。
息を整えてシャオが再度立ちあがっていると、フェンは憎しげに睨みつけた。
「人形が今更何の真似だ…?」
「ボクには守りたいモノがある…――その為にも、ここで消える訳には行かないんだよっ!!!」
「守りたいモノ? ハッ、人形のお前がそんな物持って何になるっ!!?」
「少なくとも、僻んでいるオジサンよりはマシだねっ!!! 第二段階、チェンジ…『ダーク・モード』!!」
腕をクロスさせ、シャオは更なる力を解放させると共に闇に包まれる。
身体に纏った闇が晴れると、シャオは全身が黒く赤い線の入ったスーツを着ていた。腰には赤黒い布を巻いており、キーブレードも黒く染まっている。
同時に、彼が師と呼んでいた人物が消え、白だった空間一面が黒に染まった。
「ここは…!?」
「『ダークオーラ』!!」
再び風景が変わって辺りを見回すフェンに、シャオは闇の闘気を全身に纏って高速で突きを放つ。
次々と高速の突きをフェンに喰らわせると、地面に剣を一気に突き刺して闇の柱と衝撃波を辺り一帯に湧き上がらせる。
だが、寸前の所でマリェースが水の氷壁で攻撃を防いだ。
「フェン様、無事ですか!?」
「助かった…」
「もう遅いよ、『ソニックシャドウ』!!」
そんな二人に、シャオは闇の力を纏って目にも見えない速さで突進攻撃を繰り出す。
やがて離れた場所で止まると、キーブレードを振り上げてた。
「とっておきの師匠直伝の技だよ…ありがたく受け取ってよねぇ!!!」
そう二人に叫ぶと、闇を込めたキーブレードを振り下ろした。
「『ブラッティ・ウェーブ』っ!!!」
刀身から大きな黒い衝撃波が放たれ、フェンとマリェースだけでなく後ろにいたアウルムまでも呑み込んだ。
少しして闇の衝撃波が消えていくと、三人の姿は何処にもなかった。辺りを見回すがこれと言った気配も感じない。
「ふぅ…――モード・解除…」
軽く息を吐き、シャオは【モード・スタイル】の力を解除する。
元の服装に戻ると、周りの風景も何もない白い部屋に戻る。辺りを見回しながら何処か乾いた笑みを浮かべた。
「師匠、消えちゃった…」
フェンに消されそうになった時に助けてくれた師匠は、もう何処にもいない。やはり、あれも幻だったようだ。
「もう、何も見えないや……元々、無いのかな…?」
辺り一帯白しかない場所を見ながら、シャオはその場に膝を付く。
記憶を廻った精神の疲れ、そして戦闘での肉体の疲れがじわじわとシャオを蝕んでいく。
これに耐えきれず、シャオは思わず仰向けに横になって目を閉じた。
「ははっ…なんだか疲れちゃった……少しくらい、いいよね…?」
そう言うと、ゆっくりとシャオは眠りの中へと沈んでいった…。