第五章 三剣士編第三話「開戦」
カミの聖域と呼ばれた銀河のような夜景は黒い液体をぶちまけた様にあちらこちらに『闇』が燻り、その『闇』の中から大小無数のハートレスが爛れる様に零れ落ちている。
更には犇めき合うようにハートレスがいる。多すぎる余りに第一島が見えない。他の島も辛うじて視認出来るが、大小無数のハートレスがあちこちに陣取っており、やってきたモノマキアをいっせいに見た。
「―――くっ、防御結界展開!!」
アイネアスは怒声を上げて、シーノとキルレストに命ずる。ハッと我を取り戻した二人は直ぐに操作盤に入力を開始した。
ハートレスが一斉に押し迫る寸前、モノマキアと周囲をとり囲うように球体状の結界が展開し、ハートレスの波濤を凌ぎ切った。
結界に激突したハートレスはひしゃげ、後ろから続いてくるハートレスに押しつぶされ、突撃を控えたハートレスは結界の周囲に集いつつあった。
「……皆さん! 各自配置! 第一島は視認出来ない、よって上甲板での防衛に回ってほしい。
配置完了次第、結界を変更して装甲に展開。このモノマキアを不動の城とします!」
全員が各場所へと走り出していく。
チェルは彼らを見送り、静かに銃を抜き取った。
「じゃあ、いってくるわね」
「ああ。…気をつけてな」
最後までチェルと一緒に居たイヴが微笑んで駆けだしていった。
そして、銃イザナギを抜き、警護に当たった。
上甲板には各島へと向かうメンバーが武器を構え、モノマキアの周辺にはシムルグたちが宙を浮いて待ち構えていた。
聖域レプセキアは島以外は空中そのもの。多くの者たちが空中による移動を可能にする魔法をミュロスに施して貰った
シムルグが周囲を見渡し、結界のぎりぎりまで大小無数のハートレスが迫っている。このままではいけないと、アイネアスに、モノマキアへと向けて大声で言った。
「アイネアス! 結界の解除は我々の先手で攻撃するべきじゃない!?」
『では、周囲防衛・上甲にいる皆さん。結界は解除し、一斉に攻撃開始! それが奪還戦の開始の火蓋とします!!』
アイネアスは了解し、彼の声が返ってくる。上甲板にいる者たちも力を篭める。
勿論、空中にいる面々を巻き込まないように繰り出そうとする。
静寂が包んだ刹那、
『結界―――――解除!!!!』
シュン、と結界がうせる。
ハートレスが一斉に、神無たち、半神たちが一斉に攻撃を繰り出した。
「――ふ、くく……始まったか」
第一島の神殿の奥の、レプキアがぎ玉座で眠る広間で一人、黒に侵食されたアバタールが展開した勾玉に映し出される外の様子を確認していた。
モノマキア周辺に集っていたハートレスは神無たちの先制攻撃で悉く消し飛んだらしい。
「既に島に、配置している……ふ……くく」
既に各島へと向かう人影を捉えている。各島一つ数人のようだと、アバタールは目を細めて、考える。
「……ハートレスもまだ衰えて居ない。まだまだ、あふれてくる……!
それに、敵は既にお前ら『船』の真下に……きゅひゃ、あはあ…!!!」
うごめく黒が次第に顔を染め始める。アバタールの顔に苦しみの顔は無い。
悦楽。
恍惚な声を上げ、黒の侵食に侵されながらその場に突っ伏した。
「――っしゃあ! なめるなよ」
神無は黒翼を羽ばたかせながら、ツヴァイの傍らで大きく笑んだ。彼女も視線をまだ合わせず、剣を構えた。
「ええ。貴方、此処には別に…」
「なーに、突撃するまで此処で頑張―――る!」
迫ってきたハートレスに神槍銃剣ロスト・レクイエムの砲火で吹き飛ばす。
ツヴァイもすかさず横薙ぎに振り払い、同時に無数の風の刃で切り裂いた。
「……半神の皆、大丈夫かしら」
「そうだな…」
二人は背中合わせにハートレスを切り伏せ、倒して行きながら会話を交えた。
この光景を見た殆どの半神たちが見せたあの表情に不安を抱いた。
「……ブレイズはもう、大暴れだしな」
後方から聞こえる怒声と爆炎。半神ブレイズの怒りが『蒼炎の女神』に変身し、ハートレスを容赦なく殲滅している。
ただ怒りに身を任せた、無差別攻撃をしていないのは救いだった。神無も直ぐに諫めようと思ったが、口をつぐんだ。
「……あちこち大混戦だな」
「そうね」
何処までも切り伏せ、なぎ払ってもハートレスたちは無我に襲いかかってくる。
だが、二人は、此処にいる誰もが退かない。恐怖を抱いても倒す。
しかし、闇を恐れるものはいる。その恐れるものとは。
「――なんで、ハートレスなの……!! 私は、私は……!!」
上甲板防衛チームの一人、光をつかさどる半神キサラは上甲板に上がらずに船内に居た。それを不思議に思ったヴァイが面倒を見ていた。
「キサラさん…怖いのは、解るけど……どうしよう。みんなが戦ってるのに」
ヴァイは不安そうに外の騒音の方へと振り向いた。
怯えて震えているキサラは自分の胸中に埋めたままだった。
「なら……私を置いて行って下さい……すみません」
「……やはり、こうなってしまいましたか」
靴音を鳴らしてやって来た声の方に振り向むく、声の主の姿を見た。そう、素顔を黒い布で隠した半神アーシャにヴァイは少し安堵した。
「あ、アーシャさん! 実は、キサラさんが―――って、『こうなってしまった』……?」
アーシャが口走った言葉に怪訝そうに見つめると、彼女はキサラを見下ろしながら言った。
「キサラは光の半神。ただ、それだけでは闇を恐れる事は無かったの。―――彼女の『対を成していた半神』の所為で、彼女は闇を極端に恐れた」
「………」
先ほどまで怯え振るえ、声を上げていたキサラが突然言葉を失ったように黙り込んだ。
すると、キサラはヴァイから離れて起き上がった。その表情は何処か悲しんでいるものの、『怒っている』ようにも見えた。
「ダークネスの事は……」
「キサラ。私にあなたを強制する資格は有りません。ですが、多くのヒトと共に半神たちが闘っている中、貴女は過去の闇に囚われて、怯えている―――なんとも、物悲しい限り」
「……私は」
「キサラさん! 大丈夫ですよ、誰だって怖いのなんて一つや二つ」
「……キサラ。弱い心を見せてしまうと、どうなるか。解りますか」
アーシャが呟くと、騒音とは別の音が聞こえてくる。ごぽごぽと嫌な音を。
ヴァイ、キサラはその音の方へ視線を凝らすと船内の回廊から黒い穴が広がりつつあった。
「この箱舟モノマキアの周囲には有象無象、大小無数のハートレスが蠢き回っている。
貴女は『光』なのよ。只でさえ、闇に惹かれやすいのに……」
「くっ――!」
ヴァイは直ぐに身体を跳ね飛ばした。黒い穴はまだ中から何かを呼び出そうとしていない。
闘気を纏った鉄拳が穴へと突っ込んだ。すると、穴は消えうせ、ヴァイは拳を納めた。
「……ごめん、なさい」
無言のまま、キサラは上甲板の方へと歩き出そうとする。その後姿はとても小さく震えていた。
それを見かねたヴァイはキサラの手を掴んで無理やり引き止め、アーシャに言いよる。
「酷いです! なんでそんな事をいうんですか…!」
「……事が事だからよ? キサラ、あなたには力がある。私には無い、力が」
「でも、強制は――」
「そんなに心配なら、彼女を守ってやってください」
そう言ってアーシャは歩きさって行った。呼び止めるまもなく、ヴァイは落ち込んでいるキサラを見やる。
だが、その答えで尽力を尽くそうと決意した。
「キサラさん、一緒に戦いましょう。貴女を守って見せます」
「ありがとう…………そして、ごめんね」
二人は頷きあって、上甲板へと向かって行った―――それを知ったアーシャは歩きをとめる。
「私は今も、昔も最低ね…」
更には犇めき合うようにハートレスがいる。多すぎる余りに第一島が見えない。他の島も辛うじて視認出来るが、大小無数のハートレスがあちこちに陣取っており、やってきたモノマキアをいっせいに見た。
「―――くっ、防御結界展開!!」
アイネアスは怒声を上げて、シーノとキルレストに命ずる。ハッと我を取り戻した二人は直ぐに操作盤に入力を開始した。
ハートレスが一斉に押し迫る寸前、モノマキアと周囲をとり囲うように球体状の結界が展開し、ハートレスの波濤を凌ぎ切った。
結界に激突したハートレスはひしゃげ、後ろから続いてくるハートレスに押しつぶされ、突撃を控えたハートレスは結界の周囲に集いつつあった。
「……皆さん! 各自配置! 第一島は視認出来ない、よって上甲板での防衛に回ってほしい。
配置完了次第、結界を変更して装甲に展開。このモノマキアを不動の城とします!」
全員が各場所へと走り出していく。
チェルは彼らを見送り、静かに銃を抜き取った。
「じゃあ、いってくるわね」
「ああ。…気をつけてな」
最後までチェルと一緒に居たイヴが微笑んで駆けだしていった。
そして、銃イザナギを抜き、警護に当たった。
上甲板には各島へと向かうメンバーが武器を構え、モノマキアの周辺にはシムルグたちが宙を浮いて待ち構えていた。
聖域レプセキアは島以外は空中そのもの。多くの者たちが空中による移動を可能にする魔法をミュロスに施して貰った
シムルグが周囲を見渡し、結界のぎりぎりまで大小無数のハートレスが迫っている。このままではいけないと、アイネアスに、モノマキアへと向けて大声で言った。
「アイネアス! 結界の解除は我々の先手で攻撃するべきじゃない!?」
『では、周囲防衛・上甲にいる皆さん。結界は解除し、一斉に攻撃開始! それが奪還戦の開始の火蓋とします!!』
アイネアスは了解し、彼の声が返ってくる。上甲板にいる者たちも力を篭める。
勿論、空中にいる面々を巻き込まないように繰り出そうとする。
静寂が包んだ刹那、
『結界―――――解除!!!!』
シュン、と結界がうせる。
ハートレスが一斉に、神無たち、半神たちが一斉に攻撃を繰り出した。
「――ふ、くく……始まったか」
第一島の神殿の奥の、レプキアがぎ玉座で眠る広間で一人、黒に侵食されたアバタールが展開した勾玉に映し出される外の様子を確認していた。
モノマキア周辺に集っていたハートレスは神無たちの先制攻撃で悉く消し飛んだらしい。
「既に島に、配置している……ふ……くく」
既に各島へと向かう人影を捉えている。各島一つ数人のようだと、アバタールは目を細めて、考える。
「……ハートレスもまだ衰えて居ない。まだまだ、あふれてくる……!
それに、敵は既にお前ら『船』の真下に……きゅひゃ、あはあ…!!!」
うごめく黒が次第に顔を染め始める。アバタールの顔に苦しみの顔は無い。
悦楽。
恍惚な声を上げ、黒の侵食に侵されながらその場に突っ伏した。
「――っしゃあ! なめるなよ」
神無は黒翼を羽ばたかせながら、ツヴァイの傍らで大きく笑んだ。彼女も視線をまだ合わせず、剣を構えた。
「ええ。貴方、此処には別に…」
「なーに、突撃するまで此処で頑張―――る!」
迫ってきたハートレスに神槍銃剣ロスト・レクイエムの砲火で吹き飛ばす。
ツヴァイもすかさず横薙ぎに振り払い、同時に無数の風の刃で切り裂いた。
「……半神の皆、大丈夫かしら」
「そうだな…」
二人は背中合わせにハートレスを切り伏せ、倒して行きながら会話を交えた。
この光景を見た殆どの半神たちが見せたあの表情に不安を抱いた。
「……ブレイズはもう、大暴れだしな」
後方から聞こえる怒声と爆炎。半神ブレイズの怒りが『蒼炎の女神』に変身し、ハートレスを容赦なく殲滅している。
ただ怒りに身を任せた、無差別攻撃をしていないのは救いだった。神無も直ぐに諫めようと思ったが、口をつぐんだ。
「……あちこち大混戦だな」
「そうね」
何処までも切り伏せ、なぎ払ってもハートレスたちは無我に襲いかかってくる。
だが、二人は、此処にいる誰もが退かない。恐怖を抱いても倒す。
しかし、闇を恐れるものはいる。その恐れるものとは。
「――なんで、ハートレスなの……!! 私は、私は……!!」
上甲板防衛チームの一人、光をつかさどる半神キサラは上甲板に上がらずに船内に居た。それを不思議に思ったヴァイが面倒を見ていた。
「キサラさん…怖いのは、解るけど……どうしよう。みんなが戦ってるのに」
ヴァイは不安そうに外の騒音の方へと振り向いた。
怯えて震えているキサラは自分の胸中に埋めたままだった。
「なら……私を置いて行って下さい……すみません」
「……やはり、こうなってしまいましたか」
靴音を鳴らしてやって来た声の方に振り向むく、声の主の姿を見た。そう、素顔を黒い布で隠した半神アーシャにヴァイは少し安堵した。
「あ、アーシャさん! 実は、キサラさんが―――って、『こうなってしまった』……?」
アーシャが口走った言葉に怪訝そうに見つめると、彼女はキサラを見下ろしながら言った。
「キサラは光の半神。ただ、それだけでは闇を恐れる事は無かったの。―――彼女の『対を成していた半神』の所為で、彼女は闇を極端に恐れた」
「………」
先ほどまで怯え振るえ、声を上げていたキサラが突然言葉を失ったように黙り込んだ。
すると、キサラはヴァイから離れて起き上がった。その表情は何処か悲しんでいるものの、『怒っている』ようにも見えた。
「ダークネスの事は……」
「キサラ。私にあなたを強制する資格は有りません。ですが、多くのヒトと共に半神たちが闘っている中、貴女は過去の闇に囚われて、怯えている―――なんとも、物悲しい限り」
「……私は」
「キサラさん! 大丈夫ですよ、誰だって怖いのなんて一つや二つ」
「……キサラ。弱い心を見せてしまうと、どうなるか。解りますか」
アーシャが呟くと、騒音とは別の音が聞こえてくる。ごぽごぽと嫌な音を。
ヴァイ、キサラはその音の方へ視線を凝らすと船内の回廊から黒い穴が広がりつつあった。
「この箱舟モノマキアの周囲には有象無象、大小無数のハートレスが蠢き回っている。
貴女は『光』なのよ。只でさえ、闇に惹かれやすいのに……」
「くっ――!」
ヴァイは直ぐに身体を跳ね飛ばした。黒い穴はまだ中から何かを呼び出そうとしていない。
闘気を纏った鉄拳が穴へと突っ込んだ。すると、穴は消えうせ、ヴァイは拳を納めた。
「……ごめん、なさい」
無言のまま、キサラは上甲板の方へと歩き出そうとする。その後姿はとても小さく震えていた。
それを見かねたヴァイはキサラの手を掴んで無理やり引き止め、アーシャに言いよる。
「酷いです! なんでそんな事をいうんですか…!」
「……事が事だからよ? キサラ、あなたには力がある。私には無い、力が」
「でも、強制は――」
「そんなに心配なら、彼女を守ってやってください」
そう言ってアーシャは歩きさって行った。呼び止めるまもなく、ヴァイは落ち込んでいるキサラを見やる。
だが、その答えで尽力を尽くそうと決意した。
「キサラさん、一緒に戦いましょう。貴女を守って見せます」
「ありがとう…………そして、ごめんね」
二人は頷きあって、上甲板へと向かって行った―――それを知ったアーシャは歩きをとめる。
「私は今も、昔も最低ね…」