第五章 三剣士編第四話「先魁」
戦いの火蓋は切って落とされた。
聖域レプセキア奪還戦の始まりだった。
第四島へと向かう紗那たちは他の島攻略のメンバーよりいち早く神殿の元までたどり着いていた。
その理由は、半神イリシアのおかげだった。
「凄いわね、その姿」
紗那が彼女の方へと振り向いて、気さくに笑う。
イリシアは今、その身を水の中に包まれている状態だった。水はまるで不定形ながらも人らしい形をとどめながら、彼女を守っている。
紗那たちはこの『水』の中に入って、一気にハートレスの中を突き破ってきたのだった(ヴァイロンは白龍となってハートレスを蹴散らして前進して来た)。
「ううん。この子が強いから」
「はは、どっちもさ。流石はイリシアね」
『水』―――イリシアを守る鉄壁或いはなぎ払う剣ともなるその名前は『ヴァッサー』をほめるように微笑み返した。
セイグリットは気さくに笑って、彼女の頭を撫でる。撫でられた彼女は嬉しそうに顔を淡く赤色に染めた。
「さあ、先に行きましょう…! まだ、この先が本番ですから」
「って、また来たぞ!!」
入るもつかの間、ハートレスがまた一斉に攻め入ってくる。人海戦術、と称するも憚る程。
イリシアが若干、表情を強張らせ、身を翻る。
「この神殿の奥に結界の操作室があります。真っ直ぐ突き進んでください!」
「え…?」
「……そう言うことよ。さっさと行くわよ」
戸惑う紗那の手を無理やり、イヴは引っ張りながら駆けだしていった。
制止する者は誰も居なかった。紗那も直ぐに彼女の意を理解し、自分の足で走り出す。
「恩に着る」
最後にヴァイロンが頭を下げて、礼を言った。彼女一人だけでは第四島にはたどり着けなかった。お互いにサポートしあって、ここまで来たのだった。
イリシアは小さく振り返って笑みを浮かべ、同じく礼を返した。それを見て、彼女も神殿の奥へと駆けだして行った。
ゆっくりと神殿の入り口に阻む彼女の元に潜んで来るハートレスを睥睨し、口を開いた
「……この聖域、レプセキアの美しさは闇に落ちたお前たちには理解できない……。
……この聖域の尊さを踏み躙った無知をッ……我々の、怒りを………ッッ!!」
次第に巨大化する『ヴァッサー』は所々、鋭利な剣や槍、牙だらけの口を生やした蛇、巨大な足、腕と異形へと変貌する。その心臓にいるイリシアの表情は激しい殺意に満ちた怒りの表情で吼えた。
「死をもって、知れ!!!!!!!」
「――やれやれ、イリシアったら」
第四神殿に侵入した紗那たち。構造的にまっすぐな道ながらも敵襲の気配も無い。
そんな中、半神セイグリットが呆れたように口を開いた。
「……相当、怒っていたよね。みんな」
故郷がハートレスに蝕んだ風景を見た殆どの半神は愕然とし、怒りに爆発するものもいた。
セイグリットも少し息を付いて、その言葉を返した。
「そりゃあ、此処ほど自分たちの『居場所』と呼べる世界は無いからねえ……あたしだって結構、頭に来てるんだよ―――っと、この先の広間を抜けたらに結界の操作する部屋に通じてるわ」
彼女らの前に聳える扉を、セイグリットは見目に反した強烈かつ俊足な蹴りで蹴破った。
おお、と紗那やアーファは感嘆の声をあげ、蹴破った彼女は照れ臭そうにはにかんだ笑みを浮かべ返す。
しかし、直ぐにイヴやヴァイロンに諫められ、広間へと入る。
「―――侵入者ね」
「……そのようね」
奥への扉の前に立ち阻む二人の女性。
一人は白と赤の衣装を着た成人した女性、もう一人は暗色の服で身を包んだ声音の低い少女。
女性の方は仮面を付けていたが、もう一人の少女は仮面を付けていない。褐色の素顔を暗色のローブで隠している。
(仮面をつけていない…? 操られていないっていうの?)
(『協議』での話を聞く限り、仮面を付けていない者はアバタールっていう半神だけなはず。……用心しないとね)
(先に進んで第一島を包む結界を解きたいけど……うまくいかないねえ)
3人がそれぞれ心の中で疑問などを呟きつつも、奥にいる二人以外に何かあるか確認する。
「悪いけど、此処から先は通さない」
「! なにっ」
そう言うと、出入り口にある扉に半透明な結界が展開された。
逃げることも出来ない、前進するにも二人が阻んでいる。
「……向こうは二人、こちらは5人……ね」
「なんだ、数の差で勝って嬉しいの?」
白服の女がやや毒の含んだ物言いでせせら笑う。むっと紗那は表情をきつくすると、イヴが肩を叩いて、宥めた。代わりに彼女が言い返してやった。
「勿論、数と実力も兼ねているもの」
「……なら、望みどおり『分けて』あげましょう」
「!?」
白服の女性の一声と共に、広間の空間が揺らぐ。
広間の床に浮かび上がった円陣が全員を包みこんだ。
「――はあっ!」
装甲を身に纏った半神サイキが巨大なハートレスを光刃を帯びた縦に一閃する。
彼女の後ろには第二島攻略メンバーが続いていた。
周囲の防衛も必要だったが、ハートレスの数が多い余りに周囲防衛メンバーは一部、各島へと導く先方になった(選ばれたのは高い突破力の持ち主)。
「後少し、ですね!」
ムラマサを片手に王羅が言う。各島のメンバーも戦いながら道を切り開いている。
「サイキ、此処からは俺たちで突破する! モノマキアを任せる!」
黒い片刃剣アルトセルクと黒炎をまとって、サイキに呼びかける。
サイキは振りかえりざまに、背後のハートレスへ光弾の掃射を繰り出した。
「解ったわ。みんな、気をつけて」
言い終えるや、機械の双翼を広げ、一気にモノマキアへと飛翔した。
神月は炎と氷の対なる心剣インフェルノ、コキュートスを手に、
「一気に突っ切るぞ! ラスト―――ノヴァッ!!」
迫りくるハートレスたちへ広範囲の大爆発で滅する。同時に神月たちは一気に第二島へと着地した。
「――みな、目的の場所はあそこだ。駆けるぞ!」
半神ビラコチャが吼え、彼らの視界の奥には神殿にも似た館があった。向かおうと駆けだしたその時、雷光と氷塊が一斉に神月たちに襲いかかった。
「―――ッ、斬!!」
迫った2つの攻撃を毘羯羅が繰り出した神速の居合いによる斬撃で弾き、切り伏せた。
彼女の仰いだ先、先ほどのように襲ってこずにうごめくハートレスとは別の、モノクロの仮面を付けた男女がそれぞれ剣を握って降りてきた。
男は雷を走らせた剣を、女は冷気を帯びた剣を手に持ち、無言のうちに構える。
「……Sin化のモノたちか。―――私一人でいい」
「阿呆が。もう一人くらい付けたせ」
そう言って、毘羯羅と並んで駆けてきた男イザヴェルが赤い炎で象った刀剣で構える。
「先を急ぐぞ」
ビラコチャの言葉と共に、ゼツたちは続いて駆けだした。勿論、先行く彼らを止めるべく、二人の男女は挑みかかったが、炎弾が無数に二人に放たれ、動きを止められる。
「お前らの相手は俺たち」
「……大人しく呪縛から開放されるのだな」
イザヴェル、毘羯羅を優先したのか二人は進んでしまった神月たちより、彼らを相手にした。
『シンメイ、てめえが元に戻って一気に突っ切れよ!!』
「えー…面倒じゃ」
『お前なあ!!』
黒竜の額の上にいるシンメイが面倒そうな顔で言うのに堪忍袋の緒が切れっぱなしのゼロボロスが怒りの声を上げた。
背には第三島へと向かうメンバーが座っていた(背の上での戦闘は極力控えるように言われているため)。
「島は見つかったか?」
『……ん? ああ。向かっている……だが、消しても消しても沸いてくるな…!』
二人の痴話喧嘩に区切りをつけようとアレスティアに話しかけられ、やっと冷静ながらにゼロボロスは報告し、忌々しげにつぶやく。
だが、ただ遊弋して進んでいるのではなく黒炎の息吹や尾でハートレスをなぎ払いながら進んでいるのである。
『だが、もう少しだ! まかせな一気に激突して――』
「……聖域の土を壊す勢いで着陸したら…………」
『……解った。近くまで行くから、そこからお前らでなんとかしろ』
どす黒い殺気にゼロボロスは直ぐに訂正して、気合の黒炎の飛礫で眼前に迫ってきて居たハートレスを消し飛ばす。
第三島の姿を捉え、一気に上空へと近づく。
「そろそろじゃな。おぬしら、行くぞ」
シンメイはそう言い切ると、額から戸惑い無く飛び降りる。
「いやいやいやいや!!」
菜月が青褪める。そんな様子に刃沙羅が心底呆れた顔で言った。
「……ビビってるのかよ」
「う、うるせえ!」
青褪めながら叫ぶと、くすくすとアナザが笑みを浮かべた。
「大丈夫よ。良く言うでしょ? 『高所、皆で飛び降りれば怖くない』…てね」
「怖いわああああっ、ああああああああああああああ――――ッ!!!!?」
菜月の反論もつかの間、アナザが菜月をシンメイの方へ放り投げ、続けざまに飛び降りていった。
呆れる刃沙羅、母の後に続くフィフェル、アレスティアも聖域を汚す輩を打ち滅ぼすべく、黄金の矛槍をきつく握り締めて飛び降りる。
降りていく彼らを見たゼロボロスは大きく翻ってモノマキアの護衛に回っていった。
先に着地したシンメイはすかさず上から聞こえる悲鳴の主の方へはなった魔法がふわりと着地させた。
「……あ、ありがとう」
「うむ」
遅れて、刃沙羅たちも着地し、構える。既にハートレスが囲うように迫ってきた。
「で、アレスティアよ。目的の場所はどっちじゃ?」
「落ちる時に見えたろう……向こうにある神殿だ」
アレスティアは矛先を向けて、駆けだす。続いて走り出しながら、襲いかかってくるハートレスを切り伏せていった。
「――おらああ!!」
神殿までもう少しの距離まで駆けると、神殿から出てきた二人組み。
二人とも、モノクロの仮面を付けており、すぐに操られている者たちであると理解する。
更にアレクトゥスはそのうちの一人が何者かを理解した。
「! シュテン、貴様……なのだな」
「……敵は潰す…ぅヒック!」
酔ったような言動が目立つがアレクトゥスの表情は崩れず、凛と睨み据えている。
そして、もう一人、銀色の十字剣を手に持つ女性――アイギスが構える。
「――よし、ワシが足止めしよう。ぬしらは先に行け」
「シンメイ!?」
彼女は言うや否や身を包んでいた着物から戦闘装束『龍武壮麗』へ変身し、銀の直剣を抜き放った。
「先に進めるわけにはいかない」
アイギスの握っている剣が光を帯び、シンメイたちへ振り下ろした。それは同時にと共に無数の光弾となって襲いかかってきた。
だが、シンメイの後頭部に靡く龍の尾でなぎ払った。光弾は弾かれ、彼女はアイギスとシュテンに伸ばした龍尾と共に切りかかる。
龍尾はシュテンを押し潰すように叩きつき、シンメイはアイギスに唾競り合う。
「ゆけ!」
「い、急ぐぞ!」
菜月たちは直ぐに駆けだして神殿へと向かう。
「させるかあ!!」
シュテンが龍尾を弾こうと力を篭め上げた、だが、シンメイは押し合っていた剣を受け流すように逸らし、アイギスは思わずバランスを崩す。
すかさず、アイギスを掴み、シュテンへ投げ飛ばした。
「な……」
彼女と激突したシュテンは態勢を崩す。しかも、頭上には押し返そうとした龍尾がーーー。
「―――ほれ、今のうちじゃ!」
シンメイの一声と共に菜月たちは神殿内へと駆け込んで行った。それを見届けた彼女は達成感を感じるように笑みを浮かべ、伸びた龍尾を元に戻し、叩き伏せた二人を見た。
シュテンによりアイギスは守られていたようで特にダメージを与えた様子ではなかった。。
彼女は彼から離れて再び構えなおす。遅れてシュテンがゆっくりと起き上がった。片手で大刀を握りつつ、空いた片手で頭を擦り、そして、大きく息を吸った。
「――潰す!!」
吐くと共に、先ほどと同じ酔っ払った声ではあったが、明白な覇気がひしひしと伝わった。
だが、シンメイの顔色は飄々とし、再度、剣を持ち直し、切りかかった。
聖域レプセキア奪還戦の始まりだった。
第四島へと向かう紗那たちは他の島攻略のメンバーよりいち早く神殿の元までたどり着いていた。
その理由は、半神イリシアのおかげだった。
「凄いわね、その姿」
紗那が彼女の方へと振り向いて、気さくに笑う。
イリシアは今、その身を水の中に包まれている状態だった。水はまるで不定形ながらも人らしい形をとどめながら、彼女を守っている。
紗那たちはこの『水』の中に入って、一気にハートレスの中を突き破ってきたのだった(ヴァイロンは白龍となってハートレスを蹴散らして前進して来た)。
「ううん。この子が強いから」
「はは、どっちもさ。流石はイリシアね」
『水』―――イリシアを守る鉄壁或いはなぎ払う剣ともなるその名前は『ヴァッサー』をほめるように微笑み返した。
セイグリットは気さくに笑って、彼女の頭を撫でる。撫でられた彼女は嬉しそうに顔を淡く赤色に染めた。
「さあ、先に行きましょう…! まだ、この先が本番ですから」
「って、また来たぞ!!」
入るもつかの間、ハートレスがまた一斉に攻め入ってくる。人海戦術、と称するも憚る程。
イリシアが若干、表情を強張らせ、身を翻る。
「この神殿の奥に結界の操作室があります。真っ直ぐ突き進んでください!」
「え…?」
「……そう言うことよ。さっさと行くわよ」
戸惑う紗那の手を無理やり、イヴは引っ張りながら駆けだしていった。
制止する者は誰も居なかった。紗那も直ぐに彼女の意を理解し、自分の足で走り出す。
「恩に着る」
最後にヴァイロンが頭を下げて、礼を言った。彼女一人だけでは第四島にはたどり着けなかった。お互いにサポートしあって、ここまで来たのだった。
イリシアは小さく振り返って笑みを浮かべ、同じく礼を返した。それを見て、彼女も神殿の奥へと駆けだして行った。
ゆっくりと神殿の入り口に阻む彼女の元に潜んで来るハートレスを睥睨し、口を開いた
「……この聖域、レプセキアの美しさは闇に落ちたお前たちには理解できない……。
……この聖域の尊さを踏み躙った無知をッ……我々の、怒りを………ッッ!!」
次第に巨大化する『ヴァッサー』は所々、鋭利な剣や槍、牙だらけの口を生やした蛇、巨大な足、腕と異形へと変貌する。その心臓にいるイリシアの表情は激しい殺意に満ちた怒りの表情で吼えた。
「死をもって、知れ!!!!!!!」
「――やれやれ、イリシアったら」
第四神殿に侵入した紗那たち。構造的にまっすぐな道ながらも敵襲の気配も無い。
そんな中、半神セイグリットが呆れたように口を開いた。
「……相当、怒っていたよね。みんな」
故郷がハートレスに蝕んだ風景を見た殆どの半神は愕然とし、怒りに爆発するものもいた。
セイグリットも少し息を付いて、その言葉を返した。
「そりゃあ、此処ほど自分たちの『居場所』と呼べる世界は無いからねえ……あたしだって結構、頭に来てるんだよ―――っと、この先の広間を抜けたらに結界の操作する部屋に通じてるわ」
彼女らの前に聳える扉を、セイグリットは見目に反した強烈かつ俊足な蹴りで蹴破った。
おお、と紗那やアーファは感嘆の声をあげ、蹴破った彼女は照れ臭そうにはにかんだ笑みを浮かべ返す。
しかし、直ぐにイヴやヴァイロンに諫められ、広間へと入る。
「―――侵入者ね」
「……そのようね」
奥への扉の前に立ち阻む二人の女性。
一人は白と赤の衣装を着た成人した女性、もう一人は暗色の服で身を包んだ声音の低い少女。
女性の方は仮面を付けていたが、もう一人の少女は仮面を付けていない。褐色の素顔を暗色のローブで隠している。
(仮面をつけていない…? 操られていないっていうの?)
(『協議』での話を聞く限り、仮面を付けていない者はアバタールっていう半神だけなはず。……用心しないとね)
(先に進んで第一島を包む結界を解きたいけど……うまくいかないねえ)
3人がそれぞれ心の中で疑問などを呟きつつも、奥にいる二人以外に何かあるか確認する。
「悪いけど、此処から先は通さない」
「! なにっ」
そう言うと、出入り口にある扉に半透明な結界が展開された。
逃げることも出来ない、前進するにも二人が阻んでいる。
「……向こうは二人、こちらは5人……ね」
「なんだ、数の差で勝って嬉しいの?」
白服の女がやや毒の含んだ物言いでせせら笑う。むっと紗那は表情をきつくすると、イヴが肩を叩いて、宥めた。代わりに彼女が言い返してやった。
「勿論、数と実力も兼ねているもの」
「……なら、望みどおり『分けて』あげましょう」
「!?」
白服の女性の一声と共に、広間の空間が揺らぐ。
広間の床に浮かび上がった円陣が全員を包みこんだ。
「――はあっ!」
装甲を身に纏った半神サイキが巨大なハートレスを光刃を帯びた縦に一閃する。
彼女の後ろには第二島攻略メンバーが続いていた。
周囲の防衛も必要だったが、ハートレスの数が多い余りに周囲防衛メンバーは一部、各島へと導く先方になった(選ばれたのは高い突破力の持ち主)。
「後少し、ですね!」
ムラマサを片手に王羅が言う。各島のメンバーも戦いながら道を切り開いている。
「サイキ、此処からは俺たちで突破する! モノマキアを任せる!」
黒い片刃剣アルトセルクと黒炎をまとって、サイキに呼びかける。
サイキは振りかえりざまに、背後のハートレスへ光弾の掃射を繰り出した。
「解ったわ。みんな、気をつけて」
言い終えるや、機械の双翼を広げ、一気にモノマキアへと飛翔した。
神月は炎と氷の対なる心剣インフェルノ、コキュートスを手に、
「一気に突っ切るぞ! ラスト―――ノヴァッ!!」
迫りくるハートレスたちへ広範囲の大爆発で滅する。同時に神月たちは一気に第二島へと着地した。
「――みな、目的の場所はあそこだ。駆けるぞ!」
半神ビラコチャが吼え、彼らの視界の奥には神殿にも似た館があった。向かおうと駆けだしたその時、雷光と氷塊が一斉に神月たちに襲いかかった。
「―――ッ、斬!!」
迫った2つの攻撃を毘羯羅が繰り出した神速の居合いによる斬撃で弾き、切り伏せた。
彼女の仰いだ先、先ほどのように襲ってこずにうごめくハートレスとは別の、モノクロの仮面を付けた男女がそれぞれ剣を握って降りてきた。
男は雷を走らせた剣を、女は冷気を帯びた剣を手に持ち、無言のうちに構える。
「……Sin化のモノたちか。―――私一人でいい」
「阿呆が。もう一人くらい付けたせ」
そう言って、毘羯羅と並んで駆けてきた男イザヴェルが赤い炎で象った刀剣で構える。
「先を急ぐぞ」
ビラコチャの言葉と共に、ゼツたちは続いて駆けだした。勿論、先行く彼らを止めるべく、二人の男女は挑みかかったが、炎弾が無数に二人に放たれ、動きを止められる。
「お前らの相手は俺たち」
「……大人しく呪縛から開放されるのだな」
イザヴェル、毘羯羅を優先したのか二人は進んでしまった神月たちより、彼らを相手にした。
『シンメイ、てめえが元に戻って一気に突っ切れよ!!』
「えー…面倒じゃ」
『お前なあ!!』
黒竜の額の上にいるシンメイが面倒そうな顔で言うのに堪忍袋の緒が切れっぱなしのゼロボロスが怒りの声を上げた。
背には第三島へと向かうメンバーが座っていた(背の上での戦闘は極力控えるように言われているため)。
「島は見つかったか?」
『……ん? ああ。向かっている……だが、消しても消しても沸いてくるな…!』
二人の痴話喧嘩に区切りをつけようとアレスティアに話しかけられ、やっと冷静ながらにゼロボロスは報告し、忌々しげにつぶやく。
だが、ただ遊弋して進んでいるのではなく黒炎の息吹や尾でハートレスをなぎ払いながら進んでいるのである。
『だが、もう少しだ! まかせな一気に激突して――』
「……聖域の土を壊す勢いで着陸したら…………」
『……解った。近くまで行くから、そこからお前らでなんとかしろ』
どす黒い殺気にゼロボロスは直ぐに訂正して、気合の黒炎の飛礫で眼前に迫ってきて居たハートレスを消し飛ばす。
第三島の姿を捉え、一気に上空へと近づく。
「そろそろじゃな。おぬしら、行くぞ」
シンメイはそう言い切ると、額から戸惑い無く飛び降りる。
「いやいやいやいや!!」
菜月が青褪める。そんな様子に刃沙羅が心底呆れた顔で言った。
「……ビビってるのかよ」
「う、うるせえ!」
青褪めながら叫ぶと、くすくすとアナザが笑みを浮かべた。
「大丈夫よ。良く言うでしょ? 『高所、皆で飛び降りれば怖くない』…てね」
「怖いわああああっ、ああああああああああああああ――――ッ!!!!?」
菜月の反論もつかの間、アナザが菜月をシンメイの方へ放り投げ、続けざまに飛び降りていった。
呆れる刃沙羅、母の後に続くフィフェル、アレスティアも聖域を汚す輩を打ち滅ぼすべく、黄金の矛槍をきつく握り締めて飛び降りる。
降りていく彼らを見たゼロボロスは大きく翻ってモノマキアの護衛に回っていった。
先に着地したシンメイはすかさず上から聞こえる悲鳴の主の方へはなった魔法がふわりと着地させた。
「……あ、ありがとう」
「うむ」
遅れて、刃沙羅たちも着地し、構える。既にハートレスが囲うように迫ってきた。
「で、アレスティアよ。目的の場所はどっちじゃ?」
「落ちる時に見えたろう……向こうにある神殿だ」
アレスティアは矛先を向けて、駆けだす。続いて走り出しながら、襲いかかってくるハートレスを切り伏せていった。
「――おらああ!!」
神殿までもう少しの距離まで駆けると、神殿から出てきた二人組み。
二人とも、モノクロの仮面を付けており、すぐに操られている者たちであると理解する。
更にアレクトゥスはそのうちの一人が何者かを理解した。
「! シュテン、貴様……なのだな」
「……敵は潰す…ぅヒック!」
酔ったような言動が目立つがアレクトゥスの表情は崩れず、凛と睨み据えている。
そして、もう一人、銀色の十字剣を手に持つ女性――アイギスが構える。
「――よし、ワシが足止めしよう。ぬしらは先に行け」
「シンメイ!?」
彼女は言うや否や身を包んでいた着物から戦闘装束『龍武壮麗』へ変身し、銀の直剣を抜き放った。
「先に進めるわけにはいかない」
アイギスの握っている剣が光を帯び、シンメイたちへ振り下ろした。それは同時にと共に無数の光弾となって襲いかかってきた。
だが、シンメイの後頭部に靡く龍の尾でなぎ払った。光弾は弾かれ、彼女はアイギスとシュテンに伸ばした龍尾と共に切りかかる。
龍尾はシュテンを押し潰すように叩きつき、シンメイはアイギスに唾競り合う。
「ゆけ!」
「い、急ぐぞ!」
菜月たちは直ぐに駆けだして神殿へと向かう。
「させるかあ!!」
シュテンが龍尾を弾こうと力を篭め上げた、だが、シンメイは押し合っていた剣を受け流すように逸らし、アイギスは思わずバランスを崩す。
すかさず、アイギスを掴み、シュテンへ投げ飛ばした。
「な……」
彼女と激突したシュテンは態勢を崩す。しかも、頭上には押し返そうとした龍尾がーーー。
「―――ほれ、今のうちじゃ!」
シンメイの一声と共に菜月たちは神殿内へと駆け込んで行った。それを見届けた彼女は達成感を感じるように笑みを浮かべ、伸びた龍尾を元に戻し、叩き伏せた二人を見た。
シュテンによりアイギスは守られていたようで特にダメージを与えた様子ではなかった。。
彼女は彼から離れて再び構えなおす。遅れてシュテンがゆっくりと起き上がった。片手で大刀を握りつつ、空いた片手で頭を擦り、そして、大きく息を吸った。
「――潰す!!」
吐くと共に、先ほどと同じ酔っ払った声ではあったが、明白な覇気がひしひしと伝わった。
だが、シンメイの顔色は飄々とし、再度、剣を持ち直し、切りかかった。