第五章 三剣士編第六話「無浄輪無廻」
船底内部。フェイト、カナリア、ペルセフォネの3名だけが防衛を担っていた。
船底部分にはハートレスは出現する事もなく、騒音だけが聞こえただけである。
「…一応、敵はいないわね」
「これなら上甲に向かうべきでしたかね」
「いや、役目はしっかりと果たさないと……」
カナリアが退屈そうに呟き、フェイトがからかう様に言うと、ペルセフォネが生真面目に返した。
3人は用心しながらも、時折、雑談を交えていた。しかし、ペルセフォネは何処か二人の様子が此処に来てから変である事をうすうすだが、感づいていた。
特に明るく強気な態度が目立つカナリアが変に消沈しているように見えた。一応、普段のように振舞うが、必死に繕っている事は明白だった。
その様子をフェイトは何も言わない。思いあっているもの同士なら、掛ける言葉の一つや二つがあるはずなのに、だ。
そんなペルセフォネの推察もつかの間、彼らの少し先にある船底部分が大穴を空くほどの大爆発を起こす。
『!!?』
突然の自体ながらも3人は臨戦態勢をとる。だが、同時に3人は船のバランスと共に大きく崩れる。
すると船底に慌てたような声のアイネアスの声が響く。
「船底に奇襲!? まさか、ハートレスはこのための……? 3人とも無事ですか!!」
「大丈夫…! でも、厄介ね…」
船のバランスが治され、3人もバランスを整える。
立ち上がったペルセフォネの視線の先、空いた大穴からキーブレードに似た剣を持つ騎士たち続々と船底に姿を現して、素早い展開で彼らを囲んでいった。
3人は互いに背を合わせ、剣を抜いて構える。
「……カナリア、『約束』を果たす時が来てしまいましたね」
「そのつもりなのね……フェイト」
「? 2人とも、何を言って……」
ペルセフォネは二人の言動に怪訝になるが、迂闊に振り向く事が出来なかった。
そんな中、運命の歯車は激しく回っていく。
フェイトが刀を手に、静かながらも凛然と唱えた。
カナリアが木刀に似た刀を掲げ、叫んだ。
「喰い赦せ、『黒龍魔王』」
「月夜を照らせ、『月華歌姫』!!」
刹那のうちに少年の姿は屈強な体躯をした竜人となって右腕は刀剣となる。
眩い光から異なる衣装を身に纏った少女は構えを改める。
騎士たちは一斉に攻撃を仕掛ける。だが、瞬時に2人の姿は消した。
残ったペルセフォネに迫る攻撃は全て向けられるが、カナリアが咆哮と共に防ぎ、フェイトによる一閃が騎士たち全てを捉えて、切り裂いた。
「凄い……あれだけの数を、一瞬で…!」
「……」
『ぐっ……ぉおぁあああああああああああああ!!』
突如、フェイトが叫んだ。苦しみを漏らしたような叫び声に、カナリアは無言で見つめている。
突然の出来事に困惑するペルセフォネだったが、フェイトの様子から只ならぬ事だということだけは理解した。
「何が起きてるの…!? カナリア……!!」
「限界だったのよ。フェイトは」
声をかけられた彼女は静かに、悲しげに言った。
『オォオオオオォオオオオオオオッッッ!!』
フェイトは口内に赤黒い閃光が収束し、それを真下に吐き出した。それは『虚閃』と呼ばれる破壊光。
モノマキアの船底に2つ目の穴が空く。彼はその穴から飛び込んで外へと飛んでいった。
「どうした?!」
船底の奇襲を受け、駆けつけてきたのはチェルだった。
カナリアは小さく振り向いたが直ぐに外の方へと視線を向ける。
「チェル、ペルセフォネ。私、アイツとの『約束』を果たすから……此処任せる。
変にフェイトに近づかないでほしいって言っておいて。捕食されないようにするためだから」
そう言うと、彼女も同じく穴から飛び降りる。
呼び止めようとしても間に合わず、チェルは唖然としていた。ペルセフォネは全てを理解しているわけではなかった。だが、彼女とフェイトがこれから成そうとしている事に何処となく分かる気がする。
だが、誰も止める事は出来ない。
フェイトがモノマキアのはるか高度に停止すると、彼は大きく右腕の剣を掲げる。
彼の周囲のハートレスが群がる中、フェイトは禍々しい声で唱えた。
『無浄輪無廻』
同時に彼の身体が黒く染まり、あちこちから不定形へと崩れる。
だが、崩れる中も拡大し、ハートレスを悉く喰らいついていく。この異様の光景は周囲で戦っていたもの、上甲板で戦っていたもの、モノマキアの操作室からも見る事が出来た。
突如とした現象に戸惑う中、ハートレスを喰らい尽くしていく。更には爛れたような黒い場所にも牙を向けて喰い付いて行く。黒い何かは次第に巨大になっていく。ハートレスを大小無数、有象無象に喰いまくった所為なのか。
「馬鹿な……!!」
アバタールは驚愕に声を荒げた。無尽蔵のハートレスが食い尽くされていく。
出現元となった黒い穴まで食われた様子で、出現する気配がない。
KRも既に殲滅された様子。おおよそ、モノマキア周辺の大多数のハートレスが喰われていく。
残りは神殿周辺にある黒い穴から出てくるハートレスだった。数は先ほどの半分以上に減らされた。
「…おい、あれもハートレス……か?」
攻撃を躊躇うブレイズたちにモノマキアからアイネアスの声が放たれる。同時に、モノマキアはフェイトから離れるように降下する。
「あれは―――『フェイト』です。フェイト・ダンデムスター……です…!!
後、うかつに近づかないでください! あの状態は『捕食』の状態だ、そうです…!!」
その言葉を聞き、誰もが仰ぐ見た黒い異形。ハートレスを悉く喰らい、出現していた闇も平らげていった。そうして、最後の1体が無残に食い尽くされる。
「フェイト」
カナリアが『彼』の下まで姿を現した。誰もが『食われてしまう』と思った。
だが、呼びかけられた『異形』は無数の金色の眼を開き、彼女を凝視する。
数秒の後に眼は閉じ、『異形』の『内側』へと開かれ、カナリアはその内側へと取り込まれる。
神無たちはそれを愕然と見ていた。そうして、異形は周囲のハートレスを喰らい続け、その拡大化が止まったのであった。
深い闇の中、カナリアは瞼を開いた。
何もかもが闇色の世界。自分が浮いているのか、立っているのかも曖昧だ。
が、彼女の視線の先にいる『彼』の存在を感じ取る事で、どうやら『立っている』事を理解した。
『…はや…く』
フェイトは虚しく、しかし、懸命な声が溢れる。だが、『彼』は自身の斬魄刀を抜いた。
それに呼応するかのように周囲が鳴動して、無数の黒い影が『彼』を覆い被さる。
包み込まれた彼は声すらあげず、内側から上がったのは骨の、耐性のない人間が聞けば怖じ気付きそうな軋む音の末に、内側より破ったのは白。それは、刃であった。刹那、黒から色を得た世界はとても淡い色のみの舞台になる。
「こうするしか、無いのね…」
カナリアは自身の姿――『月華歌姫』――であることを理解して、静かに構える。
一方の『彼』は内側からその全身を晒し出す。全身を漆黒に染め、燃え盛り靡くは橙の長髪、煌々とした金色の瞳、しなやかな尾、人の体躯をした頭部は龍と呼べるに相応しい姿。相反するのは右腕。白に染まった巨大な刃と一体化した獲物。
「戦うしか……ッ!」
船底部分にはハートレスは出現する事もなく、騒音だけが聞こえただけである。
「…一応、敵はいないわね」
「これなら上甲に向かうべきでしたかね」
「いや、役目はしっかりと果たさないと……」
カナリアが退屈そうに呟き、フェイトがからかう様に言うと、ペルセフォネが生真面目に返した。
3人は用心しながらも、時折、雑談を交えていた。しかし、ペルセフォネは何処か二人の様子が此処に来てから変である事をうすうすだが、感づいていた。
特に明るく強気な態度が目立つカナリアが変に消沈しているように見えた。一応、普段のように振舞うが、必死に繕っている事は明白だった。
その様子をフェイトは何も言わない。思いあっているもの同士なら、掛ける言葉の一つや二つがあるはずなのに、だ。
そんなペルセフォネの推察もつかの間、彼らの少し先にある船底部分が大穴を空くほどの大爆発を起こす。
『!!?』
突然の自体ながらも3人は臨戦態勢をとる。だが、同時に3人は船のバランスと共に大きく崩れる。
すると船底に慌てたような声のアイネアスの声が響く。
「船底に奇襲!? まさか、ハートレスはこのための……? 3人とも無事ですか!!」
「大丈夫…! でも、厄介ね…」
船のバランスが治され、3人もバランスを整える。
立ち上がったペルセフォネの視線の先、空いた大穴からキーブレードに似た剣を持つ騎士たち続々と船底に姿を現して、素早い展開で彼らを囲んでいった。
3人は互いに背を合わせ、剣を抜いて構える。
「……カナリア、『約束』を果たす時が来てしまいましたね」
「そのつもりなのね……フェイト」
「? 2人とも、何を言って……」
ペルセフォネは二人の言動に怪訝になるが、迂闊に振り向く事が出来なかった。
そんな中、運命の歯車は激しく回っていく。
フェイトが刀を手に、静かながらも凛然と唱えた。
カナリアが木刀に似た刀を掲げ、叫んだ。
「喰い赦せ、『黒龍魔王』」
「月夜を照らせ、『月華歌姫』!!」
刹那のうちに少年の姿は屈強な体躯をした竜人となって右腕は刀剣となる。
眩い光から異なる衣装を身に纏った少女は構えを改める。
騎士たちは一斉に攻撃を仕掛ける。だが、瞬時に2人の姿は消した。
残ったペルセフォネに迫る攻撃は全て向けられるが、カナリアが咆哮と共に防ぎ、フェイトによる一閃が騎士たち全てを捉えて、切り裂いた。
「凄い……あれだけの数を、一瞬で…!」
「……」
『ぐっ……ぉおぁあああああああああああああ!!』
突如、フェイトが叫んだ。苦しみを漏らしたような叫び声に、カナリアは無言で見つめている。
突然の出来事に困惑するペルセフォネだったが、フェイトの様子から只ならぬ事だということだけは理解した。
「何が起きてるの…!? カナリア……!!」
「限界だったのよ。フェイトは」
声をかけられた彼女は静かに、悲しげに言った。
『オォオオオオォオオオオオオオッッッ!!』
フェイトは口内に赤黒い閃光が収束し、それを真下に吐き出した。それは『虚閃』と呼ばれる破壊光。
モノマキアの船底に2つ目の穴が空く。彼はその穴から飛び込んで外へと飛んでいった。
「どうした?!」
船底の奇襲を受け、駆けつけてきたのはチェルだった。
カナリアは小さく振り向いたが直ぐに外の方へと視線を向ける。
「チェル、ペルセフォネ。私、アイツとの『約束』を果たすから……此処任せる。
変にフェイトに近づかないでほしいって言っておいて。捕食されないようにするためだから」
そう言うと、彼女も同じく穴から飛び降りる。
呼び止めようとしても間に合わず、チェルは唖然としていた。ペルセフォネは全てを理解しているわけではなかった。だが、彼女とフェイトがこれから成そうとしている事に何処となく分かる気がする。
だが、誰も止める事は出来ない。
フェイトがモノマキアのはるか高度に停止すると、彼は大きく右腕の剣を掲げる。
彼の周囲のハートレスが群がる中、フェイトは禍々しい声で唱えた。
『無浄輪無廻』
同時に彼の身体が黒く染まり、あちこちから不定形へと崩れる。
だが、崩れる中も拡大し、ハートレスを悉く喰らいついていく。この異様の光景は周囲で戦っていたもの、上甲板で戦っていたもの、モノマキアの操作室からも見る事が出来た。
突如とした現象に戸惑う中、ハートレスを喰らい尽くしていく。更には爛れたような黒い場所にも牙を向けて喰い付いて行く。黒い何かは次第に巨大になっていく。ハートレスを大小無数、有象無象に喰いまくった所為なのか。
「馬鹿な……!!」
アバタールは驚愕に声を荒げた。無尽蔵のハートレスが食い尽くされていく。
出現元となった黒い穴まで食われた様子で、出現する気配がない。
KRも既に殲滅された様子。おおよそ、モノマキア周辺の大多数のハートレスが喰われていく。
残りは神殿周辺にある黒い穴から出てくるハートレスだった。数は先ほどの半分以上に減らされた。
「…おい、あれもハートレス……か?」
攻撃を躊躇うブレイズたちにモノマキアからアイネアスの声が放たれる。同時に、モノマキアはフェイトから離れるように降下する。
「あれは―――『フェイト』です。フェイト・ダンデムスター……です…!!
後、うかつに近づかないでください! あの状態は『捕食』の状態だ、そうです…!!」
その言葉を聞き、誰もが仰ぐ見た黒い異形。ハートレスを悉く喰らい、出現していた闇も平らげていった。そうして、最後の1体が無残に食い尽くされる。
「フェイト」
カナリアが『彼』の下まで姿を現した。誰もが『食われてしまう』と思った。
だが、呼びかけられた『異形』は無数の金色の眼を開き、彼女を凝視する。
数秒の後に眼は閉じ、『異形』の『内側』へと開かれ、カナリアはその内側へと取り込まれる。
神無たちはそれを愕然と見ていた。そうして、異形は周囲のハートレスを喰らい続け、その拡大化が止まったのであった。
深い闇の中、カナリアは瞼を開いた。
何もかもが闇色の世界。自分が浮いているのか、立っているのかも曖昧だ。
が、彼女の視線の先にいる『彼』の存在を感じ取る事で、どうやら『立っている』事を理解した。
『…はや…く』
フェイトは虚しく、しかし、懸命な声が溢れる。だが、『彼』は自身の斬魄刀を抜いた。
それに呼応するかのように周囲が鳴動して、無数の黒い影が『彼』を覆い被さる。
包み込まれた彼は声すらあげず、内側から上がったのは骨の、耐性のない人間が聞けば怖じ気付きそうな軋む音の末に、内側より破ったのは白。それは、刃であった。刹那、黒から色を得た世界はとても淡い色のみの舞台になる。
「こうするしか、無いのね…」
カナリアは自身の姿――『月華歌姫』――であることを理解して、静かに構える。
一方の『彼』は内側からその全身を晒し出す。全身を漆黒に染め、燃え盛り靡くは橙の長髪、煌々とした金色の瞳、しなやかな尾、人の体躯をした頭部は龍と呼べるに相応しい姿。相反するのは右腕。白に染まった巨大な刃と一体化した獲物。
「戦うしか……ッ!」