第五章 三剣士編第九話「第四島攻略後編」
足元に浮かんだ陣の光に視界を奪われ、やっと回復するとそこは先ほどの広間とは別の場所だった。
荒廃とした大地に無数の白い柱が穿った場所に、アーファは立っていた。
「……紗那!? みんなー!?」
周囲を探索しようと声を上げ、一歩踏み出した時だった。
白い柱が突如、青白い文様を発して鳴動する。
「!」
「上だ、避けろ!!」
聞き覚えの有る声を聞き、同時にアーファは咄嗟に移動して避けた。
彼女のいた場所に周囲に刺さっている白い柱より細かくなった柱が無数に突き刺さった。
「……ヴァイロン、みんなは?」
声の方へ振り向くと案の定ヴァイロンがいた。彼女はアーファの問いに首を振り、口を開く。
「どうも、分断されたようだ。敵はあの女だけだ」
白い柱の頂きにいた白服の女性が剣を抜いたまま、更なる攻勢を仕掛ける。
突き刺さった白い柱が再び、二人へと放射される。
ヴァイロンは靡く袖を翼のように強化すると、アーファの腕を掴んで柱の弾幕を高速移動でかわす。
「っわわわ!?」
「―――面倒な敵だ……」
白い柱の弾幕を避けきり、射出した女性を睨み据える。
女性は柱の頂から蹴り、その足元に光で固めた双翼に乗り、ヴァイロンへと迫る。
「!! そういう技もあるか」
「ちょ、引っ張らないで―――!」
「なら―――ッ飛べ!!」
ヴァイロンが思い切り、上へと放り投げる。アーファたちは『飛ぶ』術をミュロスやヴァイロンに施されていた。彼女は直ぐ態勢を整え、女性へとその拳を打ち込もうとする。
だが、翼に乗っている女性へと届かず、簡単にかわされ、通り抜けざまに背後から斬りつけられる。
「いっ……『雷火乱撃拳』!!」
斬られた箇所から血が噴出し、痛みを噛み殺しつつ、アーファは身を翻して一気に翼に乗った女性へ間合いをつめる鉄拳を繰り出す。
だが、女性はかわそうとせず、迎え撃つように目の前に魔方陣が出現する。避けるのではなく誘い込んだのだ。
「『シャイニング・レイ』」
「しまっ―――」
魔方陣が輝き、無数の細長い光弾の飛礫が迫っていたアーファへと放たれる。
死を覚悟したが、その光弾からアーファを守るように蒼い円陣が広る。光弾は円陣に防がれ、それを見た女性は素早く身を引いて行った。アーファはこの技を発動したであろう人物へと振り向く。
「空中では奴の方が上手のようだ」
「……このままじゃあ、ヤバイわね」
再度、ヴァイロンは周囲に円陣を展開し、防御の構えを取る。この合間に作戦を練り直そうとした。
「――今、時間を稼ぐ。今のうちに、あの女を倒す策を考えましょう」
「……大丈夫だろうな、これ」
女性は二人が防御の陣形をとられた事を感じ取って、先ほどの『シャイニング・レイ』、白い柱を放つ。
しかし、防御陣はその程度ではびくともしない。白い柱を現出させ、続けて打ち続ける。
「――――ということで、任せるわよ」
ヴァイロンはアーファの両手にはめたグローブの甲に蒼い円陣を刻んだ。
しっかりとグローブをはめなおした彼女は強く言い返した。
「解ったわ! あんたも頑張ってよ」
「ええ。……解くわ」
ヴァイロンは結界を解除する。蒼い円陣が消えうせ、女性は一気に光弾を放つ。
それくらいの先制攻撃を見透かしていた彼女は円陣ではなく、
「『アスール・バースト』!!」
彼女の両手に浮かんだ青色の文様が光を発し、蒼炎の炎弾を撃つ。光弾と炎弾の弾幕で大きく爆発が生じる。
視界一面が黒煙となり、二人の姿を見失う。二人が防御の最中で何かを企てていたのは知っている。このままでは術中に嵌ってしまう。
大きく旋回し、二人から離れる事を即断する。
「―――そう、相手なら間違いなく後退する。だが、我が陣形に不備は無い」
即座に発動した立法的に展開された青色の結界が後退しようとした女性を囲んだ。
それに驚き、動きを止め、周囲を視認する。
「そして、アンタとサシで決着をつける」
「!!」
単に結界に囲まれただけではなかった。
他に結界に居たのは彼女だけではなかった。
両手が青く輝く中、そう言いはなったのは―――アーファであった。
「舐めないで下さる? 貴女もろとも結界を打ち破る…!!
清浄なる白き槍よ、阻む者全てを貫き、打ち破れ」
女性の眼前に白く輝きを纏った巨大な円陣が展開される。
その円陣の内側から無数の光り輝く槍が出現し、宙に静止する。
「―――放て、『ソヴァール・リュミエーレ』!!」
名を唱えると一転、光り輝く槍は一斉にアーファめがけ射出される。
「――喰らいな! 『蒼虎猛撃拳』!!」
両手から巨大な蒼い光の爪が具現し、両手を振り下ろす。青く光る爪も共に振り下ろされ、アーファに届く前に女性は爪の一撃にもろとも、沈んだ。
5人が気が付くと、そこは先ほどの広間となっていた。
彼女らの前にはさっきの二人がうつ伏せに倒れている。セイグリットが警戒しながら容態を確認する。
二人ともダメージは負い、気絶しているようだった。確認した彼女は吸血鬼の少女を光を帯びた縄で縛り付ける。
「こいつの厄介さは見ての通りさ」
女性と闘っていたアーファたちは紗那、イヴの血まみれの姿に納得し、言葉が出ず、更に、セイグリットの姿に驚く。
だが、事態が事態ゆえに一先ず、優先すべきことから処理を開始した。
奥へと阻んでいた結界が消え、五人は奥へと侵入する事が出来た。
入った部屋は薄暗く、明かりが中央に位置した光る結晶のようなもののみが照らし出していた。セイグリットはその前に立ち、手に触れる。
すると、不思議な音を立てて、大きく画面が写りだされる。紗那たちは画面に映った良く分からない文字の羅列に頭を抱える。それを察してか、セイグリットが気さくに笑った。
「ああ、今は結界の解除をやってるのさ」
「そうなんだ……どう、出来る?」
「ハハッ、此処はあたしらの故郷だよ? 扱いも当然、できるわよ」
そう言うと、音が静まった。セイグリットが結晶から手を離して、ミュロスから渡されていた連絡用の栞を取り出す。
「こちらセイグリット。結界は解除したわ。視認できる?」
『――……はい、確認できました。そちらは大丈夫ですか?』
返ってきた声の主はアイネアスだ。安堵した様子で聞き返してきた。一先ず彼女は4人の様子を見て、不安要素を思い出すように口にする。
そう、神殿前でおそらく暴れているであろう彼女のことを。
「あたしらは全員まずは無事。操られていた奴らも押さえ込んだわ。…問題っていうならイリシアが神殿前で暴れてるって所かしら?
ありゃあ、結構キレてる」
『……そうですか。止められますか?』
「あー、大丈夫よ。あの子、頭に血が昇っても下がるから」
『了解しました。イリシアが落ち着いた頃にでもモノマキアに戻ってください』
「わかったわ」
そう言うと、栞を戻す。そして、紗那たちに振り返って、笑顔を浮かべた。
「さあて、戻りましょうか。そいつらはあたしが担いでいくわ」
紗那たちが神殿の入り口まで戻る時には、既に神殿前には巨大な水の化け物がハートレスを蹂躙しつくした後だった。
ゆっくりと水の化け物が振り返る。顔と思える内側にイリシアが包まれており、彼女が彼女らを見つけると水の化け物は破裂するように水となって崩れ落ちた。
水の中にいた彼女は全身を濡らし、髪をかき上げてから彼女らへと声を掛けた。
「――うまく行きましたか?」
「ああ、勿論」
穏やかに微笑み、声を掛けたイリシアにセイグリットは笑顔で証明した。
そこでやっとセイグリットの容姿に気づいた様子で首をかしげ、問いただす。
「あの…何かありましたか、セイグリット」
「ああ。普段の状態だと、勝算が薄かったからねえ。ちょいと本気で挑んだだけさね。
『星針術』。あたしの『星』の権能を活かした技能さ」
『星針術(せいしんじゅつ)』。
星を司る半神セイグリットが成す特殊能力で、人体の箇所を星の名に冠して、力を纏った一突きを穿つことで効能を発揮する。
紗那へと穿った箇所、腹部は『乙女座』と名付け、治癒を施す。この際に身体を穿つ際の痛みも傷跡も残らないことが特徴。
セイグリットの容姿は普段はやや太った女性であるが、戦闘において本気になることで元来のスマートな容姿として変異できる。ただ、反動としてしばらくの間は元来の容姿のままになる。
「―――で、気分は晴れたかい?」
「一応……」
自分たちの故郷を踏み躙った下郎共を断罪しつくしたイリシアの目にはまったく持って気分をはらしていない事は目に見えていた。
セイグリットも同様に怒りを感じているが、冷静に事を当たる事を優先している。宥めるように言った彼女の言葉にイリシアはもう怒り心頭と言うわけには行かなかった。
「さ、モノマキアに戻るとしよう。――背に乗るんだな」
そう言って彼女らより先に歩み出たヴァイロンは光を纏って、大きく放つとその姿は本来の白き竜となる。
紗那たちは態勢を低くしたヴァイロンの背に乗り、全員を背負いながら彼女は羽ばたいて行った。
■作者メッセージ
更新が滞ってる件にはまず申し訳無いです。
キャラ詳細もやりたい、キャライラストも描きたい、これもやらないといけない……では、頑張って書いて行きます
キャラ詳細もやりたい、キャライラストも描きたい、これもやらないといけない……では、頑張って書いて行きます