第五章 三剣士編第十一話「第二島攻略後編」
神月が動く。虹に色めく三対六翼を広げながら。
黒塊から触手のようなものを生やし、彼の突撃に迎え撃つ。だが、彼はその迎撃に怯みもせず、抜き取った虹の刀『ユミル』でたやすく切り裂く。
「俺たちも行くぜ!」
遅れてゼツたちも駆け出していた。それに気づいたのか黒い塊の攻勢は神月以外にも向けられた。鋭く伸びた触手は枝分かれし、一斉にゼツたちへと襲いかかる。
「おっと」
「ふん」
「はああっ!」
「とうっ!!」
迫ってきた触手の矢玉はゼツが繰り出した黒炎の手により薙ぎ払われ、水晶を掲げたビラコチャ、王羅は妖刀ムラマサを構えて駆けつけ、アビスはレイピアに青い炎を纏う。それぞれ黒い塊へと攻撃した。
水晶が形を変え、ハンマーに似た武器となり、ビラコチャは渾身のひと振りを叩きつけ、ムラマサによって走った斬撃が黒い壁一面に走る。
二人が身を下がると同時に、追撃にゼツが放った黒炎の鉄拳、アビスの蒼炎の礫、神月の虹色の破壊光が直に走り、黒い壁に激突する。
「無駄ですよ。この力、『黒世の物質(ノワール・ユニヴェール)』の前では……ね」
5人の攻撃はダメージは発生していた。だが、塊は抉られた箇所を埋め尽くし、傷を覆い尽くす。
レギオンの言葉と共に黒い塊が蠢動をはじめる。
「マジかよ…」
黒い壁一面から異形の体が抜け出てくる。『上半身』と認識できたが、誰もが唖然と異形の具現を見届けた。
頭部、両腕は無貌、牙だらけの口が開き、胸の中心に一つ目が神月たちを睨めつける。そして、誕生した産声ともとれる咆哮が天地を轟かす。
「……こうなると、どう倒すか」
咆哮をもろともせずハンマーから元の水晶へと戻し、ビラコチャは平坦な声で他の4人へ問いかける。緊張の色で満ちていた4人は落ち着いた表情となった。
「なら、この黒いの『全部』消し飛ばせばいいんじゃね?」
そして、一言ゼツが気楽そうに言うと、ビラコチャはうんと頷き返す。
「では、そうしよう。私が出る」
そう言って、ビラコチャは水晶を中天へ放り投げる。水晶はその場で静止した。すると、水晶は次第に光を放ちながら、分解していく。
「何をするつもりですか!?」
黒い異形が両腕で叩きつけようとする。狙いは水晶、ビラコチャだ。
だが、振り下ろされた巨腕は青い炎の燐光が突如、眩しく光、爆発を伴って両腕を焼き焦がす。
「ぐっ!?」
「今よ!」
「覚悟は出来たか、レギオンとやら」
水晶が丸々分解され、新たな姿へと変形していた。
一面を覆う黒い塊同じくビラコチャの背後に権限した水晶が一面に、無数の砲台、銃口を剥き出した。
「す、すごい…!」
「……マジ?」
王羅は驚きに満ちた顔で具現化した銃、砲台を見つめ、ゼツは自身の発言に応じたビラコチャに唖然としていた。
そして、彼の無慈悲な眼光がより細くなり、砲火を打ち上げた。
大轟音。圧倒的な銃声、砲撃の爆音と共に黒い壁を、異形の化け物すら容赦なく打ち抜き、爆裂した。
「なっ――――おのれえええええ!!」
「……吠えるな、汚物」
レギオンの叫びを砲撃はレーザーのように強烈な光線となって黒い塊を霧散、消滅させる。
そして、激しい銃撃砲火の末、一面を被っていた黒い塊は悉く消滅し、レギオンは床に倒れ込んでいた。
「――『黒世の物質』か。強みとしては再生力、防御力…攻撃力というよりは攻撃の種類が豊富といったところか」
ビラコチャはぶつぶつと呟きながら、先に続く扉へと足を踏み出した。その瞬間、倒れ込んでいたレギオンの体が黒く染まって弾ける。
そして、ビラコチャの背後から黒い液体が収束する。その中から先ほど倒されたはずのレギオンが現れる。
「危ないッ!」
神月が咄嗟にヴァラクトゥラでビラコチャの背後を突き刺そうとしたレギオンの一撃を防いだ。彼が握っていたのは薄い青色に染められた短剣。
ビラコチャはやや驚いた様子でゆったりと振り返る。だが、既に水晶が宙を浮きつつ、穂先とは別に刃のついた槍となった。
「――なるほど」
そう言うと槍は鋭くレギオンへと飛んだ。だが、刃は届かない。
寸前で、叩きつけられるように斬り伏せられた。レギオンとは別にもう一人の男が姿を現す。
濃紺の髪をした、大振りな直剣を手に持った仮面の男性。その背にはレギオンと同じ形質の翼に似た何かが生えており、蠢き続けている。
「もう一人いた…!?」
男性は剣を強く握って、大きく振り払った。剣風による風圧が神月、ビラコチャを吹き飛ばす。
二人はすぐに受身をとり、体勢を整える。すぐにアビスたちも二人に駆け寄った。
「……サーヴァン、存外押されました」
剣を下ろした彼の傍で膝をついていたレギオンが立ち上がる。
サーヴァンは小さく振り返り、冷静にいった。
「気にする必要は無い」
そう言って彼は剣を握り締め、レギオンをかばうように前に出て構える。
同時にあふれでた闘気は並々ならぬほどの威圧を混じり、彼らへ乗し掛かるも、臆せずに構えた。
「悪いがお前たちをこれ以上先には進めさせない…!」
サーヴァンは闘気を身に纏い、異様の翼で飛行しながら衝撃波を振り放つ。
その範囲は広大で、ゼツ、アビスが直感で力で相殺を選ぶ。アビスの蒼炎とゼツの黒炎がその広範囲の衝撃波を迎え撃つ津波になった。
激突しあったことで相殺、青と黒の火の粉が散る中からサーヴァンが突っ込んでくる。最初に狙いすましたのはゼツ。咄嗟に、アルトセルクの刀身で受け止めるも、彼の黒い翼がうねりと形を刃にもにた触手となって斬りかかる。
「!!」
「――『青の燐光』!」
アビスの声と共に散った青い火の粉が突如、爆裂する。その爆発に驚いたサーヴァンは振り下ろそうとした刃の触手を壁のように広げて爆撃を防いだ。
「サンキュ! 喰らええっ!!」
ゼツは後退し、間髪入れず炎纏った片腕で素早く突き出す。同時に巨大な黒い炎で押し固めた腕が迫るが、サーヴァンは包んでいた壁を元の翼にも戻し、腕めがけて剣を大きく振り下ろした。
黒炎の腕は縦に両断され、更に追撃の衝撃波がゼツを呑み込んだ。
「ぐぉぁ――ッ!!?」
衝撃波は斬撃となってゼツの身体を切り裂き、彼は大きく吹き飛ばされた後床に突っ伏した。しかし、直ぐに剣を支えに置きあがろうとしたが、儘ならず片膝を付く。
サーヴァンは続けざまに黒い触手を翼に変化させ、一気に間合いを詰めようと迫ってくる。
「っ…!!」
「―――ムラマサ!」
ゼツの前へ現れた王羅が赤紫に染まった刀『ムラマサ』で迫るサーヴァンを迎え撃つ。王羅へと迫る中、サーヴァンは仮面の下で笑みを浮かべた。
無謀さを侮辱するような、嘲りの笑みで。だが、王羅はサーヴァンを止める気迫を身に纏っていることに彼は気づいていなかった。
「――ホーリーコスモス」
王羅は空いた片手で秩序を成す究極心剣『光神剣ホーリーコスモス』を地面へ刺す。
すると、ムラマサが輝きを増す。ふと、ゼツは右手の甲に青白い文様が浮かんだ。
「!?」
「大丈夫だよ。そのままで」
王羅はそう言うやいなや、赤紫の輝きを纏ったムラマサを振り払った。同時にサーヴァンも王羅に剣を振り下ろそうと渾身の一振り、更には翼から無数の触手の刃で彼女の背後にいるゼツもろとも斬り捨てようとした。
だが、何もかもが動かない。
伸ばした触手の刃が全て細かく切り裂かれている。赤紫の光の線が無数に奔っている。
「なぁっ」
サーヴァンが理解する前に光の線は彼すら斬り付ける。更には周囲を、容赦なく切り裂き、奔る勢いを増しながら。
と、同時に不可思議な現象も発生している。切り裂かれている周囲の圏内には片膝ついており、回避もできなかったゼツには赤紫の光の線が掠りもしていない。無傷、無傷なのだった。
「―――妖嵐―――」
王羅も優しげな微笑と共に、赤紫の光の線が激しさを増す。
周囲一体が赤紫の光に飲まれ、
「一閃!!」
王羅の一声と共に、光は砕け散る。
砕けると共に、崩れていくサーヴァンが床に倒れこんだ。ゼツは至って無事であった。怪訝に思っていた彼の右手の甲には王羅が施した文様が輝いている。
「まさか…」
「ムラマサは直接斬る事以外にもある一定の範囲なら【斬撃そのもの】を生じる事が出来ます。ですが、それは私以外には無差別。だから、ホーリーコスモスの力で守ったわけです」
「……そうか、すまねえ――って、え…?」
負傷した身体なのに、立ち上がれなかったはずなのに簡単に立ち上がる事が出来た。どうやら、この文様の施しを受けたものは体力を有る程度回復してもらえるようだった。
サーヴァンが倒れた事に驚愕する神月、アビス、ビラコチャを相手にしていたレギオンは彼に呼びかけようとしたが、その周囲に無数の水晶で出来た槍が一斉に向けられる。
「っ…」
「此処までだ」
仕掛けたのはビラコチャだった。サーヴァンがゼツ、王羅と戦っている中、レギオンとの戦闘を繰り広げていた。
「……」
足掻くそぶりも無く、レギオンに戦う意思が無くなるのを見抜いたビラコチャは背後に回って、彼のうなじへと手刀を叩きこんだ。
「がっ――」
事切れたように倒れる彼に、ビラコチャは首元に触れてからさっさと奥の部屋と歩みだす。
「…気絶してるだけか」
慌てて倒れたレギオンへと駆け寄った神月とアビスは彼を調べて、一先ず胸を撫で下ろした。そこへ王羅とゼツと合流する。
「どうにか倒したけど……ん、あのオッサンは?」
「ああ、あの人なら奥の部屋に」
すると、奥の部屋の扉が開かれて、ビラコチャが戻ってくる。神月たちの下に歩み寄ってから、口を開いた。
「さっきこの島の結界を解除した。此処から出るとしよう」
「わかった。――この二人も連れだすか」
神月は倒れているレギオンを背負い込み、それを見たビラコチャは黙してサーヴァンを軽々と背負って歩き出し、彼らは広間を後にする。
回廊を戻る途中、イザヴェルと合流する。戻ってきた彼らと再会したイザヴェルは驚いた様子で話しかけた。
「なんだ、倒してきたのかよ!? ……まあ、そのつもりで行かせたからいいけど」
「お前がこっちに来ているって事は、入り口の敵は倒したのか?」
一方の神月たちもイザヴェルがこちらへとやって来た事への疑問を思い、ゼツが尋ねる。
「ああ。毘羯羅の姐さんに入り口任せて俺はお前らの援護――って、まあ、俺の仕事終了か。……戻るんだろ? じゃあ、戻るか」
そうして、イザヴェルと共に彼らは神殿の入り口まで戻っていった。
彼らが入り口に戻ると、神殿の前で俊敏な動きでハートレスを片っ端から切り伏せていた。
勿論、倒れている二人に迫るハートレスを優先的に切り倒し、最後の1体の攻撃を潜り込むように回避し、すきだらけの胴体へ一閃――抜き胴――して切り伏せた。
「――流石に疲れる」
ハートレスの気配を感じなくなった事を察し、刀を振るっていた女性――毘羯羅は刀を支えに地面に腰を下ろした。
そして、こちらへと駆け寄って来た神月たちに気づくように振り向いて安堵する。
「大丈夫だったか?」
尋ねられた毘羯羅は乾いた笑みで、
「あー…少々、面倒だったわ。誰かを守りながらの戦いはホント面倒」
「ふむ」
抱えていたサーヴァンをイザヴェルに背負わせ、ビラコチャは倒れている神殿の入り口で倒れている二人の様子を診た。
1分もたたずに診終えたビラコチャは水晶で変異させた浮遊する担架に横たわらせ、目覚め、もしかすると暴れの恐れがあるためにその行動をさせないために四肢を分離した水晶で固定する。
浮遊している担架はビラコチャの背後についていく。
「――さて、モノマキアへと戻るとしましょう」
王羅がにこやかにいうと、彼女はコートのポケットから栞を取り出す。
すると、光を放つと彼らを丸々と包みこんでいった。
黒塊から触手のようなものを生やし、彼の突撃に迎え撃つ。だが、彼はその迎撃に怯みもせず、抜き取った虹の刀『ユミル』でたやすく切り裂く。
「俺たちも行くぜ!」
遅れてゼツたちも駆け出していた。それに気づいたのか黒い塊の攻勢は神月以外にも向けられた。鋭く伸びた触手は枝分かれし、一斉にゼツたちへと襲いかかる。
「おっと」
「ふん」
「はああっ!」
「とうっ!!」
迫ってきた触手の矢玉はゼツが繰り出した黒炎の手により薙ぎ払われ、水晶を掲げたビラコチャ、王羅は妖刀ムラマサを構えて駆けつけ、アビスはレイピアに青い炎を纏う。それぞれ黒い塊へと攻撃した。
水晶が形を変え、ハンマーに似た武器となり、ビラコチャは渾身のひと振りを叩きつけ、ムラマサによって走った斬撃が黒い壁一面に走る。
二人が身を下がると同時に、追撃にゼツが放った黒炎の鉄拳、アビスの蒼炎の礫、神月の虹色の破壊光が直に走り、黒い壁に激突する。
「無駄ですよ。この力、『黒世の物質(ノワール・ユニヴェール)』の前では……ね」
5人の攻撃はダメージは発生していた。だが、塊は抉られた箇所を埋め尽くし、傷を覆い尽くす。
レギオンの言葉と共に黒い塊が蠢動をはじめる。
「マジかよ…」
黒い壁一面から異形の体が抜け出てくる。『上半身』と認識できたが、誰もが唖然と異形の具現を見届けた。
頭部、両腕は無貌、牙だらけの口が開き、胸の中心に一つ目が神月たちを睨めつける。そして、誕生した産声ともとれる咆哮が天地を轟かす。
「……こうなると、どう倒すか」
咆哮をもろともせずハンマーから元の水晶へと戻し、ビラコチャは平坦な声で他の4人へ問いかける。緊張の色で満ちていた4人は落ち着いた表情となった。
「なら、この黒いの『全部』消し飛ばせばいいんじゃね?」
そして、一言ゼツが気楽そうに言うと、ビラコチャはうんと頷き返す。
「では、そうしよう。私が出る」
そう言って、ビラコチャは水晶を中天へ放り投げる。水晶はその場で静止した。すると、水晶は次第に光を放ちながら、分解していく。
「何をするつもりですか!?」
黒い異形が両腕で叩きつけようとする。狙いは水晶、ビラコチャだ。
だが、振り下ろされた巨腕は青い炎の燐光が突如、眩しく光、爆発を伴って両腕を焼き焦がす。
「ぐっ!?」
「今よ!」
「覚悟は出来たか、レギオンとやら」
水晶が丸々分解され、新たな姿へと変形していた。
一面を覆う黒い塊同じくビラコチャの背後に権限した水晶が一面に、無数の砲台、銃口を剥き出した。
「す、すごい…!」
「……マジ?」
王羅は驚きに満ちた顔で具現化した銃、砲台を見つめ、ゼツは自身の発言に応じたビラコチャに唖然としていた。
そして、彼の無慈悲な眼光がより細くなり、砲火を打ち上げた。
大轟音。圧倒的な銃声、砲撃の爆音と共に黒い壁を、異形の化け物すら容赦なく打ち抜き、爆裂した。
「なっ――――おのれえええええ!!」
「……吠えるな、汚物」
レギオンの叫びを砲撃はレーザーのように強烈な光線となって黒い塊を霧散、消滅させる。
そして、激しい銃撃砲火の末、一面を被っていた黒い塊は悉く消滅し、レギオンは床に倒れ込んでいた。
「――『黒世の物質』か。強みとしては再生力、防御力…攻撃力というよりは攻撃の種類が豊富といったところか」
ビラコチャはぶつぶつと呟きながら、先に続く扉へと足を踏み出した。その瞬間、倒れ込んでいたレギオンの体が黒く染まって弾ける。
そして、ビラコチャの背後から黒い液体が収束する。その中から先ほど倒されたはずのレギオンが現れる。
「危ないッ!」
神月が咄嗟にヴァラクトゥラでビラコチャの背後を突き刺そうとしたレギオンの一撃を防いだ。彼が握っていたのは薄い青色に染められた短剣。
ビラコチャはやや驚いた様子でゆったりと振り返る。だが、既に水晶が宙を浮きつつ、穂先とは別に刃のついた槍となった。
「――なるほど」
そう言うと槍は鋭くレギオンへと飛んだ。だが、刃は届かない。
寸前で、叩きつけられるように斬り伏せられた。レギオンとは別にもう一人の男が姿を現す。
濃紺の髪をした、大振りな直剣を手に持った仮面の男性。その背にはレギオンと同じ形質の翼に似た何かが生えており、蠢き続けている。
「もう一人いた…!?」
男性は剣を強く握って、大きく振り払った。剣風による風圧が神月、ビラコチャを吹き飛ばす。
二人はすぐに受身をとり、体勢を整える。すぐにアビスたちも二人に駆け寄った。
「……サーヴァン、存外押されました」
剣を下ろした彼の傍で膝をついていたレギオンが立ち上がる。
サーヴァンは小さく振り返り、冷静にいった。
「気にする必要は無い」
そう言って彼は剣を握り締め、レギオンをかばうように前に出て構える。
同時にあふれでた闘気は並々ならぬほどの威圧を混じり、彼らへ乗し掛かるも、臆せずに構えた。
「悪いがお前たちをこれ以上先には進めさせない…!」
サーヴァンは闘気を身に纏い、異様の翼で飛行しながら衝撃波を振り放つ。
その範囲は広大で、ゼツ、アビスが直感で力で相殺を選ぶ。アビスの蒼炎とゼツの黒炎がその広範囲の衝撃波を迎え撃つ津波になった。
激突しあったことで相殺、青と黒の火の粉が散る中からサーヴァンが突っ込んでくる。最初に狙いすましたのはゼツ。咄嗟に、アルトセルクの刀身で受け止めるも、彼の黒い翼がうねりと形を刃にもにた触手となって斬りかかる。
「!!」
「――『青の燐光』!」
アビスの声と共に散った青い火の粉が突如、爆裂する。その爆発に驚いたサーヴァンは振り下ろそうとした刃の触手を壁のように広げて爆撃を防いだ。
「サンキュ! 喰らええっ!!」
ゼツは後退し、間髪入れず炎纏った片腕で素早く突き出す。同時に巨大な黒い炎で押し固めた腕が迫るが、サーヴァンは包んでいた壁を元の翼にも戻し、腕めがけて剣を大きく振り下ろした。
黒炎の腕は縦に両断され、更に追撃の衝撃波がゼツを呑み込んだ。
「ぐぉぁ――ッ!!?」
衝撃波は斬撃となってゼツの身体を切り裂き、彼は大きく吹き飛ばされた後床に突っ伏した。しかし、直ぐに剣を支えに置きあがろうとしたが、儘ならず片膝を付く。
サーヴァンは続けざまに黒い触手を翼に変化させ、一気に間合いを詰めようと迫ってくる。
「っ…!!」
「―――ムラマサ!」
ゼツの前へ現れた王羅が赤紫に染まった刀『ムラマサ』で迫るサーヴァンを迎え撃つ。王羅へと迫る中、サーヴァンは仮面の下で笑みを浮かべた。
無謀さを侮辱するような、嘲りの笑みで。だが、王羅はサーヴァンを止める気迫を身に纏っていることに彼は気づいていなかった。
「――ホーリーコスモス」
王羅は空いた片手で秩序を成す究極心剣『光神剣ホーリーコスモス』を地面へ刺す。
すると、ムラマサが輝きを増す。ふと、ゼツは右手の甲に青白い文様が浮かんだ。
「!?」
「大丈夫だよ。そのままで」
王羅はそう言うやいなや、赤紫の輝きを纏ったムラマサを振り払った。同時にサーヴァンも王羅に剣を振り下ろそうと渾身の一振り、更には翼から無数の触手の刃で彼女の背後にいるゼツもろとも斬り捨てようとした。
だが、何もかもが動かない。
伸ばした触手の刃が全て細かく切り裂かれている。赤紫の光の線が無数に奔っている。
「なぁっ」
サーヴァンが理解する前に光の線は彼すら斬り付ける。更には周囲を、容赦なく切り裂き、奔る勢いを増しながら。
と、同時に不可思議な現象も発生している。切り裂かれている周囲の圏内には片膝ついており、回避もできなかったゼツには赤紫の光の線が掠りもしていない。無傷、無傷なのだった。
「―――妖嵐―――」
王羅も優しげな微笑と共に、赤紫の光の線が激しさを増す。
周囲一体が赤紫の光に飲まれ、
「一閃!!」
王羅の一声と共に、光は砕け散る。
砕けると共に、崩れていくサーヴァンが床に倒れこんだ。ゼツは至って無事であった。怪訝に思っていた彼の右手の甲には王羅が施した文様が輝いている。
「まさか…」
「ムラマサは直接斬る事以外にもある一定の範囲なら【斬撃そのもの】を生じる事が出来ます。ですが、それは私以外には無差別。だから、ホーリーコスモスの力で守ったわけです」
「……そうか、すまねえ――って、え…?」
負傷した身体なのに、立ち上がれなかったはずなのに簡単に立ち上がる事が出来た。どうやら、この文様の施しを受けたものは体力を有る程度回復してもらえるようだった。
サーヴァンが倒れた事に驚愕する神月、アビス、ビラコチャを相手にしていたレギオンは彼に呼びかけようとしたが、その周囲に無数の水晶で出来た槍が一斉に向けられる。
「っ…」
「此処までだ」
仕掛けたのはビラコチャだった。サーヴァンがゼツ、王羅と戦っている中、レギオンとの戦闘を繰り広げていた。
「……」
足掻くそぶりも無く、レギオンに戦う意思が無くなるのを見抜いたビラコチャは背後に回って、彼のうなじへと手刀を叩きこんだ。
「がっ――」
事切れたように倒れる彼に、ビラコチャは首元に触れてからさっさと奥の部屋と歩みだす。
「…気絶してるだけか」
慌てて倒れたレギオンへと駆け寄った神月とアビスは彼を調べて、一先ず胸を撫で下ろした。そこへ王羅とゼツと合流する。
「どうにか倒したけど……ん、あのオッサンは?」
「ああ、あの人なら奥の部屋に」
すると、奥の部屋の扉が開かれて、ビラコチャが戻ってくる。神月たちの下に歩み寄ってから、口を開いた。
「さっきこの島の結界を解除した。此処から出るとしよう」
「わかった。――この二人も連れだすか」
神月は倒れているレギオンを背負い込み、それを見たビラコチャは黙してサーヴァンを軽々と背負って歩き出し、彼らは広間を後にする。
回廊を戻る途中、イザヴェルと合流する。戻ってきた彼らと再会したイザヴェルは驚いた様子で話しかけた。
「なんだ、倒してきたのかよ!? ……まあ、そのつもりで行かせたからいいけど」
「お前がこっちに来ているって事は、入り口の敵は倒したのか?」
一方の神月たちもイザヴェルがこちらへとやって来た事への疑問を思い、ゼツが尋ねる。
「ああ。毘羯羅の姐さんに入り口任せて俺はお前らの援護――って、まあ、俺の仕事終了か。……戻るんだろ? じゃあ、戻るか」
そうして、イザヴェルと共に彼らは神殿の入り口まで戻っていった。
彼らが入り口に戻ると、神殿の前で俊敏な動きでハートレスを片っ端から切り伏せていた。
勿論、倒れている二人に迫るハートレスを優先的に切り倒し、最後の1体の攻撃を潜り込むように回避し、すきだらけの胴体へ一閃――抜き胴――して切り伏せた。
「――流石に疲れる」
ハートレスの気配を感じなくなった事を察し、刀を振るっていた女性――毘羯羅は刀を支えに地面に腰を下ろした。
そして、こちらへと駆け寄って来た神月たちに気づくように振り向いて安堵する。
「大丈夫だったか?」
尋ねられた毘羯羅は乾いた笑みで、
「あー…少々、面倒だったわ。誰かを守りながらの戦いはホント面倒」
「ふむ」
抱えていたサーヴァンをイザヴェルに背負わせ、ビラコチャは倒れている神殿の入り口で倒れている二人の様子を診た。
1分もたたずに診終えたビラコチャは水晶で変異させた浮遊する担架に横たわらせ、目覚め、もしかすると暴れの恐れがあるためにその行動をさせないために四肢を分離した水晶で固定する。
浮遊している担架はビラコチャの背後についていく。
「――さて、モノマキアへと戻るとしましょう」
王羅がにこやかにいうと、彼女はコートのポケットから栞を取り出す。
すると、光を放つと彼らを丸々と包みこんでいった。