第五章 三剣士編第十二話「第五島攻略前編」
第五島にある神殿へと侵入した凛那たちは真っ直に続いていく回廊を駆けている。
だが、阻むように機械兵士たちが列をなして防衛線を貼っていた。オルガは面倒そうに舌打ちした。
「ちっ――くそ、固められていたか!!」
凛那たちを捕捉した機械兵士たちは戦闘態勢に入った。
「――灼け、『炎魔覇討』!!」
凛那は先陣を駆け出し、炎により凝縮された刀が通常の数倍近くの刀身となり、目一杯に振り下ろされた。巨大な炎の塊に押し潰され、機械兵士の布陣は焦土と化した。
その一撃に彼女以外のメンバーは感嘆の声を漏らす。
「おー、すげえ」
「阿呆。先を急ぐのだろう? 早に向かうぞ」
そう言って、焼き焦げた床を駆け出していった。焼き払われた回廊の果てにある扉を凛那が開ける(警戒のため)。
白色だけの広間。だが、その中央に二人の人物が立っていた。
一人は仮面をつけた老人を彷彿した雰囲気のある人物。
一人は仮面をつけた紳士を彷彿した雰囲気のある人物。
「――ほお、おぬしらが侵入者か」
仮面をつけた老人が入ってきた凛那たちを見て、口火を切った。隣の紳士はため息混じりにどこからともなくナイフを取り出した。
「悪いが容赦しない」
凛那が先走る。紅蓮を纏った鳥が甲高い啼き声と共に二人へと迫る。だが、老人が床に杖の石突を叩く。瞬時に立ち上った白い壁が炎の鳥に激突しても黒く焼き焦がしただけだった。
「!」
「ふふふ、まだまだ」
さらに石突で叩く。白い壁が無数の槍となって放射され、凛那は槍を叩き落としながら、締めに炎を纏った一撃で焼き払う。
「『素材』はいくらでも!」
「凛那! 後ろだ」
「っ――!」
「ふふ」
投げ飛んできたナイフが凛那の背後の床に刺される。瞬時に老人の杖で床を叩く。
ナイフは変異し、鋭く伸びた刃に、凛那は躱しきれずにその脇腹掻っ切られた。
声を噛み殺し、襲ってきた刃を切り伏せ、老人を睨み据える。その表情を見てか、老人はせせら笑った。同時に、紳士は手に持つナイフで彼女の周囲に投げ飛ばす。
「しまっ」
周囲に刺さったナイフを投げ払おうと爆炎纏った一刀を振り下ろそうとする。
「かかったな、阿呆が!」
カン、と杖の石突で鳴り響いた音と共に刺されたナイフが光を帯びて、白い柱となる。凛那はその中に閉じ込められてしまう。
「凛那!!」
「このっ――!」
慌ててオルガたちが駆け寄り、皐月は黒い永遠剣『斬裂王ガヴェイン』で白い柱を斬りつけるが、傷一つついていなかった。ダメージを負わない柱を愕然と見ながら、シェルリアは柱の中にいる凛那に声をかける。
「ど、どういうことよ…!? 凛那、無事なの?」
「――ああ、だが、幽閉されたようだ。すまない」
柱の中から凛那の声が聞こえ、安堵するが、シェルリアはまず戦闘に集中する。
「悪いが、おぬしらはその様になって?」
「大人しく、捕まってください――――ねッ!!」
紳士は手に雷光が走り、ナイフを握っていた。オルガたちへ擲つ。それに反応して、彼らは四散した。
(一体……どういう力だ?)
イオンは二人の能力に疑問を抱いていた。何かあるはずと思い、敵の攻撃を深く見据える。
老人は『杖で床を叩いた』時に、周囲のものを変異させて、壁や武器にして攻撃している。
紳士はまだ解らないが、投げ飛ばしたナイフは形を成して、それを介して老人のコンボとなった。
「ん――?」
イオンへと向かっていた攻勢が変わる。老人は矛先を皐月に向ける。杖の石突を叩き、白い塊が隆起する。放射された槍を彼は剣で叩き落し、老人へと斬りかかる。
しかし、それを阻むように白い壁が生えて塞がれる。前方を抑えられ、周囲から壁が立ち上る。
「くっ!!」
イオンは咄嗟に時、空間を操るキーブレード『マティウス』で周囲の時間を停止する。立ち上がろうとした壁は停止し、彼は老人から離れた。
老人は身を引いたイオンをせせら笑うように声を上げた。
「かっかっか……甘いのう」
(神月さんのとは違う力……創造、じゃない。媒介――この部屋は白い。あの老人が杖で叩いた途端に壁や剣になった)
白い壁に囲まれた凛那はイオンと同じく思考に耽っていた。無闇に力を使う事より、冷静に敵を見定めていた。
「……投げ短剣を媒介に『構築』した、か? ……となると、この部屋全体が奴らが優位になっているわけだな」
凛那は一息ついて、思い切り声を張り上げた。
「お前ら、身を守れ!!」
『!!』
イオンたちはその言葉の意味を直感で理解した。彼らは全力で『防御』に力を集中した。その声に戸惑う老人と紳士は凛那がいる白い壁の方へと視線を向けた。彼女を囲っていた白い壁が一瞬で弾け、中から茜に燃え盛る波濤が躍り出た。
その勢いは、一瞬で部屋全体を包み込むほど。老人、紳士は――。
「――ふん」
黒焦げた床を踏みしめながら凛那は周囲を見回す。オルガたちはどうにか凛那の攻撃を防ぎ、無傷でいた。だが、ひどく疲れている様子だった。
「あ、危なかった」
特にシェルリアが息を上げていた。凛那の宣言に、直感で詩魔法で結界を張り巡らせ、爆炎の波濤を耐えしのいでいた。遅れて、咳き込んだ。
「どうしてこの部屋を丸々焼いたんですか?」
皐月は怪訝に周囲の確認を目配らせながら、焼き払った張本人へと問いただした。
彼女は小さく振り向き、その質問に答えた。
「老人の力はおそらく元来あるものを別のものに『変える』力と読んだ。
もう一人の男は元来あるものを触媒にする力があると思った」
「……さしずめ神月の創造とかか?」
「いや」
凛那は握り締めた火の刀を握りしめる。老人たちがいた場所が隆起し、巨大な砲台が現れた。
砲台の砲口は凛那たちを捉えている。
「な!?」
「あれでもダメだったのか…!?」
忌々しげに吐き捨てたオルガたちが見据える砲台の傍に、先ほどの老人と紳士が現れた。
「……咄嗟にこの辺りだけでも媒介にしていてよかったな」
「全くじゃ。危うく黒焦げになりかた。――じゃが、これで終いじゃ。生かして帰す気はもう無い」
砲台から低い音が鳴り始める。砲口の奥から禍々しい光が収束していく。
オルガたちは構え、
「全力で迎え撃つ」
ココで退けば砲火に塗れて全滅だろう。オルガは心剣『ベルゼビュート・ゼロヴァ』に炎を纏わせる。皐月は剣を納め、両腕に特殊な刻印が浮かび上がり、前に突き出す。すると、砲身に似た刻印が刻まれ砲口に位置する場所に円陣が具現する。
凛那はイオンに目配りさせ、疲労困憊のシェルリアと共にを身をひかせる。シェルリアは下がる前に、小さく詩を謳った。緩やかな声が広間に包まれ、オルガたちはさらなる力の躍動を感じた。
「今の私にはこれくらいしか……」
「十分だ。――ありがとう」
凛那はそう言い、握っていた刀が彼女本来の姿――『明王・凛那』へと変わり、握り締めなおす。
3人の攻撃態勢に老人は唾を飲み込んだ。
「…のお、ラムリテ」
「なんだ。こんな時に」
二人にしか聞こえないほどに小さな声で老人に話しかけられた、紳士――半神ラムリテは真っ直ぐ凛那たちと睨み据えつつ、反応した。
「わしらは、この一砲で勝てるか?」
「ベルフェゴール……」
「こやつらなら、カルマを止めれるかの…?」
「……さあ。なら、かけてみるか。この一撃で」
収束が終わる。
一瞬の静寂から、爆裂の砲火が砲口から吐き出される。禍々しい光の砲弾が凛那たちへと迫る。
「『ヴァニティ・エンド』!!」
皐月の両腕を砲身とした、紫電の光線が一直線に砲弾に直撃する。
だが、砲弾の勢いはまだ衰えていない。
「うおおおお! 『焔破紅龍穿』! ――ゆけええ――ッ!!」
纏った炎を擲つ。乾坤一擲の炎の刃が砲弾に突き刺さる。
だが、まだ砲弾の勢いが勝っている。
凛那は皆より前に出ている為、砲弾が目と鼻の先まで迫っていた。
「確と見よ―――此の一刀をおおお!!」
正眼見据えた彼女の刃は真一文字に振り下ろす。砲弾を、砲身、砲台を両断した。
切り裂かれたそれらは激しい光とともに爆発した。その衝撃は凛那たちを吹き飛ばし、イオンたちは必死にその場で踏ん張って吹き飛ばされる事に難を逃れた。
「み、みんな!!」
爆風が止み、イオンは吹き飛ばされた凛那たちの方へと駆け寄る。
漂っていた土煙が消え、3人の姿を見つけ出した。凛那は『明王・凛那』支えに片膝をつき、オルガと皐月は仰向けに無様に倒れていた。
だが、気を失ってはおらず二人は遅れて起き上がった。頭を打ったのか摩りながらだ。
「…」
凛那は漸く立ち上がって、砲台があった方へと歩き出す。オルガたちも遅れて続き、彼女の向かった邦楽は砲台の元には老人、紳士が虫の息ながらも倒れていた。
既に被っていた仮面は無く、素顔がさらされている。
「――起きれるか」
「………やれやれ、狸寝入りもだめかのう」
凛那はじっと睨み据えるように尋ねる。すると瞼と口を閉じていた老人――ベルフェゴールが開いて言った。
だが、起き上がる気力はなく仰向けたまま、凛那たちを見た。数秒ほど見据えたあと、一息ついて、言葉を続けた。
「……ワシだけでも起こして、奥の部屋へと連れて行ってくれまいか? 結界の解除が目的じゃろうて」
「オルガ、彼を支えて来てくれる?」
「分かってるよ……さ、爺さん。――よし」
オルガはベルフェゴールを肩に手を回して、支えながら凛那と共に部屋の奥へと向かう。
イオンたちはそのままラムリテの治療を始めた。
「シェルリアさん、詩魔法で回復とかできます?」
「あなたは?」
「僕もある程度、回復魔法くらいは心得てます」
「そう。ある程度動けるくらいにしておきましょう」
そう言ってシェルリアは澄んだ声音で詩を謳い、イオンはマティウスを掲げる。
光がラムリテを包み、その中にいた彼は苦しげな顔色が失せ、安らげた表情になった。
「――これでいいかな」
マティウスを下ろし、安堵したイオンとシェルリアは凛那たちが戻ってくるのを待つことにした。
奥の部屋へと続く廊下を進むのは凛那、老人ベルフェゴールを担ぎながら歩むオルガたちだった。
「ふむ、おぬしは神殿に居た中の一人じゃったな」
「爺さんも思い出したか。Sin化されたから記憶は覚えてるけど…なかなか思い出せなかったなあ…」
「そういえば、お前たちは此処に何日か居たもの同士だったか」
廊下を歩みながら他愛も無い談議を交わし始めた。ベルフェゴールは頷き、
「おぬしらはカルマを倒そうと、此処まで来たのか?」
「ああ。そのつもりだが…?」
「あやつはもう此処にはおりゃあせんぞ」
「何!?」
凛那、オルガが驚いた様子で老人に視線を揃える。歩調もとまり、ベルフェゴールは話を続けた。
別に隠す必要も無い。自分を縛り付けていた白黒の仮面は無く、開放された身の上ゆえに。
「――詳しい事は後で話すが、端折ると『此処での目的は達成して、レプセキアに居座る理由は無い』からだ」
「…此処での、目的」
「まさか……アレのことか?」
彼の気になる言動に、凛那は老人から彼に視線を鋭く見据える。
「オルガ、何を知ってる」
その鋭い炯眼に睨み据えられ、冷や汗を流しつつも慌てた口調で答え始める。
「い……や、待て! 神月も菜月も…たぶん、此処に連れてこられた奴らなら一度はカルマに利用されたことがあるだろうと思ってな…!?
一応、戻ってきてからの此処での行動とかは一先ず神無さんとかに話したんだけど…」
(…そういえば、その時はたぶん……私は聞いて無かったかな)
そう思い、自らの行動を反省したかのように鋭い目線をやめ、真剣な様子で話の続きを伺う。
オルガも凛那の態度が元に戻った様子に気づいて、口調を落ち着きながら話を続けた。
「カルマの奴は連れてきた心剣士、反剣士、永遠剣士からそれぞれ試すんだよ。自分に。――軽い戦闘をして、力を有る程度奪う。奪われた力は次の日には回復されていたわけだが……」
「力を奪う……どういう事をされたのだ?」
「……アイツは心剣士なら、心剣で、反剣士なら反剣で……剣を換えて奪った―――そういう感覚だった。アイツは言った」
だが、阻むように機械兵士たちが列をなして防衛線を貼っていた。オルガは面倒そうに舌打ちした。
「ちっ――くそ、固められていたか!!」
凛那たちを捕捉した機械兵士たちは戦闘態勢に入った。
「――灼け、『炎魔覇討』!!」
凛那は先陣を駆け出し、炎により凝縮された刀が通常の数倍近くの刀身となり、目一杯に振り下ろされた。巨大な炎の塊に押し潰され、機械兵士の布陣は焦土と化した。
その一撃に彼女以外のメンバーは感嘆の声を漏らす。
「おー、すげえ」
「阿呆。先を急ぐのだろう? 早に向かうぞ」
そう言って、焼き焦げた床を駆け出していった。焼き払われた回廊の果てにある扉を凛那が開ける(警戒のため)。
白色だけの広間。だが、その中央に二人の人物が立っていた。
一人は仮面をつけた老人を彷彿した雰囲気のある人物。
一人は仮面をつけた紳士を彷彿した雰囲気のある人物。
「――ほお、おぬしらが侵入者か」
仮面をつけた老人が入ってきた凛那たちを見て、口火を切った。隣の紳士はため息混じりにどこからともなくナイフを取り出した。
「悪いが容赦しない」
凛那が先走る。紅蓮を纏った鳥が甲高い啼き声と共に二人へと迫る。だが、老人が床に杖の石突を叩く。瞬時に立ち上った白い壁が炎の鳥に激突しても黒く焼き焦がしただけだった。
「!」
「ふふふ、まだまだ」
さらに石突で叩く。白い壁が無数の槍となって放射され、凛那は槍を叩き落としながら、締めに炎を纏った一撃で焼き払う。
「『素材』はいくらでも!」
「凛那! 後ろだ」
「っ――!」
「ふふ」
投げ飛んできたナイフが凛那の背後の床に刺される。瞬時に老人の杖で床を叩く。
ナイフは変異し、鋭く伸びた刃に、凛那は躱しきれずにその脇腹掻っ切られた。
声を噛み殺し、襲ってきた刃を切り伏せ、老人を睨み据える。その表情を見てか、老人はせせら笑った。同時に、紳士は手に持つナイフで彼女の周囲に投げ飛ばす。
「しまっ」
周囲に刺さったナイフを投げ払おうと爆炎纏った一刀を振り下ろそうとする。
「かかったな、阿呆が!」
カン、と杖の石突で鳴り響いた音と共に刺されたナイフが光を帯びて、白い柱となる。凛那はその中に閉じ込められてしまう。
「凛那!!」
「このっ――!」
慌ててオルガたちが駆け寄り、皐月は黒い永遠剣『斬裂王ガヴェイン』で白い柱を斬りつけるが、傷一つついていなかった。ダメージを負わない柱を愕然と見ながら、シェルリアは柱の中にいる凛那に声をかける。
「ど、どういうことよ…!? 凛那、無事なの?」
「――ああ、だが、幽閉されたようだ。すまない」
柱の中から凛那の声が聞こえ、安堵するが、シェルリアはまず戦闘に集中する。
「悪いが、おぬしらはその様になって?」
「大人しく、捕まってください――――ねッ!!」
紳士は手に雷光が走り、ナイフを握っていた。オルガたちへ擲つ。それに反応して、彼らは四散した。
(一体……どういう力だ?)
イオンは二人の能力に疑問を抱いていた。何かあるはずと思い、敵の攻撃を深く見据える。
老人は『杖で床を叩いた』時に、周囲のものを変異させて、壁や武器にして攻撃している。
紳士はまだ解らないが、投げ飛ばしたナイフは形を成して、それを介して老人のコンボとなった。
「ん――?」
イオンへと向かっていた攻勢が変わる。老人は矛先を皐月に向ける。杖の石突を叩き、白い塊が隆起する。放射された槍を彼は剣で叩き落し、老人へと斬りかかる。
しかし、それを阻むように白い壁が生えて塞がれる。前方を抑えられ、周囲から壁が立ち上る。
「くっ!!」
イオンは咄嗟に時、空間を操るキーブレード『マティウス』で周囲の時間を停止する。立ち上がろうとした壁は停止し、彼は老人から離れた。
老人は身を引いたイオンをせせら笑うように声を上げた。
「かっかっか……甘いのう」
(神月さんのとは違う力……創造、じゃない。媒介――この部屋は白い。あの老人が杖で叩いた途端に壁や剣になった)
白い壁に囲まれた凛那はイオンと同じく思考に耽っていた。無闇に力を使う事より、冷静に敵を見定めていた。
「……投げ短剣を媒介に『構築』した、か? ……となると、この部屋全体が奴らが優位になっているわけだな」
凛那は一息ついて、思い切り声を張り上げた。
「お前ら、身を守れ!!」
『!!』
イオンたちはその言葉の意味を直感で理解した。彼らは全力で『防御』に力を集中した。その声に戸惑う老人と紳士は凛那がいる白い壁の方へと視線を向けた。彼女を囲っていた白い壁が一瞬で弾け、中から茜に燃え盛る波濤が躍り出た。
その勢いは、一瞬で部屋全体を包み込むほど。老人、紳士は――。
「――ふん」
黒焦げた床を踏みしめながら凛那は周囲を見回す。オルガたちはどうにか凛那の攻撃を防ぎ、無傷でいた。だが、ひどく疲れている様子だった。
「あ、危なかった」
特にシェルリアが息を上げていた。凛那の宣言に、直感で詩魔法で結界を張り巡らせ、爆炎の波濤を耐えしのいでいた。遅れて、咳き込んだ。
「どうしてこの部屋を丸々焼いたんですか?」
皐月は怪訝に周囲の確認を目配らせながら、焼き払った張本人へと問いただした。
彼女は小さく振り向き、その質問に答えた。
「老人の力はおそらく元来あるものを別のものに『変える』力と読んだ。
もう一人の男は元来あるものを触媒にする力があると思った」
「……さしずめ神月の創造とかか?」
「いや」
凛那は握り締めた火の刀を握りしめる。老人たちがいた場所が隆起し、巨大な砲台が現れた。
砲台の砲口は凛那たちを捉えている。
「な!?」
「あれでもダメだったのか…!?」
忌々しげに吐き捨てたオルガたちが見据える砲台の傍に、先ほどの老人と紳士が現れた。
「……咄嗟にこの辺りだけでも媒介にしていてよかったな」
「全くじゃ。危うく黒焦げになりかた。――じゃが、これで終いじゃ。生かして帰す気はもう無い」
砲台から低い音が鳴り始める。砲口の奥から禍々しい光が収束していく。
オルガたちは構え、
「全力で迎え撃つ」
ココで退けば砲火に塗れて全滅だろう。オルガは心剣『ベルゼビュート・ゼロヴァ』に炎を纏わせる。皐月は剣を納め、両腕に特殊な刻印が浮かび上がり、前に突き出す。すると、砲身に似た刻印が刻まれ砲口に位置する場所に円陣が具現する。
凛那はイオンに目配りさせ、疲労困憊のシェルリアと共にを身をひかせる。シェルリアは下がる前に、小さく詩を謳った。緩やかな声が広間に包まれ、オルガたちはさらなる力の躍動を感じた。
「今の私にはこれくらいしか……」
「十分だ。――ありがとう」
凛那はそう言い、握っていた刀が彼女本来の姿――『明王・凛那』へと変わり、握り締めなおす。
3人の攻撃態勢に老人は唾を飲み込んだ。
「…のお、ラムリテ」
「なんだ。こんな時に」
二人にしか聞こえないほどに小さな声で老人に話しかけられた、紳士――半神ラムリテは真っ直ぐ凛那たちと睨み据えつつ、反応した。
「わしらは、この一砲で勝てるか?」
「ベルフェゴール……」
「こやつらなら、カルマを止めれるかの…?」
「……さあ。なら、かけてみるか。この一撃で」
収束が終わる。
一瞬の静寂から、爆裂の砲火が砲口から吐き出される。禍々しい光の砲弾が凛那たちへと迫る。
「『ヴァニティ・エンド』!!」
皐月の両腕を砲身とした、紫電の光線が一直線に砲弾に直撃する。
だが、砲弾の勢いはまだ衰えていない。
「うおおおお! 『焔破紅龍穿』! ――ゆけええ――ッ!!」
纏った炎を擲つ。乾坤一擲の炎の刃が砲弾に突き刺さる。
だが、まだ砲弾の勢いが勝っている。
凛那は皆より前に出ている為、砲弾が目と鼻の先まで迫っていた。
「確と見よ―――此の一刀をおおお!!」
正眼見据えた彼女の刃は真一文字に振り下ろす。砲弾を、砲身、砲台を両断した。
切り裂かれたそれらは激しい光とともに爆発した。その衝撃は凛那たちを吹き飛ばし、イオンたちは必死にその場で踏ん張って吹き飛ばされる事に難を逃れた。
「み、みんな!!」
爆風が止み、イオンは吹き飛ばされた凛那たちの方へと駆け寄る。
漂っていた土煙が消え、3人の姿を見つけ出した。凛那は『明王・凛那』支えに片膝をつき、オルガと皐月は仰向けに無様に倒れていた。
だが、気を失ってはおらず二人は遅れて起き上がった。頭を打ったのか摩りながらだ。
「…」
凛那は漸く立ち上がって、砲台があった方へと歩き出す。オルガたちも遅れて続き、彼女の向かった邦楽は砲台の元には老人、紳士が虫の息ながらも倒れていた。
既に被っていた仮面は無く、素顔がさらされている。
「――起きれるか」
「………やれやれ、狸寝入りもだめかのう」
凛那はじっと睨み据えるように尋ねる。すると瞼と口を閉じていた老人――ベルフェゴールが開いて言った。
だが、起き上がる気力はなく仰向けたまま、凛那たちを見た。数秒ほど見据えたあと、一息ついて、言葉を続けた。
「……ワシだけでも起こして、奥の部屋へと連れて行ってくれまいか? 結界の解除が目的じゃろうて」
「オルガ、彼を支えて来てくれる?」
「分かってるよ……さ、爺さん。――よし」
オルガはベルフェゴールを肩に手を回して、支えながら凛那と共に部屋の奥へと向かう。
イオンたちはそのままラムリテの治療を始めた。
「シェルリアさん、詩魔法で回復とかできます?」
「あなたは?」
「僕もある程度、回復魔法くらいは心得てます」
「そう。ある程度動けるくらいにしておきましょう」
そう言ってシェルリアは澄んだ声音で詩を謳い、イオンはマティウスを掲げる。
光がラムリテを包み、その中にいた彼は苦しげな顔色が失せ、安らげた表情になった。
「――これでいいかな」
マティウスを下ろし、安堵したイオンとシェルリアは凛那たちが戻ってくるのを待つことにした。
奥の部屋へと続く廊下を進むのは凛那、老人ベルフェゴールを担ぎながら歩むオルガたちだった。
「ふむ、おぬしは神殿に居た中の一人じゃったな」
「爺さんも思い出したか。Sin化されたから記憶は覚えてるけど…なかなか思い出せなかったなあ…」
「そういえば、お前たちは此処に何日か居たもの同士だったか」
廊下を歩みながら他愛も無い談議を交わし始めた。ベルフェゴールは頷き、
「おぬしらはカルマを倒そうと、此処まで来たのか?」
「ああ。そのつもりだが…?」
「あやつはもう此処にはおりゃあせんぞ」
「何!?」
凛那、オルガが驚いた様子で老人に視線を揃える。歩調もとまり、ベルフェゴールは話を続けた。
別に隠す必要も無い。自分を縛り付けていた白黒の仮面は無く、開放された身の上ゆえに。
「――詳しい事は後で話すが、端折ると『此処での目的は達成して、レプセキアに居座る理由は無い』からだ」
「…此処での、目的」
「まさか……アレのことか?」
彼の気になる言動に、凛那は老人から彼に視線を鋭く見据える。
「オルガ、何を知ってる」
その鋭い炯眼に睨み据えられ、冷や汗を流しつつも慌てた口調で答え始める。
「い……や、待て! 神月も菜月も…たぶん、此処に連れてこられた奴らなら一度はカルマに利用されたことがあるだろうと思ってな…!?
一応、戻ってきてからの此処での行動とかは一先ず神無さんとかに話したんだけど…」
(…そういえば、その時はたぶん……私は聞いて無かったかな)
そう思い、自らの行動を反省したかのように鋭い目線をやめ、真剣な様子で話の続きを伺う。
オルガも凛那の態度が元に戻った様子に気づいて、口調を落ち着きながら話を続けた。
「カルマの奴は連れてきた心剣士、反剣士、永遠剣士からそれぞれ試すんだよ。自分に。――軽い戦闘をして、力を有る程度奪う。奪われた力は次の日には回復されていたわけだが……」
「力を奪う……どういう事をされたのだ?」
「……アイツは心剣士なら、心剣で、反剣士なら反剣で……剣を換えて奪った―――そういう感覚だった。アイツは言った」