第五章 三剣士編第十三話「第五島攻略後編」
Sin化され、神の聖域レプセキアにつれてこられた神月たち。その中にはオルガも居た。
神殿へ入城して翌日。カルマは3人を呼び出し、一人ずつとある広間へ入ってくるように言った。
「――何のつもりだ、お前」
最初に神月が、次に菜月が広間に入り、しばらくすると機械兵士に担がれながら広間を出て行くのを見た。開かれた広間の方からカルマの声がした。入って来いと言われ、オルガは逆らうことも出来ずに入った。
広間は薄暗く、視認も難しい。だが、その広間の真ん中に佇む女性だけは即視認した。
オルガは真っ先に問いただした。同時に広間の入り口の扉が閉じられ、暗さに深みが増す。その暗闇の中、カルマは返した。
「少し手伝ってもらったのよ、私の計画の為に」
「計画…」
「安心しなさい。明日にでもなれば、彼らは元通り回復するわ」
「……」
オルガは心剣を抜いた。
自身の魂を核にした異なる心剣、赤く燃え滾る焔を纏った黒刀『ベルゼビュート・ゼロヴァ』を。
炎の光が暗がりの広間に光を燈し、カルマを見出した。
「――来なさい」
突如、爆炎が噴出す。オルガは容赦なくカルマへ振り放った(カルマはこの広間にいる合間だけ洗脳の呪力を弱めている)。
カルマはモノクロ基調の幅広の刀身をした大剣を虚空より引き抜き、構えを取る。
「いいわよ、最初から全力できなさいな!」
「―――結局、負けたワケだったが…」
凛那たちは再び、歩調を始めながらオルガは小さく肩を落とす。
敗北、従属の記憶を思い出した様子を察してか、凛那は話を進めた。
「……メルサータで既に三剣を手に入れる事はできていた、だが、まだ足りなかったと言うことなのか」
「ワシも詳しくは言えぬな。あやつからKRの製造を任されたくらいじゃ」
「…なんだ、そのKRとは」
凛那たちは再び足を止める。だが、それはKRの事が気になるからではなかった。
眼前には奥の広間へと通ずる回廊の終着点の部屋の前に居たからだった。
「詳しいのは後で、じゃ。――結界の解除の操作ならワシに任せるんじゃ」
オルガの支えも不要と言った具合に一人で杖を支えに歩きだし、部屋の真ん中にある水晶体に手をかざす。水晶体は光を帯び、やがて幾何学な文字が具現する。
ベルフェゴールは浮遊する幾何学な文字列へ目掛けて杖を振り下ろす。叩いた金属音が響くと文字列は粉々に砕け散る。一息ついてから老人は杖を支えに踵を返した。
「お……終わったのか?」
「うむ。結界は解除した。さて、ワシらをおぬしらの船に連れて行ってくれ、そこで詳しい話をしよう」
「そうだな。一先ず、私たちの仕事は終わったわけだからな」
そういって凛那たちはイオンたちと合流、共に神殿を後にすることになる。
だが、外では未だに死闘を繰り広げている事に凛那たちは気づいていなかった。
「――アトスゥッ!!」
星の光を『翼』に象った能力『煌翼』を広げ、クェーサーは銀河の夜空を駆け抜ける。
一方のアトスは幾重に自身の分身体『流影(シューティング・シャドウ)』を具現しては、クェーサーと激突してきていた。
「『鍠刃星穿槍』!!」
「ふっ―――!!」
迫りくる『流影』を高速で射出した槍と相殺する。だが、分身体を踏み越え、アトスがクェーサーに斬りかかる。迎えう撃つように剣を振り下ろし、つば競り合う。
激しい剣戟の中、アトスが吼える。
「姉さんの技なんて、理解しきってるわよ!!」
その言葉を示すようにクェーサーとの剣戟をぬうように、繰り出された一撃が伸びる。
「っ!!」
寸での処で体を翻し、同時に光弾の飛礫を霧散してアトスを引き離す。その言葉は自分にも、アトスにも言えることだった。
クェーサーとアトスは対極に位置する。心剣と反剣。姉妹。何よりお互いに切磋琢磨しあった中だった。ほぼ全ての技を見切っている。だからこそ、ここまで長期戦になっていた。
「……でも――私が勝つわ!」
アトスの体を纏うように淡い光――残光が纏われる。その瞬間、超高速のスピードで周囲を移動しながら、クェーサーへと無数の流影、光弾を射出する。
クェーサーは迎え撃たずに煌翼を広げ、アトスを追いかけるように、怒涛の攻撃をことごとく躱す。スピードはアトスが優位だが、クェーサーは最大限に煌翼を広げ、ブーストするかのように光の粒子が尾を引いていく。
「――すげえなあ」
神殿を出て、クェーサーたちの死闘を唖然と見蕩れていた。オルガはそれを感銘するようにうんうんとうなずいた。
「さすがに…手助けは無用ですかね」
皐月がふと思ったがやめる。光の尾が走り、光の爆発が起きる―――二人の死闘を、誰もがまっすぐに見つめていた。
もちろん、凛那も見つめていた。さらにいえば、クェーサーが戦っている相手が彼女の妹であることも、クェーサーから聞いている。
「此処でしか、全身全霊の戦いは出来まいて―――悔いなく、戦いなさい……!」
小さくつぶやきながら、凛那は炎がごとき瞳を輝かせ、笑顔を浮かべた。
「―――……もう、来ていたの? 私が遅すぎたのかしら」
クェーサーは漸く凛那たちが神殿の前で待っていることに気がつく。呆れる様に嘆息し、迫るアトスの攻撃を潜り抜け、追いかける。
「……決着をつけましょう」
確かに、アトスが言った通り――クェーサーとアトスは互いに知り尽くしていた。このままでは決着はつかないであろう。
――だからこそ、決着をつける方法がある。
「第二煌輝翼(セカンダリー・センチュリオン)、開放!!」
「……――はああぁぁああっ!!! 最大火力、『星屑蜃幻楼(スターダスト・ミラージュ)』!!」
クェーサーは翼となっている『煌翼』を変化し、更なるスピード――自身すら追い抜くほど――で、眼前に出現する。
だが、ア目の前に現れたなら叩き斬る。アトスはその一心で、自身の反剣『シューティング・スター』に全霊の力を纏った『5人のアトス』がクェーサーへと斬りかかる。
「『極星より神降す鍠刃(グラクシィ・アステラス)』!!」
同じくクェーサーも身に纏っていた『第二煌輝翼』のエネルギーを一切合財、心剣『トゥース・ギャラクシアン』で迎え撃った。
両者の一撃が激しい光と伴って銀河の夜空を輝かしくする。その閃光に、観戦したオルガたちはまぶたを閉じて、光をさえぎった。
「……」
その中、凛那だけは変わらず空を見据え続け、激しい光の中に見えた―――決着を見る。
やがて光が消え、オルガたちも慌てて二人が居た空を見直す。
降り積もる雪のように、輝く粒子が降り散る中からゆっくりと降りてきたのは、クェーサーだった。
その両手には仮面の呪縛から開放された自分の妹を抱え、その表情は安堵に満ちた微笑を浮かべる。オルガたちはすぐに彼女へと駆け寄った。
「――すまない、待たせた」
クェーサーは侘び、頭を下げる。しかし、責めるものは誰も居ない。
「そんなことないわよ! 凄かったのは事実だし」
「そうですね、僕たちも見惚れていたし」
「まあ気にしなさんな。無事で何よりだから」
「最強は伊達じゃないですね!」
シェルリア、皐月、オルガ、イオンがフォローするように笑顔で言った。言われた彼女はうんとうなずき、凛那へと視線を向ける。
彼女は凜ながらも穏やかな微笑を返し、口を開いた。
「――良き戦いだった。また勝負したい、という気炎が燈ったぞ」
「……この事件が終わったらいつでも相手になるわよ」
その言葉を受け、顔を赤くしながらも嬉しげに返した。
一行の様子を神殿の段に腰を下ろしている老人ベルフェゴルと先の戦闘で倒れていた青年―――ラムリテが見ていた。
ラムリテにいたっては同じく腰を下ろし、頬杖を立てながらだった。
「なあ、爺。この様子だとほかの半神たちも来てるのかね?」
「凛那の話だとどうもそうらしいようじゃ……母のためなら躊躇いないのが我々じゃろう」
「ほかの島の結界を解除して、最終的に母の居る第一島か……そういや、最後にアバタール
見かけたのいつだったか」
「ふむ、あやつらがレプセキアへ侵入する少し前の通信のみじゃったな。……声もどこかおかしい? 様子だったしの」
そういって、二人は互いに見遣って、不安の色が混じった怪訝そうな表情を作る。
「まさか……な」
「……いやな予感しかせんわい」
すると、凛那たちが呼びかけに来たので二人は歩き出していった。
そして、イオンがミュロスから渡されたモノマキア帰還用の栞を作動し、第五島から脱出した。