第五章 三剣士編第十四話「第三島攻略序」
第三島の神殿前では操られた半神シュテン、反剣士アイギスに対し、シンメイが一人で戦っていた。
シンメイの動きは舞い踊るように、手に持つ銀の直剣、後頭部から伸びる竜尾で二人の攻撃を受け流し、叩き返す。
「――ふッ!」
「おらおらあああ!!」
覇気を纏ったシュテンは大刀を水平に構え、一気に突っ込んだ。だが、シンメイは竜尾を振り下ろし、攻撃を受け止める。すかさず、シュテンを竜尾で大きく弾き飛ばすと彼の身体を巻き付けた上で、地面に叩きつけた。
「ぬぉおッ――!」
「阿呆が…」
冷厳に言うと、手に持つ銀の直剣を振り上げる。光を帯びる。
「―――龍剣『牙穿峯』!!」
振り下ろすと共に衝撃波の竜となってが牙だらけの口を開く。
「させない!」
彼の周囲に星が無数跳び、十字の結界となって衝撃波を打ち消した。シンメイは竜尾を縮め、髪と同一化した竜尾を振り払う。
「……ふむ」
「くそう、力押しじゃ敵わねえか」
起き上がって構えを治したシュテンは悔しげに言う。この男の口調は言葉の端々から感情がだだ漏れている気がする。
だが、それ共に、最初より覇気が高ぶっている。
「……だがまあ、力で叩き潰す! それがいいよなあ!」
呵呵大笑に仮面の下から出た笑い声に、隣に立っているアイギスはため息をこぼす。
「一々、サポートする私の身にもなって欲しいわ」
「へへへ……でも、感謝しているんだぜ」
彼女の漏らした苦言を笑って返し、シュテンは高ぶる覇気を整える。
「さて、こっからが本番だぜ!! ――っぶはああ!」
手に持つ瓢箪に満たされていた酒を飲み、口に含んだまま刀身に噴出した。
怪訝に睨むシンメイ、「うぇ」と若干引いているアイギスを無視してシュテンは勢い良く剣を地面へ切りつける。
同時に摩擦で生じた炎が刀身に宿した。次第に巨大な炎となって攻撃が解き放たれることによりその威力が絶大である事を示している。
「さて……俺ぁこの『酒焔の嵐舞』でおめえさんを倒す」
「―――ふふ。小賢しい策は不要か。じゃが、それもよかろうて」
シンメイはにやりと笑い、眼前に剣を地にさす。
刺された箇所から円陣の文様が地面に走り出す。
「時に攻撃の一手だって選ぶわ」
「面白い。まとめてぶつけて来るがよい」
同じく、アイギスの身体に光の文様が浮かび、彼女の剣に更なる光が収束されていく。
二人の闘気が最高潮になるのを感じ取ったシンメイはすかさず剣を引き抜き、斬り込んで来た。
「龍剣―――!」
「喰らええええええええっ!!!」
「光よ、敵を討ち滅ぼせ!! 『シャイニング・オーバーロード』!!」
爆炎の波濤、無数の巨大な光弾の一斉砲火が二人に斬りこむシンメイを他愛もなく呑み込んだ。
その瞬間。
「『天津甕星』」
爆炎を吹き飛ばし、光を両断して立ち上った黒金に鈍く照らす柱の中に、シンメイがいた。
「『天黒月刃』」
彼女は剣を素早く振り払うと、柱が砕け、柱の破片は三日月を模した無数の刃となって二人を切り裂いた。
その量は視界いっぱいに黒い闇が染め上げるような勢いだった。
「ぐっ……お―――」
「そんな―――……ッ」
瞬くうちに切り裂かれた二人は――体から血を噴出して態勢を崩して倒れた。
だが、シュテンだけは必死に炎が消えた大刀を地面に刺して杖代わりに意地でも屈しようとはしなかった。
その様子にシンメイは一息ついて、戦闘装束『龍武壮麗』を解き、元の着物を包んだ姿になる。
「意地で立つか。操られている身の上に置ける『命令』かねえ?」
「……悪いね、俺ぁ……」
呟くと共に俯いていた顔を上げると、彼の仮面が消え去る。朦朧とした表情で、強がりな笑みを浮かべた。
だが、力尽きたのか小さくうめき声を上げて、倒れこんだ。
「ふふ。よき闘争じゃった。―――さて」
シンメイは扇子の先を二人へ向け、小さく呪文を唱える。二人を包むようにドーム上の結界が出現し、彼女は神殿へとはいる。
結界にはハートレスから脅かされないように張り出したものだった。まだ、先に皆がいる。シンメイはすたすたと神殿の回廊を進んで行った。
神殿内の回廊を進むアレクトゥスたち。
神の聖域『レプセキア』の各島に存在する『神殿』、外から見ると石造りと石柱によって組み立られた古風さが漂わせているがその内側は天は白く、地は歩む者たちを映し出す黒い床。別世界のような感覚だった。
アレクトゥスはまっすぐ駆け出している。菜月たちは周囲を窺いながら、彼女を追いかけていた。
そして、彼らが広間へと通ずる閉ざされていた扉の前に集うと、ゆっくりと閉じていた扉が両開かれる。息を飲んで、入っていった一行。
白く染められた広間の最奥には奥の部屋へと続く扉があり、それを遮る様に5人の男女が立っている。
仮面の女カルマによって操られた心剣士、反剣士の象徴たる仮面を付けている。そして、それぞれ色とりどりの武器を手に待ち構えている。
「ありゃりゃ、結構いるのね」
部屋に入り、敵方の人数を見計らったアナザはわざとらしいからかった声で言う。すると、広間の床全体に何かの形をした紋章が浮かび上がる。
「な、何!?」
激しい光に包まれ、菜月たちは光に飲まれていった。
光が消えると広間には誰もいなかった。しばらくして、シンメイが広間へと入った。
「――…!」
シンメイはすぐに理解する。おかしい、と。
一本道の回廊の果てにあった広間には誰一人としていない。仲間も、敵も。
だが、そのおかしいと感づく根源へと視線を向ける。広間の床全体的に浮かび上がっている紋章。
光を帯び、鳴動しているような紋章だけが、そこにあったのだった。
「……って、どこだ此処!?」
光が消え、菜月は周囲を警戒する。仲間の姿は無い、つまり一人だけ。
薄暗い黒しかないような空間に立っている。すると、自分の居る場所がやけに『明るくなる』。
「!」
菜月は属性を手繰る心剣『陰陽道時綱』を強く振り上げ、氷の壁を張り巡らせて、自分へと迫るものを見る。
――巨大な炎の塊、と呼べるほどの球体が襲い掛かってきている。
氷の壁と激突した炎の塊は激しい蒸気となって相殺しあった。周囲が霧に包まれ、視認が難しい。しかし、敵方は位置を見抜いているのか、霧の奥から炎弾が無数に菜月へと放たれる。
「っ、やべえな…!」
攻撃を躱し、霧の中を走り出す。炎弾の飛礫は尚もこちらを的確に打ち出していた。菜月は空を見た。発生した霧は上空まで及んでいない。
両足に風の力を纏い、大きくジャンプした。人間の跳躍以上の跳躍から空中で浮遊する。
「吹き荒べ! 『裂風陣』!!」
時綱を振り、刀身に収束していた風の力を纏った衝撃波が乱れ打つ。霧は吹き飛び、その中に潜んでいるであろう敵を燻り出す。立ち込めた霧が消えると、姿を捉えた。
赤黒い甲冑に衣を纏った男、周囲には火の玉が浮遊している。やはり、白と黒の仮面をつけている。もちろん、菜月は名前までは知らなくともこの男を知っていた。操られた期間の記憶はそのままあり続ける。
相対するものの殆どを記憶していた。
「ふん……先手を打った全て阻まれたか」
「オイラを不意討つなんてまだまだだぜ。――此処はどこだ、答えてもらおう……かっ!」
菜月は終わりざまに周囲の空間から雷撃の光弾を男へ向けて、射出した。
彼の手繰る属性は炎、風、水、地、雷の5つ。巧みに属性を切り替えて戦うのであった。
「応える義理が無い」
迫る光弾に甲冑の男は浮遊する球体の一つを迎え撃つように放つ。光弾と球体は相殺され、菜月は両足に風の力を纏わせ、一気に切り込む。
接近戦での攻撃ならば、浮遊する球体の攻撃は難しいと読んだ。剣を握り締め、甲冑の男へと斬りかかる。男のは手に持つ緋色の光を帯びた黒い大剣で軽々と振り下ろす。
「っ…!!」
重い。並々ならぬ重量の一撃を受け止められ、歯を食いしばる菜月。だが、男は空いた片手を小さく挙げる。
同時に球体が移動し、菜月を取り囲む。
「なっ」
「フレア・ランサー」
球体は形を変えて灼熱の槍へと変わる。それらの穂先が菜月へ向けられたまま、一気に突き出される。
菜月はとっさに剣を下げ、全力で後退した。間一髪、炎の槍に串刺しは回避することができ、男が振り下ろした大剣の衝撃波で大きく吹き飛ばされる。
その勢いのまま無様に転げ周り、彼はすぐに起き上がった。
「危なかった……って、かすったか」
菜月は咄嗟に躱すことができたものの左脇腹に傷が走っていた。炎の槍で出来た一撃は斬りつけるだけじゃなく焼き焦がす二重のダメージを与える。
「ほら、踊れ踊れ」
再び、炎の槍が穂先を菜月に向けなおされて一斉に放たれる。まるで意思を持つように追尾する。
菜月は舌打ちし、「踊り」に興じるように空へと飛び跳ねた。風の力で空中を駆け抜け、炎の槍の攻撃を躱す。
甲冑の男はこの隙に更なる一撃を与えるべく力を貯める。
「――邪魔、だ!」
刀身に冷気を纏わせ、炎の槍を斬り捨てる。複数同時に襲い掛かる槍の攻撃を躱すのは至難の業で、彼の体にはさらに傷が走る。
最後の1本を両断し、甲冑の男へと睨みつける。しかし、すぐに睨みつけた相貌は驚きの色に変わる。甲冑の男は剣を掲げた姿勢で菜月を見ている。
だが、その剣の上には巨大な火炎の球が静止している。
「終幕だ。炎に呑まれて、消えろ…!!」
火炎の球から大量の炎弾を放たれる。大小無数、菜月の視界全てを覆いつくすような灼熱の弾幕に彼は、
「――――!!」
激しい爆炎が空を染め上げる。
燃え盛る炎の華が咲いた。甲冑の男は剣をおろし、己の勝利を確信した。
「なにっ!!」
炎が突如、空から一切消し飛ぶ。
不可解な現象に目を凝らす甲冑の男は、見据えた先に姿を捉えた。
菜月。そう、無傷の彼が平然と立っていた。彼はゆっくりと地上に降り立ち、剣を握りなおす。今、握っている剣は先ほどの五つに枝分けたような剣とは異なる、七つに枝分かれた剣七支刀であった。
菜月は唖然と立っている甲冑の男が理解していない事を見抜き、一応の答えを言った。
「――オイラの時綱、そして光陰は『それぞれの属性を操る心剣』だ。
と言っても、全てを操るにはいたれないが、炎程度なら無力化することぐらい苦労しない…といっても、完全に操る条件は自分が『上』でないといけないんだがな…」
つまりは、今の甲冑の男が操る炎では光陰手繰る菜月に及ばない。
その意味を理解したのか、男は吼える。
「黙れぇ―――っ! 調子に乗るな、乗るなぁああ!!」
そういうと、男は大剣を構えなおす。緋色に光帯びた刀身に更なる刃となってリーチを増した。
爆発したような殺意に菜月は思わず苦笑を浮かべた。
「悪い。逆鱗、踏んじゃったか。―――ま、オイラもさっさとお前を倒さないとな……待たせているかわいいやつがいるんでな」
そういうと、手にある光陰と同じの『黒い光陰』が現れ、それを握り締める。彼の周囲に魔法陣が現出する。
甲冑の男は阻もうと、光刃で巨大になった大剣を振り下ろす。
「―――光陰ッ! 双極―――」
巨大な光刃の一振りを魔法陣を光刃へとぶつけるように二振りの光陰で受け止め、魔法陣が光刃を染める。
そして、いとも容易くはじき返した。同時に魔法陣によって染められた光刃は粉々に砕け散る。唖然とする男に、菜月が瞬時に切り込んだ。
「――刹那!」
交差に走った刃の一閃と衝撃波、二つの属性の双撃を受けた甲冑の男は大きく吹き飛ばされ、地面に突っ伏した。すると、薄暗い空間が音を立てて崩れていく。
シンメイの動きは舞い踊るように、手に持つ銀の直剣、後頭部から伸びる竜尾で二人の攻撃を受け流し、叩き返す。
「――ふッ!」
「おらおらあああ!!」
覇気を纏ったシュテンは大刀を水平に構え、一気に突っ込んだ。だが、シンメイは竜尾を振り下ろし、攻撃を受け止める。すかさず、シュテンを竜尾で大きく弾き飛ばすと彼の身体を巻き付けた上で、地面に叩きつけた。
「ぬぉおッ――!」
「阿呆が…」
冷厳に言うと、手に持つ銀の直剣を振り上げる。光を帯びる。
「―――龍剣『牙穿峯』!!」
振り下ろすと共に衝撃波の竜となってが牙だらけの口を開く。
「させない!」
彼の周囲に星が無数跳び、十字の結界となって衝撃波を打ち消した。シンメイは竜尾を縮め、髪と同一化した竜尾を振り払う。
「……ふむ」
「くそう、力押しじゃ敵わねえか」
起き上がって構えを治したシュテンは悔しげに言う。この男の口調は言葉の端々から感情がだだ漏れている気がする。
だが、それ共に、最初より覇気が高ぶっている。
「……だがまあ、力で叩き潰す! それがいいよなあ!」
呵呵大笑に仮面の下から出た笑い声に、隣に立っているアイギスはため息をこぼす。
「一々、サポートする私の身にもなって欲しいわ」
「へへへ……でも、感謝しているんだぜ」
彼女の漏らした苦言を笑って返し、シュテンは高ぶる覇気を整える。
「さて、こっからが本番だぜ!! ――っぶはああ!」
手に持つ瓢箪に満たされていた酒を飲み、口に含んだまま刀身に噴出した。
怪訝に睨むシンメイ、「うぇ」と若干引いているアイギスを無視してシュテンは勢い良く剣を地面へ切りつける。
同時に摩擦で生じた炎が刀身に宿した。次第に巨大な炎となって攻撃が解き放たれることによりその威力が絶大である事を示している。
「さて……俺ぁこの『酒焔の嵐舞』でおめえさんを倒す」
「―――ふふ。小賢しい策は不要か。じゃが、それもよかろうて」
シンメイはにやりと笑い、眼前に剣を地にさす。
刺された箇所から円陣の文様が地面に走り出す。
「時に攻撃の一手だって選ぶわ」
「面白い。まとめてぶつけて来るがよい」
同じく、アイギスの身体に光の文様が浮かび、彼女の剣に更なる光が収束されていく。
二人の闘気が最高潮になるのを感じ取ったシンメイはすかさず剣を引き抜き、斬り込んで来た。
「龍剣―――!」
「喰らええええええええっ!!!」
「光よ、敵を討ち滅ぼせ!! 『シャイニング・オーバーロード』!!」
爆炎の波濤、無数の巨大な光弾の一斉砲火が二人に斬りこむシンメイを他愛もなく呑み込んだ。
その瞬間。
「『天津甕星』」
爆炎を吹き飛ばし、光を両断して立ち上った黒金に鈍く照らす柱の中に、シンメイがいた。
「『天黒月刃』」
彼女は剣を素早く振り払うと、柱が砕け、柱の破片は三日月を模した無数の刃となって二人を切り裂いた。
その量は視界いっぱいに黒い闇が染め上げるような勢いだった。
「ぐっ……お―――」
「そんな―――……ッ」
瞬くうちに切り裂かれた二人は――体から血を噴出して態勢を崩して倒れた。
だが、シュテンだけは必死に炎が消えた大刀を地面に刺して杖代わりに意地でも屈しようとはしなかった。
その様子にシンメイは一息ついて、戦闘装束『龍武壮麗』を解き、元の着物を包んだ姿になる。
「意地で立つか。操られている身の上に置ける『命令』かねえ?」
「……悪いね、俺ぁ……」
呟くと共に俯いていた顔を上げると、彼の仮面が消え去る。朦朧とした表情で、強がりな笑みを浮かべた。
だが、力尽きたのか小さくうめき声を上げて、倒れこんだ。
「ふふ。よき闘争じゃった。―――さて」
シンメイは扇子の先を二人へ向け、小さく呪文を唱える。二人を包むようにドーム上の結界が出現し、彼女は神殿へとはいる。
結界にはハートレスから脅かされないように張り出したものだった。まだ、先に皆がいる。シンメイはすたすたと神殿の回廊を進んで行った。
神殿内の回廊を進むアレクトゥスたち。
神の聖域『レプセキア』の各島に存在する『神殿』、外から見ると石造りと石柱によって組み立られた古風さが漂わせているがその内側は天は白く、地は歩む者たちを映し出す黒い床。別世界のような感覚だった。
アレクトゥスはまっすぐ駆け出している。菜月たちは周囲を窺いながら、彼女を追いかけていた。
そして、彼らが広間へと通ずる閉ざされていた扉の前に集うと、ゆっくりと閉じていた扉が両開かれる。息を飲んで、入っていった一行。
白く染められた広間の最奥には奥の部屋へと続く扉があり、それを遮る様に5人の男女が立っている。
仮面の女カルマによって操られた心剣士、反剣士の象徴たる仮面を付けている。そして、それぞれ色とりどりの武器を手に待ち構えている。
「ありゃりゃ、結構いるのね」
部屋に入り、敵方の人数を見計らったアナザはわざとらしいからかった声で言う。すると、広間の床全体に何かの形をした紋章が浮かび上がる。
「な、何!?」
激しい光に包まれ、菜月たちは光に飲まれていった。
光が消えると広間には誰もいなかった。しばらくして、シンメイが広間へと入った。
「――…!」
シンメイはすぐに理解する。おかしい、と。
一本道の回廊の果てにあった広間には誰一人としていない。仲間も、敵も。
だが、そのおかしいと感づく根源へと視線を向ける。広間の床全体的に浮かび上がっている紋章。
光を帯び、鳴動しているような紋章だけが、そこにあったのだった。
「……って、どこだ此処!?」
光が消え、菜月は周囲を警戒する。仲間の姿は無い、つまり一人だけ。
薄暗い黒しかないような空間に立っている。すると、自分の居る場所がやけに『明るくなる』。
「!」
菜月は属性を手繰る心剣『陰陽道時綱』を強く振り上げ、氷の壁を張り巡らせて、自分へと迫るものを見る。
――巨大な炎の塊、と呼べるほどの球体が襲い掛かってきている。
氷の壁と激突した炎の塊は激しい蒸気となって相殺しあった。周囲が霧に包まれ、視認が難しい。しかし、敵方は位置を見抜いているのか、霧の奥から炎弾が無数に菜月へと放たれる。
「っ、やべえな…!」
攻撃を躱し、霧の中を走り出す。炎弾の飛礫は尚もこちらを的確に打ち出していた。菜月は空を見た。発生した霧は上空まで及んでいない。
両足に風の力を纏い、大きくジャンプした。人間の跳躍以上の跳躍から空中で浮遊する。
「吹き荒べ! 『裂風陣』!!」
時綱を振り、刀身に収束していた風の力を纏った衝撃波が乱れ打つ。霧は吹き飛び、その中に潜んでいるであろう敵を燻り出す。立ち込めた霧が消えると、姿を捉えた。
赤黒い甲冑に衣を纏った男、周囲には火の玉が浮遊している。やはり、白と黒の仮面をつけている。もちろん、菜月は名前までは知らなくともこの男を知っていた。操られた期間の記憶はそのままあり続ける。
相対するものの殆どを記憶していた。
「ふん……先手を打った全て阻まれたか」
「オイラを不意討つなんてまだまだだぜ。――此処はどこだ、答えてもらおう……かっ!」
菜月は終わりざまに周囲の空間から雷撃の光弾を男へ向けて、射出した。
彼の手繰る属性は炎、風、水、地、雷の5つ。巧みに属性を切り替えて戦うのであった。
「応える義理が無い」
迫る光弾に甲冑の男は浮遊する球体の一つを迎え撃つように放つ。光弾と球体は相殺され、菜月は両足に風の力を纏わせ、一気に切り込む。
接近戦での攻撃ならば、浮遊する球体の攻撃は難しいと読んだ。剣を握り締め、甲冑の男へと斬りかかる。男のは手に持つ緋色の光を帯びた黒い大剣で軽々と振り下ろす。
「っ…!!」
重い。並々ならぬ重量の一撃を受け止められ、歯を食いしばる菜月。だが、男は空いた片手を小さく挙げる。
同時に球体が移動し、菜月を取り囲む。
「なっ」
「フレア・ランサー」
球体は形を変えて灼熱の槍へと変わる。それらの穂先が菜月へ向けられたまま、一気に突き出される。
菜月はとっさに剣を下げ、全力で後退した。間一髪、炎の槍に串刺しは回避することができ、男が振り下ろした大剣の衝撃波で大きく吹き飛ばされる。
その勢いのまま無様に転げ周り、彼はすぐに起き上がった。
「危なかった……って、かすったか」
菜月は咄嗟に躱すことができたものの左脇腹に傷が走っていた。炎の槍で出来た一撃は斬りつけるだけじゃなく焼き焦がす二重のダメージを与える。
「ほら、踊れ踊れ」
再び、炎の槍が穂先を菜月に向けなおされて一斉に放たれる。まるで意思を持つように追尾する。
菜月は舌打ちし、「踊り」に興じるように空へと飛び跳ねた。風の力で空中を駆け抜け、炎の槍の攻撃を躱す。
甲冑の男はこの隙に更なる一撃を与えるべく力を貯める。
「――邪魔、だ!」
刀身に冷気を纏わせ、炎の槍を斬り捨てる。複数同時に襲い掛かる槍の攻撃を躱すのは至難の業で、彼の体にはさらに傷が走る。
最後の1本を両断し、甲冑の男へと睨みつける。しかし、すぐに睨みつけた相貌は驚きの色に変わる。甲冑の男は剣を掲げた姿勢で菜月を見ている。
だが、その剣の上には巨大な火炎の球が静止している。
「終幕だ。炎に呑まれて、消えろ…!!」
火炎の球から大量の炎弾を放たれる。大小無数、菜月の視界全てを覆いつくすような灼熱の弾幕に彼は、
「――――!!」
激しい爆炎が空を染め上げる。
燃え盛る炎の華が咲いた。甲冑の男は剣をおろし、己の勝利を確信した。
「なにっ!!」
炎が突如、空から一切消し飛ぶ。
不可解な現象に目を凝らす甲冑の男は、見据えた先に姿を捉えた。
菜月。そう、無傷の彼が平然と立っていた。彼はゆっくりと地上に降り立ち、剣を握りなおす。今、握っている剣は先ほどの五つに枝分けたような剣とは異なる、七つに枝分かれた剣七支刀であった。
菜月は唖然と立っている甲冑の男が理解していない事を見抜き、一応の答えを言った。
「――オイラの時綱、そして光陰は『それぞれの属性を操る心剣』だ。
と言っても、全てを操るにはいたれないが、炎程度なら無力化することぐらい苦労しない…といっても、完全に操る条件は自分が『上』でないといけないんだがな…」
つまりは、今の甲冑の男が操る炎では光陰手繰る菜月に及ばない。
その意味を理解したのか、男は吼える。
「黙れぇ―――っ! 調子に乗るな、乗るなぁああ!!」
そういうと、男は大剣を構えなおす。緋色に光帯びた刀身に更なる刃となってリーチを増した。
爆発したような殺意に菜月は思わず苦笑を浮かべた。
「悪い。逆鱗、踏んじゃったか。―――ま、オイラもさっさとお前を倒さないとな……待たせているかわいいやつがいるんでな」
そういうと、手にある光陰と同じの『黒い光陰』が現れ、それを握り締める。彼の周囲に魔法陣が現出する。
甲冑の男は阻もうと、光刃で巨大になった大剣を振り下ろす。
「―――光陰ッ! 双極―――」
巨大な光刃の一振りを魔法陣を光刃へとぶつけるように二振りの光陰で受け止め、魔法陣が光刃を染める。
そして、いとも容易くはじき返した。同時に魔法陣によって染められた光刃は粉々に砕け散る。唖然とする男に、菜月が瞬時に切り込んだ。
「――刹那!」
交差に走った刃の一閃と衝撃波、二つの属性の双撃を受けた甲冑の男は大きく吹き飛ばされ、地面に突っ伏した。すると、薄暗い空間が音を立てて崩れていく。