第五章 三剣士編第十六話「第三島攻略急の壱」
「―――終わったな。心剣士が反剣士に負けた証だ」
「……」
「まあ、アンタから奪った心剣はいい餌になったよ。じゃあ、トドメを刺すか」
「……おい」
突如、むくりと起き上がった。パワー・ストリームの風圧に全身を痛めつけられ、切り裂かれ、血塗れになって倒れていた彼―――刃沙羅が起き上がった。
「人の心剣食い逃げにされちゃあ困るんだよ…」
彼が虚空へと手を伸ばすと先ほどと同じ大刀の心剣『カオスゲヘナ』が顕現した。その事象に青年は大きく狼狽するように声を荒げる。
「馬鹿な! 心剣を食ったはず、再び復活するはず―――まさかッ!?」
「ご明察どおり、心剣の核まで顕現しない半端な状態でお前と戦っていた。「核」を食われりゃ終いだが、「核」があれば心剣士は問題なく顕現できる」
「……くっ」
「俺のカオスゲヘナはお前の言う「単純な力」しかない心剣だ。癒しの力なんて無い」
血にまみれた彼は炯炯とした眼光の中、話しを続ける。
「しかし、てめえを倒す分には問題ない。
―――顕現せよ」
「させるか!!」
大剣で地面を叩きつけるように振り下ろす。砕かれた地面の礫が刃沙羅へと迫る。
刹那。
「神威開眼」
刃沙羅を起点に発生した衝撃波が地面の礫を消し飛ばす。
神威開眼。数ある心剣士の中から発現する特殊能力で、心剣を更に強化した状態と呼ばれている。
青年は何度か刃沙羅以外の心剣士を戦い、倒してきた過去があるが、いずれもその様な力を持つものはいなかった。空想の能力と思っていた。
だが、たった今―――それは現実となってその姿を現す。
「―――『鬼神装剣カオスオーガ』―――」
姿を現した刃沙羅の手に先ほどの大刀の影も形も無かった。在ると言うならば目に見える
青年は黙して、彼の様子を注視する。
素手、剣の形はどこにも無い。ならば、神威開眼したカオスゲヘナは何処にある。
「っ――うぉぁああ!!」
青年は意を決して斬り込んだ。今、対峙している相手は無手、先ほどの一撃で傷まみれの男ではないか。
だが、疑問を抱こうとも青年はこの瞬間、大剣で刃沙羅めがけて振り下ろす。
「――」
刃沙羅が動く。まずは右腕を振り払った。
赤い残光を纏って大剣の一撃を弾き、刀身を折る。
「なにぃ!?」
「――」
すかさず、残光帯びた両手で青年へと繰り出した。その瞬間、青年の体に無数の斬撃が走り、そのまま崩れ落ちた。そうして、倒された事で彼を覆っていた仮面が消えた。
刃沙羅は一息ついて、倒れてる彼へと種明かしを口にした。
「俺の神威開眼…剣としての形をなすのではなくおれ自身を『剣』とする。
まあ、俺自身は体術で戦えるが幸いだ。ちょいと独特だが」
すると、荒れ果てた荒野が地震のような唸り声を上げる。
おそらくもといた広間に戻れるのだろうと重い、また一息ついた。
「―――……敵の罠だったか、別々に飛ばされたようだな」
水晶の洞窟のような場所に一人、ローレライは腰を下ろしている。だが、すぐに来た気配に立ち上がって黒い刻印が刻まれた透き通った赤い剣――彼の心剣『贖の罪劔』を引き抜く。
この心剣はかつてのオルガとの戦いに敗れ、贖罪の旅の折に顕現した。しかし、Sin化したオルガとの戦いでは償いの意識が強いあまりに振るう事は無かったが、今のローレライは問題なく手にとり、戦えるのであった。
ローレライの見据えた視線の先、水晶洞窟の奥から右腕を碧の光を帯びた銀の鎖で巻きつけ、左手には赤く光を帯びた手斧を持った仮面の男が現れた。
そして、何も言わずして男は腕に纏った鎖を投げ飛ばした。鎖は蛇のように意思がある動きで空を突き破りながらローレライへと襲い掛かった。
「!」
迫る鎖を剣で弾き、続けざまに赤い残光を帯びた衝撃波を幾重にも振り放つ。
男は駆けながら、迫る衝撃波を手斧で弾き、ローレライへと鎖を伸ばす。再び、剣で弾こうとした瞬間、鎖の軌道が変化し、刀身を絡め取って封殺する。
「なっ……くっ!!」
手斧の一撃を辛うじて体に浮かび上がった魔法陣の防御で防いだ。その隙に絡めとられた剣に魔力を纏った一閃を繰り出した。しかし、男も小さな動作一つでローレライの一撃を躱し、身を再び退けた。
ローレライの全身には直撃を受ける寸前で魔法陣が発現し、防ぐ事が出来るように施している。といっても、完全防御というのは万理に存在しない。
「……おかしい」
何かがおかしい。何か、ありえない事が起きているとローレライは思い、呟いた。
右の鎖からは心剣に似た力を感じ、左の手斧からは反剣に似た力を感じた。
おかしい。心剣士ならば反剣を振るう事も具現する事も叶わず、反剣士なら心剣を振るう事も具現する事も不可能だった。
「貴方、心剣士ですか? それとも反剣士なのですか?」
「―――そのどちらでもあると言えば……どうだ!」
男は再び鎖を放ってきた。鎖は理解不能な軌道を描きながら、ローレライへと襲い掛かる。彼も鎖に絡ませないように魔力を圧した弾をばら撒く様になげうつ。だが、鎖は爆破を受けても変わらぬ勢いでローレライを貫こうとした。
先ほどの魔法陣が浮かび、一突きを弾いた。
ローレライは鎖にではなく男へと衝撃波を放った。だが、迫る攻撃に臆せずに手斧で簡単に弾き飛ばす。
「ふん!」
弾かれた鎖がローレライを囲うように展開され、魔法陣を砕いた。
「!!?」
「鎧など、無駄だ!」
手斧の一閃が彼の体へと振り放たれた。魔法陣による防壁は無く、見事に一閃が入る。切り裂かれた箇所から鮮血が噴出す。
ローレライは牽制の斬撃を繰り出す。その破壊力は衝撃波を伴って、粉々にするほど。男は咄嗟に躱し、鎖を腕に巻く。
「……」
斬られた彼は空いた片手を傷口に触れる。青白い光で染まった片手の光を浴び、治癒と共に流血を留めた。
だが、男は更に攻め立てる。不規則な動きをする鎖を放ち、手斧に纏った力をぶつけるように衝撃波も乱れ打つ。
「―――はああっ!」
迫ってきた鎖を弾き、続けて衝撃波を切り伏せる。
しかし、衝撃波を囮にして間合いを詰めていた。手斧を振り下ろし、更なる一撃を与えた。ローレライは苦悶の顔でかみ締めながら、男を牽制して間合いを取る。
「……」
ローレライの体は先の攻撃を受け続け、傷を走り、血を流していた。男は確実に追い込んでいた。
けれど、何かがおかしい感覚が男の中にはあった。
一つとしては何度も攻撃を直撃しているのにもかかわらず、動きが変わらない。つまりは披露の色が一切無い。
「貴様、なぜ―――倒れん!」
男は鎖を鞭のように振り、空を引き裂く。そのしなやかな一撃を剣の刀身で防ぎながら、その問いを応えた。
「短く言うと痛みもダメージもそれほど受けていないからだ」
そう言って彼は鎖を弾き、魔力で固めた衝撃波を振り放った。更に衝撃波は無数に分裂し、男の体を斬りつけた。
「ぐっ…!?」
男は痛みのあまりに片膝をつく。威力が上がっているという事に気づいた。
「―――私の心剣『贖の罪劔』は私が受けるダメージを力に換えて取り込みます。といっても、全ての攻撃を吸収しませんがね。ある程度の「痛み」はなお残ります。それでも、今の私にとってはこの程度の痛みなど……『痛み』の領域に達しません」
「……痛みを力にする心剣、か……」
男は立ち上がって、武器を構えたままローレライを睨みすえる。
「なら―――致死の『痛み』を叩き込むだけだ!!」
そう吼えた男に応じるように腕に巻きついていた鎖が離れ、彼の周囲に浮遊する。次に手斧を掲げると、鎖は手斧と腕へと巻きつき、取り込むように収束した。
「……なるほど、それは単純で素晴らしい回答」
ローレライも片手で握っていたが両手で握り締め、振り放つ構えを取る。
取り込んでいた痛みを力に換えて、開放する。
「――うおおおっ!」
収束された手斧は巨大な刃持つ斧へと変貌し、男は一直線にローレライへと斬りかかる。
迎え撃つようにローレライも剣を振り下ろした。斧と剣の一撃による交差、空を待ったのは斧だった。
すかさず剣を振り放ち、男を一閃した。男は言葉を発する間もなく、崩れ落ちた。
アレスティアは闘技場のような場所に飛ばされ、彼女の前には仮面をつけた少女が立っていた。
金色の矛槍を片手に、アレクトゥスは身構える。一方、少女はその身を覆うように虚空から出現した鎧に包まれ、巨大な鎧騎士に早変わりした。
「へえ」
興味深く声を上げるアレスティアだったが、鎧騎士の放つ威圧感は紛れも無く飾りではない事を感じ取り、曇りない真剣な顔色へ。
地面を蹴り飛ばし、矛槍を振り放つ。その一撃を鉄甲の腕で難なく防ぎ、恥じ返した。
「ッ―――!!」
弾くことで発した風圧がアレスティアを吹き飛ばし、彼女は素早く受身をとる。鎧騎士は虚空より巨大な剣を引き抜く。見目に反した俊敏さから繰り出された一刀を寸で躱した。
闘技場の地面を抉り、切り裂いたその威力に息を呑んだ。
「……まともに戦うのは無謀、か。人ながら感心するわ」
そう呟き、アレスティアは権能の力を発動する。周囲の地面が隆起し、牙のように穿つ。
更に隆起した地面は生き物のように突如、動き出し―――アレスティアの権能による操作―――鎧騎士を囲い、刺し貫こうとした。しかし、鎧騎士は大剣で牙をなぎ払い、一刀両断する。
「まだよ」
崩れ落ちる牙が更に形を変え、大小無数の剣や槍などの武器となって続けざまに鎧騎士へと放たれる。この攻撃を鎧騎士は目を樋春ほどの跳躍で空を舞い、剣を振り下ろす構えを取る。
刀身に魔力が収束され、剣を振り下ろしながら落下する。地面と激突した瞬間、光の柱が無数に立ち上って武器の嵐を消し飛ばし、光の中から彼女が大剣を振りかぶりながら迫った。
「っ!!」
向かえ討つように矛槍を繰り出したが、大剣の一刀は簡単に矛槍の穂先を斬り、鎧騎士の鉄拳がアレスティアを捉えた。
「ぐ、はぅ」
いやな音、体を破壊された様な音と共にめり込む無慈悲の鉄拳を突きぬけ、アレスティアは大きく吹き飛ばされ、闘技場の壁に激突した。
壁にめり込んでいた彼女は崩れ落ちるともに地面に倒れこんだ。鎧騎士は一瞬で間合いをつめ、手にもつ大剣を持ち構え、トドメを刺そうとした。無論、すぐに振り下ろさず、しばし様子を見ている。
―――反応が無い。
判断した鎧騎士は掲げた大剣を倒れている彼女へと降りおろ―――。
「――『地郭編導』」
「……」
「まあ、アンタから奪った心剣はいい餌になったよ。じゃあ、トドメを刺すか」
「……おい」
突如、むくりと起き上がった。パワー・ストリームの風圧に全身を痛めつけられ、切り裂かれ、血塗れになって倒れていた彼―――刃沙羅が起き上がった。
「人の心剣食い逃げにされちゃあ困るんだよ…」
彼が虚空へと手を伸ばすと先ほどと同じ大刀の心剣『カオスゲヘナ』が顕現した。その事象に青年は大きく狼狽するように声を荒げる。
「馬鹿な! 心剣を食ったはず、再び復活するはず―――まさかッ!?」
「ご明察どおり、心剣の核まで顕現しない半端な状態でお前と戦っていた。「核」を食われりゃ終いだが、「核」があれば心剣士は問題なく顕現できる」
「……くっ」
「俺のカオスゲヘナはお前の言う「単純な力」しかない心剣だ。癒しの力なんて無い」
血にまみれた彼は炯炯とした眼光の中、話しを続ける。
「しかし、てめえを倒す分には問題ない。
―――顕現せよ」
「させるか!!」
大剣で地面を叩きつけるように振り下ろす。砕かれた地面の礫が刃沙羅へと迫る。
刹那。
「神威開眼」
刃沙羅を起点に発生した衝撃波が地面の礫を消し飛ばす。
神威開眼。数ある心剣士の中から発現する特殊能力で、心剣を更に強化した状態と呼ばれている。
青年は何度か刃沙羅以外の心剣士を戦い、倒してきた過去があるが、いずれもその様な力を持つものはいなかった。空想の能力と思っていた。
だが、たった今―――それは現実となってその姿を現す。
「―――『鬼神装剣カオスオーガ』―――」
姿を現した刃沙羅の手に先ほどの大刀の影も形も無かった。在ると言うならば目に見える
青年は黙して、彼の様子を注視する。
素手、剣の形はどこにも無い。ならば、神威開眼したカオスゲヘナは何処にある。
「っ――うぉぁああ!!」
青年は意を決して斬り込んだ。今、対峙している相手は無手、先ほどの一撃で傷まみれの男ではないか。
だが、疑問を抱こうとも青年はこの瞬間、大剣で刃沙羅めがけて振り下ろす。
「――」
刃沙羅が動く。まずは右腕を振り払った。
赤い残光を纏って大剣の一撃を弾き、刀身を折る。
「なにぃ!?」
「――」
すかさず、残光帯びた両手で青年へと繰り出した。その瞬間、青年の体に無数の斬撃が走り、そのまま崩れ落ちた。そうして、倒された事で彼を覆っていた仮面が消えた。
刃沙羅は一息ついて、倒れてる彼へと種明かしを口にした。
「俺の神威開眼…剣としての形をなすのではなくおれ自身を『剣』とする。
まあ、俺自身は体術で戦えるが幸いだ。ちょいと独特だが」
すると、荒れ果てた荒野が地震のような唸り声を上げる。
おそらくもといた広間に戻れるのだろうと重い、また一息ついた。
「―――……敵の罠だったか、別々に飛ばされたようだな」
水晶の洞窟のような場所に一人、ローレライは腰を下ろしている。だが、すぐに来た気配に立ち上がって黒い刻印が刻まれた透き通った赤い剣――彼の心剣『贖の罪劔』を引き抜く。
この心剣はかつてのオルガとの戦いに敗れ、贖罪の旅の折に顕現した。しかし、Sin化したオルガとの戦いでは償いの意識が強いあまりに振るう事は無かったが、今のローレライは問題なく手にとり、戦えるのであった。
ローレライの見据えた視線の先、水晶洞窟の奥から右腕を碧の光を帯びた銀の鎖で巻きつけ、左手には赤く光を帯びた手斧を持った仮面の男が現れた。
そして、何も言わずして男は腕に纏った鎖を投げ飛ばした。鎖は蛇のように意思がある動きで空を突き破りながらローレライへと襲い掛かった。
「!」
迫る鎖を剣で弾き、続けざまに赤い残光を帯びた衝撃波を幾重にも振り放つ。
男は駆けながら、迫る衝撃波を手斧で弾き、ローレライへと鎖を伸ばす。再び、剣で弾こうとした瞬間、鎖の軌道が変化し、刀身を絡め取って封殺する。
「なっ……くっ!!」
手斧の一撃を辛うじて体に浮かび上がった魔法陣の防御で防いだ。その隙に絡めとられた剣に魔力を纏った一閃を繰り出した。しかし、男も小さな動作一つでローレライの一撃を躱し、身を再び退けた。
ローレライの全身には直撃を受ける寸前で魔法陣が発現し、防ぐ事が出来るように施している。といっても、完全防御というのは万理に存在しない。
「……おかしい」
何かがおかしい。何か、ありえない事が起きているとローレライは思い、呟いた。
右の鎖からは心剣に似た力を感じ、左の手斧からは反剣に似た力を感じた。
おかしい。心剣士ならば反剣を振るう事も具現する事も叶わず、反剣士なら心剣を振るう事も具現する事も不可能だった。
「貴方、心剣士ですか? それとも反剣士なのですか?」
「―――そのどちらでもあると言えば……どうだ!」
男は再び鎖を放ってきた。鎖は理解不能な軌道を描きながら、ローレライへと襲い掛かる。彼も鎖に絡ませないように魔力を圧した弾をばら撒く様になげうつ。だが、鎖は爆破を受けても変わらぬ勢いでローレライを貫こうとした。
先ほどの魔法陣が浮かび、一突きを弾いた。
ローレライは鎖にではなく男へと衝撃波を放った。だが、迫る攻撃に臆せずに手斧で簡単に弾き飛ばす。
「ふん!」
弾かれた鎖がローレライを囲うように展開され、魔法陣を砕いた。
「!!?」
「鎧など、無駄だ!」
手斧の一閃が彼の体へと振り放たれた。魔法陣による防壁は無く、見事に一閃が入る。切り裂かれた箇所から鮮血が噴出す。
ローレライは牽制の斬撃を繰り出す。その破壊力は衝撃波を伴って、粉々にするほど。男は咄嗟に躱し、鎖を腕に巻く。
「……」
斬られた彼は空いた片手を傷口に触れる。青白い光で染まった片手の光を浴び、治癒と共に流血を留めた。
だが、男は更に攻め立てる。不規則な動きをする鎖を放ち、手斧に纏った力をぶつけるように衝撃波も乱れ打つ。
「―――はああっ!」
迫ってきた鎖を弾き、続けて衝撃波を切り伏せる。
しかし、衝撃波を囮にして間合いを詰めていた。手斧を振り下ろし、更なる一撃を与えた。ローレライは苦悶の顔でかみ締めながら、男を牽制して間合いを取る。
「……」
ローレライの体は先の攻撃を受け続け、傷を走り、血を流していた。男は確実に追い込んでいた。
けれど、何かがおかしい感覚が男の中にはあった。
一つとしては何度も攻撃を直撃しているのにもかかわらず、動きが変わらない。つまりは披露の色が一切無い。
「貴様、なぜ―――倒れん!」
男は鎖を鞭のように振り、空を引き裂く。そのしなやかな一撃を剣の刀身で防ぎながら、その問いを応えた。
「短く言うと痛みもダメージもそれほど受けていないからだ」
そう言って彼は鎖を弾き、魔力で固めた衝撃波を振り放った。更に衝撃波は無数に分裂し、男の体を斬りつけた。
「ぐっ…!?」
男は痛みのあまりに片膝をつく。威力が上がっているという事に気づいた。
「―――私の心剣『贖の罪劔』は私が受けるダメージを力に換えて取り込みます。といっても、全ての攻撃を吸収しませんがね。ある程度の「痛み」はなお残ります。それでも、今の私にとってはこの程度の痛みなど……『痛み』の領域に達しません」
「……痛みを力にする心剣、か……」
男は立ち上がって、武器を構えたままローレライを睨みすえる。
「なら―――致死の『痛み』を叩き込むだけだ!!」
そう吼えた男に応じるように腕に巻きついていた鎖が離れ、彼の周囲に浮遊する。次に手斧を掲げると、鎖は手斧と腕へと巻きつき、取り込むように収束した。
「……なるほど、それは単純で素晴らしい回答」
ローレライも片手で握っていたが両手で握り締め、振り放つ構えを取る。
取り込んでいた痛みを力に換えて、開放する。
「――うおおおっ!」
収束された手斧は巨大な刃持つ斧へと変貌し、男は一直線にローレライへと斬りかかる。
迎え撃つようにローレライも剣を振り下ろした。斧と剣の一撃による交差、空を待ったのは斧だった。
すかさず剣を振り放ち、男を一閃した。男は言葉を発する間もなく、崩れ落ちた。
アレスティアは闘技場のような場所に飛ばされ、彼女の前には仮面をつけた少女が立っていた。
金色の矛槍を片手に、アレクトゥスは身構える。一方、少女はその身を覆うように虚空から出現した鎧に包まれ、巨大な鎧騎士に早変わりした。
「へえ」
興味深く声を上げるアレスティアだったが、鎧騎士の放つ威圧感は紛れも無く飾りではない事を感じ取り、曇りない真剣な顔色へ。
地面を蹴り飛ばし、矛槍を振り放つ。その一撃を鉄甲の腕で難なく防ぎ、恥じ返した。
「ッ―――!!」
弾くことで発した風圧がアレスティアを吹き飛ばし、彼女は素早く受身をとる。鎧騎士は虚空より巨大な剣を引き抜く。見目に反した俊敏さから繰り出された一刀を寸で躱した。
闘技場の地面を抉り、切り裂いたその威力に息を呑んだ。
「……まともに戦うのは無謀、か。人ながら感心するわ」
そう呟き、アレスティアは権能の力を発動する。周囲の地面が隆起し、牙のように穿つ。
更に隆起した地面は生き物のように突如、動き出し―――アレスティアの権能による操作―――鎧騎士を囲い、刺し貫こうとした。しかし、鎧騎士は大剣で牙をなぎ払い、一刀両断する。
「まだよ」
崩れ落ちる牙が更に形を変え、大小無数の剣や槍などの武器となって続けざまに鎧騎士へと放たれる。この攻撃を鎧騎士は目を樋春ほどの跳躍で空を舞い、剣を振り下ろす構えを取る。
刀身に魔力が収束され、剣を振り下ろしながら落下する。地面と激突した瞬間、光の柱が無数に立ち上って武器の嵐を消し飛ばし、光の中から彼女が大剣を振りかぶりながら迫った。
「っ!!」
向かえ討つように矛槍を繰り出したが、大剣の一刀は簡単に矛槍の穂先を斬り、鎧騎士の鉄拳がアレスティアを捉えた。
「ぐ、はぅ」
いやな音、体を破壊された様な音と共にめり込む無慈悲の鉄拳を突きぬけ、アレスティアは大きく吹き飛ばされ、闘技場の壁に激突した。
壁にめり込んでいた彼女は崩れ落ちるともに地面に倒れこんだ。鎧騎士は一瞬で間合いをつめ、手にもつ大剣を持ち構え、トドメを刺そうとした。無論、すぐに振り下ろさず、しばし様子を見ている。
―――反応が無い。
判断した鎧騎士は掲げた大剣を倒れている彼女へと降りおろ―――。
「――『地郭編導』」