第五章 三剣士編第十七話「第三島攻略急の弐」
倒れたままの彼女が何かを呟いた。しかし、振り下ろす勢いは変わらない。
瞬間、鎧騎士は側面から迫ってきた土の塊に吹き飛ばされた。
「!! ――ッ!!?」
巨躯を誇った鎧騎士は自分が空を待っている事に驚愕し、すぐに地上を見下ろした。そこには自分を吹き飛ばした謎めいた土の塊、そして、倒れていたアレスティアがゆっくりと起き上がった。
更には傍らから地面が隆起し、瞬時に崩れた。中から姿を見せたのは先ほど両断された黄金の矛槍。
彼女はまず口に垂れた血を拭い、矛槍を掴んで、鎧騎士がいる空を仰いだ。
「『厳岩の神衣』、武装!」
彼女の傍にある土の塊が砕け、形を変えながらアレスティアと矛槍に装着される。鎧のように変化し、文字通りの『武装』を為した。
そして、地面を跳躍する。一度の跳躍で鎧騎士の頭上まで舞い上がり、武装された矛槍を振り下ろす。
「はあああっ!!」
鎧騎士は大剣で先ほどと同じように矛槍を両断しようと振り放った。だが、斬りつけたは矛槍を両断せず、逆に弾き返された。更に、彼女は矛槍を突き出し、大剣も持つ手元を穿つ。
深々と突き刺さった一突きを受け、鎧騎士はその痛みのあまりに大剣を手放し、悶える様に体勢を崩し、激しく抵抗するように空いた片手で振り払う。
「捉えた」
すぐに手元を刺し貫いていた矛槍を引き抜き、落下する鎧騎士の上から乾坤一擲の投擲を放った。
放たれた矛槍の威力は鎧の胸当てを難なく打ち砕き、内側にいるであろう女性ごと貫き、地面へとたたきつけた。
「ぁっ―――…!」
鎧騎士の内側からくぐもった女性の悲鳴が上がった。地上へ着地したアレクトゥスは鎧騎士へと近づく。すると、鎧騎士の形が薄らいでいき、先ほどの女性が倒れていた。
無論、彼女の胸にはアレスティアが擲った矛槍が貫いており、このまま放置すれば死は免れない。
「……」
アレスティアは黙りこくったまま、矛槍の柄を掴んだ。
このまま引き抜けば、女性の命は無い。だが、慈悲を与える気も無い。
しかし、何故か引き抜こうとする力が湧き上がらない。本来なら怒りの言葉を吐き捨て、引き抜こうとするのに。
「……」
ふと、ビフロンスやモノマキアでの神無との会話を思い出した。その会話はモノマキアで各島へ攻勢するメンバー一人一人に話していた。
アレスティアはモノマキアで神無に話しかけられた。彼は自分と同じ四属半神のブレイズを打ち破って、彼女の『人間に対する態度』をもろとも砕いている。そんな彼から頼まれた事を思い返す。
『操られている奴らは救い出してほしい。殺す行為は絶対にするな』。そう言って、彼は笑顔を向けて、『頼んだ』と会話を終わらせた。こっちの意見は聞こうとしなかった。
「―――ふん」
しかし、彼らと協力関係を結んでいる今、その頼み事を理解した上で矛槍をゆっくりと引き抜く。無論、刺さっている穂先に魔法を発動させながら。
「うぅっ……ぁ……」
といっても、貫いた体を一瞬で治癒する魔法など存在しない。回復魔法だろうが時間が圧倒的にかかる。故に、彼女の貫いた傷口全てを『土』で代用する。この『土』はアレスティアが具現化した人体にも無害。
そして、完全に引き抜いたアレスティアは倒れた彼女を抱き起こし、様子を見た。
「……」
すると、この空間全体が大きく揺れ始める。
崩壊するような感覚をアレスティアは思いながら、女性を抱き起こしてただ、崩落を待った。
激しい音と共に、シンメイの目の前に空間が広がり、中から菜月たち、更には操られていた心剣士、反剣士たちが現れた。
「おお、無事か」
「―――どうも、レプセキアに戻れたようだな」
シンメイや、周囲を伺いながら菜月は呟いた。戻ってきた面々も同じだった。
「菜月」
「ん、なんだよ」
アレクトゥスに声をかけられ、振り向くとアレクトゥスが小柄の女性を抱えており、差し出すように伸ばす。
「この先の部屋にある結界を解除する。この女を持っていてくれ。――後は入り口の方へ戻っていて暮れ」
「あ……ああ」
菜月が女性を抱え、刃沙羅たちも倒れたものたちを抱えながら広間を後にしていくのを見届けた後、彼女は広間の奥にある部屋へと足を向けた。
しばらく神殿の外で待っていると、アレクトゥスが戻ってきた。これで4つの結界装置が全て解除される。
第一島を包んでいた結界が突如、砕けるような音を立てて消滅する。その様子は、モノマキア、レプセキア第一島の内部から確認された。
第一島神殿の最奥の広間、アバタールは黒い体を起こし上げ、異変に気づいた。
「……結界が、解かれた…」
しばし映りだされた様子を見ていたが、首を振って、笑みをこぼした。
もはや、余計な考えは不要だ。此処でに攻め入る者たちが来ようとも自分は負けない。その確固たる自信が彼を更に笑み高らかに上げさせた。
「ふくく…はははは!」
湧き上がる狂った笑い声は空しく広間を包み、唯一、その声を聞いているのは深い眠りについているレプキアだけだった。
幕間2
第二島、第四島を攻略し終えたメンバーはモノマキアへ帰還し、それぞれ別々に行動していた。
休息するもの、雑談をするものへと分かれた。
「……びっくりしたぞ、紗那」
「あー…ははは」
紗那たちは第四島神殿内で待ち構えていた吸血鬼の少女シャッドとの戦闘で、彼女とイヴは全身血まみれのまま、モノマキアへと帰還した。
帰還して、すぐさま二人は衣服も新調し、身を清めたのだった。しかし、新調した衣装は元々着ていた服ではなくモノマキアに備えていた服だった。
「どう?」
「まあ、似合ってると思うぞ」
「反応薄いわね」
にこやかに話している紗那に対して、神月は素っ気無く返している。そのやり取りは傍から見れば睦まじいことであった。
「すまん。――ほかのやつらが気になってな」
「はは、そうだよね。やっぱり」
紗那は気を紛らわせようと話していたが、神月は真面目に侘びた事で話を切り上げた。
船内の廊下は部屋が並んでいる。二人は廊下の壁にたたずみながら会話をしている。
「にしても、広いよね。この船」
「ああ。ある程度『内部の空間を組み替え直す』ことが可能だから、広く感じるな…さすがは半神の船というべきかな」
「ふふ…厳密には私とアイネアスの船だったけどね」
すると、二人の方へと歩み寄ってきた女性――半神サイキが微笑み混じりに話しかけてきた。
反応した二人は彼女の方へ振り向く。サイキとアイネアスが同じ半神かつ夫婦としての情報はすでにビフロンスで知っていた。
だが、神月の胸中には疑問があったのだ。
「サイキさん、一つ聞きたい事がある」
「はい? 何でしょう」
にこやかに了承した彼女に、怪訝さを含んだ真剣な顔色のまま彼は尋ねた。
「レプキアと半神っていうなれば『親子』なんだよな。子同士の夫婦か……何か違和感しかないんだが?」
微笑を浮かべていたサイキの表情は誰から見ても解るように真顔になる。笑みで閉じていた目は開かれ、その双眸はしっかりと彼を見据えていた。
しかし、黙り込むようすはなく、一息ついてから口を開いた。
「――『人間の条理』なら、私たちは異端異質でしょう。でも、われわれ半神とレプキアはそんな関係じゃあ無いところもあるから。正直、親子といえど「血」は通っていないわ。あくまで『レプキアが構築した存在』が我々、半神みたいなものよ」
「…」
「それでも、私たちはレプキアを母と呼び慕い続けるわ。彼女のために命を賭す覚悟はある」
微笑みに浮かべた中にある確固とした意思の表れを見て、神月は失言をわびた。
「失礼な事を聞いた。すまない…」
「いえ、いいのよ。―――あら?」
ふと、サイキは耳を澄ます。上甲板のほうが慌しくなったことに気づく。
彼女と共に上甲板に戻ると、第三、第五島のメンバーが帰還してきたのだった。戻ってきた事を喜び合うように賑やかに話し合う中、アイネアスが上甲板へ上がってくるとアレクトゥスが彼へと話しかける。
「現状、全ての結界は解除したはずだ」
「はい。結界は解除された事は確認しました。―――第一島攻略の皆さんは15分後、第一島へと向かいます! 準備、お願いしますね」
その言葉を聴き、みなは真剣な空気を飲み込んだ。
前哨戦は終わった。本番は、聖域奪還およびレプキア救出はこれからだからだ。
みなの胸中の高鳴り共に一幕を下ろす。
瞬間、鎧騎士は側面から迫ってきた土の塊に吹き飛ばされた。
「!! ――ッ!!?」
巨躯を誇った鎧騎士は自分が空を待っている事に驚愕し、すぐに地上を見下ろした。そこには自分を吹き飛ばした謎めいた土の塊、そして、倒れていたアレスティアがゆっくりと起き上がった。
更には傍らから地面が隆起し、瞬時に崩れた。中から姿を見せたのは先ほど両断された黄金の矛槍。
彼女はまず口に垂れた血を拭い、矛槍を掴んで、鎧騎士がいる空を仰いだ。
「『厳岩の神衣』、武装!」
彼女の傍にある土の塊が砕け、形を変えながらアレスティアと矛槍に装着される。鎧のように変化し、文字通りの『武装』を為した。
そして、地面を跳躍する。一度の跳躍で鎧騎士の頭上まで舞い上がり、武装された矛槍を振り下ろす。
「はあああっ!!」
鎧騎士は大剣で先ほどと同じように矛槍を両断しようと振り放った。だが、斬りつけたは矛槍を両断せず、逆に弾き返された。更に、彼女は矛槍を突き出し、大剣も持つ手元を穿つ。
深々と突き刺さった一突きを受け、鎧騎士はその痛みのあまりに大剣を手放し、悶える様に体勢を崩し、激しく抵抗するように空いた片手で振り払う。
「捉えた」
すぐに手元を刺し貫いていた矛槍を引き抜き、落下する鎧騎士の上から乾坤一擲の投擲を放った。
放たれた矛槍の威力は鎧の胸当てを難なく打ち砕き、内側にいるであろう女性ごと貫き、地面へとたたきつけた。
「ぁっ―――…!」
鎧騎士の内側からくぐもった女性の悲鳴が上がった。地上へ着地したアレクトゥスは鎧騎士へと近づく。すると、鎧騎士の形が薄らいでいき、先ほどの女性が倒れていた。
無論、彼女の胸にはアレスティアが擲った矛槍が貫いており、このまま放置すれば死は免れない。
「……」
アレスティアは黙りこくったまま、矛槍の柄を掴んだ。
このまま引き抜けば、女性の命は無い。だが、慈悲を与える気も無い。
しかし、何故か引き抜こうとする力が湧き上がらない。本来なら怒りの言葉を吐き捨て、引き抜こうとするのに。
「……」
ふと、ビフロンスやモノマキアでの神無との会話を思い出した。その会話はモノマキアで各島へ攻勢するメンバー一人一人に話していた。
アレスティアはモノマキアで神無に話しかけられた。彼は自分と同じ四属半神のブレイズを打ち破って、彼女の『人間に対する態度』をもろとも砕いている。そんな彼から頼まれた事を思い返す。
『操られている奴らは救い出してほしい。殺す行為は絶対にするな』。そう言って、彼は笑顔を向けて、『頼んだ』と会話を終わらせた。こっちの意見は聞こうとしなかった。
「―――ふん」
しかし、彼らと協力関係を結んでいる今、その頼み事を理解した上で矛槍をゆっくりと引き抜く。無論、刺さっている穂先に魔法を発動させながら。
「うぅっ……ぁ……」
といっても、貫いた体を一瞬で治癒する魔法など存在しない。回復魔法だろうが時間が圧倒的にかかる。故に、彼女の貫いた傷口全てを『土』で代用する。この『土』はアレスティアが具現化した人体にも無害。
そして、完全に引き抜いたアレスティアは倒れた彼女を抱き起こし、様子を見た。
「……」
すると、この空間全体が大きく揺れ始める。
崩壊するような感覚をアレスティアは思いながら、女性を抱き起こしてただ、崩落を待った。
激しい音と共に、シンメイの目の前に空間が広がり、中から菜月たち、更には操られていた心剣士、反剣士たちが現れた。
「おお、無事か」
「―――どうも、レプセキアに戻れたようだな」
シンメイや、周囲を伺いながら菜月は呟いた。戻ってきた面々も同じだった。
「菜月」
「ん、なんだよ」
アレクトゥスに声をかけられ、振り向くとアレクトゥスが小柄の女性を抱えており、差し出すように伸ばす。
「この先の部屋にある結界を解除する。この女を持っていてくれ。――後は入り口の方へ戻っていて暮れ」
「あ……ああ」
菜月が女性を抱え、刃沙羅たちも倒れたものたちを抱えながら広間を後にしていくのを見届けた後、彼女は広間の奥にある部屋へと足を向けた。
しばらく神殿の外で待っていると、アレクトゥスが戻ってきた。これで4つの結界装置が全て解除される。
第一島を包んでいた結界が突如、砕けるような音を立てて消滅する。その様子は、モノマキア、レプセキア第一島の内部から確認された。
第一島神殿の最奥の広間、アバタールは黒い体を起こし上げ、異変に気づいた。
「……結界が、解かれた…」
しばし映りだされた様子を見ていたが、首を振って、笑みをこぼした。
もはや、余計な考えは不要だ。此処でに攻め入る者たちが来ようとも自分は負けない。その確固たる自信が彼を更に笑み高らかに上げさせた。
「ふくく…はははは!」
湧き上がる狂った笑い声は空しく広間を包み、唯一、その声を聞いているのは深い眠りについているレプキアだけだった。
幕間2
第二島、第四島を攻略し終えたメンバーはモノマキアへ帰還し、それぞれ別々に行動していた。
休息するもの、雑談をするものへと分かれた。
「……びっくりしたぞ、紗那」
「あー…ははは」
紗那たちは第四島神殿内で待ち構えていた吸血鬼の少女シャッドとの戦闘で、彼女とイヴは全身血まみれのまま、モノマキアへと帰還した。
帰還して、すぐさま二人は衣服も新調し、身を清めたのだった。しかし、新調した衣装は元々着ていた服ではなくモノマキアに備えていた服だった。
「どう?」
「まあ、似合ってると思うぞ」
「反応薄いわね」
にこやかに話している紗那に対して、神月は素っ気無く返している。そのやり取りは傍から見れば睦まじいことであった。
「すまん。――ほかのやつらが気になってな」
「はは、そうだよね。やっぱり」
紗那は気を紛らわせようと話していたが、神月は真面目に侘びた事で話を切り上げた。
船内の廊下は部屋が並んでいる。二人は廊下の壁にたたずみながら会話をしている。
「にしても、広いよね。この船」
「ああ。ある程度『内部の空間を組み替え直す』ことが可能だから、広く感じるな…さすがは半神の船というべきかな」
「ふふ…厳密には私とアイネアスの船だったけどね」
すると、二人の方へと歩み寄ってきた女性――半神サイキが微笑み混じりに話しかけてきた。
反応した二人は彼女の方へ振り向く。サイキとアイネアスが同じ半神かつ夫婦としての情報はすでにビフロンスで知っていた。
だが、神月の胸中には疑問があったのだ。
「サイキさん、一つ聞きたい事がある」
「はい? 何でしょう」
にこやかに了承した彼女に、怪訝さを含んだ真剣な顔色のまま彼は尋ねた。
「レプキアと半神っていうなれば『親子』なんだよな。子同士の夫婦か……何か違和感しかないんだが?」
微笑を浮かべていたサイキの表情は誰から見ても解るように真顔になる。笑みで閉じていた目は開かれ、その双眸はしっかりと彼を見据えていた。
しかし、黙り込むようすはなく、一息ついてから口を開いた。
「――『人間の条理』なら、私たちは異端異質でしょう。でも、われわれ半神とレプキアはそんな関係じゃあ無いところもあるから。正直、親子といえど「血」は通っていないわ。あくまで『レプキアが構築した存在』が我々、半神みたいなものよ」
「…」
「それでも、私たちはレプキアを母と呼び慕い続けるわ。彼女のために命を賭す覚悟はある」
微笑みに浮かべた中にある確固とした意思の表れを見て、神月は失言をわびた。
「失礼な事を聞いた。すまない…」
「いえ、いいのよ。―――あら?」
ふと、サイキは耳を澄ます。上甲板のほうが慌しくなったことに気づく。
彼女と共に上甲板に戻ると、第三、第五島のメンバーが帰還してきたのだった。戻ってきた事を喜び合うように賑やかに話し合う中、アイネアスが上甲板へ上がってくるとアレクトゥスが彼へと話しかける。
「現状、全ての結界は解除したはずだ」
「はい。結界は解除された事は確認しました。―――第一島攻略の皆さんは15分後、第一島へと向かいます! 準備、お願いしますね」
その言葉を聴き、みなは真剣な空気を飲み込んだ。
前哨戦は終わった。本番は、聖域奪還およびレプキア救出はこれからだからだ。
みなの胸中の高鳴り共に一幕を下ろす。
■作者メッセージ
はい、ひとまず第五章は終了。
断章など織り込めれば織り込もうと思いますが無い場合はバトンを変える予定。長くお待たせしたので本当に申し訳ない
断章など織り込めれば織り込もうと思いますが無い場合はバトンを変える予定。長くお待たせしたので本当に申し訳ない