Another chapter8 Sora side‐4
不意に、身体が揺さぶられる。
同時に知らない声がリクの耳に入る。声の高さからして、これは少女だろう。
少しずつ頭が回って来たのか、眠りの暗闇に光が差し込んだ。
「ん…うぅ…」
そうして身動ぎしてゆっくりと目を開けると、青い髪の少女の顔が目の前に広がっていた。
「――良かった、気が付いた…!!」
安心したように顔を綻ばす少女に、リクは横になったまま口を開く。
「君は…――リリィ、だったか…?」
「はい! それより、大丈夫ですか?」
「あぁ…どうにか、な」
そう言うと、手を地面に付けて立ち上がる。
だが、急に足元がふらつくので頭を押さえる。と、ここである事に気づいた。
「そうだ、オパールは!?」
あの時リリィと一緒に渓谷に落ちて流されたのを思い出し、すぐに辺りを見回す。
すると、少し先で自分と同じく岸に流れ着いたのか仰向けに倒れている。
この様子に、リクは慌てて近づくとオパールの身体を揺さぶった。
「おい、しっかりしろ!? オパール!!」
「う、うんっ…」
声をかけながら揺さぶると、意識を取り戻したのかゆっくりと目を開いた。
「リク…?」
「良かった!! 無事か!?」
「あたし…あ、れ…?」
頭が回らず思い出せないのか、頭を振って上半身を起こそうとする。
しかし、途中でよろめいて身体が崩れるのでリクが背中を抱える。
すると、オパールは意識を取り戻し目を見開くが、何故か顔を真っ赤にさせた。
「あ、あ、あ…――のぉうああああああああああっ!!!??」
「ぶべぇ!!?」
二人分の悲鳴と共に、バチィンと景気のいい音が辺りに響き渡ったのは言うまでもない…。
「…ごめん、リク」
「き…気にするな…!! 俺も、悪かったんだ…よな?」
座り込んだ状態で顔を俯かせるオパールに、リクは平手で打たれた頬を擦りながらリリィに目配せする。
「え、えっと…私に聞かれても…」
これにはリリィも困ったように顔を逸らすので、何とも言えない空気に包まれる。
さすがのオパールもこの空気には耐えきれず、話を戻す事にした。
「そ、それより…どこまで流されたのかな、あたし達って?」
自分達のいる場所を見回すと、水の流れが速い岸辺に流れ着いた状態だ。
リクも上を見るが、落ちた筈の足場所か道も無くソラ達もいない。嫌でも別の場所まで流されてしまったのが分かる。
「完全にソラ達と離れ離れになったな…」
「この潮の流れじゃ、早すぎて戻れないし…」
オパールも困ったように流れの激しい渓流を見ていると、リリィが声をかけた。
「あの…戻る道なら、こっちにありますけど?」
二人は振り向いてリリィの指した方を見ると、壁の部分に大きな割れ目が出来て道になっている。
これを見て、リクは軽く溜め息を吐くと腕を組んだ。
「地道に歩いて戻るしかなさそうだな」
「だね…どっちみち、リリィは見つけたんだし。送り届けないと」
「あ! そう言えば、どうして私の名前を?」
「実は――」
驚くリリィに、リクがこれまでの事を説明する。
そうして全部説明し終えると、リリィは暗い顔で俯いた。
「そうだったんですか…皆に何て謝ろう…」
「それはここを出てから考えればいいさ。さ、とにかく行こう」
「はい! …えっと?」
リクに返事したものの、何故かリリィは困ったように交互にこちらの顔を見る。
どうしてそんな態度を取るのか分からずリクが首を傾げる中、オパールは言いたい事が分かったのか苦笑を浮かべた。
「そう言えば、あたし達の自己紹介まだだったよね? あたしはオパール!」
「…リクだ」
「あんたね、それだけ?」
「それだけって言われても…」
「ふ、ふふっ…!」
呆れた視線を送るオパールにリクが顔を逸らしていると、突然リリィが笑う。
思わず二人が口を閉ざして注目していると、視線に気づいたのかリリィは笑みを浮かべつつ謝った。
「あっ…ごめんなさい。じゃあ、宜しくお願いします。リク、オパール」
「うん、よろしく!」
「あ、ああ…」
それから三人は、ソラ達と合流するために先へ進む事にした。
だが、先へ進むごとにハートレスが束になって現れる。しかも、さっきよりも人数が少なく、リリィもいるので守りながらの戦いとなる。
最初こそ慣れない戦い方で二人は戸惑ったものの、五回目ともなると邪魔にならないようリリィはその場を離れ、リクとオパールも互いに息が合ってきた。
「ったく、しつこいほどハートレスが出るな…」
「ホント。あたし達が分担されても倒せるだけマシかな…」
少しして全てのハートレスを倒すと、リクとオパールはそれぞれ武器を仕舞いながら息を吐く。
そんな二人に、後ろで観戦していたリリィが近寄った。
「二人とも、強いんだね…羨ましいな」
顔を俯かせながら呟いた言葉に、オパールは不思議そうに問いかけた。
「リリィって、戦えないのにここに来たの?」
「うん…ここにどうしてあの闇が…――ハートレスが出たのか、知りたかったの。ここは、私が好きな場所だから」
「それで、何か分かったのか?」
リクが聞くが、リリィは俯きながら首を振った。
「私、ここに入ってから何にも覚えてなくて……少し前に目が覚めて、歩いてたらハートレスが現れたから必死で逃げて…」
「あたし達と会ったって訳か…でも、何にも覚えてないってどう言う事?」
「よく、分からない。この洞窟に入って…いつの間にか、気を失ってたみたいで。何でかも、覚えてないんだ…」
「そっか…」
本当に記憶が欠落しているのが分かり、さすがのオパールはこれ以上聞かない事にする。
そうしてリリィから顔を逸らしていると、リクが腕を組んで責める様な目でオパールを見ていた。
「オパール、思い出せない事をそうやって聞くのは良くないぞ。記憶を無理に思い出そうとしたら、別の思い出と混ざって本当の事が思い出せなくなる」
「悪かったわよ…まったく、強いだけじゃなくて妙な知識もあるわね」
「これは――…教えられただけだ」
顔を逸らしながら言ったリクの言葉に、オパールは思わず反応した。
「誰に?」
「…ちょっとした知り合いだ」
リクはそう言うと、過去の記憶を思い出す。
記憶の魔女と呼ばれた、カイリのノーバディ―――ナミネ。
ソラの記憶の修復中や、13機関との戦いの中で彼女と過ごした時期は追われる身だったので大変だった。それでも、ナミネからは記憶についていろいろと学ばされた。
「あっそ」
そうしてリクが過去の出来事に耽っている隙に、オパールは不貞腐れように後ろに腕を組む。
そのまま先へとオパールが歩き出すと、話を聞いていたリリィが口を開いた。
「ねえ、思ったんだけど…」
「どうした?」
すぐにリクが顔を向けると、リリィはそれぞれ二人を見て首を傾げた。
「二人って、もしかして恋人同士なの?」
「「ぶふッ!!?」」
予想もしなかったこの質問に、二人は同時に噴いてしまう。
オパールさえも足を止めてリリィに振り向くと、顔を真っ赤にさせてブンブンと手を振った。
「あああ…!! そそそそその、ちちちちち違うわよっ!!?」
「あ、ああ違うっ!! こいつとは何の関係もぐごがぁ!!?」
リクも若干顔を赤くして否定していると、急に怒りで顔を赤くしたオパールが首を絞め出して持ち上げた。
「ちょっとぉ!!! 普通そこまで否定するっ!!?」
「く…くび……しま、って…っ!?」
「オパール!? リクが呼吸困難で死にかけてるぅぅぅ!!?」
顔から血の気が無くなるリクを見て、慌ててリリィが止めに入った。