Another chapter8 Sora side‐5
少しずつ、壁の煌めきが弱々しくなっていく。
それに伴うように、洞窟の内部も薄暗くなっていった。
「マズイな…段々と暗くなってる」
夜に近づいているのに気づかされ、リクは不安げに辺りを見回す。
オパールも足を止めると、周りを確認しながら口を開いた。
「どうしよっか…今日はここで野宿する?」
「それしかないな……ソラ達は無事だといいんだが…」
そう言いながらリクが落胆の溜息を吐いていると、後ろを歩いていたリリィが頭を下げた。
「あの、すみません。私の所為で…」
「気にするなよ。さて、火を起こすとして…こんな所に木の枝なんてないしな…」
辺りを見回すが、周りは湿った石だらけで焚火に使えそうな物がない。
そんな中、オパールは笑いながら胸を叩いた。
「火なら任せて。とりあえず、火を囲む石を集めましょ」
「何をする気なんだ?」
「いいからいいからっ!」
訝しげに顔を顰めるリクに、オパールは気にせずに野宿の準備を始める。
それを見て残された二人は顔を見合わせるが、すぐにオパールの言う通り石を集め始めた。
壁に反射される煌めきは、今は太陽の代わりに月の光で淡い輝きで光っている。
綺麗で儚い光が暗闇に呑まれそうな壁が崩れた場所で、円状に囲んだ石の中に赤い結晶が置いてありそれを中心に炎が放たれている。
そんな焚火代わりの炎を囲むように、三人は座っていた。
「…凄いな、【合成】って言う技術…」
「火を起こして明かりも灯せるし、戦いに使えるし…オパールって凄いね」
この技術に感心する二人に、オパールは何処か嬉しそうに笑みを浮かべた。
「たまたま材料があったから出来たのよ。何だったら、二人にも教えようか?」
「俺は遠慮する…」
「興味はあるけど、難しそうだな…」
「まあ、数日で簡単に出来る技術じゃないのはあたしも認めるけどね」
すぐに辞退を申し出る二人に、オパールも苦笑を張り付ける。
何処か朗らかな空気三人が包まれていると、徐にリリィがポケットに手を入れる。
そうして取り出したのは、少し大きめのアクアマリンのブローチ。それを見て、オパールは思わず身を乗り出してブローチに注目した。
「それは?」
「私の家に、代々伝わるお守りなの」
リリィが微笑みながら答えると、手の中のブローチを見ながら語り出した。
「海は時に人の命を奪ったりする事もあるから……この宝石は、そんな災厄から守ってくれるんだって!」
説明しながら笑みを浮かべるリリィに、リクとオパールにある記憶が過る。
アクアと出会うキッカケとなった戦いで、クォーツもリリィの持つ同じ宝石で結界を作ってリリスの攻撃を無効化していた。
そう考えると、リリィの持つ宝石も自分達が落ちたあの激流から守ってくれたのかもしれない。
「そうなんだ…あたし達が助かったのって、もしかしたらそのお守りのおかげかもね」
「そうだな。あんな場所から落ちて流されたのに、こうして三人とも無事で済んだんだ。そのお守りに感謝しないとな」
「うん…ありがと」
二人がそう言うと、リリィもブローチについたアクアマリンにお礼を述べる。
それを見て二人が微笑みを浮かべていると、急にリリィが顔を上げた。
「そう言えば、二人って何処から来たの? この辺では見かけないよね?」
「「エ!?」」
突然のリリィの質問に、二人の顔が引き攣ってしまった。
「そ、それは、ねぇ…!」
「ま、まあ…遠い所、だな…!」
「そっか…」
目を逸らしながらも差当りの無いように答えると、リリィは考え込む仕草をする。
思わず二人が背中に冷や汗を浮かべていると、代わりに別の質問を繰り出した。
「ねえ、二人って何か叶えたい夢とかある?」
「「夢?」」
リクとオパールが同時に聞き返すと、リリィは一つ頷いた。
「うん、夢。そう言うの、聞いてみたいなって」
「まあ…あるにはあるけど」
そんなリリィに、オパールは居心地が悪そうに頬を掻く。
すると、話に興味を持ったのかリクが笑いかけた。
「へえ、どんなのだ?」
「…笑わないでよ」
疑うような目でリクを見ると、オパールは顔を上げて話し始めた。
「――ある人みたいに、大空を自由に飛び回りたい…それが、あたしの夢」
「ある人って?」
疑問をリリィが聞くと、オパールは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「あたしの恩人。昔、ある事故で身寄りのないあたしを引き取ってくれた空賊なの」
「空賊? 何だ、それは?」
更にリクが問い質すと、若干顔を引き攣ってオパールは慎重に説明した。
「えっと、ね…空を駆けまわる乗り物に乗って、金持ちの悪人からお金を盗んだりする義賊なの。もちろんそれだけじゃなくて、遺跡なんかで宝探ししたり、悪い奴やっつけたりしてるの!!」
いつもと違って熱く語るオパールに、リリィは話を聞きながら首を傾げた。
「そんな人に、オパールもなりたいの?」
「いや、さすがにあたしにはそんなの出来ないわよ。でもね…何時かは、その人のように自由に【世界】って言う大空を駆け巡りたいんだ」
「でも、それはもう叶っているじゃないか?」
静かに夢を語るオパールに、リクが疑問をぶつける。
自分達に付いて行く形だが、グミシップを使って世界を巡るように旅をしている。彼女の夢は叶ったと言ってもいいはずだ。
しかし、オパールは不満げな表情を浮かべてリクに釘を刺した。
「まだよ。その人のようになるには、もっともっと経験積まないと…――今のあたしじゃ、到底及ばないんだから」
「へぇ…どんな人なの?」
目標を高く志すほどのオパールの恩人に、興味が出て来たのかリリィが軽く身を乗り出す。
すると、オパールは人差し指を頬に当ててその人物の記憶を思い出しながら話した。
「うーんと…キザで皮肉屋で女性に優しくて酒好きのイケメン、かな? あと、自分を主人公だと思ってる。でも、とても良い人なんだ」
「「は、はぁ…?」」
分かるようで分からない説明に二人がポカンとするが、気にしないのかオパールは話を続ける。
「それと、彼の相棒も良い人なの。口数は少ないし、冷たいってイメージあるけど戦い方教えてくれたし、生きるのに必要な知識とか機械の事とか…そう言えば、ノノも一緒に教えてくれた事もあったっけ…」
話を続けていく内に懐かしそうに遠くを見るオパールに、居た堪れなくなったのかリクが顔を俯かせた。
「オパール…」
この小さな呟きに、オパールは我に返ったのか慌てて両手を合わせて場を取り繕った。
「ご、ごめん! 何か、しんみりしちゃったわね!! あ、リクは何か夢はないの!?」
急に話を振られ、リクは目を丸くしつつも考えた。
「夢、か…――俺の夢、何なんだろうな…?」
「夢は無いの?」
「まあ、な…」
リリィが聞き返すが、リクはそう言うと目を逸らす。
前までは、外の世界に出たいと言うのが自分の夢だったかもしれない。でも、いろんな人達を傷付けてまで叶えたのを、夢と言ってしまって言い訳が無い。
口を閉ざして黙ってしまったリクに、オパールは呆れた溜息を吐くとリリィを見た。
「ね。そう言うリリィの夢は?」
「私は、その…そ、その内教えるね?」
「もう、何よ。なーんか、あたし一人だけ損した気分じゃない」
苦笑いを浮かべるリリィに、オパールは両手を後ろに付けて天井を見上げる。
しかし、リリィは首を横に振って笑顔を見せた。
「そんな事ないよ。私は二人の事、少しだけ分かったから」
「あ…そうよね、ごめん」
リリィの嬉しそうな言葉に、オパールも不機嫌を消して笑みを返す。
つい先ほど出会って、お互い何も知らない状態で一緒になったのだ。小さな会話だったとしても、少しでも彼女の不安が拭えればこっちも嬉しい。
そうして互いに笑い合うと、オパールは軽く背伸びした。
「ん、んー…――ね、そろそろ眠らない? 明日も合流できるか分からないんでしょ?」
「うん。ここ、相当古くからある場所だから、凄く入り組んで迷路みたいになってて…」
この洞窟について地形が詳しいリリィが説明すると、リクがキーブレードを取り出して辺りを見回した。
「じゃあ、二人は寝ててくれ。俺は念の為見張りをしてる」
「大丈夫なの? 何だったら、後で交代するわよ?」
さすがに任せきれないのか見張りの交代をオパールが申し出る。
それを聞き、リクは少しだけ考えると縦に頷いた。
「すまない、頼めるか?」
「もちろんよ。じゃ、三時間後くらいに起こしてね」
「えっと、お休みなさい…」
オパールが頭に巻いたバンダナを外すと、近くの壁に寄り掛る。
その後でリリィもおずおずと頭を下げると、オパールの横に来て一緒にバンダナを体にかけて目を閉じる。
少しして二人の呼吸音が規則正しく聞こえると、リクは小さく笑って未だに燃える炎を見つめた。
「さて、と…」
そう呟くと、手に持ったキーブレードを握りしめてゆっくりと目を閉じた。
―――同時刻。別の場所にある少し大きな広間の足場。
そこに、魔法の火で作った焚火の近くでソラがキーブレードを横に持って座禅の形で座っていた。
「――どうだ、ソラ?」
「うーん…何だか、不思議な感じがする」
近くにいたヴェンが声をかけると、ソラは目を閉じながら思った事を呟く。
このソラの様子を見ながら、焚火を挟んだ場所で座っているカイリは不思議そうにヴェンを見た。
「これもヴェンの修行の一つなの?」
「ああ。こうして心を見つめ直す事で、自分の中にある能力が見つかるんだ。まあ、見つけるのに少し時間がかかったりする事もあるけど」
そう説明すると、ヴェンは苦笑を浮かべる。
話だけは聞いていたヴェン達の行う修行方法の一つに、カイリは思わず羨ましそうに溜息を零した。
「凄いんだね、ヴェン達って。こんな修行をして、キーブレードマスターになるんだから…」
「確か、アクアもキーブレードマスター何だよな? 凄いよなぁ…」
「ソラ、集中っ!」
「ご、ごめん!」
集中力を途切らせるソラに、すぐさまヴェンは声を上げて正気に戻す。
再びソラが目を閉じてキーブレードに意識を持っていくと、カイリがクスクスと笑い出した。
「こうして見ると、ヴェンってお兄さんみたい」
「そうか? でも、こうして人に教えるのも悪くないかな。今までは教えて貰ってばっかりだったから…」
苦笑を浮かべつつ、ヴェンは何処か遠くを見つめる。
この心を見つめ直す修行も、ソラみたいに集中力を途切れさせた時は、先程のように師であるエラクゥスやテラとアクアに注意される事がしばしばあった。
自分にはまだマスター承認試験を受けられる技量はないが、何時かはアクアと同じキーブレードマスターになりたい。もちろん、テラとも一緒に。
そうして【旅立ちの地】での事を思い出していると、不意にカイリが疑問をぶつけた。
「ところで、ヴェンは教えてばっかりだけどやらなくていいの?」
「俺は大丈夫。グミシップに乗ってた時に、ソラみたいにこうして見つめ直したりしてるし…そう言えば、リクにも教えたりしてたっけ」
「リクにも教えてたのか!? 何かずるいっ!!」
「ソラ、集中は?」
「あっと…」
再びヴェンに言われ、ソラはもう一度目を閉じる。
この光景を見ながら、カイリは気づかれないようにこっそりと苦笑した。
「リクはともかく、ソラは時間かかりそうだね…」
■作者メッセージ
今回の話で補足を幾つか。
オパールの話す《恩人》ですが、実はFF12のキャラです。プレイした人や話をある程度知ってる人ならピンと来るかと思います。
そしてヴェンの修行法ですが、さすがに『コマンドボード』をさせるのもちょっとなーっと思ったので、和風の修行法らしく坐禅にしてみました。
この後も、補足等があればちょこちょこと載せるつもりです。
オパールの話す《恩人》ですが、実はFF12のキャラです。プレイした人や話をある程度知ってる人ならピンと来るかと思います。
そしてヴェンの修行法ですが、さすがに『コマンドボード』をさせるのもちょっとなーっと思ったので、和風の修行法らしく坐禅にしてみました。
この後も、補足等があればちょこちょこと載せるつもりです。