Another chapter8 Sora side‐7
天井まで水に浸かった洞窟となっている道を、三人は泳いでいく。
不意に閉ざされたリクの口の中に僅かに水が入ると、しょっぱさを感じてこれが海の水だと気づく。
そんな海の水の中を先へと泳ぎつつ、リクは横で泳いでいる二人に目を向けた。
(大丈夫か?)
そう瞳で語りかけると、通じたのか二人は泳ぎながら頷く。
まだ余裕がある二人に心の中で安堵していると、突然前方にハートレスが現れた。
(ハートレス!?)
(こんな所まで!?)
思わず三人が止まると、オパールは腰のナイフに手を当ててリクを見た。
(大丈夫? 戦える?)
(戦わないと駄目だろ?)
水中で声は出せないものの、二人は互いに投げかける言葉を受け取る。
リクがキーブレードを取り出すと、オパールもナイフを引き抜いた。
(水中にいるんだ、ちょっとの時間も無駄に出来ない…!!)
(だったら、一気にやっつけるわよ!!)
瞳で語るなり、オパールはポーチから赤い結晶を取り出す。
すると、リクに向かってその結晶を投げつけ光で包み込んだ。
(これは…!?)
思わず目を見張っていると、水中だと言うのにキーブレードに炎の力が纏われる。
リクだけでなく後ろに下がったリリィも驚きで見るが、ハートレスが突進を仕掛けて襲ってくる。
すぐにキーブレードを振るって攻撃すると、何と意思を持つようにキーブレードが炎を纏いながらリクの手を離れて敵に攻撃する。
そうして再び手元に戻るので、思わずオパールに目を向けた。
(すごいな、この力…!?)
(でしょ?)
『ファイアレイド』の力にオパールも鼻を高くすると、再びポーチから取り出した石を今度は敵に投げつける。
すると、辺り一帯に雷が襲い掛かかりハートレス達が殆ど消えて行った。
『サンダーボルト』を出し終えると、残ったハートレスに向かってリクがキーブレードを投げつけて全滅させた。
(よし!)
(リリィ、急ぐわよ!)
(うん!)
ハートレスを全て全滅させ、すぐに三人は先へと進む。
少しすると、道の途中で地面に差し込んでいる光が見えた。
(地面に光…!?)
(この上、きっと空気あるわね!!)
リクが目を見開くと、隣でオパールも上を指す。
そのまま光に沿うように上へと向かうと、水面に出た。
「「「――ぷはぁ!!」」」
水面に出ると、三人はすぐに空気を取り込む。
肩で息をしながら周りを見ると、そこは岸部のある空洞だった。
「さすがに…ちょっと、きついわね」
「でも、まだ中間地点みたい…!」
「一旦…岸に、上がろう…」
リクの言葉に、二人は反対することなく岸へと向かう。
そうして三人が岸に上がると、それぞれで座り込んで休憩を取る事にする。
そんな中、疲れているリリィを見てリクが傍に座り込んだ。
「大丈夫か、リリィ? 無理はするな」
「うん…リクは?」
「俺は平気だ。そうだ、オパールは?」
「あたしも、平気だから…」
そう話しかけると、何故かオパールは居心地が悪そうに顔を俯かせる。
この様子に、リクは立ち上がって今度はオパールの傍に座り込んだ。
「どうした? 何処か具合が悪くなったのか?」
思った事を聞くと、オパールはチラリとこちらを見て口を開いた。
「…やけに仲良くなってるのね、リリィと」
「そうか? そう、なのかな…」
首を傾げるが、思う所があるのかリクは顔を俯かせる。
「あいつを見ると…何故かよく分からないけど、変に落ち着くんだ」
「落ち着く?」
「それに…昔会ったような、知ってるような…リリィを見ると、そんな気持ちが湧き上がって。おかしいよな、この世界に来たのもリリィと出会ったのも昨日の事なのに…」
そう言うと、オパールに向かって苦笑する。
彼女と出会うのも、この世界に来るのも初めてのはずなのに、何故かそんな気持ちが湧き上がってしまう。
自分の気持ちの正体を考えながら笑ってたから、リクは気づかなかった。
オパールの目が不機嫌そうに変わったのを。
「ふぅん…」
「どうした? さっきから素っ気ながごぅ!!?」
言葉の途中で、リクは思いっきり顎にアッパーを喰らわされた。
舌は噛まずに済むものの、尋常じゃない痛さに殴られた部分を震えながら押さえる。
「な、何を…!?」
「無性に力の限り殴りたかった。それだけ」
淡々と答えるオパールに、リクもこれ以上詳しく聞けずに黙ってしまう。聞いた直後、さっきよりも痛い攻撃を覚悟しなければならないと感じたのだろう。
仕方なく温存していた魔力を使い『キュアポーション』で治していると、不意にオパールが壁に凭れているリリィを見ながら話しかけた。
「――なーんかさ、ソラ達と態度が違うよね」
「え?」
思わずリクが反応すると、オパールはこちらを見て話を続けた。
「あたしの気のせいかもしれないけどさ…あんた、何かソラ達の事避けてない? カイリから聞いたけど、親友なんでしょ?」
「そんな事、ないさ…」
顔を逸らしながら否定するリクに、オパールは心の中で呆れてしまう。
故郷ではソラ達の誘いを断り、闘技場でも一人で戦って…そして、グミシップでも操縦やシステムなどで自分にくっついては一人でいたがる。ちゃんと共に行動はするものの、何かしら避けているのは目に見えていた。
彼の行動を思い出しながら一息吐くと、オパールはゆっくりと口を開いた。
「――あたしが小さい頃だけどさ。故郷にある二人組の親友がいたの」
突然語り始めたオパールの話に、リクがこちらを見る。
それを視界に収めつつ、昔の記憶を思い出しながら話を続けた。
「と言っても、いっつも一人が勝手に引っ張り回して、もう一人は何処か呆れながら後を追いかけてた。一見すると、その人の尻拭いって感じだったけど…――でも、今思い返すと二人には確かに親友って呼べるぐらいの絆があったなぁ」
広場でチャンバラもどきで遊んでいたり、たまに住民の厄介事を引き受けては解決したり、そして何処かに行っては一人が不貞腐れるのをもう一人が宥めて戻ってきたり。
そうして何かをし終わった後は、決まって二人はショップでアイス買って食べていた。
久々に引き出した懐かしい人物の記憶に、オパールは笑いながらリクを見た。
「だからさ、あんたとソラもそんな関係なんでしょ? どんな事があっても、助けたり助けられたりして、それで何でも許せるって感じでさ」
「そう…なのかな?」
不安そうに呟くリクに、オパールは軽く頭を指で突く。
何をするんだ、と文句が聞こえるが、無視するように顔を逸らす。打たないだけありがたいと思って欲しいくらいだ。
リクとソラ達にどんな理由があるかは分からない。それでも…あの二人のような、親友としての絆を無くして欲しくはない。
オパールがそう思っていると、文句を言うのを諦めたのかリクは不安そうにこちらを見た。
「なあ…その二人組の親友って、今はどうしてるんだ?」
「分かんない…あたし、最近戻って来たばっかりだし。それに、二人とは軽い顔馴染みだからそんなに接点ないし。ま、あの二人の事だからどっかで元気にやってると思うわ」
そう言うと、二人を思い浮かべながら苦笑する。
あの、赤と青の髪をした親友コンビを。
「でも…本当に、どうしてるんだろ? リアとアイザ…」
リクに変な不安を与えないよう、聞こえないように小さく呟く。
「――とにかく、もう少し休憩しよ。万全の状態で潜らなきゃ、死んじゃうかもしれないし…」
オパールがそう言っていると、壁に凭れて休んでいたリリィがこちらに近づいた。
「ね、リク…本当に大丈夫?」
「どうしたんだ、急に?」
「だって…さっき寝てた時、魘されてたから…」
その言葉に、オパールも不安げな表情を作ってリクを見る。
心配する二人に、リクは目を逸らして言い逃れの言葉を考える。
しかし、オパールが睨んで拳を作っているのが視界に入る。下手な言い訳は出来ないと直感が過り、頭を押さえて正直に話した。
「…少し前から、どう言う訳か夢見が悪くてな。一応睡眠は取れてるから安心してくれ」
「それって、どんな夢?」
リリィが聞くと、リクは頭を押さえたまま何処か辛そうに話した。
「闇が、迫って来るんだ…俺の嫌いな匂いと一緒に、呑み込もうとして。必死で走って逃げようとするけど、追いつかれて…――そこで、いつも目が覚める」
そこまで言うと、リクは口を閉じてしまう。
辛そうなリクにオパールも何も言えずに俯いていると、リリィは静かに胸を押さえた。
「私の夢と全然違う…」
「夢? どう言う事だ?」
「あ、えっと…!?」
リクに問われ、リリィは顔を赤くして顔を逸らす。
そんなリリィに、オパールはクスクスと笑った。
「言いなさいよ、リリィ。リクなら笑わないから」
「う、うん…」
オパールに背中を押され、リリィは恥ずかしそうに自分の夢の事を話した。
「そんな夢を見るのか…」
「変、かな? 夢の人に会いたいって…」
こちらを見るリクに、リリィは顔を合わせられずに俯かせる。
しかし、不安げなリリィに対してリクは微笑みながら首を振った。
「そんな事ない。いい夢じゃないか」
「リク…」
オパールと同じように優しい言葉を投げかけられ、リリィに安堵が浮かぶ。
「そうだ! 折角だし、これを持って眠ってみたら?」
嬉しそうに言うなり、ポケットからあのお守りを取り出す。
突然の事にリクが困惑する中、リリィは手に握らせて両手で包み込んだ。
「このお守りなら、リクの悪夢払ってくれるかもしれない。十分睡眠も取れると思うよ」
「いや、俺は…」
リリィの提案を断ろうとしていると、オパールが呆れた目で睨みつけた。
「いいじゃない。『三時間後に起こして』って言ったのに、結局それ以上起きて見張りしてたクセに」
「い、いいだろ? どっちみち、途中で起きて交代させたし…」
「そう言う問題じゃないわよ!? とにかく無理せずに寝なさい!! 悪夢が怖いって言うんなら思いっきり叩き起こしてやるからっ!!」
半ば怒鳴るように叫ぶと、再び拳を見せつける。
意地でも眠らせようとするオパールに、さすがのリクも折れてしまった。
「…分かったよ」
諦めたようにリクは壁に凭れて寝る体制になる。もちろん、リリィから渡されたお守りは握っている。
それから少しすると、眠ったのかリクの口から寝息が聞こえてくる。
本当に疲れていたようで、若干怒りが湧きつつも徐にオパールが立ち上がった。
「あたし、ちょっと先を視察して来る。リリィ、こいつの事お願いね?」
「大丈夫なの?」
「苦しくなる前に戻ってくるから大丈夫よ。それじゃ、行ってくるわ」
そう言うと、岸際から降りて再び水に浸かる。
浮いた状態で大きく息を吸い込むと、軽い水飛沫と共に水の中に沈んでいった。
視察に行ったオパールを見送ると、リリィは眠るリクの傍に来て前髪を撫でた。
「え…?」
その時、急に眩暈が起きる。
思わず壁に手を当てるが、眩暈は酷くなっていく。
「な、に…これ…!?」
やがて耐えきれなくなったのか、リリィの意識がそこで途絶えた。
不意に閉ざされたリクの口の中に僅かに水が入ると、しょっぱさを感じてこれが海の水だと気づく。
そんな海の水の中を先へと泳ぎつつ、リクは横で泳いでいる二人に目を向けた。
(大丈夫か?)
そう瞳で語りかけると、通じたのか二人は泳ぎながら頷く。
まだ余裕がある二人に心の中で安堵していると、突然前方にハートレスが現れた。
(ハートレス!?)
(こんな所まで!?)
思わず三人が止まると、オパールは腰のナイフに手を当ててリクを見た。
(大丈夫? 戦える?)
(戦わないと駄目だろ?)
水中で声は出せないものの、二人は互いに投げかける言葉を受け取る。
リクがキーブレードを取り出すと、オパールもナイフを引き抜いた。
(水中にいるんだ、ちょっとの時間も無駄に出来ない…!!)
(だったら、一気にやっつけるわよ!!)
瞳で語るなり、オパールはポーチから赤い結晶を取り出す。
すると、リクに向かってその結晶を投げつけ光で包み込んだ。
(これは…!?)
思わず目を見張っていると、水中だと言うのにキーブレードに炎の力が纏われる。
リクだけでなく後ろに下がったリリィも驚きで見るが、ハートレスが突進を仕掛けて襲ってくる。
すぐにキーブレードを振るって攻撃すると、何と意思を持つようにキーブレードが炎を纏いながらリクの手を離れて敵に攻撃する。
そうして再び手元に戻るので、思わずオパールに目を向けた。
(すごいな、この力…!?)
(でしょ?)
『ファイアレイド』の力にオパールも鼻を高くすると、再びポーチから取り出した石を今度は敵に投げつける。
すると、辺り一帯に雷が襲い掛かかりハートレス達が殆ど消えて行った。
『サンダーボルト』を出し終えると、残ったハートレスに向かってリクがキーブレードを投げつけて全滅させた。
(よし!)
(リリィ、急ぐわよ!)
(うん!)
ハートレスを全て全滅させ、すぐに三人は先へと進む。
少しすると、道の途中で地面に差し込んでいる光が見えた。
(地面に光…!?)
(この上、きっと空気あるわね!!)
リクが目を見開くと、隣でオパールも上を指す。
そのまま光に沿うように上へと向かうと、水面に出た。
「「「――ぷはぁ!!」」」
水面に出ると、三人はすぐに空気を取り込む。
肩で息をしながら周りを見ると、そこは岸部のある空洞だった。
「さすがに…ちょっと、きついわね」
「でも、まだ中間地点みたい…!」
「一旦…岸に、上がろう…」
リクの言葉に、二人は反対することなく岸へと向かう。
そうして三人が岸に上がると、それぞれで座り込んで休憩を取る事にする。
そんな中、疲れているリリィを見てリクが傍に座り込んだ。
「大丈夫か、リリィ? 無理はするな」
「うん…リクは?」
「俺は平気だ。そうだ、オパールは?」
「あたしも、平気だから…」
そう話しかけると、何故かオパールは居心地が悪そうに顔を俯かせる。
この様子に、リクは立ち上がって今度はオパールの傍に座り込んだ。
「どうした? 何処か具合が悪くなったのか?」
思った事を聞くと、オパールはチラリとこちらを見て口を開いた。
「…やけに仲良くなってるのね、リリィと」
「そうか? そう、なのかな…」
首を傾げるが、思う所があるのかリクは顔を俯かせる。
「あいつを見ると…何故かよく分からないけど、変に落ち着くんだ」
「落ち着く?」
「それに…昔会ったような、知ってるような…リリィを見ると、そんな気持ちが湧き上がって。おかしいよな、この世界に来たのもリリィと出会ったのも昨日の事なのに…」
そう言うと、オパールに向かって苦笑する。
彼女と出会うのも、この世界に来るのも初めてのはずなのに、何故かそんな気持ちが湧き上がってしまう。
自分の気持ちの正体を考えながら笑ってたから、リクは気づかなかった。
オパールの目が不機嫌そうに変わったのを。
「ふぅん…」
「どうした? さっきから素っ気ながごぅ!!?」
言葉の途中で、リクは思いっきり顎にアッパーを喰らわされた。
舌は噛まずに済むものの、尋常じゃない痛さに殴られた部分を震えながら押さえる。
「な、何を…!?」
「無性に力の限り殴りたかった。それだけ」
淡々と答えるオパールに、リクもこれ以上詳しく聞けずに黙ってしまう。聞いた直後、さっきよりも痛い攻撃を覚悟しなければならないと感じたのだろう。
仕方なく温存していた魔力を使い『キュアポーション』で治していると、不意にオパールが壁に凭れているリリィを見ながら話しかけた。
「――なーんかさ、ソラ達と態度が違うよね」
「え?」
思わずリクが反応すると、オパールはこちらを見て話を続けた。
「あたしの気のせいかもしれないけどさ…あんた、何かソラ達の事避けてない? カイリから聞いたけど、親友なんでしょ?」
「そんな事、ないさ…」
顔を逸らしながら否定するリクに、オパールは心の中で呆れてしまう。
故郷ではソラ達の誘いを断り、闘技場でも一人で戦って…そして、グミシップでも操縦やシステムなどで自分にくっついては一人でいたがる。ちゃんと共に行動はするものの、何かしら避けているのは目に見えていた。
彼の行動を思い出しながら一息吐くと、オパールはゆっくりと口を開いた。
「――あたしが小さい頃だけどさ。故郷にある二人組の親友がいたの」
突然語り始めたオパールの話に、リクがこちらを見る。
それを視界に収めつつ、昔の記憶を思い出しながら話を続けた。
「と言っても、いっつも一人が勝手に引っ張り回して、もう一人は何処か呆れながら後を追いかけてた。一見すると、その人の尻拭いって感じだったけど…――でも、今思い返すと二人には確かに親友って呼べるぐらいの絆があったなぁ」
広場でチャンバラもどきで遊んでいたり、たまに住民の厄介事を引き受けては解決したり、そして何処かに行っては一人が不貞腐れるのをもう一人が宥めて戻ってきたり。
そうして何かをし終わった後は、決まって二人はショップでアイス買って食べていた。
久々に引き出した懐かしい人物の記憶に、オパールは笑いながらリクを見た。
「だからさ、あんたとソラもそんな関係なんでしょ? どんな事があっても、助けたり助けられたりして、それで何でも許せるって感じでさ」
「そう…なのかな?」
不安そうに呟くリクに、オパールは軽く頭を指で突く。
何をするんだ、と文句が聞こえるが、無視するように顔を逸らす。打たないだけありがたいと思って欲しいくらいだ。
リクとソラ達にどんな理由があるかは分からない。それでも…あの二人のような、親友としての絆を無くして欲しくはない。
オパールがそう思っていると、文句を言うのを諦めたのかリクは不安そうにこちらを見た。
「なあ…その二人組の親友って、今はどうしてるんだ?」
「分かんない…あたし、最近戻って来たばっかりだし。それに、二人とは軽い顔馴染みだからそんなに接点ないし。ま、あの二人の事だからどっかで元気にやってると思うわ」
そう言うと、二人を思い浮かべながら苦笑する。
あの、赤と青の髪をした親友コンビを。
「でも…本当に、どうしてるんだろ? リアとアイザ…」
リクに変な不安を与えないよう、聞こえないように小さく呟く。
「――とにかく、もう少し休憩しよ。万全の状態で潜らなきゃ、死んじゃうかもしれないし…」
オパールがそう言っていると、壁に凭れて休んでいたリリィがこちらに近づいた。
「ね、リク…本当に大丈夫?」
「どうしたんだ、急に?」
「だって…さっき寝てた時、魘されてたから…」
その言葉に、オパールも不安げな表情を作ってリクを見る。
心配する二人に、リクは目を逸らして言い逃れの言葉を考える。
しかし、オパールが睨んで拳を作っているのが視界に入る。下手な言い訳は出来ないと直感が過り、頭を押さえて正直に話した。
「…少し前から、どう言う訳か夢見が悪くてな。一応睡眠は取れてるから安心してくれ」
「それって、どんな夢?」
リリィが聞くと、リクは頭を押さえたまま何処か辛そうに話した。
「闇が、迫って来るんだ…俺の嫌いな匂いと一緒に、呑み込もうとして。必死で走って逃げようとするけど、追いつかれて…――そこで、いつも目が覚める」
そこまで言うと、リクは口を閉じてしまう。
辛そうなリクにオパールも何も言えずに俯いていると、リリィは静かに胸を押さえた。
「私の夢と全然違う…」
「夢? どう言う事だ?」
「あ、えっと…!?」
リクに問われ、リリィは顔を赤くして顔を逸らす。
そんなリリィに、オパールはクスクスと笑った。
「言いなさいよ、リリィ。リクなら笑わないから」
「う、うん…」
オパールに背中を押され、リリィは恥ずかしそうに自分の夢の事を話した。
「そんな夢を見るのか…」
「変、かな? 夢の人に会いたいって…」
こちらを見るリクに、リリィは顔を合わせられずに俯かせる。
しかし、不安げなリリィに対してリクは微笑みながら首を振った。
「そんな事ない。いい夢じゃないか」
「リク…」
オパールと同じように優しい言葉を投げかけられ、リリィに安堵が浮かぶ。
「そうだ! 折角だし、これを持って眠ってみたら?」
嬉しそうに言うなり、ポケットからあのお守りを取り出す。
突然の事にリクが困惑する中、リリィは手に握らせて両手で包み込んだ。
「このお守りなら、リクの悪夢払ってくれるかもしれない。十分睡眠も取れると思うよ」
「いや、俺は…」
リリィの提案を断ろうとしていると、オパールが呆れた目で睨みつけた。
「いいじゃない。『三時間後に起こして』って言ったのに、結局それ以上起きて見張りしてたクセに」
「い、いいだろ? どっちみち、途中で起きて交代させたし…」
「そう言う問題じゃないわよ!? とにかく無理せずに寝なさい!! 悪夢が怖いって言うんなら思いっきり叩き起こしてやるからっ!!」
半ば怒鳴るように叫ぶと、再び拳を見せつける。
意地でも眠らせようとするオパールに、さすがのリクも折れてしまった。
「…分かったよ」
諦めたようにリクは壁に凭れて寝る体制になる。もちろん、リリィから渡されたお守りは握っている。
それから少しすると、眠ったのかリクの口から寝息が聞こえてくる。
本当に疲れていたようで、若干怒りが湧きつつも徐にオパールが立ち上がった。
「あたし、ちょっと先を視察して来る。リリィ、こいつの事お願いね?」
「大丈夫なの?」
「苦しくなる前に戻ってくるから大丈夫よ。それじゃ、行ってくるわ」
そう言うと、岸際から降りて再び水に浸かる。
浮いた状態で大きく息を吸い込むと、軽い水飛沫と共に水の中に沈んでいった。
視察に行ったオパールを見送ると、リリィは眠るリクの傍に来て前髪を撫でた。
「え…?」
その時、急に眩暈が起きる。
思わず壁に手を当てるが、眩暈は酷くなっていく。
「な、に…これ…!?」
やがて耐えきれなくなったのか、リリィの意識がそこで途絶えた。