Another chapter8 Sora side‐9
ある程度時間が立ち、三人の休息は終わりを告げる。
再び先に進む為に水の中に沈むと、三人は出口に向かって泳ぎだした。
(にしても、本当によく眠れたな…)
そんな事を考えながら、リクは思考を巡らせる。
リリィから渡されたお守りを持って眠ったおかげか、あの悪夢は現れず十分に睡眠を取れた。
起きた後はお守りはリリィに返したが、また借りて見てもいいかもしれない。
“あの男”の夢を見るくらいなら…。
―――クイ
その時、ジャケットの裾が引っ張られる。
目を向けると、いつの間にかリリィが傍にいて前の方を指している。
見ると、オパールが不思議そうな顔をしながらも分かれ道の右の方を指していた。
(右か?)
(うん、あっちは行き止まりだったの。だから、こっちに――)
リクが目で語ると、オパールは頷いて手を動かしてジェスチャーで説明する。
その時、後ろの方で大きく水が蠢くのを三人は肌で感じた。
(何っ!?)
いち早くリリィが振り返ると、来た方向から一つの影が見える。
目を凝らすと、何と自分達を分担させたあの大型ハートレスがこちらに向かって泳いでいた。
(あの時のハートレス!?)
(何でこんな所に!?)
大型ハートレスの登場に、リクとオパールが目を見開く。
その間にも、ハートレスはこちらを見つけたのか目を光らせて泳ぐスピードを上げる。
この場所で戦うのは不利すぎる。すぐに逃げようと三人は一斉に泳ぐが、あっという間に距離を縮められてしまう。
(クッ…!!)
(逃げきれない…!! リリィ、先に行って!!)
覚悟を決めたのか、リクとオパールは武器を取り出してその場に留まる。
水中で戦おうとする二人に、リリィは目を丸くした。
(二人は!?)
(こいつを倒したら、すぐに行く!! だから、先に行け!!)
リクが目だけで語ると、リリィは拳を握って二人を見つめた。
(…私、待ってるから! だから、すぐに来てね!)
そうして声なき言葉を送ると、リリィは一人出口に向かって泳いでいく。
ある程度見送ると、ハートレスがゆっくりと二人の前に浮かんで対峙した。
(倒そうにも、時間が無い…!!)
(それなら気絶させる!! だから――!!)
(時間稼ぎ、だな!!)
オパールがポーチに手を伸ばすと同時に、リクは左手に闇を込める。
それを見て、ハートレスは触手を伸ばして二人に襲い掛かる。
しかし、オパールは避けながらポーチから二つの石を取り出し、リクも避けて『ダークファイガ』を打ち込む。
闇の気弾がハートレスに直撃すると、攻撃が聞いたのかがむしゃらに触手をリクに向かって振り回した。
(よしっ…!!)
上手く自分に意識を向ける事に成功し、『ダークシールド』を展開させる。
闇の障壁に守られながらオパールを見ると、ハートレスの真下の方で手を素早く動かしている。
出来るだけ彼女を見つけさせまいと、リクは隙を見つけては『ダークシールド』で迫りくる触手を防御しては、切り裂いていった。
(出来た!! 離れて!!)
その時、オパールの準備が出来たのか真剣な目で顔を上げる。
すぐにリクがハートレスから離れると、オパールは真上に投げつける。
すると白い球体が現れ、弾けるようにハートレスを巻き添えに爆発を起こすと、気絶したのか全身をダラリと垂れ下げて浮かんでいた。
(よし、これで――!!)
『スタンブレイク』を出し終え、オパールがガッツポーズを作った時だった。
「きゃあああああっ!?」
水中なのに、リリィの悲鳴がここまで響き渡る。
二人はハッと顔を上げ、先に彼女が進んだ道を見た。
(今の悲鳴!?)
焦りを浮かべ、真っ先にリクが向かう。その後をオパールも追う。
そうしていると、目の前に光に照らされる砂浜が見えて一気に水面から顔を出した。
「――リリィ!?」
息を取り込みながら見ると、リリィは何匹ものハートレスに囲まれていた。
「くっ…――どけぇ!!」
水面から腕を出すと、キーブレードに力を纏わせてハートレスに投げつける。
やがて一匹に当たると、何とキーブレードは複数の光に分裂してハートレスを攻撃していく。
リクが『スパークレイド』を使っていると、オパールも水面から顔を出して岸から上がってリリィに駆け付けた。
「大丈夫!? 怪我は!?」
「ど、どうにか…!!」
リリィが胸を押さえて頷いている間に、最後の一匹を倒した。
思わずリクが安堵の息を吐きながらキーブレードを手元に戻すと、水から上がろうと岸に向かって泳ぐ。
直後、こちらを見ていた二人が顔色を変えた。
「リク、下!?」
「なっ…うわぁ!?」
リリィの声に下を見ると、触手が自分の足に絡みつく。
離そうと足を動かすが、成す術もなく再び水の中に引きずり込まれた。
「「リクっ!?」」
それを見た二人が水辺に駆け付けると、待ち構えていたかのように触手が飛び出す。
即座に二人の身体を拘束するように絡みつくと、そのまま水の中に引きずり込んだ。
「「きゃあ!?」」
悲鳴を上げながら水の中に引きずり込まれると、気絶させたはずのハートレスがユラユラと漂っていた。
(もう意識取り戻したの!? 普通のハートレスだって、10分は気絶してるのに!?)
(ダメ…!! 絡みついて、全然離れない…!?)
オパールが驚く間に、リリィは身体を動かすが触手が離れる気配はない。
すぐにオパールも身体を動かすが、腕を固定されてしまい武器所か合成アイテムを入れているポーチにも手が届かない。
そんな二人に、唯一足だけ掴まれたリクが動いた。
(――二人とも、絶対に口を開けるな!!)
口に手を当てて伝えるリクの動作に、二人はすぐに頷いて身体を強張らせる。
出来るだけ口を固く閉じていると、リクがキーブレードを握って全身に赤黒い闇の力を込めた。
(いっけぇ!!!)
キーブレードを振るうと、赤い衝撃波を交えて二人を拘束するハートレスの触手を根元から切り裂いた。
『ソウルリリース』を放ち二人を助けたリク。だが…その表情に笑顔は無かった。
(ありがと、リク――っ!?)
切り裂かれた触手が闇となり、解放されたオパールがお礼を述べた直後…笑みが凍りつく。
何故か顔色を悪くし、両手を塞ぐ手の間から空気が零れていたからだ。
(マズイ…!! さすがに、息が…ぐぅ!?)
どうにか口を塞ごうとしていると、怒ったのかハートレスが残りの触角で身体を巻き付けて締め上げる。
口だけでなく肺に溜めていた空気が全て泡となり、リクの意識が遠のいていく。
『ソウルリリース』は体力を削る事で強力な一撃を放つ技だ。水の中で使えば、どうなるかはある程度予想がついていた。
それでもリクは二人を助けられたのを見て、意識が冷たい闇に沈んでいった…。
(リク!?)
オパールは表情を強張らせ、ナイフを取り出す。
触手を切られたハートレスが標的をリクに変え、残った触手で捕えて締めている。
先程のリクの様子を考えるに、あの技が体力を使って行った攻撃だと理解する。
その間にも、リクはもう意識が無いのか目を閉じてハートレスのされるがままになっている。すぐにでも助けようとオパールが動いた時、腕を掴まれた。
(来てっ!!)
(リリィ…!?)
突然リリィが腕を掴み、何と海面の方へと上がっていく。
何をしたいのか分からないまま、オパールは上の方へと引き上げられ水面へと出た。
「「――ぷはぁ!!」」
まずは二人して息を取り込むと、すぐにオパールはリリィを睨みつけた。
「リリィ、あんた何を――!?」
「オパール、ここにいて!! 私が地上に引き付けるから!!」
「引き付ける…って、ちょっと!? リリィ!!」
オパールの言葉が終わらない内に、リリィは再び水の中へと潜る。
自ら囮になろうとしているのだと分かり、オパールは伸ばした手を引っ込めて歯を食い縛った。
「リクだって危ういのに…そんな事、出来る訳ないでしょうがぁ!!!」
そう叫ぶなり、後を追うように再びオパールは水面へと潜る。
その頃、リリィは潜ってあのハートレスに近づく。
ハートレスが気づいてこちらを見る。同時に、触手に捕まってグッタリと意識を無くしているリクの姿も見えた。
(だめ…このままじゃ、死んじゃう!!)
血の気が無くなっているリクを見て、リリィはハートレスに手を伸ばす。
(お願い…!!)
近づくリリィに、ハートレスは何本かリクに巻き付いた触手を解き、そちらの方に伸ばす。
リリィが覚悟を決めてその場に止まった時、ハートレスに黒い何かが飛んでくる。
それに気付いた時、黒い物はハートレスにぶつかると大きく爆発を起こした。
(っ…!?)
突然の爆発にリリィも怯んでいると、ハートレスはその場にリクを残して逃げていく。
飛んできた方を振り向くと、そこには手榴弾のピンを加えたオパールがいた。
(オパール…何で…?)
(いいからさっさと戻る!! 早くしないと、リクが…!!)
驚くリリィに、オパールは目で語る。
再びリクを見ると、完全に意識を失い水に漂っている状態だ。
すぐさまリリィが近づいてリクの腕を掴む。それに便乗して、オパールも彼に手を伸ばして…。
(え…!?)
目の前で起きた光景に、オパールは思わず手を伸ばした状態で固まってしまった。