Another chapter8 Sora side‐11
ハートレスが触手を上に伸ばし、そのまま二人に叩き落としてくる。
しかし、触手による攻撃を横に跳んで避けると、オパールは極色彩の石を取り出した。
「まずは、これで!!」
そう言って握りつぶすと、リクとオパールに防御用の障壁が包み込んだ。
『マイティウォール』を使って補助をするオパールに、リクは感心したように薄く光に包まれる掌を見つめる。
「こんな事も出来るのか…」
「合成、嘗めんじゃないわよ。ほら、前っ!!」
その声に、こちらに向かって突き刺してくる触角をリクは急いで避ける。
一方、オパールはもう一つ赤い結晶を取り出していた。
「喰らいなさい!! とっておきの『ファイアストーム』よ!!」
一気に振りかぶり、ハートレスの上空に投げつける。
すると、ハートレスを包むぐらいの火柱が何度も襲い掛かる。
これにより触手の攻撃が収まり、リクもキーブレードを構えた。
「やるな。だったら、俺も…」
キーブレードを握り込み、刀身に炎を纏わせる。
「修行の成果でもみせてやるよ!! はあぁ!!」
風車のように回転させながら前進し、ハートレスに幾度もキーブレードで斬りつける。
『ファイアウィンド』を使うリクに、オパールは目を丸くした。
「あんた、そんなの使えたっけ…?」
「言っただろ、修行の成果だって」
そう言いながら、何処か自慢げに笑うリク。
この世界に来るちょっと前から始めた、ヴェンから教えて貰ったキーブレードの修行。最初こそなかなか目立つ結果は見られなかったが、欠かさず続けた甲斐があった。
そんな事を思っていると、攻撃が止んだのを見計らい触手が襲い掛かった。
「あたしの持ち分は…」
オパールが次々と叩きつけられる触手の間を素早くすり抜けると、背後へと回った。
「『合成』だけじゃないわよ!!」
手に持ったナイフで、背後を切り裂く。
ナイフなどの短剣はリーチが短い分、ダメージは小さい。しかし、全体の大きさが小さいので素早く攻撃が出来る。特に、急所を狙う時は。
不意打ち同然の攻撃に再び動きを止めると、隙を狙ってリクも動く。
「横ががら空きだぞっ!!」
キーブレードに力を込めるなり、何度も回転しながら攻撃して空中へと斬り上げる。
『メイルストロム』を放つが、それでもハートレスは倒れないのか空中から水のブレスを吐き出してきた。
「うっ!?」
「くぅ!?」
慌てて避けるが、完全に避けきれずに水に飲まれてしまう。
それでも、身を包む障壁のおかげでダメージはある程度軽減される。しかし、怯んでいる間にハートレスは地面に落ちて体制を立て直す。
「このままじゃ、キリがない…どうにか動きを止められれば…!!」
「――リク!! 耳、貸しなさい!!」
この呟きが聞こえてたのか、オパールが大声で呼ぶ。
すぐに近づくと、オパールが耳元で簡潔に作戦を述べる。
そうして作戦を聞き終えると、リクは面白そうにニヤリと笑った。
「――分かった、その提案に乗った」
「じゃあ…――始めるわよ!!」
その言葉と共に、ポーチから黒い結晶を取り出して手の中で握りつぶす。
すると、リクの身体に薄く闇が纏わりつく。
『ダークフィアース』を使って強化すると、オパールは即座に距離を取る。それを見て、ハートレスは触手を背を向けるオパールに向かって伸ばした。
「させるかっ!!」
すぐにリクが守るように立ち塞がると、手足に力を込める。
手に持っていたキーブレードが消え、代わりに手足から闇の爪が伸びる。
だが、リクは気にすることなく身体を捻らせるように手足を動かし、爪を使って触手を切り裂いていった。
「いけぇ!!」
ある程度傷をつけて触手が地面に力なく落ちると、再びキーブレードを取り出す。
そうしてキーブレードを投げると、自分を中心に回転させる。ただ投げつけるよりは、こっちの方が迂闊に攻撃させられずに牽制出来るからだ。
『サークルレイド』を使いながらオパールを見ると、先程のように石を組み合わせている。しかし、量が多いのか何度もポーチに手を伸ばしている。
と、ここで目線が合う。その時、オパールが目を見開いて息を呑んだ。
「リク、下ぁ!!」
「え…なぁ!?」
リクが下を見ると、何と地面からあの触手が突き刺す様に飛び出て来た。
どうにか間一髪で避けるが、攻撃の手は止まず触手を地面に引っ込ませては次々と地面から襲い掛かる。
必死になって突き出る触手を身体を捻らせて避けるが、やがて壁に背が当たる。逃げ場がないリクに向かって、全ての触手が地面から一気に突き出した。
「くっ!!」
絶体絶命のリクに、オパールが【合成】を一時中断して、何と武器であるナイフを投げつける。
水の中でも正確に爆弾を当てる彼女の技量だ。ナイフは上手い具合にハートレスの顔に突き刺さり、悲鳴と共に触手もリクに突き刺さる寸前で止まった。
「っ…!?」
「そのまま、水に呑まれろぉ!!」
目の前で触手が止まって思わず息を止めるリクに対し、オパールは素早く青い結晶を投げつける。
結晶が光ると共に、水柱がハートレスを中心に辺り一帯に襲い掛かる。
『フラッシュフラッド』を出していると、リクが目の前の触手に足を乗せるとキーブレードに雷の力を込めて飛び上がった。
「『スパークダイヴ』!!」
キーブレードを地面に突き刺し、電気の衝撃波を起こす。
すると、オパールの放った水に電気が感電しハートレスの身体全体に電流が襲い掛かる。
それぞれの連携で完全に動きを止めたハートレスに、二人は思わず笑みを浮かべた。
「よし、動きが止まった!!」
「さーて、一気に片付けるわよ!!」
リクに強気の笑みを見せると、オパールは先程作り上げた大きめの白黒の結晶を取り出す。
それを上空に投げると、何とハートレスを包むように巨大な白黒の球体が現れた。
「あたしの取って置き、受け取れぇ!!」
「一撃で決めるっ!!」
さらにリクも駆け出し、一気に球体を切り裂く。
直後、球体を切った部分から光が漏れ、そのまま大爆発を起こした。
「「『ダークノヴァ』!!!」」
こうして白黒の大爆発に巻き込まれたハートレスは全身を投げ出す様にして倒れ、身体から闇をまき散らした。
「終わったか…?」
「みたい…さて、と」
闇へと消えゆくハートレスを見ながら、オパールは先程投げたナイフを拾う。
その時、闇に消えながらもハートレスは触手を上に持ち上げた。
「「え…!?」」
二人が気づいた時には、最後の悪あがきか押しつぶす様に触手を一気に振り下ろす。
「――『ウォータ』!!」
その時、一つの声が辺りに響き渡る。
同時に、ハートレスの頭上に水が勢いよく落ちる。これが止めになったのか、ハートレスは叩きつける前に完全に闇へと消えて行った。
この一連の様子に二人は茫然としていたが、どうにか我に返って後ろを振り向く。
そこには、急いできたのか息を切らしたリリィが立っていた。
「リリィ!?」
「二人とも、無事…?」
驚くリクに肩で息をしながらリリィが聞き返すと、よほど疲れているのかその場に座り込む。
すぐに二人が駆け付け、リクは抱きかかえて楽な体制にして、オパールは『ポーション』を飲ませてリリィを介抱する。
ある程度リリィの顔色が良くなると、オパールが疑問をぶつけた。
「リリィ…魔法、使えたの?」
「えっ…う、うん…! ちょっと、頼んで…」
「頼む?」
リクが聞き返すと、リリィは慌てるように首を振った。
「あ、ううん! 何でもないの! それより、先にいこ!」
どうにかリクに支えられながら立ち上がると、笑みを浮かべて一人先を歩く。
一人で勝手に進むリリィに、慌ててリクが追いかける。
しかし、オパールはその場にしゃがんだまま、様子のおかしいリリィを見ていた。
「リリィ…?」
それから、三人は何を話す事もせずにただ黙々と歩き続けた。
あの大型ハートレスを倒したからか、どれだけ歩いてもハートレスは出てこない。
しばらくして日も暮れて辺りが暗くなった頃、夜空の見える海沿いの道に出た所でリリィが足を止めた。
「あ、ここ…」
辺りを見回すと、壁にある一つの大きな裂け目に近づく。
そんなリリィに、リクは思わず問いかけた。
「リリィ、ここを知ってるのか?」
「う、うん。ここの裂け目って、入り口の近道になってるから…」
リクに話しかけられ、若干顔を赤くして視線を逸らす様に裂け目に目を向ける。
このリリィの行動に、リクもつられる様に顔を赤くして視線を逸らした。
「そ、そうか…じゃあ、後はソラ達と合流するだけだな…」
「そうなったら…二人とは、お別れ…だね」
途切れ途切れに会話している所為か、二人の間で気まずい空気が漂ってしまう。
「「…………」」
「…………ねぇ」
「「は、はい!?」」
二人が我に返ってオパールを見ると、何処か冷めた目で周りを見回していた。
「もう暗いしさ、そろそろ休まない? ハートレスももう出ないし」
「あ、ああ! そうだな、うん!」
「そ、そうだね! 暗いよね、そうしよっか!」
オパールの提案に、二人は慌てるように首を振る。
そうしてお互いに何処か引き攣った笑みを見せ合っていると、オパールが徐にバンダナを外す。
半ば乱暴に近くの壁に背を当てると、そのまま毛布代わりに体にかける。この行動に、リクは笑みを引き攣らせながら声をかけた。
「えっと…オパール」
「……寝る」
「は?」
「寝るの。オヤスミ」
思わず目を丸くするリクに対し、オパールは凍りつくぐらいの冷めた目で一方的に捲し立てる。
そのまま目を閉じて完全に寝る体制になるオパールに、ようやくリクは我に返った。
「寝る…って、おい!?」
すぐに近づいて肩を揺さぶると、オパールは壁から背を離して思いっきりリクを睨みつけた。
「じゃ、あんたが寝る? 一撃で気を失うのと、炎の熱さで酸欠するのと、氷の中で眠りにつくの、どれがいい?」
「…見張りは俺がするからゆっくり寝てくれ」
「フン!」
リクの言葉に満足したのか、オパールは苛立ちを見せながら再び寝る体制になる。
そんなオパールを困ったように見ていると、後ろからリリィが声をかけた。
「私、ちょっと行きたい所あるから…――リクはゆっくり見張りしてて」
「え、あ…!」
振り返ると、リリィは自分達から離れて先の道へと進んでいた。
思わず手を伸ばすが、途中で止めてゆっくりと下ろす。
それから横に目を向けて眠っているオパールを見ると、もう一度リリィが歩いて行った道を見る。
リクはその場で立ち尽くしながら、どうするかを考え―――やがて、一つの結論を出した。