第一章 永遠剣士編第二話「タルタロス」
タルタロス。
遥か昔に起きた『災厄』を逃れようとした無数の世界の人間たちによって拓かれた闇の世界の入り口に近い闇色に染まった都。
そんな闇の中に、眩い光を輝かせる町の中、対の二塔が闇の夜空を穿つ。
武器屋『アイアンアーム』のレジにて。
「――チェルの旦那、やっぱりこれは治しきれなかったよ」
恰幅のいい職人気風のある男性が古びていながらも使い込まれた金の装飾を施した黒金の大型銃を持ち主――チェルへと差し出した。
赤交じりの黒髪に、月を照らしたような金の瞳、血の様な赤に黒を染めたコートを着た険しい顔色の男は更に険しい顔を浮かべる。
「……そうか」
「恐らく俺の目利きならその銃で撃てる弾丸はたった一発だよ」
「……」
深く寄せた眉が解かれ、沈んだように哀しい瞳を見せる。それをみた主人は頬杖をつきながら、気のまぎれる話題を振った。
「まあ、イザナミの代わりに俺とあんたで作ったそれなら」
「気にしてねえさ」
イザナギに視線を落としたチェルは主人の労いを遮った。余計な世話だと言わんばかりに若干年老いていても鋭い眼光で説き伏せた。
タルタロスで住んで10年来の知人な主人はその無言の重圧にため息で返した。
「邪魔した」
「ん」
適当に返事を返し、チェルは振り返りもせずに店を出た。
外は街灯の光と丸々とした月が輝いているくらいだ―――まあ、それがタルタロスの標準な輝き具合か。
だが、ふと空を仰ぎ、気がついた。
「なんだ……あれ」
白い月に孔が空いているように見えた。だが、それが途方も無い何かがやって来る事を理解したチェルは大急ぎでニュクスの塔へ駆け出した。