第六章 三剣士編第六話「煌く炎」
「……」
天からは雪のように青K、茜の火の粉が振り散り、地は双方の繰り出した炎が燻る中で倒れているのは無轟であった。
神無の一刀により体は無残に大きく裂かれており、体内にあった勾玉が青Kの炎に呑まれて散った。これで彼は再生も出来ず、果てるのを幾許としていた。
起き上がる事も無く倒れたまま、無轟は天を仰ぐ無轟の顔に苦悶も一切が無かった。そう、彼は清々しいまでに安らいだ顔だった。神無はその顔を不愉快そうに見下ろしている。
「……」
この顔を見たのは『二度目』。一度目は言うまでも無く、本人の死に際に浮かべていた表情だった。
終ぞ父と戦うという道を選ばず、乗り越える事も出来なかった彼の心に刻まれた想い、記憶の海の奥に息吹いていた一種の悲願を今、かなえてしまった。この無轟は自分の記憶から生み出された『神無の視点』で再現された父。否定もできず、かなえてしまったという現実を不愉快に顔を顰めながらに息をこぼした。
「―――……胸糞悪い」
アバタールの力で再現された存在として、選ばれてしまったのが無轟という父親。しかし、それを父と許容するには理が異なる。紛れも無くこの無轟は幻そのものであった。全くもって、息子が見て模写した贋物に過ぎない。
そして、空間の崩壊を感じ入る。大よその決着を果たすと空間はもとの回廊へと転送される。その兆しの音と共に神無は今一度、無轟を見下ろした。
「見事、だ」
倒れている男はあくまで、無轟として、無轟たらんと安らいだ表情を崩さず、微笑を作った。
「お前は……己の記憶に、己が懐く『最強の敵』に―――…打ち勝った」
「……」
既に神無に刻まれた険しさは無く、有耶無耶な顔でいた。
かける言葉が紡げずに、神無はじっと無轟を見下ろしている。それに気づいたのは神無の記憶を懐いているこの偽りの無轟だった。
「何も言えないのは……無理も……」
「―――今の俺に言えるのは一言だけだ」
「?」
不思議そうに神無を見つめる無轟に神無はゆっくりと言葉を紡ぎ、表情を浮かべた。
「『おやすみ』」
笑顔では朗らかさに遠く、微笑ではいささか足りない。そんな半端な笑みを向けて、無轟はすっと息を零して頷き返した。
「――――ッ――――……ああ……」
偽りの無轟はこの一言に覚えがある。この一言は、無轟が死して間もなく神無が紡いだ弔いの言葉であった。理解したと同じくして全身の姿が薄らぎ、やがて消えさった。
神無は再び、元の第一島にある神殿内の回廊に立っていた。足元には円陣が刻まれているが、機能は止まっているように見える。
同じく、周囲にはチェル、シンク、ヘカテー、そして、アダムが同じように立っており、元の場所に戻った事を気づく。
「あ、神無さん、アダムさん。無事でしたか?」
「おうよ。――厄介な罠だったぜ」
「全くですよ。悪趣味にもほどがある」
「だな」
記憶から再編された敵と戦った神無、アダム、チェルはそれぞれ苦々しい顔で納得した。
シンクとヘカテーはその様子に苦笑を含ませながら、周囲の状況を見る。
既に半神たちの居る気配が無い。恐らく先に進んでいったのだろうと思った。無理も無い、この先に彼らの母が囚われているのだろうから、救い出さなければならないという思いに駆られる事は誰にでもある。
焦燥のあまりにアバタールの罠に嵌まっていないことを願い、神無たちは奥へと進んだであろう半神たちと合流のために進もうとした。
だが、新たな気配の出現に神無たちは動きを止める。強大な力を秘めた気配に剣呑として、身構える。彼らの前に幽玄と現れたのは白で統一された衣装と隠すように巻きつけた包帯で素顔を隠した――体格からして、男性であった。
「……誰だ、お前」
「――」
男は神無の問いかけを無視するように黙し、その視線は彼らを見据えるようにじっくりと見ていた。そして、白い布の下から口を開いた。
「いや、失礼。私は……エンと申します。お見知りおきを」
「……」
己をエンと名乗った白服の男を神無は鋭い眼差しで見据える。強かな含みのある丁寧な言動はなお不審を煽る。
だが、神無はふと思う。この男には仮面が無い。素顔を白い布で隠しているが、その下が仮面ではないことはすぐ理解した。問題は彼はカルマの仲間なのか、あるいは別なのか。
「問いに答えろ、お前は―――『カルマの仲間か?』」
「……お互いに協力関係を結んだ者同士――盟友、と思えばいいですよ」
「そうか。なら、今此処で撃つ」
簡素な一声と同時にチェルはイザナギの引き金を引き、装填した魔弾が火を噴く。視界全体を覆うように迫る黒い渦の塊にエンは失笑気味に息を零し――、
「『リフレクトウォール』」
その言葉を発したと共に黒い渦の塊へと呑まれたが、瞬時に攻撃は打ち消され、周囲を巡る結晶から先ほどの魔弾が無数に分裂して周囲へと炸裂した。
「ッ…!」
それらの返し技を『あえて周囲に逸らした』事をチェルは――この場に居る誰もが直感した。この男は異様な強さを備えている。
「どうしました? 『私を撃つ』―――そう、言いましたよね?」
言葉の重圧が容赦なく圧し掛かり、返す言葉を殺ぎ落とされる。チェルは重圧の中、銃口を向けなおす。震えは無い、だが、引き金が引けない。
動きを止めてしまったチェルを見て、エンは嘆息なため息を吐いた。
「やれやれ、―――」
「ッラアアアァ!!」
魔K刀リンナを手に、間合いを一瞬のうちに踏み込んだ神無の一閃が青Kの爆炎を伴って振り放たれた。だが、それを阻む純白の翼がエンの背より姿を晒して防備する。
神無は彼へ背を向けずにすぐに後ろへとバックステップをとる。再び元居た場所へと立ち、エンを見据える。白い翼を払い、屹然とした様子で言った。
「――なるほど、やはりお強い。貴方たちの足掻き、どこまで通用するのやら……愉しみにしておきましょう。……では、取って置きの置き土産を一つ」
身構え一つしなかった彼が悠然と片手を天へと掲げると、虚空より幾重に呪文が巻きついた黒い影を宿した握り拳一つ分の白い炎球が現出する。
(!! ――やっべええッ!!)
「では―――再び、逢えることを祈っておきましょう。この魔法で生きて残れたのなら」
言祝ぐように言ったエンの姿は消え、彼の掌に浮かんでいた膨大な魔力を凝縮された白炎『フルゴール・フレア』は主の制御を失い、暴発するように周囲を白く染め上げようとした。。
しかし、その大破壊力は同時に抜き放たれた青Kの奔流や魔弾、流星の礫が相殺しあい末―――神殿の一部を完全焼失させ、事なきを得た。チェルたちが居た場所には相殺の余波を凌ぐために神無の黒翼で幾重に、幾重にも纏い、球体のようになっていた。
そして、球体が粒子となって散るとチェルたちが無傷で座り込んでいた。一方の神無は疲弊した顔色で魔K刀リンナから元の魔剣バハムートへと持ち替え、腰を下ろした。
「化け物染みた強さだ」
神無は肩で息を繰り返しながら、吐き捨てるように言い切った。
カルマと一戦交えた事のある彼だからこそ理解した強さだ。恐らくカルマとエンの実力は同等、あるいはどちらかが上であろう。
再び、剣を交える時――勝利を掴み取れるのだろうか。底知れぬ不安をかみ締め、表情に出さないように息を零した。
神無たちが再び、奥へとつつき進みはじめた頃は丁度、数分の暇を得た後だった。
時間を戻し、再びアバタールの罠で神無たちが消えてすぐの事だった。
目の前で発動した陣を調べても、反応は無く、彼らを引き戻す事もかなわない。
「……神無たちは無事だろうか」
不安げに呟いたのはブレイズだったが、ほかのモノたちも不安な顔色だ。しかし、その中、ディザイアはしっかりとした様子で口を開いた。
「進もう。彼らを待つだけ時間を食ってしまう……急がねばならない」
「―――解った。先へ行こう」
母のために、その言葉を口にされたブレイズも頷き返した。自分たちが此処まで来たのはそのためでもある。半神たちは先へと進む事を決めた。
アバタールの気配も奥へ奥へと進むにつれて強くなり、最奥の広間の入り口へと辿り着くと扉越しにいるのが見えずとも理解していた。
そうして、扉の前まで辿り着くと扉が重い音と共に、開かれる。意を決して、踏み込んだ彼らの後ろで扉がすぐに閉められた音が聞こえた。だが、彼らは振り返る気は無く、真っ直ぐに広間へと歩みだし、その歩をとめる。
そこに気配の根源がいるからだ。
「……やはり……来たか……」
天からは雪のように青K、茜の火の粉が振り散り、地は双方の繰り出した炎が燻る中で倒れているのは無轟であった。
神無の一刀により体は無残に大きく裂かれており、体内にあった勾玉が青Kの炎に呑まれて散った。これで彼は再生も出来ず、果てるのを幾許としていた。
起き上がる事も無く倒れたまま、無轟は天を仰ぐ無轟の顔に苦悶も一切が無かった。そう、彼は清々しいまでに安らいだ顔だった。神無はその顔を不愉快そうに見下ろしている。
「……」
この顔を見たのは『二度目』。一度目は言うまでも無く、本人の死に際に浮かべていた表情だった。
終ぞ父と戦うという道を選ばず、乗り越える事も出来なかった彼の心に刻まれた想い、記憶の海の奥に息吹いていた一種の悲願を今、かなえてしまった。この無轟は自分の記憶から生み出された『神無の視点』で再現された父。否定もできず、かなえてしまったという現実を不愉快に顔を顰めながらに息をこぼした。
「―――……胸糞悪い」
アバタールの力で再現された存在として、選ばれてしまったのが無轟という父親。しかし、それを父と許容するには理が異なる。紛れも無くこの無轟は幻そのものであった。全くもって、息子が見て模写した贋物に過ぎない。
そして、空間の崩壊を感じ入る。大よその決着を果たすと空間はもとの回廊へと転送される。その兆しの音と共に神無は今一度、無轟を見下ろした。
「見事、だ」
倒れている男はあくまで、無轟として、無轟たらんと安らいだ表情を崩さず、微笑を作った。
「お前は……己の記憶に、己が懐く『最強の敵』に―――…打ち勝った」
「……」
既に神無に刻まれた険しさは無く、有耶無耶な顔でいた。
かける言葉が紡げずに、神無はじっと無轟を見下ろしている。それに気づいたのは神無の記憶を懐いているこの偽りの無轟だった。
「何も言えないのは……無理も……」
「―――今の俺に言えるのは一言だけだ」
「?」
不思議そうに神無を見つめる無轟に神無はゆっくりと言葉を紡ぎ、表情を浮かべた。
「『おやすみ』」
笑顔では朗らかさに遠く、微笑ではいささか足りない。そんな半端な笑みを向けて、無轟はすっと息を零して頷き返した。
「――――ッ――――……ああ……」
偽りの無轟はこの一言に覚えがある。この一言は、無轟が死して間もなく神無が紡いだ弔いの言葉であった。理解したと同じくして全身の姿が薄らぎ、やがて消えさった。
神無は再び、元の第一島にある神殿内の回廊に立っていた。足元には円陣が刻まれているが、機能は止まっているように見える。
同じく、周囲にはチェル、シンク、ヘカテー、そして、アダムが同じように立っており、元の場所に戻った事を気づく。
「あ、神無さん、アダムさん。無事でしたか?」
「おうよ。――厄介な罠だったぜ」
「全くですよ。悪趣味にもほどがある」
「だな」
記憶から再編された敵と戦った神無、アダム、チェルはそれぞれ苦々しい顔で納得した。
シンクとヘカテーはその様子に苦笑を含ませながら、周囲の状況を見る。
既に半神たちの居る気配が無い。恐らく先に進んでいったのだろうと思った。無理も無い、この先に彼らの母が囚われているのだろうから、救い出さなければならないという思いに駆られる事は誰にでもある。
焦燥のあまりにアバタールの罠に嵌まっていないことを願い、神無たちは奥へと進んだであろう半神たちと合流のために進もうとした。
だが、新たな気配の出現に神無たちは動きを止める。強大な力を秘めた気配に剣呑として、身構える。彼らの前に幽玄と現れたのは白で統一された衣装と隠すように巻きつけた包帯で素顔を隠した――体格からして、男性であった。
「……誰だ、お前」
「――」
男は神無の問いかけを無視するように黙し、その視線は彼らを見据えるようにじっくりと見ていた。そして、白い布の下から口を開いた。
「いや、失礼。私は……エンと申します。お見知りおきを」
「……」
己をエンと名乗った白服の男を神無は鋭い眼差しで見据える。強かな含みのある丁寧な言動はなお不審を煽る。
だが、神無はふと思う。この男には仮面が無い。素顔を白い布で隠しているが、その下が仮面ではないことはすぐ理解した。問題は彼はカルマの仲間なのか、あるいは別なのか。
「問いに答えろ、お前は―――『カルマの仲間か?』」
「……お互いに協力関係を結んだ者同士――盟友、と思えばいいですよ」
「そうか。なら、今此処で撃つ」
簡素な一声と同時にチェルはイザナギの引き金を引き、装填した魔弾が火を噴く。視界全体を覆うように迫る黒い渦の塊にエンは失笑気味に息を零し――、
「『リフレクトウォール』」
その言葉を発したと共に黒い渦の塊へと呑まれたが、瞬時に攻撃は打ち消され、周囲を巡る結晶から先ほどの魔弾が無数に分裂して周囲へと炸裂した。
「ッ…!」
それらの返し技を『あえて周囲に逸らした』事をチェルは――この場に居る誰もが直感した。この男は異様な強さを備えている。
「どうしました? 『私を撃つ』―――そう、言いましたよね?」
言葉の重圧が容赦なく圧し掛かり、返す言葉を殺ぎ落とされる。チェルは重圧の中、銃口を向けなおす。震えは無い、だが、引き金が引けない。
動きを止めてしまったチェルを見て、エンは嘆息なため息を吐いた。
「やれやれ、―――」
「ッラアアアァ!!」
魔K刀リンナを手に、間合いを一瞬のうちに踏み込んだ神無の一閃が青Kの爆炎を伴って振り放たれた。だが、それを阻む純白の翼がエンの背より姿を晒して防備する。
神無は彼へ背を向けずにすぐに後ろへとバックステップをとる。再び元居た場所へと立ち、エンを見据える。白い翼を払い、屹然とした様子で言った。
「――なるほど、やはりお強い。貴方たちの足掻き、どこまで通用するのやら……愉しみにしておきましょう。……では、取って置きの置き土産を一つ」
身構え一つしなかった彼が悠然と片手を天へと掲げると、虚空より幾重に呪文が巻きついた黒い影を宿した握り拳一つ分の白い炎球が現出する。
(!! ――やっべええッ!!)
「では―――再び、逢えることを祈っておきましょう。この魔法で生きて残れたのなら」
言祝ぐように言ったエンの姿は消え、彼の掌に浮かんでいた膨大な魔力を凝縮された白炎『フルゴール・フレア』は主の制御を失い、暴発するように周囲を白く染め上げようとした。。
しかし、その大破壊力は同時に抜き放たれた青Kの奔流や魔弾、流星の礫が相殺しあい末―――神殿の一部を完全焼失させ、事なきを得た。チェルたちが居た場所には相殺の余波を凌ぐために神無の黒翼で幾重に、幾重にも纏い、球体のようになっていた。
そして、球体が粒子となって散るとチェルたちが無傷で座り込んでいた。一方の神無は疲弊した顔色で魔K刀リンナから元の魔剣バハムートへと持ち替え、腰を下ろした。
「化け物染みた強さだ」
神無は肩で息を繰り返しながら、吐き捨てるように言い切った。
カルマと一戦交えた事のある彼だからこそ理解した強さだ。恐らくカルマとエンの実力は同等、あるいはどちらかが上であろう。
再び、剣を交える時――勝利を掴み取れるのだろうか。底知れぬ不安をかみ締め、表情に出さないように息を零した。
神無たちが再び、奥へとつつき進みはじめた頃は丁度、数分の暇を得た後だった。
時間を戻し、再びアバタールの罠で神無たちが消えてすぐの事だった。
目の前で発動した陣を調べても、反応は無く、彼らを引き戻す事もかなわない。
「……神無たちは無事だろうか」
不安げに呟いたのはブレイズだったが、ほかのモノたちも不安な顔色だ。しかし、その中、ディザイアはしっかりとした様子で口を開いた。
「進もう。彼らを待つだけ時間を食ってしまう……急がねばならない」
「―――解った。先へ行こう」
母のために、その言葉を口にされたブレイズも頷き返した。自分たちが此処まで来たのはそのためでもある。半神たちは先へと進む事を決めた。
アバタールの気配も奥へ奥へと進むにつれて強くなり、最奥の広間の入り口へと辿り着くと扉越しにいるのが見えずとも理解していた。
そうして、扉の前まで辿り着くと扉が重い音と共に、開かれる。意を決して、踏み込んだ彼らの後ろで扉がすぐに閉められた音が聞こえた。だが、彼らは振り返る気は無く、真っ直ぐに広間へと歩みだし、その歩をとめる。
そこに気配の根源がいるからだ。
「……やはり……来たか……」
■作者メッセージ
エンの技…勝手に考えてしまった。まあいいや…
『フラゴール・フレア』
握り拳一つ分くらいの魔力を炎として凝縮し、解き放つ事で膨大な火力が周囲を焦土に帰す白い炎の魔法。立ち位置として上級魔法。
並みの使い手は1〜3が限度。エンは普通に10〜不明。
『フラゴール・フレア』
握り拳一つ分くらいの魔力を炎として凝縮し、解き放つ事で膨大な火力が周囲を焦土に帰す白い炎の魔法。立ち位置として上級魔法。
並みの使い手は1〜3が限度。エンは普通に10〜不明。