第一章 永遠剣士編第三話「仮面の遠謀/タルタロス到着」
神の聖域レプセキア第一島、とある広間。
「――反応があった」
ジェミニは常に永遠城とリンクしているといっても過言ではない。だから、睦月らの行動がわかった。
傍に居るのは仮面の女性と裏切りの半神アバタール、ほか操られた一部の心剣士、反剣士たちだった。
「そう、場所は?」
「……タルタロス、という世界の名前だ」
「へえ……」
仮面の女は腕を組み、佇む姿勢にかえた。
そして、仮面の奥から零れたのは小さな笑い声だった。
「ふふ…わかったわ。アバタール、ティオンとアルガ、あと数人選んでタルタロスへ向かいなさい」
「永遠剣士だけか」
アバタール自身、永遠剣士以外の駒は充分に揃っていると想っている。
その疑念を込めて、二つ返事に返さないで彼女に問いただした。
「――使えそうなやつもあればいいかしら」
「解った」
そう言って、アバタールは人選を選び始めるためにこの部屋に居た心剣士、反剣士たちを連れて出て行った。
「貴方も行ってみる、ジェミニ」
「……」
「別に残った永遠剣士を連れて出してこいなんていわないわ」
「そう言う意味か…」
ジェミニは彼女に逆らえない。彼女の支配を受けている限り。
そして、遠まわしな命令でも彼は彼女に逆らえない。
「なら、同行だけでいいだろう」
「構わないわ」
ジェミニはこの時、こう考えていた。
彼らに自分を斃して貰おうと。
(このまま、奴らの傀儡になるくらいなら……な)
ジェミニも部屋を出て行き、残ったのはカルマ一人だけだった。
すると、部屋の入り口が開き、入って来たのは白衣を着た老齢の男性と白衣に赤いジャージを着た青年。
二人共、彼女の支配を受けている証たるモノクロの仮面を装着している。
「あら、ベルフェゴルに、レギオン……報告か、何かかしら?」
「そうじゃとも。御主が我々に命令した『KR』の事じゃ」
「ええ。一応、指揮型KRの『三神機』の外殻装甲は完成しました―――唯、問題は」
「中身、ね」
老人――ベルフェゴル、青年――レギオンは揃って首を頷いた。この命令の立案者である彼女は利用しうる技術者として二人に命令を下していた。
そして、二人がその問題を自分に報告しに来るのも想定内だった。
「わかっておるなら、先に…」
「伝えた際には人手も少なかったから、後に伸ばしたのよ」
「そうでしたね。まだ、少なかったですし」
「だから、必要な時期を見計らっていたのよ。一応、残っているメンバーを分けてハートレスを狩るわ。
更に残った面子で―――王羅たちを手に入れるわ」
「そこまでして必要なのか、王羅は」
「彼――いや、彼女は十分な実力、そして究極心剣の使い手よ? 今の所、心剣士の中で究極剣士に至っているのはつれてきたばかりの神月とオルガ。
そして、クェーサーの3人……充分にそろえてきているけど、それでも足りない足りない」
仮面の女はわざと演技臭い動きを示しながら話した。
「心剣士、反剣士、永遠剣士、そしてKR―――充分な戦力なれど、それでも此処に来るであろう半神たちに対抗できるかは疑問ね」
「……」
ベルフェゴルは押し黙った。自分たち以外にも半神は――レプキアの子供たちはいる。
現状、この聖域にはベルフェゴル、アバタール、ティオン、アルガ、ラムリテ、シュテンと言った半神たちが支配を受けている。
ほかの半神たちは此処に帰省することは稀。だが、この危機を知っているアーシャたちが半神たちに吹きまわっていけば話は別になる。
「まあ、三神機はその為の戦力なのだけどね。じゃあお願いするわ」
「解った」
「では失礼します」
二人は彼女に軽く頭を下げて、去っていった。
「さて、アバタールは永遠剣士、私はもう一度、あの世界にいる心剣士でも狩ろうかしら。――何せ、王羅とお邪魔虫も来ていたようだし」
仮面の女は神月たちを連れて、メルサータを去る際に神月の記憶を覗いていた。除いた結果、「神無」と言う優れた心剣士であることを知り、興味を抱いた。
そして、監視用のKR(の試作小型)を残した。監視範囲は神無の家周辺。操られた事を伝えに行くだろうと狙い済ました結果、見事に的中した。
王羅、以前に彼女の捕縛を阻害してきたローレライとその従者。遅れて、王羅の部下・刃沙羅がやってきた。
(なかなかに充溢した戦力だから、こっちのものにしたいわね。選ぶメンバーもこちらで絞り込んでおこうかしら。後は、ティオンとアルガの奇襲を拵えておこう)
行動に起こすのは、アバタールが帰還した時くらいにしようと想い、その準備へと部屋を出て行った。
*
「――アビスを頼んだよ」
「ああ、心配するな」
睦月、皐月、フェイト、カナリアの4人は永遠城からタルタロスの町へ降りる前にテウルギアたちにそういい、彼らは快く了承し、見送る。
そして、4人は永遠城から町へと降りたった。しかも、
「フェイト、タルタロス(ここ)に何かいいのはあるか」
「あー多分かもしれない」
「それでもいいんじゃない?」
「でも、どうして此処なのだか」
彼ら4人が降り立った場所はタルタロスの中央に位置する噴水広場。ヒトの行き来があるこの場所で降り立った彼らはまさにイレギュラーな存在。
広場に居たヒトたちの視線がいっせいに向けられ、気付いているのは皐月だけだった。さつきの態度に他3人もやっと気付いた。
「あぁ?!」
視線に苛立ったカナリアがドスの籠もった声で威嚇した。ヒトたちはいっせいに驚き、悲鳴とともにどこかへと走り去っていった。
ふふんと、してやったりな笑顔を浮かべた彼女に上官たるフェイトは拳骨で制裁した。
「っ!」
「馬鹿、怖がらせてどうするんだ。ここで敵意がある連中だと思われたら、厄介――」
「あの」
「ん」
何処からか黒衣のコートを着た穏やかそうな少年がやってきていた。睦月は少し驚きを隠して、少年に返事を返す。
「ああ、此処の住人?」
「はい。あなた方は……上からですか?」
少年が「上」と言う言葉――つまり、永遠城からの来訪者であるかの確認だった。睦月は頷き返して、
「すまねえ、変なところに下ろされて、コイツが勝手に脅かしたんだ」
「そうなんですか……あ、自己紹介しておきますね。僕はシンクといいます」
「おう、じゃあこっちも名乗っておくか」
そう言って、睦月は自分と3人を紹介し、そして、此処にやって来た経緯を一応話した。
信じてもらえるかは別として、だ。
「なるほど…仲間がつれ攫われて、此処になら情報があるのじゃないか――ですか。確かに、此処『タルタロス』は色んな世界のヒトたちで創られた世界。今もなお、色んな世界の旅人が此処を行き来します」
「じゃあ、情報が一杯有る場所はあるのか?」
「……そうですねえ」
シンクはどこかせわしなく広場にある街灯の電球を尻目にして、考えている。
すると、フェイトも彼が見据えている街灯を見据え、小さく拳を振った。
■作者メッセージ
更新が遅れて申し訳ありません。今回は仮面の女の話も間に入れています。
この土日でもう2話くらい更新したいと思います。努力します
この土日でもう2話くらい更新したいと思います。努力します