第六章 三剣士編第九話「真実へ」
神殿の外まで出るとモノマキアが既により近くに設置されていた。
何人かが彼らの帰還を待っていた様子で、神殿から出てきたのを気づくと駆け寄ってきた。駆け寄ってきた者たち―――順にツヴァイ、神月、シムルグ、アレスティア、ビラコチャ―――は気づく、戦いへと赴いたディザイアの姿がどこにも居ない事に。
深く問うことが出来なかった。事実だけを噛み締めるように表情を険しく、物寂しくしている同胞たち、そして、久しく再会した母の表情に理解を早める。
「……詳しい話は船内で話し合いましょう」
言葉に詰まらせていた彼らの沈黙を切り開いたのはレプキアだった。続けざまに彼女は重々しいため息と共に吐いた。
返す言葉も出ない、反省にも似た表情を出迎えた一人アレスティアは彼女へ頭を下げてから、神無たちと共に船内へと乗り込んだ。
操作室の広間にはアイネアスを初めとした半神キルレスト、シーノや、王羅、神無、アダムの人間たち。
残りはレプキア、アーシャ、ビラコチャ、そして、操られていた者たちの代表として半神ベルフェゴル、反剣士レギオンがいた。
会話の命題は主に情報の交換や今後の行動であった。
第五島全てを進行して、アバタールが倒れ、レプキアが復活した今でも、カルマは姿を現さないまま、所在がつかめないままであった。
「―――ベルフェゴル、貴方はカルマが何処かへと行ったのか知らないの?」
レプキアは話を清聴していたが、突如口火を切って半神ベルフェゴルへと問いかけた。老体の体がビクとはねる様に体が反射し、
しばし言葉を紡がずに思考をめぐらせた。しかし、重々しく白状する。
「……ワシもこのレギオンも存じません。ワシらは『KR』を造らされていたじゃった」
「『KR』?」
「確か、ビフロンスで戦った筈?」
「俺や…王羅は、あの時はビフロンスに居なかった。ああ、でもミュロスの解析で見たな」
神無の言葉に応じたアイネアスは操作盤を打ち込むと彼らの視線の上に立体映像が映し出される。
――鎧の騎士が虚空に浮かび魔法陣で磔にされ、その剥き出しの胸郭に『ハート』が固定されている。ミュロスの案で1体のKRを捕縛させ、こうして動きの全てを封じた上でビフロンスの城内の地下に幽閉している。
通信映像であるが、それを見たレギオンとベルフェゴルは、やや驚いた顔色をした。それは事情とはいえ、精魂こめて作り上げた傑作を解剖された事への傷心であった。
しかし、弁えている技巧の老人と青年はわざとらしい咳きで、一息ついてから話を続けた。
「そう、アレはKR――『贋物の剣と騎士(キーブレード・レプリカ)』。
……カルマが所有していた『知識』を我々で再現させた事で、あれが出来上がったのです。あのハートは『ハートレスから抽出したハート』で、操られていた者たちは時折、ハートレスの討伐をしていました」
「『贋物』と一言で括っても、モノがモノだ………そんな世界があったのかもしれない」
「……という事は、カルマ―――彼女の居た世界では『キーブレードの使い手』はまず『多かった』のかな?」
二人の話を聞いた『旅人』のアダムと王羅は感慨深く呟いた。
世界を渡り歩く『旅人』である王羅はかれこれ500年の中で、この様な異質な技術を持つ世界は見たこともないし、あるのかすら疑っていた。
更に、キーブレードの存在を認識された世界など稀有である。贋物であろうとも。
津々と溢れてくる疑問に懐くも、今は議論を続ける事を優先して、今後の行動を話し出す。
「――これからどうする? あまり人を分けるのは不安だけど大まかに3つある」
一つ、ビフロンスに帰還し、休息し、その後、カルマを追いかけ、撃破する。
一つ、ビフロンスへ帰還し、前者を待つ事を選ぶ。
一つ、モノマキアから降り、神の聖域レプセキアに滞在する。
「……最後の選択は半神たちで決めてくれ。前者の行動に則る構わないし」
「――すぐに決めないといけない?」
提示した神無の3つの選択に、レプキアは首をかしげて尋ねた。涙を流し、赤みのある鋭い眼差しに、彼は表情をやや困らせて頷き返した。
「ほかの皆にも言わないといけない。ある程度時間が過ぎたらここでもう一度話し合おう。――んじゃ、半神たちは半神同士で話し合う方が楽だろうし、失礼するぜ」
そう言って神無は王羅やアダム、レギオンを引き連れて部屋を出て行った。広間には半神たちが残された。しかし、この広間に全員は居らず、ビラコチャはアルカナが半神たちを呼び集めるべく部屋を出た。
ビフロンスへ帰還する共通を持つ二つの行動は先にレプセキアへ残るだろう半神たちの決定の後、ビフロンスで決めることにした。
再び、広間には呼び出された半神たちが集い、レプキアの姿に安堵し、ディザイアの死に悔やんだ。そして、決断を求める。
「貴方たちに問うわ。此処に留まるか、最後までカルマとの因縁を終わらせるか」
レプキアの短絡な言葉に、答えを唱える者はまだ居ない。すると、アーシャが挙手する。
自分から発言しない事が多い彼女が誰よりも早く口火を切るとはこの場に居る誰もが予想外だった、ただ、レプキアは最奥の広間での彼女を見ている。この話を終えた後、行動を移す事も。
「……私は戦う力はありません。己の身も護れないほどに弱い。ですが、最後まで……同行したい……です」
「―――アーシャに先を越されたな」
「ああ」
苦笑気味に呟いたのはブレイズとアルビノーレだった。二人はアバタールの兇刃の呪力を受け、先の戦いではただ眺める事しか出来なかった苦渋とディザイアを救えなかった無念もあった。
この場にいる半神たちはカルマとの因縁の決着を望んでいる意思を示している。表情に迷いがない。レプキアはうなずき返し、微笑みを作った。
再びレプキア、神無や王羅たちで協議を始める。
半神たちは総じてビフロンスへと向かう、そこから半神たち数名がカルマと戦うこととなった。神無たちも同様にビフロンスへ残るもの、カルマと戦うことを選んだものに分かれる。
操られた心剣士たちもビフロンスで事件の解決するまで保護することも決定し、協議は終了した。レプセキアからビフロンスへ帰還するための準備を要するため、しばしの時間のいとまが出来た。
「―――いくわよ。アーシャ。私を案内しなさい」
「……はい」
協議の終わり、部屋へと案内され、二人きりになる。暇の時間を得たレプキアはアーシャに詰め寄るように言った。アーシャは静かに頷き、彼女の案内のもとに部屋を出ていくレプキアであった。
船を降り、第一島の戦いの傷跡残る神殿へと入り、真っ直ぐ突き進んでいく。アーシャの先導のままに進んでいる中、レプキアは彼女の言葉を深く考えていた。自分の知らない何かを彼女は持っている―――いや、隠していた。黒布を外して、見た素顔に作った無情を醸し出す怜悧な表情もこの長い月日の中では一度たりとも見たことがない。そんなアーシャを自分の知っているアーシャではないと思い込んでしまいそうであった。
問い詰めようと唇を動かそうとしたが、無言の重圧がそれを阻む。アーシャは淡々とした足取りで先導を続けていた。声をかければ、素直に立ち止まり、振り向くだろうか。言い知れぬ不安に包まれながら奥へと―――そう、最奥の広間へとたどり着いた。
何人かが彼らの帰還を待っていた様子で、神殿から出てきたのを気づくと駆け寄ってきた。駆け寄ってきた者たち―――順にツヴァイ、神月、シムルグ、アレスティア、ビラコチャ―――は気づく、戦いへと赴いたディザイアの姿がどこにも居ない事に。
深く問うことが出来なかった。事実だけを噛み締めるように表情を険しく、物寂しくしている同胞たち、そして、久しく再会した母の表情に理解を早める。
「……詳しい話は船内で話し合いましょう」
言葉に詰まらせていた彼らの沈黙を切り開いたのはレプキアだった。続けざまに彼女は重々しいため息と共に吐いた。
返す言葉も出ない、反省にも似た表情を出迎えた一人アレスティアは彼女へ頭を下げてから、神無たちと共に船内へと乗り込んだ。
操作室の広間にはアイネアスを初めとした半神キルレスト、シーノや、王羅、神無、アダムの人間たち。
残りはレプキア、アーシャ、ビラコチャ、そして、操られていた者たちの代表として半神ベルフェゴル、反剣士レギオンがいた。
会話の命題は主に情報の交換や今後の行動であった。
第五島全てを進行して、アバタールが倒れ、レプキアが復活した今でも、カルマは姿を現さないまま、所在がつかめないままであった。
「―――ベルフェゴル、貴方はカルマが何処かへと行ったのか知らないの?」
レプキアは話を清聴していたが、突如口火を切って半神ベルフェゴルへと問いかけた。老体の体がビクとはねる様に体が反射し、
しばし言葉を紡がずに思考をめぐらせた。しかし、重々しく白状する。
「……ワシもこのレギオンも存じません。ワシらは『KR』を造らされていたじゃった」
「『KR』?」
「確か、ビフロンスで戦った筈?」
「俺や…王羅は、あの時はビフロンスに居なかった。ああ、でもミュロスの解析で見たな」
神無の言葉に応じたアイネアスは操作盤を打ち込むと彼らの視線の上に立体映像が映し出される。
――鎧の騎士が虚空に浮かび魔法陣で磔にされ、その剥き出しの胸郭に『ハート』が固定されている。ミュロスの案で1体のKRを捕縛させ、こうして動きの全てを封じた上でビフロンスの城内の地下に幽閉している。
通信映像であるが、それを見たレギオンとベルフェゴルは、やや驚いた顔色をした。それは事情とはいえ、精魂こめて作り上げた傑作を解剖された事への傷心であった。
しかし、弁えている技巧の老人と青年はわざとらしい咳きで、一息ついてから話を続けた。
「そう、アレはKR――『贋物の剣と騎士(キーブレード・レプリカ)』。
……カルマが所有していた『知識』を我々で再現させた事で、あれが出来上がったのです。あのハートは『ハートレスから抽出したハート』で、操られていた者たちは時折、ハートレスの討伐をしていました」
「『贋物』と一言で括っても、モノがモノだ………そんな世界があったのかもしれない」
「……という事は、カルマ―――彼女の居た世界では『キーブレードの使い手』はまず『多かった』のかな?」
二人の話を聞いた『旅人』のアダムと王羅は感慨深く呟いた。
世界を渡り歩く『旅人』である王羅はかれこれ500年の中で、この様な異質な技術を持つ世界は見たこともないし、あるのかすら疑っていた。
更に、キーブレードの存在を認識された世界など稀有である。贋物であろうとも。
津々と溢れてくる疑問に懐くも、今は議論を続ける事を優先して、今後の行動を話し出す。
「――これからどうする? あまり人を分けるのは不安だけど大まかに3つある」
一つ、ビフロンスに帰還し、休息し、その後、カルマを追いかけ、撃破する。
一つ、ビフロンスへ帰還し、前者を待つ事を選ぶ。
一つ、モノマキアから降り、神の聖域レプセキアに滞在する。
「……最後の選択は半神たちで決めてくれ。前者の行動に則る構わないし」
「――すぐに決めないといけない?」
提示した神無の3つの選択に、レプキアは首をかしげて尋ねた。涙を流し、赤みのある鋭い眼差しに、彼は表情をやや困らせて頷き返した。
「ほかの皆にも言わないといけない。ある程度時間が過ぎたらここでもう一度話し合おう。――んじゃ、半神たちは半神同士で話し合う方が楽だろうし、失礼するぜ」
そう言って神無は王羅やアダム、レギオンを引き連れて部屋を出て行った。広間には半神たちが残された。しかし、この広間に全員は居らず、ビラコチャはアルカナが半神たちを呼び集めるべく部屋を出た。
ビフロンスへ帰還する共通を持つ二つの行動は先にレプセキアへ残るだろう半神たちの決定の後、ビフロンスで決めることにした。
再び、広間には呼び出された半神たちが集い、レプキアの姿に安堵し、ディザイアの死に悔やんだ。そして、決断を求める。
「貴方たちに問うわ。此処に留まるか、最後までカルマとの因縁を終わらせるか」
レプキアの短絡な言葉に、答えを唱える者はまだ居ない。すると、アーシャが挙手する。
自分から発言しない事が多い彼女が誰よりも早く口火を切るとはこの場に居る誰もが予想外だった、ただ、レプキアは最奥の広間での彼女を見ている。この話を終えた後、行動を移す事も。
「……私は戦う力はありません。己の身も護れないほどに弱い。ですが、最後まで……同行したい……です」
「―――アーシャに先を越されたな」
「ああ」
苦笑気味に呟いたのはブレイズとアルビノーレだった。二人はアバタールの兇刃の呪力を受け、先の戦いではただ眺める事しか出来なかった苦渋とディザイアを救えなかった無念もあった。
この場にいる半神たちはカルマとの因縁の決着を望んでいる意思を示している。表情に迷いがない。レプキアはうなずき返し、微笑みを作った。
再びレプキア、神無や王羅たちで協議を始める。
半神たちは総じてビフロンスへと向かう、そこから半神たち数名がカルマと戦うこととなった。神無たちも同様にビフロンスへ残るもの、カルマと戦うことを選んだものに分かれる。
操られた心剣士たちもビフロンスで事件の解決するまで保護することも決定し、協議は終了した。レプセキアからビフロンスへ帰還するための準備を要するため、しばしの時間のいとまが出来た。
「―――いくわよ。アーシャ。私を案内しなさい」
「……はい」
協議の終わり、部屋へと案内され、二人きりになる。暇の時間を得たレプキアはアーシャに詰め寄るように言った。アーシャは静かに頷き、彼女の案内のもとに部屋を出ていくレプキアであった。
船を降り、第一島の戦いの傷跡残る神殿へと入り、真っ直ぐ突き進んでいく。アーシャの先導のままに進んでいる中、レプキアは彼女の言葉を深く考えていた。自分の知らない何かを彼女は持っている―――いや、隠していた。黒布を外して、見た素顔に作った無情を醸し出す怜悧な表情もこの長い月日の中では一度たりとも見たことがない。そんなアーシャを自分の知っているアーシャではないと思い込んでしまいそうであった。
問い詰めようと唇を動かそうとしたが、無言の重圧がそれを阻む。アーシャは淡々とした足取りで先導を続けていた。声をかければ、素直に立ち止まり、振り向くだろうか。言い知れぬ不安に包まれながら奥へと―――そう、最奥の広間へとたどり着いた。