第一章 永遠剣士編第四話「塔/襲撃」
―――ッバァリィン!!
『!!』
「――ふぅ、いい加減。ヒトと話しているときくらいは目を合わせたらどうだい?」
フェイトは自らの力を押し固めて、小さな衝撃波として放った技『虚弾』を繰り出した。
そして、彼は高速移動手段――響転で、破壊した街灯の下まで歩んだ。壊れた電球の中からあるモノを取り出して再び、シンクの前に戻る。
「これで誰かに僕たちを知らせているの?」
「…」
「おい、それって」
フェイトの掌にあるそれは小型カメラのようなものだった。驚く睦月に、それに納得する皐月、今にも斬りかかりそうなカナリア――それぞれの態度に、シンクは口を開いた。
「―――一応、君たちはあんなデカイ城から突然此処へ降りてきた。そして、戸惑うヒトたちに脅しの一声をかけて更に混乱を誘った。……充分、この行動をとるのに不足なものじゃない筈だよ。
それに、これ以上変な事をしなかったら僕から頼み込める。それは監視用じゃなくて検察用だよ。キミたちがこの町の害悪か、無害を定める」
「って、待てよ……その最中にフェイトがそれをぶっ壊したってことは…」
最悪、侵略者と分類されたのではないかと睦月は苦笑を浮かべる。
手出ししたフェイトに、副官のカナリアが怒鳴り声を出して叱っているその様子を尻目に、シンクは同じく苦笑で答えた。
「大丈夫。もうじき、僕の仲間が此処に来るだろうし――その際に僕から話せばいいだけ
」
「そうか」
睦月は遠くから此方へやって来る姿を見据えながら、
「じゃあ、頼むぜ。シンク」
「ええ」
彼はにこやかに笑みで返した。
「――そうですか、お仲間を……」
悪魔を彷彿する2本の角を生やした青年。
紳士礼装を髣髴する衣装、腰に巻いたベルトに差し込まれたサーベルの柄を手に添えながら歩くその姿は毅然として軍人に見える。
同行するのはシンクと彼と同じくらいの見目をした白服の少女。その手に抱え持つ錫杖が動くたびに透き通った音を奏でる。
青年の名前はアガレス。その見目通り、悪魔であるが嘗て彼自身が居た世界では覇者たるものとして君臨していた「王」だった。現在はその世界からある事情で追放され、流れるうちにシンクたちと出会い、共に旅をした仲間の一人になった。そして、今、シンクの友としてタルタロスを警備する一団に属している。
少女の名前はヘカテー。ニュクスの塔でひそやかに作られ居た人造生命体。シンクにより、覚醒し、彼と共に旅の仲間となった。今は彼の家で住まわせてもらっている。
「――フェイト、もう手ぇ出すなよ」
「ああ。解ってるよ」
フェイトの一触即発の危険な行為に従属官たるカナリアは声音を低くして、注意を呼びかけた。そんな彼女を見てか、彼はにこやかに笑みで返した。
「睦月さん、これから向かう場所はニュクスの塔と言って、このタルタロスの情報が詰め込まれた場所です。もしかしたら」
「その仮面の女の情報があるかもしれない、ってか」
塔へ向かう中、シンクは睦月と歩調を合わせて、ことの内容を打ち明ける。
睦月は次第に近づきつつある黒い塔を仰ぎながら答えた。
「それにしても、この世界は本当に夜だな」
周囲を街灯や、店の光が煌びやかに輝いているもののやはり覆うは夜の闇だ。
「此処って闇の世界に近いんだろ? ハートレスとか、問題ないのか?」
「確かに、ハートレスが出る時はあります。それを未然に防いでいるのが、あのニュクスの塔の対、『エレボスの塔』です。あの塔はこの町の市民区域にハートレスを寄せ付けない『光』を放っているんです」
「そういや、此処についた時に変に光っていたのはそう言うことか」
「ええ。それでも出て来る時はありますけどね」
シンクが歯がゆいように苦笑を零した。この世界に――いや、どの世界にもハートレスの脅威は蠢いている。大なり小なりに。
そう会話しあっていると、塔の入り口へと到着した。
「此処です」
「此処に情報があるのか?」
「それは探してみなくては解りませんよ」
そう言って、先に入っていったシンク、ヘカテー、アガレス。遅れて睦月たちもニュクスの塔へと入った。
「父さん!」
「シンク……それに」
塔の1階フロア、不気味なほど白く見繕った衣装を来た青年と赤黒いコートの男性が何か話し合っていた。
そこに入って来たシンクたち。シンクはコートの男性へ駆け寄った。
「……誰だ、あいつ等は」
「上空から来た「城」の住人です。――実は」
「―――なるほど、仮面の女…か」
経緯と紹介を終えた睦月たち。話を聞いたチェルは腕を組んで、屍を見やった。
「その些細な情報だけで、ニュクスの塔のデータベースに該当できるかはわかりませんが、やって見ましょう」
「ありがとうございます!」
「御気になさらず。しばしのお待ちを―――」
睦月は深く頭をたれて、チェルたちに礼を言った。屍は微笑み返して、塔の内部へと戻ろうとする。
「どれ位かかる」
チェルに通り過ぎる手前でチェルは屍に問いただす。歩きをとめた彼は、少し考えるようにうーんと零すと、
「2時間は余裕だね。何せ、曖昧なデータを洗い浚い探し出すから」
「そうか」
屍は再び歩みをはじめ、戻っていった。
「――1時間も此処で待つより、この町でも歩いて見るか?」
「そうだな、そうするか。じゃあ、アビスに連絡してくる」
「睦月、ボクが行くよ」
フェイトがぽんと睦月の肩をたたいて笑い返した。うんと頷いた睦月の了承を見て、塔を出て行った。
「まだ結果は出ていない。彼女に希望を持たせるのは急くにもほどがあるなあ」
永遠城へ戻る中、フェイトは睦月の短絡さをあきれていた。彼女にこれ以上昇進させてどうするのだ、と思った。
希望を持たせて、いざ答えが無かったらどうするつもりだ。それこそ八方塞になる。
「まあ、アイツなりの善意か」
嫌いじゃないが、考えて欲しいものだ、フェイトはそう嘆息し、一気に空中に飛び上がった。
永遠城は以前、空中に浮上している。わざわざ、アチラから転送してもらう必要は無い。
「ん?」
妙な気配が突如、背後を過る。振り返った刹那、
―――――ッシャァァァ………!
「なっ―――」
過ったそれは白髪交じりつややかな黒髪をした、冷たい灰色の瞳をした男。
その手に持つ灰色の剣―――。
「ジェミニ……ッ――――!!」
力なく、胸横一閃に走った傷をおさえたままフェイトは空中からタルタロスへと落下していった。
「ッ!!」
街中を歩み始めていた時、カナリアはフェイトの気配をいち早く感じ取った。
驚く様子に戸惑う一行。彼女はさめた顔色でいった。
「フェイトが……斬られた」
「!!」