第一章 永遠剣士編第五話「戦の始まり」
「――なんだ、トドメをささないのか。あれはお前の仲間だろう?」
ジェミニの後ろから空間が歪んで、姿を現したアバタール及びSin化したものたち。
アバタールは彼の行動に不信を抱いた。
「いや、仲間だからか?」
「……」
「指令を言い渡す。―――捕縛対象は永遠剣士。朕とジェミニだけでいい。
そして、残りはもう1つの命令を、そう――――!」
タルタロスの破壊を決行する
「――行くぞ」
アバタールの一声と共に一斉に散らばった洗脳者たち。
その気配にいち早く勘付いたのはフェイトが斬られた事を感じ取ったカナリアだった。
「上よ! あいつらこの町中にバラバラに飛んでいった。さっさと行動をとらないとやばいわよ?!」
「っ……屍! 緊急事態発生だ。あちら側から仕掛けに来た! エレボスの塔から街中を護れ」
『どうやらそのようだ。さっそくキツイ一撃が飛んできた!』
屍の返事と同時にエレボスの塔に巨大な爆発が発生した。その爆撃に住人たちは混乱に陥ってしまう。
悲鳴をあげ、逃げ出す人々。人並みの中、チェルはシンクたちに命令した。
「シンク、ヘカテー、アガレス、ほかの警備団と一緒にエレボスの塔が動けるうちに人々を避難させろ」
「はい!」
「皆! 落ち着いて!」
シンクたちは混乱した人々を落ち付かせる為、方々へ声を張り上げて向かった。そうしているうちにも街中の屋根やエレボスの塔に炎弾、爆撃が轟く。
「おい、アレはてめえらが連れてきた火種のようだな?」
チェルは爆撃を見やって、呆れたようにため息を一つ零した。そして、鋭く睦月たちを睨みすえる。
「し、知るかよ! 漏洩ってレベルじゃ…」
「いいから、用件を言う。それに乗っ取って動け!
今すぐ塔を攻撃している奴らを黙らせろ。エレボスの塔はああ見えて頑丈だが、人が作ったものだ。壊れるのは自明だ、さっさといって来い!! 後から俺やシンクも駆けつける!」
そう言って、チェルも人ごみへと駆け出していった。
「どうする、兄さん」
「今は、あれをとめるぞ」
「……ごめん、フェイトを探しにいってくる」
武器を取り出した二人に、カナリアは小さく呟き、高速移動手段『響転』でフェイトの下へ向かった。
「! ――ったく!」
「仕方ないよ」
二人はそれぞれ黒と白の翼を具現化し、一気にエレボスの塔へ攻撃している男の姿を捉えた。
「どうやら釣られたか」
突如、攻撃をやめた男。怪訝になる睦月と皐月の前に少年とジェミニが姿を現した。
「!!」
「……」
顔の半分ほどを仮面に包んでいるがジェミニその人だった。愕然とする二人。そして、それをせせら笑うアバタール。
「ジェミニ…」
「……」
「さて、感傷に浸りたい気分だろうが悪いな。―――お前たちを捕縛する、それが今回の襲撃の目的の一つだ」
そう言って、アバタールは刀身の長い翡翠の刀を虚空から抜き取った。
「名乗っておこう、朕の名はアバタール」
「……戦え、二人共。私を―――倒せ」
「ッ!!」
彼の言葉に戸惑いを浮かべながらも、躊躇わず同時に斬りこんできた二人、そして、攻撃を再開した洗脳者。睦月、皐月は八方塞がりな状況が押し寄せに歯噛みしながらも二人の攻撃を防いだ。
「フェイト!」
崩れた屋上に倒れこんでいるフェイトに駆け寄って来たカナリア。彼を揺り起こし、必死に呼びかける。
「……カナリア、か」
「大丈夫?!」
「この程度じゃ死なないさ。――少し、驚いたけど」
フェイトはジェミニに斬り付けられた傷口に手を触れて、苦笑の様な笑みをこぼした。
「何言ってるのよ、馬鹿!」
「……すまないね。でも、こうしていられないんだろう?」
「ええ……町が攻撃を受けてるの。それも結構あちこちね」
「そう。なら、ジェミニを止めないと。睦月や皐月には少し辛いだろうな。カナリア、町を攻撃している敵を倒すんだ。いいね」
「勝手にそんな事決めるの?」
「この傷のお返しだよ」
にこやかに返すと彼は起き上がった。傷口はすっかり塞がっているようだ。
そんな彼の様子にカナリアは戸惑いを浮かべている。
「……安心して、ね?」
「ったく」
微笑で宥めたフェイトと渋々と言った顔のカナリアは響転で移動した。