Fragment10-1「真(まこと)に隠された偽り」
辺り一帯、白に染められた不思議な空間。
その奥に、何やら巨大な機械が設置されており、その中に埋め込まれる様に白い鳥籠のような物の中に金髪の女性が横たわっている。
そんな彼女から少し離れた場所に、二人の男女が話をしていた。
「本当に、これでいいの?」
「何を言うんですか? やったのはあなたでしょう?」
「それもそうなんだけど…――あなたって、意外と残酷ね」
「これぐらい、当然の事です」
そんな事を話していると、後ろで微かな物音が聞こえる。
二人が振り返ると、女性がゆっくりと起き上っていた。
「…――っ、て…」
微かに呟くと、女性は顔を上げる。
「どうして…!! どうして、あなたが…!!」
牢越しに見せる悲しみに濡れた顔に、男は黙って背を向ける。
そのまま何処かに立ち去ろうとする男に、女性は鉄格子を掴んで力の限り叫んだ。
「お願い、こんな事止めてっ!!! 何があなたを変えてしまったの――っ!!?」
言葉の途中で、女性のすぐ傍に光弾が飛んできた。
嫌でも女性が口を止める視線の先には、男が手を翳してこちらを睨みつけていた。
「――その名を呼ぶなっ…!!!」
憎悪を宿す金色の瞳に睨まれ、女性は表情を強張らせ動きさえも止めてしまう。
それを見ると、男は再び背を向けた。
「私は、貴方の知る彼じゃない。例え、一緒だとしても―――こんな世界、無関係だ」
そう女性に言い切ると、男は再び冷めた目で振り返った。
「あいつには、私と同じ絶望や悲劇を味わらせる。貴方にはその為の引き金になって貰う―――スピカ」
男の言葉に、女性―――スピカは顔を俯かせ鉄格子を握る。
この二人の様子を、仮面を付けた女性は静かに眺めていた。
光の都―――『レイディアントガーデン』の商店街。
その一角に、突如光の空間が現れて口を開ける。
そこからライダーに乗ったシャオが飛び出すと、速度を落として地面に着地した。
「――よっと、とうちゃーく!」
乗り物を光に霧散して消すと、大きく両手を突き上げる。
背伸びして固くなった身体を解すと、朝とも夕暮れとも言えぬ紫の空を眺めた。
「さて、と。これからどうしよっかな〜」
これからの事を考えながらシャオが辺りを見回していた時だ。
「ん?」
何やら騒がしい声が聞こえ、シャオが首を傾げる。
すぐに近くにあった階段を下りると、そこにはいろんな種類のハートレスが広場に現れていた。
「ハートレス!」
いきなり現れた敵に驚いていると、ハートレス達はその場にいた人達に襲い掛かる。
住人達はハートレスから走って逃げたり、中には店の中に招き込んで避難させたりしている。そこをハートレスは襲おうとするが、何やら地面にある光の輪に吹き飛ばされる。
妙に手馴れた住人の避難にシャオが感心していると、一人の子供が走ってる途中で転んでしまう。それを見たハートレスが、子供に群がろうと近づく。
急いでシャオがキーブレードを取り出すと、腕を振り上げた。
「『ストライグレイド』!!」
キーブレードを投げつけ、子供に群がろうとするハートレスを倒す。
突然の事に子供が驚く中、シャオは庇うように前に立った。
「逃げてっ!!」
それだけ言うと、意図が伝わったのか子供はすぐに頷いてシャオから離れる。
キーブレードに反応してか、住人を襲っていたハートレス達はシャオに狙いを定める。それを見ると、シャオはキーブレードを構えてハートレス達を観察した。
「魔法系のハートレスが多いね…だったら!!」
すぐに腕を交差するなり、身体を光らせて自身の能力を解放する。
「第一段階―――…『パワー・モード』!!」
纏わりついた光を霧散させると、キーブレードを大剣のサイズに変える。
そうして駆け出すと、ハートレス達は飛び掛かったり空中でさまざまな魔法を放ってきた。
「はぁ!!」
シャオは大剣を振るって地面を叩きつける。
すると、叩きつけた地点から衝撃波が起こり、襲い掛かったハートレスは吹き飛ばされ、魔法も霧散された。
「一気に終わらせるよ!!」
そのままキーブレードを上段に構えると、シャオの周りを赤と青の球体が回る。
それと同時に、成す術も無く敵がシャオに引き寄せられる。そうして敵が集まると、回転するようにキーブレードを振るった。
「『マグネスパイラル』!!」
回転して攻撃し、ハートレスを一掃する。
闇に消え、ハートが飛び出る光景を見ながらシャオは軽く着地した。
その時、自分の真後ろから銃声が鳴り響いた。
「えっ!?」
思わず振り返ると、攻撃を免れたのか一匹のハートレスが闇に霧散している。
これを見ていると、奥の方で銃剣―――ガンブレードを突きつける青年が声をかけた。
「危なかったな」
そう言ってシャオに笑いかけると、青年は武器を下ろしてこちらに近づく。
どうやら自分を助けてくれたらしく、シャオは向かい合うとお礼を言った。
「あ…ありがと、おじさん」
「む…」
「あははっ!! レオン、『おじさん』だって!!」
「うるさいぞ、ユフィ」
青年―――レオンがしかめっ面を浮かばせるなり、同じく近づいた少女―――ユフィに笑われてしまう。
それをレオンが軽く注意する中、シャオは顔を俯かせた。
「ここにも、過去のレオンさん達がいるんだね…」
自分の世界よりも若いレオン達を思い出しながらしみじみと呟いていると、ユフィが興味ありげにこちらを見て首を傾げた。
「それにしても、君見ない顔だね。ね、名前は?」
名前を聞かれ、シャオはすぐに顔を上げて答えた。
「ボクは、シャオ」
「シャオか。あたしはユフィ、で…」
「レオンだ。それよりも、その手に持っている武器…キーブレードだな?」
自己紹介を終えるなり、レオンはシャオの持つキーブレードを意味ありげに見る。
この様子に、シャオは首を傾げながらキーブレードを見せつけた。
「え? あ、うん…そうだけど?」
「ホントだ!? へー、シャオもソラと同じキーブレードの勇者なんだ!!」
「ソラっ!?」
ユフィの言葉に思わず反応するが、すぐにハッとしてしまう。
だが、すでに遅くレオンとユフィは不思議そうにこちらを見ていた。
「ソラを知ってるのか?」
「あ、いや…そう言う訳じゃ…」
レオンの問いかけに、シャオはどうにか誤魔化そうとする。
その時、シャオから腹の虫が鳴り出した。
「うっ…」
二人に情けない音を聞かれ、シャオは顔を赤くする。
ここ最近ちゃんとした物を食べてなかった事を後悔していると、何を思ったかレオンが頭を押さえた。
「まったく…――俺達の本部に来い、飯ぐらいは御馳走してやる」
レオン達に案内され、シャオは商店街を出て住宅地へと足を踏み入れる。
住宅地にも次々とハートレスが現れるが、シャオだけでなくレオンやユフィもいるのでそんなに苦はない。
何回かハートレスを全滅させた時、軽く息を吐いて額を拭うシャオにユフィが声をかけてきた。
「それにしても、シャオって強いよね! さすがキーブレードの勇者!」
何処か囃し立てるように言うユフィに、シャオは若干にやけながらも手を横に振った。
「そ、そんな事ないよ! 僕なんかよりも強い人は沢山いるし…!」
「そうなのか?」
シャオが謙遜していると、レオンがガンブレードを仕舞いながら首を傾げる。
すると、シャオは嬉しそうに大きく頷いた。
「うん! 僕の師匠だってそうだし、父さんも何だかんだ言いつつ稽古に付き合って貰ってたし、たまーに大師匠…師匠の師匠も稽古に来て、母さんだって魔法の使い方を…!」
「そんなに沢山の人から戦闘の知識を教えて貰ってたのか?」
「う、うん…」
驚きながらレオンが聞くと、シャオはコクリと頷く。
だが、自分の発言を思い直し、改めてこれまでの事に思考を巡らせた。
(そうだ…よくよく考えてみれば、こんなに沢山の人から教えて貰ってた…――それだけじゃない。ウィド小父さんからもこの世界の物語を聞かされたし、他にもあの世界では関係無いような知識も教えられてた)
自分の世界でもハートレスやノーバディは出るが、頻度はそんなにない。それに、自分の暮らしている世界はある意味では特殊だから、平和そのものと言っても過言ではない。
なのに、最低限の護身術にはやりすぎる気もするさまざまな修行。自分達にとっておとぎ話のような世界の物語。今思えば、何もかも偶然とは思えないほど出来過ぎている。
(セヴィルさんと戦った時から感じてたけど…――皆、ボクが異世界に行くって最初から分かってた…?)
運命に偶然など無い、あるのは必然。
記憶の中の父親の言葉を思い出していると、黙っていたからかユフィが顔を覗き込んできた。
「シャオ、どうしたの?」
「え!? ううん、何でもない!!」
「着いたぞ」
慌てて首を振って誤魔化していると、レオンが足を止める。
シャオが顔を上げると、そこには一軒の大きな家があった。
「ここ?」
「そそっ。さ、入って入って!」
ユフィに背中を押され、シャオは玄関のドアを開ける。
すると、中にはあちこちに大量の本が積まれ、奥には大きなスクリーンの付いたコンピューターが置いてある。
さらに、広いスペースにはいろんな置物やテーブル、ベットなどの生活用品もある。想像とはちょっと違うが、シャオは口をポカンと開けてしまった。
「うわぁ…」
「レイディアントガーデン再建委員会にようこそ〜!」
呆けるシャオに、ユフィは手を差しだしながら紹介していると、奥から誰かが来る。
見ると、短い金髪に頭にゴーグルをかけた中年―――シドがエプロンを付けて大股でこちらに近づいていた。
「おう、ユフィ。もうすぐ飯が出来…――ん? そこの“嬢ちゃん”は誰だ?」
「じょ…!?」
物珍しそうにシドが言うと、シャオが固まる。
そんなシャオに気づかず、ユフィはフフンと鼻を鳴らした。
「シャオって言うんだって! “女の子”だけど、ソラと同じキーブレードの勇者なの!」
「おん…!?」
続けざまに言われ、シャオからビシリと何かが凍りつく音が鳴る。
それに気付いたのか、レオンは不思議そうに首を傾げた。
「シャオ、どうした?」
だが、レオンの言葉も聞かずにシャオはわなわなと肩を震わせて顔を俯かせる。
この只ならぬ雰囲気にさすがの二人も首を傾げていると、シャオは顔を上げて大きく息を吸い込んだ。
「――ボクは男だぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
余談だが、この怒鳴り声は住宅地一帯にまで響き渡ったそうな…。
■作者メッセージ
予定よりも時間がかかりましたが、ようやく最後の断章の始まりを投稿できました。
こうして思えば、もう一年以上も前からこのゲーノベで書いてるんですね。本来は、ガイム時代でこの話の企画が始まって実際にして打ち切りに……ガイムが使えなくなったのが秋ごろだから、そこを考えれば二年目になるのかな?
とにかく、最低でも10月の中盤までにはバトン交代出来るよう頑張ります。
こうして思えば、もう一年以上も前からこのゲーノベで書いてるんですね。本来は、ガイム時代でこの話の企画が始まって実際にして打ち切りに……ガイムが使えなくなったのが秋ごろだから、そこを考えれば二年目になるのかな?
とにかく、最低でも10月の中盤までにはバトン交代出来るよう頑張ります。