第七章 三剣士編第三話「一時の暇」
異空を突破し、箱舟モノマキアはビフロンスの上空で停止する。現在のビフロンスの時間帯は丁度、真夜中であった。
異空は夜空と溶け込むように消えたのを確認してからアイネアスは城門の前に着地させる。
着地を終え、船の搭乗口が開かれる。神無らは下りていき、一先ず城内へと入っていった。モノマキアは再び、異空へ姿を消す。
操られていたものたちも城へつれていき、彼らを安全な場所での養生が必要であった。
「暫く彼らをこの城で預かろう。事件が終わるまではこの世界で休んでもらえればいい」
アイネアスはそう言い、操られた者達の面倒を引き受ける。彼らも協力する事も考えていたが、自主的に退いた。
それはカルマとの実力の差、そして、彼らに敗れてしまった自分たちの実力を鑑みての結論であった。役に立とうとして足を引っ張ってしまっては元も子もない。
勿論、神無らは彼らの無念を受け止め、打倒の熱意を更に燃やした。
「―――次に行動に移す必要が無いなら、ここいらでいろいろと準備でもするか」
城へ戻り、今後に備え、神無らは大きく2つの準備を行う事にした。
一つはカルマとの対決、真に彼女との決戦に赴くものたちの選定だ。
一つはこのままビフロンスへ滞在し、決戦に赴く者たちを見送る事。
大勢でカルマに対し、勝利できるか、とは在り得ない。逆に少数すぎても勝利できるか。
「とりあえず、城で数日の休みを取ろう。船で治療したとはいえ」
そうして、彼らは城に留まって、今後の準備と暇を得た。一先ずの暇は戦意のある彼らには受け入れがたいものではあった。
各々が再び、部屋へ案内され、今日は一先ず解散していった。
しかし、神月は暫く寛いでいたが寝付けそうに無く、暇つぶすように部屋を出て、回廊を歩き出す。
「……全く、カルマが何処に居るのかも解らない、また向こうから仕掛けられたらどうするんだ」
そうブツブツと愚痴を零していると、
「そうかね? 休める時に休む――……問題ないさ」
彼の愚痴に返す言葉を発したのは城主アイネアスであった。神月は自分の呟いた言葉を聞かれた事にやや表情を険しくする。それは自分の行いに自省する意味でもある。
「なら、言葉に甘えて休もう。それでいいんだよな」
「…勿論。おやすみ」
朗らかに微笑み返したアイネアスは神月を通り過ぎていった。神月も一つの大きなため息を零してから部屋に戻った。
アイネアスは一人、歩を進めて城にある二つの塔の下には庭園があり、彼はそこへと辿り着く。庭園は2つの塔の大きな影と月光が差されていた。
そこへやって来たのは散歩がてらで、自分もまた気を休めるには難しい所でもあった。事件の渦中、激しい戦闘、同族の半神の喪失、真なる母の存在……。
「―――この事件で全てが変わった気分になる」
「それも、そうですね」
ゆっくりと庭園へ、彼へと歩み寄ってきた気配を察して、アイネアスは対なる彼女へと話しかける。
やってきた彼女―――サイキは穏やかに、しかし、困った色を混じりつつ頷き返す。
「まだ、ここからだな」
夜空を仰ぎ、アイネアスは静かに呟いた。サイキも頷き、共に仰いでいた。
■作者メッセージ
はい、今回で第七章が終わります。
神無「三話……短くね?」
申し訳ない…としかいえないね。ほぼ前回でバトンタッチしようとしたもので。急遽、ビフロンス帰還のシーンも追加。
とりあえずの暇を得た感じで
次回からはNANAさんにバトンタッチ。