Another the last chapter‐1 「絶望へのカウントダウン」
星の海の中を進む一つのグミシップ。
今の彼らの拠点でもある『レイディアントガーデン』に戻る中、ソラ達は束の間の休息を取っていた。
「二人とも、何を話してるんだろうな?」
グミシップにある一つの部屋でソラとカイリが談笑していると、不意にヴェンは隣の部屋を気にする。
グミシップに戻ってから、すぐに二人は隣の部屋に入りそれっきり出てくる気配が無いのだ。
それはソラも一緒か、カイリとの会話を止めて少しだけ考えると悪巧みを思いついたのか怪しい笑みを浮かべた。
「なあ、ちょっと覗いてみないか?」
「もう、ソラ! そう言う事しないの!」
「とか言って、カイリも興味あるんじゃないのか?」
「そ、それはまぁ…」
ソラに思った事を言われ、カイリは思わず目を逸らす。
これにはヴェンも少しだけ苦笑を浮かべるが、好奇心に勝てずソラに便乗するようにカイリを捲し立てた。
「とりあえず、少しだけさ?」
「もう、しょうがないなぁ…」
カイリが折れるのを聞いて、ソラとヴェンはガッツポーツを作る
さっそく部屋を出て、三人は隣の部屋の前に来る。そのまま静かにドアに耳を当てると、二人の会話が耳に入った。
「――知ってるわよ。全部、リリスから聞いた」
「オパール!?」
「確かに、最初は戸惑った。あたしの故郷を闇に追いやった原因作った、偽の賢者の姿だもん…そして、未だにそいつの闇を宿しているって事も」
この会話にヴェンは意味が分からなくて首を傾げる中、ソラとカイリは息を呑む。
どうやら、リクは一年前の事をオパールに話していたようだ。
事情を知る二人が固唾を呑んでいると、オパールの声が聞こえた。
「それでも、あたしはあんたの味方でいたいって。そう決めたから…だから、気にしないで」
ドア越しからでも分かる、心からの信頼の中に何処か切なげな思いの混ざった声が耳に届く。
聞いてはいけない話だったと三人が顔を見合わせていると、一拍遅れてリクの声が聞こえた。
「…すまない」
「だから、気にしないでって言ってるじゃん――…ところで、何時まで立ち聞きしてんのかしらあんた達ぃぃぃ!!?」
突然の怒鳴り声と共に、ドアが開かれる。
いきなりの事に、三人はとっさに反応できず部屋の中に転がり込んでしまった。
「ひやぁ!?」
「「ぐぇ!?」」
「お、お前ら…」
それぞれ声を上げて倒れ込むと共に、リクの呆れた声が耳に届く。
どうにかソラ達は身体を起こすと、腕を組んでジト目で見るリクの前に両手を胸の前に組んでいるオパールの姿があった。
「さーて、そこの三人? 立ち聞きする勇気は認めてもいいけど…覚悟、出来てるわよね?」
オパールはそう宣言するなり、満面の笑顔を浮かべながらボキボキと拳を鳴らす。
この光景に、この後の未来を安易に想像出来たのか冷や汗を掻きながらそれぞれに目を合わせた。
「えっと、これはヴェンが…!」
「お、俺はソラに誘われただけで…!」
「オ、オパール!! 一番乗り気だったのカイリだから…!」
こうしてお互いが責任を押し付けると、オパールはニッコリと笑って拳を構えた。
「とりあえず、カイリ以外の二人は歯を食い縛りなさい♪」
直後、グミシップ内に何かを殴る音二つとピシッと乾いた音が一つ響き渡ったと言う…。
レイディアントガーデンの城の地下にあるコンピュータールーム。
そこでエアリスが一人作業をしていると、幾つもの足音が響き渡る。
振り返ると、奥からオパールが軽やかな足取りで部屋に入ってきた。
「ただいまー、エアリスー!!」
「皆、お帰り…どうしたの?」
「「「何でもないです…っ!」」」
オパールの後ろでソラとヴェンが頭を、カイリは額を痛そうに押さえつけている。
この三人に、エアリスが不思議そうに首を傾げた。
「それにしては、痛そうだよ? 回復してあげようか?」
「気にしないで、これは自業自得なんだし…でしょ、あんた達?」
「「「ハイ…」」」
ギロリとオパールに睨まれ、三人は観念するように声を上げる。
この様子に、さすがのエアリスも手出しはしてはいけないと分かっていると、彼らのさらに後ろで静かに立つ黒コートの男に気が付いた。
「ねえ、後ろの彼は?」
エアリスが質問をすると、四人はそれぞれ黙り込んでしまう。
それでも、オパールは気を取り直してエアリスに説明した。
「リクよ。今は事情があって、別人になってあのコートで隠してるの。心配しなくて大丈夫だから」
何処か真剣なオパールの目に、エアリスはそれ以上聞かない事にした。
「…分かった。それで、成果はあった?」
「一応ね。これ、旅してた時のレポート。スキャンでコピーして写しといて」
そう言ってレポートの束を取り出すと、エアリスに手渡した。
「うん、ありがと。そう言えば、データは届いた?」
「おかげさまで。折角だし、これからトロンに話聞くつもり。どうせ、まだ他のメンバー戻って来てないんでしょ?」
「みたい。じゃあ、私は一旦本部に戻るから…ここは皆に任せるね」
こうしてオパールとの会話を終えると、エアリスはコンピュータールームを出ていく。
最後まで見送ると、ソラはコンピューターの前に立った。
「さて、と…――トロン、久しぶり」
ソラが笑顔で声をかけると、コンピューターからトロンの声が響いた。
『おかえり、みんな。僕達の送ったデータは見てくれたかい?』
「えっと、人工キーブレードについてだよな? 見た見た!!」
ヴェンが嬉しそうに頷いていると、隣でカイリが質問をした。
「ねえ、アレ以外にはもうバックアップデータは無いの?」
『ああ。僕も出来るだけ探しては見たんだが、これが精一杯だった。レオン達もロックしてあるパスワード等を探して打ち込んだんだが、中はもう壊れたデータしかなかった』
「そっか…」
自分達が旅をしている間のトロン達の成果に、オパールは複雑な表情を浮かべる。
そんな時、リクがトロンに続けて質問をする。
「なあ、DTDと言うデータエリア以外に他のバックアップデータは無いのか?」
『一応探してはいるんだが、あんまり期待しない方がいい。これは大量の壊れたデータの中で、辛うじて修復出来たものなんだ』
「じゃあ、もう手がかりはないのか…」
ソラが落胆の言葉を上げると、不意にトロンが考え込みながら呟いた。
『…いや、あのプログラムならあるいは…』
「プログラム?」
『ああ。アンセム…――いや、この場合ゼアノートと言った方がいいね。このメインコンピューターを効率よく動かす為に彼が作ったアップデータがあったんだ』
オパールが聞くなり、トロンは説明する。
だが、トロンの言葉に一つの違和感が隠されている事にカイリは気づいた。
「あった?」
『そう。彼が作ったプログラムにも関わらず、唯一僕のようにデータ世界を支配していたMCPに反抗したんだ。ただ、膨大な研究データや優秀な処理機能が入っていた事で、消去せずに僕のようにプログラムを吸収され、何処かのアクセスポイントに幽閉と言う状態にされて働かせたんだ。システムを掌握した際にはそのポイントにはもういなかったが…消された痕跡は無かったから、まだこの世界の何処かにいるかもしれない』
「つまり、そいつを見つければ」
「より多くのバックアップデータが見つかる訳か」
トロンの言いたい事が分かり、ソラとヴェンが結論を述べる。
しかし、ここでカイリが一つの疑問を上げた。
「でも、どうやって調べるの?」
「そんなの、中に入って調べればいいさ!!」
すると、ソラが自信満々に答える。
だが、それを聞いたトロンは申し訳なさそうに言った。
『それは構わないが……今はソラしか出来ない』
「そうなのか!?」
『あの時はソラ達が誤作動を起こした所為で、MCPによって強制的にリンクさせられたんだ。MCPが消去された今、他の人が中に入るようにアクセスするにはリンクの更新や新しいルートの確保をするのに時間が必要だから、現時点では不可能なんだ』
「そうなんだ…」
これを聞き、ソラは顔を俯かせる。
少し前に起きた機関との戦いでこのコンピュータールームに立ち寄った際、誤作動を起こしてトロンのいる世界に連れてこられたのだ。
出来れば、ここにいる皆にも実際にトロンに会って欲しかったのに。ソラがそう思っていると、オパールが笑みを浮かべた。
「その不可能を、可能にするのが人間よ」
そう言うなり、コンピューターの前に立って一枚のディスクを取り出す。
それを機械に入れるなり、素早い指捌きでキーボードを動かし始めた。
「オパール、それは?」
「ちょっとしたアップデータ。前にレオン達からソラ達の話を聞いて、作ってみたの」
笑顔でカイリに答えつつ、指は素早く動き続ける。
そうしてキーボードを叩くごとに、画面に大量の文字が更新されていく。
「と言っても、まだ試作品の段階だからプログラム世界と現実世界の往復一回が限度。それでも、あたし達がプログラムの中に入れる事は保証はするわ」
『シドと言い君と言い、本当に凄い人物だな…』
前の戦いで自分の為に特製のデータを作ってくれたシドと同じ力量を持つオパールに、思わず関心を寄せるトロン。
その間にもオパールはデータを更新していると、何かを思いついたのか指を動かしながらトロンに話しかけた。
「そうだ、トロン。プログラムだからある程度はあたし達の事は操作出来るわよね?」
『ああ、ある程度は可能だが…?』
「大丈夫、やって欲しいのはとても簡単な事だから」
その言葉と同時に、データの更新が終わったのか手を止める。
そして、ソラ達に取って驚くべき言葉を放った。
「リクの身体を、プログラムにいる間だけ元の姿に変えて欲しいの」
「オパールっ!!」
「オパール、お前…!」
嬉しそうなソラとは対称に、リクは動揺を隠しきれない。
驚くリクに、オパールは振り返ると優しく微笑んだ。
「本当に少しの間だけど……そんな訳の分からない『呪い』でずっとその姿で居たくはないでしょ?」
「トロン、頼むよ!!」
『こればかりは、やってみないと分からないな……でも、出来る限りはサポートするよ』
ソラが頼み込むと、トロンは不安ながらも承諾する。
これを聞き、カイリも思わず拳を握った。
「やった!!」
「すまないな…」
「いいのよ。仲間を助け合うのは当たり前でしょ?」
「…そうだな」
オパールの言葉に納得したのか、リクも嬉しそうに微笑む。
それからアップデータ用のディスクを取り出すと、トロンに叫んだ。
「さっ、トロン。頼むわよ!」
『分かった! 皆、後ろの端末の前に立って!』
このトロンの指示に、やり方が分かっているソラを筆頭に端末に立つ。
しかし、一緒にいるカイリを見て、ソラは止めに入った。
「カイリは残ってて。トロンの世界でも、ハートレスとかいて危険なんだ」
「でも…」
それでも一緒に行こうとするカイリに、オパールは両手を合わせて頼み込むポーズを作った。
「あたし達全員で言ったら、コンピューター見張る人誰もいなくなるからさ。戻ってくるまでここの留守番お願い、ねっ?」
「…分かった。もしかしたら、テラやアクア達が戻ってくるかもしれないし、それまで待ってる」
オパールの説得に、カイリは渋々ながらも承諾する。
すぐにカイリが巻き込まれない位置に離れるのを見て、ソラは力強く頷いた。
「じゃあ、行こう!!」
その言葉と共に、端末から光が溢れて四人の体が分解されていく。
徐々に四人はデータ化されながら、プログラムの中へと入って行った。
今の彼らの拠点でもある『レイディアントガーデン』に戻る中、ソラ達は束の間の休息を取っていた。
「二人とも、何を話してるんだろうな?」
グミシップにある一つの部屋でソラとカイリが談笑していると、不意にヴェンは隣の部屋を気にする。
グミシップに戻ってから、すぐに二人は隣の部屋に入りそれっきり出てくる気配が無いのだ。
それはソラも一緒か、カイリとの会話を止めて少しだけ考えると悪巧みを思いついたのか怪しい笑みを浮かべた。
「なあ、ちょっと覗いてみないか?」
「もう、ソラ! そう言う事しないの!」
「とか言って、カイリも興味あるんじゃないのか?」
「そ、それはまぁ…」
ソラに思った事を言われ、カイリは思わず目を逸らす。
これにはヴェンも少しだけ苦笑を浮かべるが、好奇心に勝てずソラに便乗するようにカイリを捲し立てた。
「とりあえず、少しだけさ?」
「もう、しょうがないなぁ…」
カイリが折れるのを聞いて、ソラとヴェンはガッツポーツを作る
さっそく部屋を出て、三人は隣の部屋の前に来る。そのまま静かにドアに耳を当てると、二人の会話が耳に入った。
「――知ってるわよ。全部、リリスから聞いた」
「オパール!?」
「確かに、最初は戸惑った。あたしの故郷を闇に追いやった原因作った、偽の賢者の姿だもん…そして、未だにそいつの闇を宿しているって事も」
この会話にヴェンは意味が分からなくて首を傾げる中、ソラとカイリは息を呑む。
どうやら、リクは一年前の事をオパールに話していたようだ。
事情を知る二人が固唾を呑んでいると、オパールの声が聞こえた。
「それでも、あたしはあんたの味方でいたいって。そう決めたから…だから、気にしないで」
ドア越しからでも分かる、心からの信頼の中に何処か切なげな思いの混ざった声が耳に届く。
聞いてはいけない話だったと三人が顔を見合わせていると、一拍遅れてリクの声が聞こえた。
「…すまない」
「だから、気にしないでって言ってるじゃん――…ところで、何時まで立ち聞きしてんのかしらあんた達ぃぃぃ!!?」
突然の怒鳴り声と共に、ドアが開かれる。
いきなりの事に、三人はとっさに反応できず部屋の中に転がり込んでしまった。
「ひやぁ!?」
「「ぐぇ!?」」
「お、お前ら…」
それぞれ声を上げて倒れ込むと共に、リクの呆れた声が耳に届く。
どうにかソラ達は身体を起こすと、腕を組んでジト目で見るリクの前に両手を胸の前に組んでいるオパールの姿があった。
「さーて、そこの三人? 立ち聞きする勇気は認めてもいいけど…覚悟、出来てるわよね?」
オパールはそう宣言するなり、満面の笑顔を浮かべながらボキボキと拳を鳴らす。
この光景に、この後の未来を安易に想像出来たのか冷や汗を掻きながらそれぞれに目を合わせた。
「えっと、これはヴェンが…!」
「お、俺はソラに誘われただけで…!」
「オ、オパール!! 一番乗り気だったのカイリだから…!」
こうしてお互いが責任を押し付けると、オパールはニッコリと笑って拳を構えた。
「とりあえず、カイリ以外の二人は歯を食い縛りなさい♪」
直後、グミシップ内に何かを殴る音二つとピシッと乾いた音が一つ響き渡ったと言う…。
レイディアントガーデンの城の地下にあるコンピュータールーム。
そこでエアリスが一人作業をしていると、幾つもの足音が響き渡る。
振り返ると、奥からオパールが軽やかな足取りで部屋に入ってきた。
「ただいまー、エアリスー!!」
「皆、お帰り…どうしたの?」
「「「何でもないです…っ!」」」
オパールの後ろでソラとヴェンが頭を、カイリは額を痛そうに押さえつけている。
この三人に、エアリスが不思議そうに首を傾げた。
「それにしては、痛そうだよ? 回復してあげようか?」
「気にしないで、これは自業自得なんだし…でしょ、あんた達?」
「「「ハイ…」」」
ギロリとオパールに睨まれ、三人は観念するように声を上げる。
この様子に、さすがのエアリスも手出しはしてはいけないと分かっていると、彼らのさらに後ろで静かに立つ黒コートの男に気が付いた。
「ねえ、後ろの彼は?」
エアリスが質問をすると、四人はそれぞれ黙り込んでしまう。
それでも、オパールは気を取り直してエアリスに説明した。
「リクよ。今は事情があって、別人になってあのコートで隠してるの。心配しなくて大丈夫だから」
何処か真剣なオパールの目に、エアリスはそれ以上聞かない事にした。
「…分かった。それで、成果はあった?」
「一応ね。これ、旅してた時のレポート。スキャンでコピーして写しといて」
そう言ってレポートの束を取り出すと、エアリスに手渡した。
「うん、ありがと。そう言えば、データは届いた?」
「おかげさまで。折角だし、これからトロンに話聞くつもり。どうせ、まだ他のメンバー戻って来てないんでしょ?」
「みたい。じゃあ、私は一旦本部に戻るから…ここは皆に任せるね」
こうしてオパールとの会話を終えると、エアリスはコンピュータールームを出ていく。
最後まで見送ると、ソラはコンピューターの前に立った。
「さて、と…――トロン、久しぶり」
ソラが笑顔で声をかけると、コンピューターからトロンの声が響いた。
『おかえり、みんな。僕達の送ったデータは見てくれたかい?』
「えっと、人工キーブレードについてだよな? 見た見た!!」
ヴェンが嬉しそうに頷いていると、隣でカイリが質問をした。
「ねえ、アレ以外にはもうバックアップデータは無いの?」
『ああ。僕も出来るだけ探しては見たんだが、これが精一杯だった。レオン達もロックしてあるパスワード等を探して打ち込んだんだが、中はもう壊れたデータしかなかった』
「そっか…」
自分達が旅をしている間のトロン達の成果に、オパールは複雑な表情を浮かべる。
そんな時、リクがトロンに続けて質問をする。
「なあ、DTDと言うデータエリア以外に他のバックアップデータは無いのか?」
『一応探してはいるんだが、あんまり期待しない方がいい。これは大量の壊れたデータの中で、辛うじて修復出来たものなんだ』
「じゃあ、もう手がかりはないのか…」
ソラが落胆の言葉を上げると、不意にトロンが考え込みながら呟いた。
『…いや、あのプログラムならあるいは…』
「プログラム?」
『ああ。アンセム…――いや、この場合ゼアノートと言った方がいいね。このメインコンピューターを効率よく動かす為に彼が作ったアップデータがあったんだ』
オパールが聞くなり、トロンは説明する。
だが、トロンの言葉に一つの違和感が隠されている事にカイリは気づいた。
「あった?」
『そう。彼が作ったプログラムにも関わらず、唯一僕のようにデータ世界を支配していたMCPに反抗したんだ。ただ、膨大な研究データや優秀な処理機能が入っていた事で、消去せずに僕のようにプログラムを吸収され、何処かのアクセスポイントに幽閉と言う状態にされて働かせたんだ。システムを掌握した際にはそのポイントにはもういなかったが…消された痕跡は無かったから、まだこの世界の何処かにいるかもしれない』
「つまり、そいつを見つければ」
「より多くのバックアップデータが見つかる訳か」
トロンの言いたい事が分かり、ソラとヴェンが結論を述べる。
しかし、ここでカイリが一つの疑問を上げた。
「でも、どうやって調べるの?」
「そんなの、中に入って調べればいいさ!!」
すると、ソラが自信満々に答える。
だが、それを聞いたトロンは申し訳なさそうに言った。
『それは構わないが……今はソラしか出来ない』
「そうなのか!?」
『あの時はソラ達が誤作動を起こした所為で、MCPによって強制的にリンクさせられたんだ。MCPが消去された今、他の人が中に入るようにアクセスするにはリンクの更新や新しいルートの確保をするのに時間が必要だから、現時点では不可能なんだ』
「そうなんだ…」
これを聞き、ソラは顔を俯かせる。
少し前に起きた機関との戦いでこのコンピュータールームに立ち寄った際、誤作動を起こしてトロンのいる世界に連れてこられたのだ。
出来れば、ここにいる皆にも実際にトロンに会って欲しかったのに。ソラがそう思っていると、オパールが笑みを浮かべた。
「その不可能を、可能にするのが人間よ」
そう言うなり、コンピューターの前に立って一枚のディスクを取り出す。
それを機械に入れるなり、素早い指捌きでキーボードを動かし始めた。
「オパール、それは?」
「ちょっとしたアップデータ。前にレオン達からソラ達の話を聞いて、作ってみたの」
笑顔でカイリに答えつつ、指は素早く動き続ける。
そうしてキーボードを叩くごとに、画面に大量の文字が更新されていく。
「と言っても、まだ試作品の段階だからプログラム世界と現実世界の往復一回が限度。それでも、あたし達がプログラムの中に入れる事は保証はするわ」
『シドと言い君と言い、本当に凄い人物だな…』
前の戦いで自分の為に特製のデータを作ってくれたシドと同じ力量を持つオパールに、思わず関心を寄せるトロン。
その間にもオパールはデータを更新していると、何かを思いついたのか指を動かしながらトロンに話しかけた。
「そうだ、トロン。プログラムだからある程度はあたし達の事は操作出来るわよね?」
『ああ、ある程度は可能だが…?』
「大丈夫、やって欲しいのはとても簡単な事だから」
その言葉と同時に、データの更新が終わったのか手を止める。
そして、ソラ達に取って驚くべき言葉を放った。
「リクの身体を、プログラムにいる間だけ元の姿に変えて欲しいの」
「オパールっ!!」
「オパール、お前…!」
嬉しそうなソラとは対称に、リクは動揺を隠しきれない。
驚くリクに、オパールは振り返ると優しく微笑んだ。
「本当に少しの間だけど……そんな訳の分からない『呪い』でずっとその姿で居たくはないでしょ?」
「トロン、頼むよ!!」
『こればかりは、やってみないと分からないな……でも、出来る限りはサポートするよ』
ソラが頼み込むと、トロンは不安ながらも承諾する。
これを聞き、カイリも思わず拳を握った。
「やった!!」
「すまないな…」
「いいのよ。仲間を助け合うのは当たり前でしょ?」
「…そうだな」
オパールの言葉に納得したのか、リクも嬉しそうに微笑む。
それからアップデータ用のディスクを取り出すと、トロンに叫んだ。
「さっ、トロン。頼むわよ!」
『分かった! 皆、後ろの端末の前に立って!』
このトロンの指示に、やり方が分かっているソラを筆頭に端末に立つ。
しかし、一緒にいるカイリを見て、ソラは止めに入った。
「カイリは残ってて。トロンの世界でも、ハートレスとかいて危険なんだ」
「でも…」
それでも一緒に行こうとするカイリに、オパールは両手を合わせて頼み込むポーズを作った。
「あたし達全員で言ったら、コンピューター見張る人誰もいなくなるからさ。戻ってくるまでここの留守番お願い、ねっ?」
「…分かった。もしかしたら、テラやアクア達が戻ってくるかもしれないし、それまで待ってる」
オパールの説得に、カイリは渋々ながらも承諾する。
すぐにカイリが巻き込まれない位置に離れるのを見て、ソラは力強く頷いた。
「じゃあ、行こう!!」
その言葉と共に、端末から光が溢れて四人の体が分解されていく。
徐々に四人はデータ化されながら、プログラムの中へと入って行った。
■作者メッセージ
いよいよ、こちらパートでの最終章が始まりました。
思えばここまで、本当に長いようで短い年月でした…本当にいろいろあったなぁ、うんいろいろ。
尚、最終章に加え私パートでは最初で最後の全員集合と言う事で、かなり長めに作っております。どうか最後まで、お付き合いよろしくお願いします。
思えばここまで、本当に長いようで短い年月でした…本当にいろいろあったなぁ、うんいろいろ。
尚、最終章に加え私パートでは最初で最後の全員集合と言う事で、かなり長めに作っております。どうか最後まで、お付き合いよろしくお願いします。