Another the last chapter‐2
コンピューターの中にある世界、【スペース・パラノイド】。
現実世界に通じる端末から光が溢れると、目元を透明なガラスで覆った黒いメットに全身が黒く光の線が入った服を着た四人の男女が現れた。
「すごい…!! ここが“ぷろぐらむ”って世界か!!」
「あたしも初めて来たけど、こんな場所なのね…」
見た事も無い世界に目を輝かせるヴェンの隣で、話だけは聞いていたオパールも感心するように辺りを見回す。
「リク!! 元に戻ってる!!」
「お、おい!?」
そんな二人に、嬉しそうな声と共に抱き着く音が聞こえる。
振り返ると、そこには黒い服とメットを被ったソラが同じような服装のリクに抱き着いていた。
ここでヴェンは、ようやく自分達の服装が変わった事に気づいた。
「あ、あれ? よく見れば、俺達服が変わってる!?」
「あ! 俺もここに来た時の服じゃない!?」
「そうなのか?」
「うん、何て言うか全身が青く光ってる感じかな…でも、こっちの方がかっこいいや!」
「へぇ…ここに来ると、服も変わるんだ。それより、上手く行ったみたいね」
三人が会話しながらあちこち服を見回す中、作戦が成功した事にオパールが笑う。
すると、リクがソラを押しのけて頭を下げた。
「すまないな、オパール」
「何度も謝らないでよ。それに、これはトロンのおかげだし」
「そうだ! トロンは何処にいるんだ?」
ソラの言葉に、三人もすぐに辺りを見回す。
しかし、周りにはどう言う訳か何もなく無機質な空間の部屋となっている。
「いない、みたいね…」
「どうしたんだろ?」
「とにかく、まずは外に出よう」
オパールとヴェンが首を捻っていると、リクが提案を持ちかける。
そうして、四人は近くの扉から部屋の外へと出て行った。
「うわぁ…」
「凄いわね…」
外に出た途端、遠くに見える天まであるタワーや縦横無尽にあるビルのような建物に囲まれた町に、ヴェンとオパールが感嘆の声を漏らす。
そんな中、リクは冷静にソラに質問をした。
「それでソラ、ここは何処だ?」
「えーと…俺も初めて来たから分かんない」
「え!? ソラ、ここに来た事あるんだろ!?」
意外な答えが返り、ヴェンは思わずソラに聞き返す。
しかし、ソラは困ったように頭を掻きながら周りを見回した。
「来た事あるんだけど…こんな場所、見た事ない」
「どうやら、ソラも知らない場所に来たって事だろう。さて、ここからどうするか…」
これからの事をリクが考えていると、ソラが思いついた様に言った。
「じゃあさ、トロンを探そう! トロンなら、何か教えてくれるだろ?」
「そうだな。俺もこの世界のトロンに会ってみたいし」
「決まりだな」
ヴェンも賛同するのを見て、リクも一つ頷く。
こうして、四人はトロンを探しにプログラムの町の間を歩き出した。
その頃、町の一角では頭全体を覆う黒いメットを被った黒い服の男達が、何故かせわしなく動いていた。
「バクデータの反応あり」
「早々に消去を」
無機質な声をそれぞれ述べると共に、再び何かを探す様に動き回る。
そんな男達の様子を、建物の影に隠れて見ている人物がいた。
しかし、その姿は今にも消えそうなほど朧げで辛うじて人としての形を保っている。
「しつこい…さすがは一流の技術者の作った消去プログラムだ」
何処か苦しそうに呟くと、目の前に手を翳す。
すると、液晶画面が現れる。それについているキーボードを軽く叩くと、何と町中を歩いているソラ達が映った。
「ようやく、来てくれたんだ…『約束』を果たしに…」
そう言って画面に手を当てると、全身が光り輝いた。
「何か、静かだよな」
人の気配もなくハートレスも出ない道を歩く中、ヴェンがポツリと呟く。
ソラ達も黙って歩いていると、突然リクが足を止めた。
「ん?」
「リク、どうしたんだ?」
「いや、今…気のせいか?」
何かを感じ取ったのか、リクは辺りを見回す。
そんな時、オパールが遠くであるモノを見つけた。
「あ、機械があるじゃない」
大きな画面とキーボードの付いた端末式の機械を見つけるなり、早足で近づく。
後の三人もついて行くと、オパールは早速ボタンを押して画面を起動させる。
そのままカタカタとキーボードを叩いて操作するオパールに、後ろにいるヴェンが聞いた。
「オパール、動かせるのか?」
「んー、とりあえずはね。ふんふん、これでここ一帯の状況を教えてくれる訳ね…――で、ここからでもアクセスすれば現実世界に戻れると…」
画面を操作しながら、オパールはブツブツと分かった事を呟く。
この様子に、ソラは改めてオパールの持つ機械に関する技術に感心した。
「にしても、凄いよなー。そんな風に見た事も無い機械を簡単に動かせるなんて」
「まったくだ。どこでそんな技術を教えて貰ったんだ?」
リクも聞くと、オパールは機械を操作しながら答えた。
「家系上と成り行きって所よ。シドはこの世界で有名な機械設備士だったし、父さんもそうだったの。それに恩人達もいろんな機械に携わっていたから…――それで、機械に関して詳しくなったって訳」
「そうなのか…」
「なあ、オパールの父さんってどんな人なんだ? 俺、会ってみたい!」
返された答えにリクが納得していると、ソラが無邪気にそんな事を言ってくる。
だが、その言葉を聞いた瞬間、オパールは手を止めて俯いた。
「…無理よ」
「どうして?」
「10年前、この世界をハートレスが襲った時にね、あたしの父さん…母さんと一緒に目の前でハートレスになっちゃったから。どう言う訳か、今も戻ってこないままなんだ…」
「「え!?」」
オパールから語られた驚くべき事実に、ソラだけでなくヴェンまでも目を見開く。
その間にも、オパールの話は続いた。
「でも、しょうがないかもしれない。父さんね、この城の機械を作ったり直したりで関わっていたから…知らなかったとは言え、ゼアノートに荷担しちゃってたから…!」
ここで我慢出来なくなったのか、オパールの肩が震えだす。
一度は闇の手に掛かった【レイディアントガーデン】も、闇に落ちた筈の人が元に戻り集まっている。少し前に]V機関の作り上げた人の心のキングダムハーツを壊し、閉じ込めていた心も再びハートレスにはなったが解放させる事に成功した。
しかし、それはまだ完全ではない。中にはオパールの家族のように、未だに戻らない者もいるのだ。ソラが改めて実感していると、震えるオパールの肩にリクが手を置いた。
「お前の父親はゼアノートの事を知らなかったんだろ? だったら、悪いのはお前達を騙し続けたゼアノートの方だ、違うか?」
「リク…」
優しいリクの言葉にオパールの目が潤んでいると、ソラも声をかけた。
「そうだって! それにオパールはちゃんとこの世界に戻って来れただろ? だったら、オパールの父さんも母さんもきっと戻って来れるって!」
「そう、よね…ありがと、二人とも」
二人の励ましにようやく立ち直れたのか、オパールは笑顔を見せる。
これを見てリクも軽く微笑み返すと、再び口を開いた。
「この話はここで終わろう。それよりオパール、何か分かったか?」
「あ、うん…地図は手に入ったから、歩きながら説明するわね」
「よし、行くか」
「おう!」
話を終えると、リクとソラは一緒に歩き出す。
そんな二人の背中を見てオパールは微笑むが、やがて寂しそうに顔を俯かせた。
「凄く嬉しいけど、優しさに甘えてちゃ駄目よね…」
小さく呟くなり、オパールの脳裏に敵となってしまった友達が浮かび上がる。
そのオパールの更に後ろでは、ヴェンもまた顔を俯かせながら思考を巡らせていた。
「ゼアノート…――まさか、マスター・ゼアノートの事なのか?」
■作者メッセージ
と、言う事で舞台はKH2で出てきたワールド『スペース・パラノイド』ですが、今回は特別に3Dのワールドである『グリット』の要素を入れてみました。
と言ってもそのまま設定を取り入れる訳でなく、今回のソラ達の服装や敵っぽい人物と言ったちょっとした物だけです。
ちなみに、この後のイベントでも3Dをやった人なら「あー、そう言えばあったなー」と思えるシーンを出していきます。
と言ってもそのまま設定を取り入れる訳でなく、今回のソラ達の服装や敵っぽい人物と言ったちょっとした物だけです。
ちなみに、この後のイベントでも3Dをやった人なら「あー、そう言えばあったなー」と思えるシーンを出していきます。