Another the last chapter‐3
「まず、今のフロアについて説明すると…――事件が起きてるみたい」
「事件?」
町中を歩きながらオパールが説明を始めると、ソラが聞き返す。
このソラの質問に、オパールは一つ頷いて話を続けた。
「はぐれプログラム…まあ、言い換えれば不審なデータがこの辺に現れたの。それを、今はシドが最近開発した【特殊消去プログラム】が消そうとしているんですって」
「特殊消去プログラム?」
「ほら、前にこの町ってMCPに襲われたって話をしたでしょ? で、トロンがシステムを掌握した後に何か不都合が起きないようにって作ったの。万が一にでもウイルスに感染されたり、他のユーザーに主導権を握られたら困るでしょ?」
そうオパールはリクに説明する横では、残りの二人が首を傾げていた。
「う、うーん…?」
「えーと…?」
「あー、あんた達には難しい話だったわね…要は、この世界を守るプログラムが敵を倒そうと動いているって事。これなら分かるでしょ?」
意味が理解出来ずに唸るソラとヴェンに、苦笑しながらもオパールは分かりやすく教える。
すると、言いたい事が伝わったのか二人が納得する。そんな中、リクは再びオパールに質問した。
「それで、トロンって奴は?」
「その敵に接触しないよう、今は遠くにいるみたい。念には念をって所ね」
「じゃあ、トロンには会えないのか…」
トロンに会えないと分かり、ソラは盛大に落ち込む。
皆に会わせたかったのにさ…。などと愚痴っていると、リクが呆れたように溜息を吐いた。
「おいソラ、今回の目的忘れてないか?」
「わ、忘れてないよ!」
「どうだかぁ?」
「あー、信じてないだろ!?」
この二人のやりとりに、ヴェンとオパールは思わず笑ってしまった。
「二人とも、本当に仲が良いんだな」
「そうね…何か羨ましいな、ああ言う男の友情って」
ヴェンに賛同するようにオパールも言っていると、彼女の耳に微かに何かが振動する音が聞こえて振り返った。
「オパール、どうした?」
「あ、ううん。今、あっちから何か聞こえた気が…」
ヴェンに答えていると音が段々大きく鳴り、巨大なドックが浮かんだ状態で建物の間から現れる。
それはやがて、四人の上を通り過ぎて奥の方へと向かって行った。
「うわぁ…」
「何なの、あれ…?」
「俺、ちょっと見てくる!!」
茫然とするヴェンとオパールに対し、ソラは目を輝かせながら後を追おうとする。
しかし、当然リクは追いかけようとするソラを止めに入った。
「ソラ!? 待て!!」
「大丈夫だって! ヴェンも見に行こうぜ!」
「ああっ!!」
だが、ソラはリクの制止を振り払うように、ヴェンを誘いながら走り去っていく。
ヴェンも興味があったのか、ソラの後を追うようにその場から走り去る。この二人の行動に、さすがのオパールも怒りを露わにした。
「もう、あの二人本当に緊張感って物がないんだから!! 早く追いかけるわよ!!」
「あ、ああ!」
半ば怒鳴るように言う物だから、リクは肩を竦めてしまう。
その間にオパールも後を追って先に走るので、ワンテンポ遅れてリクも走ろうとした。
その時、先程と同じ音がリクの耳に入る。見上げると、あのドックがゆっくりとこちらに近づいていた。
「こっちに向かってくる…?」
じっと見上げていると、段々こちらに向かって下降し始めている。
これを見て、リクは近づくドックを見ながら腕を組んだ。
「…様子を見るか」
その頃…ヴェンは一人、十字路の通路の真ん中で佇んでいた。
「マズいな…ソラとはぐれた」
困った表情を浮かべながら、ヴェンは頭を掻く。
思いのほか興味津々のソラは足が早く、いつの間にか距離を取るほどに見失ってしまった。
どっちへ行けばいいか分からずに困っていると、後ろから足音が聞こえていた。
「いた、ヴェン!!」
その声に振り返ると、オパールがこちらに向かって走ってくる。
そうして足を止めると、オパールはすぐに質問をした。
「あいつは?」
「それが、途中ではぐれちゃって…」
「もー、あのバカ。どうする…――って、あれ? リク?」
文句を言いながらオパールが後ろを振り返るが、誰もいない。
思わず辺りを見回すオパールに、ヴェンは少し意地悪な笑みを浮かべた。
「もしかして、オパールもはぐれた?」
「何であたしがはぐれるのよ。明らかにはぐれたのはリクの方じゃない。とにかく、急いで戻るわよ」
「ソラはどうするんだ?」
「勝手に一人で走ったんだから、一人で戻れるで――え?」
不機嫌そうに答えてる途中で、不自然に言葉を止める。
オパールの見る方向には、例のドックが自分達のいる場所からそう遠くない所で着陸していたからだ。
「あれ、さっき見た…何であんな所に止まってるんだ?」
「あそこまで行くわよ、ヴェン!」
オパールの言葉に、ヴェンも疑問を押し込んで頷く。
そうして二人はドックが着陸した場所へと駆け出していく。
やがてドックが見える地点に達すると、オパールが何かに気づいて足を止めた。
「――隠れてっ!」
「ぐえっ!?」
即座に前に出ようとしたヴェンの首を片手で抑え込むと、近くの壁に隠れる。
そこからオパールがゆっくりと覗き込むと、何とリクが怪しい黒服にメットを被った人物達に拘束されている。
オパールが思わず固唾を呑んだ次の瞬間、リクはその人物達の手を振り払いあろう事か自分からドックの中へと歩み出した。
(あのバカ!? 何だって自分から捕まる様な事をしてるの!?)
(ぐ、ぐるじ…!?)
ぶつけられない怒りがヴェンに向かったのか、ギリギリと拘束している腕で首を絞めつけられる。
そうこうしている間に、リクを捕えたドックは離陸して飛び立っていった。
「くっ…!! ヴェン、さっさと追うわよ!! 見つけたら一発ぶん殴って…!!」
「ヴェンー!! オパールー!!」
有りっ丈の怒りをオパールが拳に込めていると、後ろからソラの声が響いた。
「ソラ?」
すぐにヴェンが振り返ると、目を疑う光景が広がっていた。
「助けてー!!」
ソラは若干泣きそうな悲鳴を上げながら、武器を持った大量の黒服にメットを被った人物達に追われている。
あまりの数に二人は顔を引き攣らせ、即座にソラと一緒に逃走を開始した。
「あんた、何したの!?」
「挨拶したら追いかけられたー!!」
「「はあぁ!!?」」
この答えに、さすがの二人も素っ飛んだ声を上げる。
だが、当然と言えば当然だ。普通、あんな怪しげな人物に挨拶しようなどとは誰も思わない。
「あんた、普通あんな怪しい奴らに話しかける!? バカ? バカなの!?」
「だって、トロンの仲間かと…」
「あーもー!! リクといいあんたといい、ホントどうしようもないバカなんだからー!!」
オパールが天に向かって怒鳴っていると、突然ヴェンが足を止めた。
「二人とも、こっち!!」
そう言うと、細い分岐路に向かって走り出す。
すぐに二人も後を追いかけるが、あの黒服の人物達も追いかけてくる。
やがて三人が細い通路を出ると、そこにはさまざまな箱の荷物が積んである。すると、ヴェンが通路の前でキーブレードを出して上に翳した。
「風よ、『エアロガ』!!」
ヴェンを中心に暴風が起きると、頭上に設置してあった荷物を掴んでいるクレーンが揺れる。
クレーンが魔法の暴風に煽られると、掴んでいた荷物が通路の出口を塞ぐように次々と落ちてきた。
「よし、今の内だ!!」
「ナイス、ヴェン!!」
機転を利かせて足止めに成功したヴェンに、ソラがガッツポーズを作る。
こうして三人はどうにか逃げ切ると、一際大きい建物がある広い場所に出た。
「どこだ、ここ?」
「地図では、この町の中心部みたいだけど…」
「オパール、あれ!」
オパールが地図を確認してソラに教えていると、ヴェンが何かに気づく。
すぐに三人が壁際に隠れて様子を見ると、何と黒服の人物達と一緒に腕を拘束されているリクが建物の中へと入って行くではないか。
「リク!? どうして捕まってるの!?」
「声が大きい! 少しは静かに――っ!?」
驚くソラの口を押さえつけようとしていると、オパールの頭上から何かの気配を感じる。
見上げると、自分達が隠れている建物の上で黒いコートを着た人物がまるで自分達を見下ろす様に立っている。
この人物に、ソラは睨みつけながら喰って掛かった。
「]V機関!? 何でこんな所に!!」
「]V機関?」
始めて聞く言葉にヴェンが首を傾げていると、黒コートの人物はソラを無視してオパールに視線を送った。
「え…?」
オパールがその事に気が付くと共に、黒コートは身を翻しながら立ち去っていく。
「逃がすか――ぐえぇ!?」
ソラがキーブレードを取り出して追いかけようとした直後、オパールに襟首を掴まれる。
思わず苦しい悲鳴を上げてソラが座り込むと、入れ替わる様にオパールが前に出て背中越しに二人に言った。
「――あんた達は、リクを追って。あいつは、あたしが追いかけるから」
「はぁ!?」
「待てって!! 危険だ、オパール!!」
ヴェンとソラが言うが、オパールは無視してその場から駆け出していく。
慌ててソラも追いかけようとしたが、その前にヴェンによって手首を握られた。
「ソラ、俺達はリクを助けよう」
「でも!!」
「ソラが教えてくれたんだろ、『仲間を信じろ』って」
「あ…!」
一つ前の世界で落ち込むヴェンを励ました事を思い出し、ソラは動きを止める。
大人しくなったソラに、ヴェンは更に言い聞かせた。
「今は、オパールを信じてリクを助けよう。それから追いつけばいいさ」
「…分かった」
ソラ達が二手に分かれた頃。
巨大な建物の中にある巨大なコンピューターの部屋で、拘束を解かれたリクは周りを見回していた。
(さて…どうするか)
目の前には巨大なコンピューター、後ろでは自分を見張っている黒服の人物が四人。その他にもいるが、何やらコンピューターで作業をしている。
「はぐれプログラムの解析終了、ユーザーと確認」
「レイディアントガーデン住民データの照合結果…該当者はなし。未登録のユーザーと断定」
彼らの会話はよく分からないが、自分にとって何かマズい事が起ころうとしているのは分かる。
後ろで見張っている人物に気を付けながら、リクは手に力を込める。
(――ここは、一か八か)
静かに反撃の時を待っていると、やがてリーダー格の人物が自分の傍に来ると指示を出した。
「これより消去を…ガッ!?」
その言葉と共に、キーブレードを取り出して思いっきり薙ぎ払う。
突然の攻撃に他の者達の思考が追いつかない。その隙を突いて、リクは即座にその部屋から脱出した。
「逃げたぞ、追え!!」
部屋を出るなり、そんな声と共に通路に警報が鳴り響く。
それと共に、何処からともなく武器を持った黒服の人物達が襲い掛かってくる。
「くっ、キリがない…!!」
前に立ち憚る敵を次々とキーブレードで倒すが、数は減らず逆に増えていく。
それでも進んでいると、一つのドアが見えてくる。
半ば逃げ込む様にドアを開いて中に入ると、そこは大量のバイクが置いてある格納庫だった。
「こいつはっ!!」
目の前に広がった光景に、焦燥していたリクの目に光が灯る。
すぐに一つのバイクに乗り込むと、そのままエンジンを起動させた。
「よしっ!」
上手く起動させると共に、リクはアクセルを思いっきり踏み込む。
するとバイクは勢いよく走り出し、向かい側にあったドアを壊しながら突き進んだ。