Another the last chapter‐4
黒服の男達の目を掻い潜り、どうにか建物内に潜入したソラとヴェン。
辺りに警報が鳴り響く中、二人は走りながらリクを探していた。
「ソラ!! こっちでいいのか!?」
「分からないけど、道はこっちしかないだろ!?」
そんな会話をしていた時、何かが唸るような音が奥から響いてきた。
「ヴェン、何か聞こえないか?」
「本当だ…何だ、この音?」
少しずつ聞こえてくる音に、二人は足を止めて訝しげに奥の通路を見る。
すると、一つのバイクが猛スピードで二人目掛けて走ってきた。
「「うわあぁ!?」」
突然突進してきたバイクに、二人はどうにか横に避ける。
そうして避けたバイクは急ブレーキをかけ、振り返る様にハンドルを切る。
二人が警戒しながらバイクを見ると、そこにはリクが驚いた表情で乗っていた。
「ソラ!? ヴェンもどうしてここに!!」
「リク!! 良かった、無事だったんだな!!」
乗っているのがリクと分かるなり、ソラは嬉しそうに近づいた。
「まあな、と言いたい所だが…――逃げるぞ」
そう言うなり、リクはソラの腕を掴み上げて後ろに乗せる。
ソラが乗り込むなり、リクはバイクを二人が来た道を戻るように走らせた。
「へっ? ちょ――!?」
「待てよ!! 一体何が――!!」
いきなりの行動に混乱して声を上げるソラと同時に、ヴェンも遠ざかるリクに文句を言っていると後ろから気配を感じる。
振り返ると、黒い人物達がバイクでこちらに向かって走っていた。
「…そう言う事!?」
事情を理解したヴェンは、即座にキーブレードを乗り物に変えて二人の後を追うように走りだす。
そうして二人のバイクに追いつくと、ソラとリクがそれぞれ会話をしていた。
「リク!? 何がどうなってるんだよ!!」
「見ての通りだ。敵に追われてる」
「ずるいぞ!! どうして俺は乗せてくれないんだ!!」
「お前はそれがあるだろ」
何処か冷静にリクが答えていると、敵の一人が横に来てバイクでアタックを仕掛けてきた。
「「「うわっ!?」」」
思いがけない攻撃に三人はバランスを崩すも、どうにか体制を立て直す。
すると、ヴェンは隣で走っている黒服の人物を睨みつけた。
「このぉ!!」
乗り物となったキーブレードを回転させて攻撃し、他の敵も巻き込んで撃墜させる。
ヴェンが『エアレイヴ』を繰り出す中、リクは後ろにいるソラに叫んだ。
「ソラ、俺が運転するから何とか出来るか!?」
「だったら俺にやらせて!! 俺、運転したまま戦った事あるし!!」
「バ、バカ!? 運転中なのに交代出来る訳ないだろ!!」
「やってみなきゃ分からないだろ!!」
そんな事を言い合いながら、ソラは身を乗り出してリクからハンドルを奪おうとする。
これにより、二人を乗せたバイクはスピードを出したままフラフラと揺れ出す。
何処か危ない運転にヴェンも冷や汗を掻いていると、突如目を見開いた。
「二人とも、前っ!!」
「「え?」」
ヴェンの叫びに、二人は急いで前を見る。
目に広がったのは、外の景色が一望出来る程の大きな窓ガラス。この事に二人が気づいた瞬間、バイクごと突っ込んで窓ガラスをぶち破り外に放り出された。
「「うわあああああああっ!!?」」
「くっ…!?」
建物から真っ逆さまに落下する二人に、ヴェンは急いでスピードを上げる。
そのまま落ちる二人を通り過ぎてその場で浮遊する。すると、二人はそれぞれライダーの先端を掴んでどうにかぶら下がった。
「た、助かった…のわぁ!?」
ソラが一息吐くが、乗り物がグラリと大きく揺れる。
重量オーバーなのか今にも放り出されそうになるが、まだ地上が見えない状態で放り出されては大怪我では済まない。
三人は必死で堪えつつ、リクは乗り物を操るヴェンに叫んだ。
「ヴェン、ちゃんとバランス取ってくれ!?」
「無茶言うなよ!? 俺、誰かを乗せた事なんて一度も――!!」
リクに向かって答えていたが、途中でバランスが崩れてしまう。
結果、三人は空中に放り出されてしまった。
「へ?」「え?」「は?」
思わずそんなまぬけな声を出してしまうが、そのまま急降下していった。
「「「うわあああああああああああああああああっ!!!??」」」
その頃、オパールは例の黒コートの人物を追って走っていた。
「待ちなさいっ!!」
走っても追いつけないものの、一定の距離を保っているようで見失うと言う事はない。
だが、それは明らかに自分を誘っている行為に他ならない。普通に考えると危険だが、今は追いかける事しか出来ない。
やがて、黒コートの人物は町の一望が見渡せる広い場所でようやく足を止める。それを見て、オパールも警戒しながら睨みつけた。
「さあ、もう逃げられないわよ!! 観念なさい!!」
何時でも武器を引き抜ける体制に入り、相手の行動を待つ。
そんなオパールに、黒コートの人物は小さく口を開いた。
「――っと……た…」
「え?」
「やっと…会えたな…」
何処か優しげな声が耳に入り、オパールは思わず警戒を緩める。
それと同時に、黒コートの人物はゆっくりとフードを外した。
「う、そ…!」
フードを取り外し、露わになった顔にオパールは目を見開く。
短い銀髪、水色の瞳。そして幼さが残る整った顔立ち。
何処か見覚えのある顔に、ゆっくりとその人物の名を紡いだ。
「リク…?」
そう呟くオパールに、目の前のリクは首を横に振った。
「違う。俺は、アンセムに作られたアップデータ…――【DCS(データ・コード・システム)】だ」
「もしかして…あたし達が、探してた…?」
オパールが聞くと、静かに頷く。
探していたアップデータが目の前にある事に唖然とするが、もう一つ理解出来ない事がオパールにあった。
「どうして、リクの姿を…?」
「お前達のデータを読み込んだ際に、お前の好きな人の姿を模せればと思ってな。ちゃんと区別を付ける為に、彼の一年前の姿にしている。今の俺は、“リク”の姿を借りたデータだと思えばいい」
「分かった、けど…なんで、あたしを?」
未だに動揺が拭い切れず、オパールは震えながらリク―――データ・リクを見る。
すると、データ・リクは真剣な目でオパールを見つめ返した。
「――覚えていないか? 俺と初めて会った時の事は?」
予想もしなかった言葉に、オパールの心臓が跳ね上がった。
「あ、あたし…あんたと、会って、た…?」
「俺は、覚えている。いや、記録が残っていると言った方が正しいか」
何が何だか分からないオパールに、データ・リクは静かに語り出した…。
―――あれは、今から10年前の事だった。
「――お父さん、きかいなおる?」
「当たり前だ。このお父さんの腕を舐めて貰ったら困るぞ」
アンセムの研究室でもあり町のメインシステムのあるコンピューターの前に、二人の親子がいた。
父親は細かい道具でコンピューターの細部をしばらく弄ると、手を止めて満足そうに笑顔を浮かべた。
「――よし、これでいいな」
そう言うなり、手に持ってた道具を直して中に搭載されているコードや器材を一つ一つ丁寧に元通りに直していく。
最後に枠を嵌めてコンピューターの電源を入れて起動させていると、奥の方から白衣を着た銀髪の男が近づいてきた。
「すまないな。わざわざ直して貰いまして」
「いいえ。アンセム様の為となれば、喜んで手を貸しますよ」
「そうか。なら、他にも調子の悪い機械があるんだが、そちらも宜しいかな?」
「もちろんですよ。――オパール、仕事が終わるまでここで待ってなさい」
そう言うと、父親は傍らに立っている娘―――オパールの頭を優しく撫でる。
すると、オパールは満面の笑みを父親に見せて大きく頷いた。
「うん! 行ってらっしゃい!」
アンセムと呼ばれた人と一緒に奥へ行く父親に向かって、精一杯手を振って見送るオパール。
やがて部屋の中で一人っきりになり、寂しさを感じてさっきまで父親が直していたコンピューターに近づく。
そうしてゲージが溜まっていく画面を何となく見て時間を潰す。やがてゲージが全て堪ると、画面が急に明るくなった。
『データ更新終了…起動、完了…』
「しゃべった!? すごーい!」
コンピューターから無機質な男の声が聞こえ、オパールは思わず目を輝かせる。
すると、意外にもコンピューターから再び声が返ってきた。
『…子供?』
「子供じゃないっ! あたしはオパールなんだから!!」
何処か訝しげな言葉に、オパールは怒りを覚えたのか怒鳴りつける。
だが、8歳の子供が怒ってもその姿は何処か可愛らしく見えてしまう。
そして、声は少しだけ黙ると何処か淡々と喋り出した。
『【オパール】…珪素をメインにする、非結晶系の組成Si02・nH20の鉱石の事か?』
「けいそ? こうせき…?」
何やら難しい単語にオパールが首を傾げると、声は軽く溜息を吐いた…気がした。
『宝石の一種で、別名では蛋白石とも呼ばれる。見る角度によって輝きが変化する事から、幸運のお守りとして人々が身に付けたりもする』
「はわぁ…すごーい! そんな事分かるんだー!」
『今述べたキーワードを検索し、該当するデータを効率よく引き出した結果だ』
「うーん…? よくわかんないけど、他にはどんなこと知ってるの!」
『他には、とは?』
「あなたが知ってること! ねねっ、聞かせて!」
『そうだな…極秘データ以外で話せる事は――』
身を乗り出す様にオパールが強請ると、声は少しだけ考えて町の事や身近な物についていろいろと語ってくれた。
一見すると声が話す知識を聞くだけだったが、元々一人だった事もありオパールにとって楽しい時間となった。
「いろいろ知ってて、すごいねー!…どうしたの?」
笑顔で褒めていると、不意にいろんな事を語ってくれた声が止まる。
オパールが不安そうに聞くと、声は困惑の感情を入れながら呟いた。
『変なんだ…――何だ、これ得体のしれない感覚は…? まだ、直ってないのか…?』
「なおらない…?」
困惑気な声に、彼女は少しだけ考えると脳裏にある事が閃いた。
「――だったら、あたしがなおしてあげる!!」
『え?』
「いつになるか、分からないけど……いつか、お父さんやオジちゃんみたいになって、ゼッタイにあなたをなおしてあげるから!!」
オパールはそう言いながら、父親やオジサンの仕事風景を思い出しながら声に向かって宣言する。
何処か自信満々で目を輝かせるオパールに、声は冷めたように言った。
『お前にそんな事が出来るとは思えない』
「できるもん!! やくそくする!! ゼッタイ、なおすんだからね!!」
『…約束』
怒りながら叫ぶオパールの言葉に、声はボソリと呟く。
子供の言う事に確証などない、それなのにその言葉だけが彼の中にしっかりと残っていった…。
辺りに警報が鳴り響く中、二人は走りながらリクを探していた。
「ソラ!! こっちでいいのか!?」
「分からないけど、道はこっちしかないだろ!?」
そんな会話をしていた時、何かが唸るような音が奥から響いてきた。
「ヴェン、何か聞こえないか?」
「本当だ…何だ、この音?」
少しずつ聞こえてくる音に、二人は足を止めて訝しげに奥の通路を見る。
すると、一つのバイクが猛スピードで二人目掛けて走ってきた。
「「うわあぁ!?」」
突然突進してきたバイクに、二人はどうにか横に避ける。
そうして避けたバイクは急ブレーキをかけ、振り返る様にハンドルを切る。
二人が警戒しながらバイクを見ると、そこにはリクが驚いた表情で乗っていた。
「ソラ!? ヴェンもどうしてここに!!」
「リク!! 良かった、無事だったんだな!!」
乗っているのがリクと分かるなり、ソラは嬉しそうに近づいた。
「まあな、と言いたい所だが…――逃げるぞ」
そう言うなり、リクはソラの腕を掴み上げて後ろに乗せる。
ソラが乗り込むなり、リクはバイクを二人が来た道を戻るように走らせた。
「へっ? ちょ――!?」
「待てよ!! 一体何が――!!」
いきなりの行動に混乱して声を上げるソラと同時に、ヴェンも遠ざかるリクに文句を言っていると後ろから気配を感じる。
振り返ると、黒い人物達がバイクでこちらに向かって走っていた。
「…そう言う事!?」
事情を理解したヴェンは、即座にキーブレードを乗り物に変えて二人の後を追うように走りだす。
そうして二人のバイクに追いつくと、ソラとリクがそれぞれ会話をしていた。
「リク!? 何がどうなってるんだよ!!」
「見ての通りだ。敵に追われてる」
「ずるいぞ!! どうして俺は乗せてくれないんだ!!」
「お前はそれがあるだろ」
何処か冷静にリクが答えていると、敵の一人が横に来てバイクでアタックを仕掛けてきた。
「「「うわっ!?」」」
思いがけない攻撃に三人はバランスを崩すも、どうにか体制を立て直す。
すると、ヴェンは隣で走っている黒服の人物を睨みつけた。
「このぉ!!」
乗り物となったキーブレードを回転させて攻撃し、他の敵も巻き込んで撃墜させる。
ヴェンが『エアレイヴ』を繰り出す中、リクは後ろにいるソラに叫んだ。
「ソラ、俺が運転するから何とか出来るか!?」
「だったら俺にやらせて!! 俺、運転したまま戦った事あるし!!」
「バ、バカ!? 運転中なのに交代出来る訳ないだろ!!」
「やってみなきゃ分からないだろ!!」
そんな事を言い合いながら、ソラは身を乗り出してリクからハンドルを奪おうとする。
これにより、二人を乗せたバイクはスピードを出したままフラフラと揺れ出す。
何処か危ない運転にヴェンも冷や汗を掻いていると、突如目を見開いた。
「二人とも、前っ!!」
「「え?」」
ヴェンの叫びに、二人は急いで前を見る。
目に広がったのは、外の景色が一望出来る程の大きな窓ガラス。この事に二人が気づいた瞬間、バイクごと突っ込んで窓ガラスをぶち破り外に放り出された。
「「うわあああああああっ!!?」」
「くっ…!?」
建物から真っ逆さまに落下する二人に、ヴェンは急いでスピードを上げる。
そのまま落ちる二人を通り過ぎてその場で浮遊する。すると、二人はそれぞれライダーの先端を掴んでどうにかぶら下がった。
「た、助かった…のわぁ!?」
ソラが一息吐くが、乗り物がグラリと大きく揺れる。
重量オーバーなのか今にも放り出されそうになるが、まだ地上が見えない状態で放り出されては大怪我では済まない。
三人は必死で堪えつつ、リクは乗り物を操るヴェンに叫んだ。
「ヴェン、ちゃんとバランス取ってくれ!?」
「無茶言うなよ!? 俺、誰かを乗せた事なんて一度も――!!」
リクに向かって答えていたが、途中でバランスが崩れてしまう。
結果、三人は空中に放り出されてしまった。
「へ?」「え?」「は?」
思わずそんなまぬけな声を出してしまうが、そのまま急降下していった。
「「「うわあああああああああああああああああっ!!!??」」」
その頃、オパールは例の黒コートの人物を追って走っていた。
「待ちなさいっ!!」
走っても追いつけないものの、一定の距離を保っているようで見失うと言う事はない。
だが、それは明らかに自分を誘っている行為に他ならない。普通に考えると危険だが、今は追いかける事しか出来ない。
やがて、黒コートの人物は町の一望が見渡せる広い場所でようやく足を止める。それを見て、オパールも警戒しながら睨みつけた。
「さあ、もう逃げられないわよ!! 観念なさい!!」
何時でも武器を引き抜ける体制に入り、相手の行動を待つ。
そんなオパールに、黒コートの人物は小さく口を開いた。
「――っと……た…」
「え?」
「やっと…会えたな…」
何処か優しげな声が耳に入り、オパールは思わず警戒を緩める。
それと同時に、黒コートの人物はゆっくりとフードを外した。
「う、そ…!」
フードを取り外し、露わになった顔にオパールは目を見開く。
短い銀髪、水色の瞳。そして幼さが残る整った顔立ち。
何処か見覚えのある顔に、ゆっくりとその人物の名を紡いだ。
「リク…?」
そう呟くオパールに、目の前のリクは首を横に振った。
「違う。俺は、アンセムに作られたアップデータ…――【DCS(データ・コード・システム)】だ」
「もしかして…あたし達が、探してた…?」
オパールが聞くと、静かに頷く。
探していたアップデータが目の前にある事に唖然とするが、もう一つ理解出来ない事がオパールにあった。
「どうして、リクの姿を…?」
「お前達のデータを読み込んだ際に、お前の好きな人の姿を模せればと思ってな。ちゃんと区別を付ける為に、彼の一年前の姿にしている。今の俺は、“リク”の姿を借りたデータだと思えばいい」
「分かった、けど…なんで、あたしを?」
未だに動揺が拭い切れず、オパールは震えながらリク―――データ・リクを見る。
すると、データ・リクは真剣な目でオパールを見つめ返した。
「――覚えていないか? 俺と初めて会った時の事は?」
予想もしなかった言葉に、オパールの心臓が跳ね上がった。
「あ、あたし…あんたと、会って、た…?」
「俺は、覚えている。いや、記録が残っていると言った方が正しいか」
何が何だか分からないオパールに、データ・リクは静かに語り出した…。
―――あれは、今から10年前の事だった。
「――お父さん、きかいなおる?」
「当たり前だ。このお父さんの腕を舐めて貰ったら困るぞ」
アンセムの研究室でもあり町のメインシステムのあるコンピューターの前に、二人の親子がいた。
父親は細かい道具でコンピューターの細部をしばらく弄ると、手を止めて満足そうに笑顔を浮かべた。
「――よし、これでいいな」
そう言うなり、手に持ってた道具を直して中に搭載されているコードや器材を一つ一つ丁寧に元通りに直していく。
最後に枠を嵌めてコンピューターの電源を入れて起動させていると、奥の方から白衣を着た銀髪の男が近づいてきた。
「すまないな。わざわざ直して貰いまして」
「いいえ。アンセム様の為となれば、喜んで手を貸しますよ」
「そうか。なら、他にも調子の悪い機械があるんだが、そちらも宜しいかな?」
「もちろんですよ。――オパール、仕事が終わるまでここで待ってなさい」
そう言うと、父親は傍らに立っている娘―――オパールの頭を優しく撫でる。
すると、オパールは満面の笑みを父親に見せて大きく頷いた。
「うん! 行ってらっしゃい!」
アンセムと呼ばれた人と一緒に奥へ行く父親に向かって、精一杯手を振って見送るオパール。
やがて部屋の中で一人っきりになり、寂しさを感じてさっきまで父親が直していたコンピューターに近づく。
そうしてゲージが溜まっていく画面を何となく見て時間を潰す。やがてゲージが全て堪ると、画面が急に明るくなった。
『データ更新終了…起動、完了…』
「しゃべった!? すごーい!」
コンピューターから無機質な男の声が聞こえ、オパールは思わず目を輝かせる。
すると、意外にもコンピューターから再び声が返ってきた。
『…子供?』
「子供じゃないっ! あたしはオパールなんだから!!」
何処か訝しげな言葉に、オパールは怒りを覚えたのか怒鳴りつける。
だが、8歳の子供が怒ってもその姿は何処か可愛らしく見えてしまう。
そして、声は少しだけ黙ると何処か淡々と喋り出した。
『【オパール】…珪素をメインにする、非結晶系の組成Si02・nH20の鉱石の事か?』
「けいそ? こうせき…?」
何やら難しい単語にオパールが首を傾げると、声は軽く溜息を吐いた…気がした。
『宝石の一種で、別名では蛋白石とも呼ばれる。見る角度によって輝きが変化する事から、幸運のお守りとして人々が身に付けたりもする』
「はわぁ…すごーい! そんな事分かるんだー!」
『今述べたキーワードを検索し、該当するデータを効率よく引き出した結果だ』
「うーん…? よくわかんないけど、他にはどんなこと知ってるの!」
『他には、とは?』
「あなたが知ってること! ねねっ、聞かせて!」
『そうだな…極秘データ以外で話せる事は――』
身を乗り出す様にオパールが強請ると、声は少しだけ考えて町の事や身近な物についていろいろと語ってくれた。
一見すると声が話す知識を聞くだけだったが、元々一人だった事もありオパールにとって楽しい時間となった。
「いろいろ知ってて、すごいねー!…どうしたの?」
笑顔で褒めていると、不意にいろんな事を語ってくれた声が止まる。
オパールが不安そうに聞くと、声は困惑の感情を入れながら呟いた。
『変なんだ…――何だ、これ得体のしれない感覚は…? まだ、直ってないのか…?』
「なおらない…?」
困惑気な声に、彼女は少しだけ考えると脳裏にある事が閃いた。
「――だったら、あたしがなおしてあげる!!」
『え?』
「いつになるか、分からないけど……いつか、お父さんやオジちゃんみたいになって、ゼッタイにあなたをなおしてあげるから!!」
オパールはそう言いながら、父親やオジサンの仕事風景を思い出しながら声に向かって宣言する。
何処か自信満々で目を輝かせるオパールに、声は冷めたように言った。
『お前にそんな事が出来るとは思えない』
「できるもん!! やくそくする!! ゼッタイ、なおすんだからね!!」
『…約束』
怒りながら叫ぶオパールの言葉に、声はボソリと呟く。
子供の言う事に確証などない、それなのにその言葉だけが彼の中にしっかりと残っていった…。