Another the last chapter‐5
そうしてデータ・リクが全てを話し終えると、再び前を見る。
彼の前に立っているオパールの目には、動揺が浮かんでいた。
「…そうだ、思い出した…!! あたし、あんたに約束した…!!」
あの頃の記憶がオパールにも甦ったのが分かり、データ・リクは微かに笑みを浮かべて腕を組んだ。
「その約束を信じ、俺はユーザーの世界を侵略しようとするMCPに反論した。そして、プログラムを吸収されてデータ化されても辛うじて意識を保ち続けた」
そこで言葉を切ると、真剣な目でオパールを見た。
「どんなに辛くとも、お前との約束を信じて」
「あ、あたし…!! あたしは…!!」
データ・リクの言葉に、オパールの動揺が激しくなる。
子供の頃に交わした約束。あの時は本当に純粋な思いで言ってしまったのに、成長した今ではその約束に心が締め付けられる。
彼の感じた異変は、器材が壊れてる訳でもバグやウイルスによる物でもない。ソラ達がトロンに心を齎したように、自分もまた彼に心を齎していたのだ。
そう。約束を果たすとは、言わば彼に宿った“心”を消す事。忘れていたとはいえ、昔交わした残酷な約束に顔を俯かせる。
その時、自分達の周りからあの黒服の男達が武器を持って降り立った。
「な、何!?」
「マズイ…!! 来い!!」
「あ、ちょ…!?」
突然データ・リクに腕を掴まれて、引っ張られる様にその場から逃げるオパール。
それを黒服の男達も武器を持って追いかける。この様子に、オパールは前を走るデータ・リクに叫んだ。
「あんた、もしかして追われてるの!?」
「ああ、君の伯父が作った【特殊消去プログラム】にな」
「はぁ!? あれが【特殊消去プログラム】!?」
予想しなかった単語がデータ・リクから飛び出て、オパールは逃げながらも後ろにいる黒服の男達を見る。
すると、データ・リクは一つ頷いて話を続けた。
「あれは、元々ここのセキュリティプログラムでもある『トロン』を元に作られたものだからな。害をなすデータやはぐれプログラム、住民登録されてないユーザーを敵と認識して襲い掛かる」
「だから、あたし達を…――ちょっと待って、じゃああんたは!?」
ここで一つの疑問が湧き上がり、データ・リクに問い質す。
自分は最近帰ってきたばっかりでまだ登録は済んでないし、ソラ達に至っては別の世界の住人だ。彼はずっとこの世界にいたのに、どうして追われる身なのか。
データ・リクは少しだけ黙ると、ポツリと呟いた。
「…バグの残ったデータがあると、他のデータがどうなるか分かるか?」
「え!? そりゃあ、バグが他のデータに転移する可能性もあるから――…っ!!?」
質問に答えていると、言いたい事に気づきハッと口を閉ざすオパール。
この様子に、データ・リクは逃げながら頷いた。
「そうだ…今の俺はバグを持つデータ。他のデータに危害を加える前に排除しようと、あのプログラム達は俺を消す為に動いているんだ」
「それなのに…あたしに会う為に、ずっと逃げてたの…?」
「――ああ」
静かに答えていると、少し先に通路が見えてくる。
二人がそこに逃げ込もうとしていると、突然上からハートレスが現れてエネルギー弾を放ってきた。
「危ないっ!?」
「きゃあ!?」
すぐに足を止めるなり、オパールを庇うように抱きかかえる。
それと同時に、エネルギー弾がデータ・リクにぶつかって二人して大きく吹き飛ばされた。
「いっつ…!?」
データ・リクがある程度庇ってくれたおかげで、オパールはどうにかデータ・リクを押しのけて上半身を起こす。
そうして前を見ると、例のプログラムは自分達よりハートレスの方が危険と判断したのかそっちの方へ攻撃をしていた。
「こんな事言うのも何だけど…今はあんた達もこんなプログラム必要ないわよっ!!! 『サンダーボルト』!!!」
両者が戦ってるのを良い事に、オパールはあらじかめ作っていた魔石を取り出して投げつける。
石が光り辺り一帯に激しい電撃が発生し、電撃に巻き込まれる形でプログラム諸共ハートレスも消し去った。
「大丈夫――ッ…!?」
それから助けてくれたデータ・リクを見た瞬間、オパールは息を呑んだ。
「消え、てる…!?」
データ・リクの身体にはあちこちにノイズが走り、一部はデータ化されて透明な画面のような物が何重にも重なっている。
もはや人の姿を保っていられないデータ・リクをオパールが仰向けにして楽に寝かせていた時だった。
「俺を…持っていけ…」
「え…?」
ポツリと呟いた言葉にオパールが聞き返すなり、データ・リクは黒コートから一枚のディスクを取り出した。
「これは…俺の元である、データ……それは、この世界だけじゃない…異世界からのデータも、入っている…」
「異世界!?」
「俺に、意思を持たせ助けてくれた人物…そいつが、俺に介入して、そのデータを追加したんだ……その人物も、異世界の人物だから…」
「ねぇ、その人って誰か分かる?」
オパールが聞くと、データ・リクはゆっくりと呟いた。
「…《シルビア》…」
「シルビアっ!!? でも、それって確か――!?」
データ・リクの言葉が信じられず、オパールは叫んでしまう。
シルビアとは、奪われたデータに書いてあった人工キーブレードの一つだ。なのに、何故同じ名前の人物がいるのだろうか。
「彼女が、追加したデータ……一つは…彼女自身について……二つ目は、今回の敵について……」
そこで言葉を切ると、データ・リクの全身にノイズが走った。
「最後は…お前達の――」
「ちょ…!? もう喋らないで!!」
もはや先が長くないデータ・リクに、オパールは必死で無理をさせないようにする。
データ・リクも限界を感じたのか、手に持ってたディスクをオパールに手渡して話を続けた。
「今……俺の中にあるデータは、所々壊れていたり…バグが入っていたりしている…――元々、古い機種だから…それは追加データも一緒だが……俺の中にあるデータを…一つ一つ、直して探していけば三つのデータが見つかる筈だ…」
ここまで言うと、ノイズが走る中でジッとオパールを見つめた。
「大変だし…時間がかかるとも、思うが……お前なら、きっと出来ると信じているから…」
自分に信頼を寄せるデータ・リクに、オパールは微かに微笑んだ。
「――ねえ。それって、あたしとあんたで交わした約束になるのかな?」
子供だったあの時とは違うかもしれない。それでも、“直す”と言う事には変わりない筈だ。
すると、データ・リクも何処か嬉しそうに微笑み返した。
「…いいと、思う」
「そっか」
オパールは静かに頷くと、真剣な目でデータ・リクを見て宣言した。
「見つけるわ、あんたの中にあるデータ。例え時間が掛かったとしても、三つの追加データを見つけて……必ずあんたを直す。約束する」
自身の思いをオパールが告げると、データ・リクは視線を上の方に向けた。
「なあ…君は、俺の事が好きか…?」
「なっ!? 何よ、急に…っ!」
突然の質問に、オパールは顔を真っ赤にして横に逸らす。
だが、少しだけ考えると再びデータ・リクを見て答えた。
「好きよ。《友達》として」
「とも…だち…」
「どんなに姿が一緒でも、どんなに姿が違っていても、あたしはリクが好きなの。そして、あんたはリクの姿をしているけど、リクじゃない」
リクと同じ姿をしたルキルを見ても何も思わなかったし、賢者の名を語ったゼアノートの姿になった時だって思いは変わらなかった。そして、リクを元にしたデータさえもあの特別な感情は湧き上がらない。
そう。自分が惹かれたのはリクの中身―――彼の持つ心なのだ。
「だから、あんたが望んでいる“好き”にはなれない……こんな残酷な答えで、ごめん」
「…いや、いい。寧ろ、スッキリした」
悲しそうなオパールに、データ・リクは穏やかな顔で言う。
それと同時に、データ・リクは静かにその場から消え去ってしまう。
残像のように残るデータの光を見送りながら、オパールは託されたディスクを握り締めた。
「また、会えるわよ。あたし、頑張るから」
大量のバグデータの中に隠された追加データ。これからの自分達に必要な物を、彼は約束と共に託してくれたのだ。
気持ちを新たにオパールが立ち上がっていると、背後で何かが落ちる音が響いた。
「のうぁ!?」
「いったたた…!?」
「おい…重いぞ…!!」
聞き覚えのある声に振り返ると、何と上からヴェン、ソラ、リクが山積みになって倒れていた。
「あんた達、どこから!?」
「オパール!? 良かった、無事だったんだ!!」
驚くオパールに、ソラはリクを下敷きにしながら喜ぶ。
それから三人はどうにか起き上ると、すぐさまオパールに近づく。
こうして再会を喜んでいたが、ヴェンがオパールの握るディスクに気づいた。
「それは?」
「あ、これは…」
「どうした?」
ヴェンの問いに迷いが生じたのか、オパールは顔を俯かせる。
思わずリクが聞くが、返事をしない。だが次の瞬間、オパールが俯いたままリクの肩に頭を乗せた。
「オパール!?」
「ごめん…少しでいいの…――このままで、いさせて…!!」
頭を押し付けながら声を震わせるオパールに何かを感じたのか、リクは黙って頭に手を置いて自分の肩に押さえつける。
この無言の優しさに、オパールは心にあった悲しみを涙に変えて吐き出した。
場所は変わり、異空の回廊。
そこに、『レイディアントガーデン』に向かって飛んでいる二つの物体があった。
「…もう少しで到着だが、大丈夫か?」
「は、はい!」
「とりあえず、何か情報があるといいけどな」
鎧を纏ったテラの後ろでレイアが頷くと、横で無轟の運転するバイクに乗ったクウも話の輪に入る。
だが、そんな三人に対し無轟は始終口を閉ざしていた。
「………」
「オッサン、どうした? さっきから黙ってばっかりだぞ?」
「いや…」
後ろにいるクウが聞くも、無轟は一言しか返さない。
クウだけでなく隣にいる二人も疑問が湧き上がる。そんな無轟に、炎産霊神が三人に聞こえないように脳裏だけで会話を始めた。
《無轟…》
(心配するな。もし、また奴が現れたら…戦って勝てばいい。そうだろう?)
《そうだね。でも、もう分かってるでしょ? 今回の戦いは…今までみたいに単純じゃない。さまざまな事柄が複雑に絡み合ってしまってる。その内の一つが――》
(“彼”、なのだろう?)
『ディスティニーアイランド』で聞かされた驚くきべき事実を思い出しながら、無轟はハッキリと告げる。
この言葉に、炎産霊神は無轟の決意が伝わったのか真剣に話を続けた。
《何が起こっているかは、さすがの僕でも分からない…――ううん。もしかしたら、その領域を超えている可能性もある。とにかく、油断はしないで》
(当たり前だ。戦いは何時でも全力で行うものだ)
これまで旅をして染み付いた経験を炎産霊神に言うと、横目で談笑している三人を見た。
自分が守るべき仲間を。
■作者メッセージ
これにて、ソラ達のトロンでの話が終了。そして、ここからテラ達やアクア達が本格的に登場します。
スペース・パラノイズでは3Dだけでなくコーデットも上手く取り入れられないかと試行錯誤してプロット立てたんですが…ね。まあ、終わりよければ全てよしだな、うん!!
次はアクア達も到着。そして、あのお方も登場させるつもりです。
スペース・パラノイズでは3Dだけでなくコーデットも上手く取り入れられないかと試行錯誤してプロット立てたんですが…ね。まあ、終わりよければ全てよしだな、うん!!
次はアクア達も到着。そして、あのお方も登場させるつもりです。