Another the last chapter‐6
時を同じくして、町から離れた場所にある壊れた城門前。
そこで異空の回廊が開き、中からアクアとゼロボロスが現れる。
そんな二人の目に飛び込んだ景色に、ゼロボロスは考え込む様に顎に手を当てた。
「ここが『レイディアントガーデン』? 名前の割に、随分寂れた感じだね…」
「場所はあってるのに、雰囲気が全然違う…ヴェンの言った事は、本当だったのね」
ヴェンから事前に聞かされた情報を思い返しながら、アクアも不安そうに周りを見回す。
そうしていると、開いていた回廊から重い足音が聞こえてくる。
振り返ると、ウィドが未だに眠るルキルを背負ったまま閉じていく回廊から現れた。
「ウィド、大丈夫? 何だったら交代しますよ?」
『トワイライトタウン』から休み無しでルキルを背負って歩いてきたウィドに、アクアが申し出る。
だが、ウィドは静かに首を振った。
「いえ…もう少しだけ、このままでいさせてください」
「分かったわ…でも、辛くなったら言ってくださいね?」
「ええ、その時はお願いします」
そうアクアに笑いかけるウィドに、ゼロボロスはこれからの事を話し出した。
「とりあえず、まずは人の住んでる場所に行って宿を探そうか」
「そうね。とにかく、安全な場所でルキルを寝かせないと」
アクアも賛同するように一つ頷く。
元々はルキルが目を覚まし次第、この世界に来る予定だった。だが、目を覚ました筈なのにルキルは再び眠りについた。そんな彼をあの世界に一人置いていく訳にもいかず、こうして一緒に連れてきたのだ。
話を戻し、アクアとゼロボロスの会話にウィドも頷いた時だった。
「――これはまた、思わぬ客だな」
上空から投げかけられた言葉と共に、一枚の黒い羽根が落ちてくる。
すぐに三人が見上げると、そこには右に黒い翼を生やした長い銀髪の男性が浮かんでいる。
この男性に三人が警戒していると、優雅に自分達の前に降り立った。
「あなたは――?」
「セフィロス」
アクアが問いかけるなり、男性―――セフィロスは自分の名を答える。
同時に彼から放たれている強い闇の気配を感じ、アクアがキーブレードを取り出す。すると、セフィロスの目が細くなった。
「少女。面白い武器を持っているな…キーブレードか?」
「お前は一体――」
更にアクアが警戒を高めていると、次にセフィロスはウィドが背負っているルキルを見た。
「ほう? 武器だけでなく、変わった人形も持っているな」
「人形…!?」
淡々としたセフィロスの言葉に、ウィドは鋭く睨みつける。
このウィドの様子に対し、セフィロスは軽く鼻で笑った。
「そう、意思を持たぬ人形。自分では何も出来ず、人から与えられた事柄に喜んで飛びつく。私の知る人物にそっくりだ」
「彼は人形ではない!! 立派な人です!!」
そう否定するようにウィドが叫ぶと、セフィロスは笑みを浮かべて何と武器である長刀を取り出した。
「どちらでもいい…――キーブレード、そして人形に荷担する者達。その力、試させて貰おう」
アンセムの研究室のコンピューター前。
カイリが一人部屋を散策しながら時間を潰して待っていると、コンピューターの端末が光り出す。
見ると、光に包まれながらソラ達が帰ってきた。
「皆、お帰り! どうだった?」
「バッチリ!」
「ちょっと危なかったけどな」
ソラがガッツポーズを作る横で、ヴェンが苦笑を浮かべる。
そんな三人から少し離れた所では、オパールが顔を俯かせたままあのディスクを握っていた。
これを見て、現実世界に帰って来た事により再びゼアノートの姿になったリクはオパールに声をかけた。
「大丈夫か?」
「あ、うん。ありがと…」
そう言うものの、オパールの表情は未だ冴えない。
リクは少しだけ考えると、オパールの頭に手を置いてそのまま撫でだした。
「え!? ちょ…!?」
「無理はするな」
「…分かってるわよ…」
思わず動揺するオパールだったが、リクの一言で再度黙ってしまう。
こうして二人が話している中、ヴェンが思い出したようにソラを見た。
「なあ、ソラ。ちょっといいか?」
「ん?」
「聞きそびれたんだけどさ、ソラ達が話してたゼアノートって――」
そこまで言った瞬間、突然部屋全体に激しい揺れが襲い掛かった。
「何!?」
「外に出るぞ!!」
突然の事にカイリが動揺する中、リクが部屋を出るので慌てて四人も追いかける。
すぐに研究所を出で廊下に出ると、何故かリクが立っている。その先にある光景を見て、ソラは目を見開いた。
「ハートレス!?」
彼らの前に、大量のハートレスが至る所に発生していたからだ。
「『空衝撃』!!」
城壁前では、ルキルを離れた場所に下ろしたウィドがセフィロスに向けて衝撃波を繰り出す。
それを翼で飛んで回避していると、双翼を展開させたゼロボロスが上空で拳を構えていた。
「そこっ! 『迫撃零掌』!!」
魔力を溜めこんだ掌底をぶつけるが、セフィロスは刀で防御する。
それでも威力はあるのか、若干体制をよろめかせる。だが、セフィロスは何事も無く地面に着地すると上空に手を翳した。
「『ファイガウォール』」
「「ぐぅ!?」」
セフィロスを中心に炎の柱が次々と立ち上るなり、ゼロボロスだけでなく少し離れた場所にいたウィドをも炎の中に引き寄せてしまう。
二人が炎に呑み込まれるのを見て、アクアはキーブレードを掲げる。
「癒しよ、『ケアルガ』――」
「そこまでだ」
セフィロスの呟きが聞こえ、アクアは反射的にキーブレードでガードの体制に入る。
直後、セフィロスが刀を振るって後ろに移動すると共に、幾つもの見えない斬撃がアクアに襲い掛かった。
「くうっ!?」
キーブレードでガードしていなかったら確実に斬り刻まれていた攻撃に、アクアは全身から冷や汗を掻いてしまう。
アクアがセフィロスの放った『一閃』を防御している間に、ゼロボロスとウィドはそれぞれ『ハイポーション』を飲み干した。
「強い…!!」
「回復薬、補充してて正解でした…!」
これまで戦ってきた敵や、ルキルが抜けた事を考えて『トワイライトタウン』でアイテムを大目に買っていたのが幸いした。
それでも、長期戦に持ち込んでしまえば回復薬が尽きてしまう可能性がある。早めに決着を付けようと、二人は再度武器を構えた時だった。
「こんなものか?」
「っ!?」
背後から聞こえた声に、とっさにウィドは振り返りながら剣を振るう。
そうして目にしたのは、横薙ぎに振るったセフィロスの刀だった。
「ぐぅ…!!」
どうにかそれぞれの刃をぶつけ合う事で、鍔迫り合いの形に持ち込む。
しかし、セフィロスとウィドではリーチの長さのように力の差が違いすぎる。一見すると長くは続かない防御だが、時間稼ぎには十分だった。
「ウィド、そのまま!! 『双月斬脚』!!」
ゼロボロスが『式』で両足に白黒の炎を纏うなり、セフィロスの背後に倒立するように回り込み手を軸に回転して足から真空破をぶつけた。
「ぬっ…」
「『マジックアワー』!!」
体制を崩したセフィロスに、アクアが瞬間移動して真上から光の柱と一緒にキーブレードを叩き込む。
確かな手応えと共に光の柱に呑み込まれたセフィロスに、アクアは再び上空に移動して追撃をかける。
「もう一度…――いない!?」
だが、最初の光の柱が消えると、そこにいた筈のセフィロスの姿が無い。
思わず目を瞠って攻撃を中断していると、遠くから声が響いた。
「『シャドウフレア』」
声と共に魔法が発動し、アクアの周りで黒い球体が現れる。
それに気付くと共に、球体は上空にいるアクアに襲い掛かる。
これを見て、即座にウィドとゼロボロスが動いた。
「『氷壁破』!!」
「させないっ!!」
ウィドはアクアと球体の間に氷の壁を作り出し、ゼロボロスは翼に『式』を纏わせ盾のようにして球体の前に立ち憚る。
結果、ウィドの作った氷の壁に当たった球体はその場で爆発して消え、ゼロボロスの翼に当たった球体は跳ね返されて別の場所に飛んでいく。
こうして無傷で済んだアクアは、無事に着地するなり声のした方を見た。
「あんな所に…!?」
自分達からかなり離れた場所で、セフィロスは只ならぬオーラを纏って上空に浮かんでいる。
セフィロスの行動に危険を感じたのか、すぐにゼロボロスが翼で飛び上がる。
攻撃を阻止しようとするゼロボロスに、セフィロスは静かに狙いを定めた。
「舞い降りろ」
小さな呟きと共に、ゼロボロスの身体にセフィロスと同じオーラが纏わりつく。
そして、互いのオーラが同時に霧散されると、飛んでいたゼロボロスに突然感じた事もないような苦痛が襲い掛かった。
「があぁ!!?」
「ゼロボロス!?」
『心無い天使』を受け、ゼロボロスに纏っていた『式』も解除されて成す術もなく地面に落ちてしまう。
慌ててアクアが駆け付けていると、セフィロスは再び『一閃』を放とうと居合抜きの構えを取った。
「そこまでだ、纏めて消えろ」
「消えるのは…」
攻撃を放とうとするセフィロスの背後に、ウィドが回り込む様にして現れた。
「お前だ!! 『一閃』!!」
鞘から剣を引き抜く形で、セフィロスと同じように居合抜きを放つ。
背中を斬り付けてダメージを与える事に成功すると、ウィドはアクアに指示を出した。
「アクア、ゼロボロスを!!」
「人の心配よりも――自分の身を心配するべきだ」
まるで耳元で囁くような言葉に、ウィドは振り返る。
その時、ウィドの横で風が吹いた。
「『虚空』」
背後から聞こえた声と共に、ウィドに幾つもの見えない斬撃が襲い掛かった。
「ぐああぁ!?」
「ウィド!?」
突然のウィドの悲鳴に、ゼロボロスに『ケアルガ』をかけていたアクアが顔を上げる。
横に構えた刀をセフィロスが軽く振るうと同時に、それに合わせるかのようにウィドが地面に叩きつけられる。
このままではマズいと感じたのか、アクアがキーブレードを握り締めているとゼロボロスに腕を掴まれた。
「アクア…ウィドの回復、お願い!」
「ゼロボロス!?」
歯を食い縛って立ち上がるなり、拳を握り込んでセフィロスへと走り込む。
そうしてゼロボロスは拳を繰り出すと、セフィロスは刀で防御して何処か呆れた口調で聞いた。
「魔力も回復していない状態で戦うか?」
「体力さえ回復してれば十分、だっ!!」
そう言いながら蹴りを放つが、セフィロスは軽く避ける。
それでもセフィロスから距離を取る事に成功すると、ゼロボロスは後ろにいるアクアに向かって叫んだ。
「アクア!! 悪いけど後ろに下がって僕らの回復を重点的に行ってくれ!! 今は君しか回復魔法を使えるものがいないんだ!! 分かってくれ!!」
ゼロボロスの指示に、アクアは複雑な気持ちになってしまう。
キーブレードマスターであるにも関わらず、二人の補佐役しか出来ないのにはもどかしさを感じる。
しかしルキルが戦えない今、回復魔法を使えるのは自分しかいない。回復薬があるにしても何時かは底が付くし、何より自分が倒れてしまったら本当に勝てなくなってしまう。
ここまで考えると、アクアは心を決めてゼロボロスを見た。
「…分かったわ!! 私は二人のサポートに回ればいいのね!!」
「ああ! その代わり、僕とウィドでセフィロスを押さえる!」
「ええ…ここでやられたら、ルキルもどうなるか分かりませんしね…!!」
ゼロボロスがセフィロスを睨むと、ウィドも剣を支えに立ち上がる。
この二人に、アクアは『ケアルガ』でウィドを回復させると、距離を取る様に後ろに下がる。
三人の行動に、セフィロスはゆっくりと刀を構え直した。
「まだ構えるか…面白い。もう少しだけ、余興に付き合ってやろう」
未だに余裕を保つセフィロスに、前衛に立ったウィドとゼロボロスは小さな声で会話を始めた。
「…ゼロボロス、作戦はどうします?」
「とにかく、空間移動の類は厄介だ。ただでさえ攻撃も早いし、魔法も使える」
「空間移動を封じるには…出来るだけ、攻撃の範囲が広い技を中心にした方がいいですね」
「万が一、アクアの所に移動したとしても彼女ならとっさの防御は出来るだろう。そこを間合いを詰めて攻める手もある」
「さすがですね、ゼロボロス。攻撃の一手として使えます」
幾ら相手が強くとも、何かしらの対処法は必ず存在する。
改めて二人がその事を感じつつ、対峙するセフィロスを睨みつけた。
■作者メッセージ
と言う訳で、アクア組は本格的な合流前にセフィロス戦に突入です。尚、このセフィロスはソラとは会っていませんのでクラウドとの決闘もしていない設定です。
今回はKHの技に加え、ディシティアの技も組み合わせています。少しでも読んでる人が楽しめるように頑張ります。
今回はKHの技に加え、ディシティアの技も組み合わせています。少しでも読んでる人が楽しめるように頑張ります。