Another the last chapter‐10
「んっ…ううん…」
夢が覚め、シャオは現実の世界へと意識を戻す。
ゆっくりと瞼を開くと、そこには足元まである銀髪に銀の瞳の少女が手にある何かを見て驚いていた。
「誰…?」
まだ朦朧とする意識の中でシャオが呟くと、少女はこちらを見る。
だが、何かを感じ取ったのかすぐに険しい顔で上を見た。
「マズイの…奴に気付かれたか…」
そう呟くなり、少女は横に手を重ねせ合わせて光らせる。
光が収まり少女が手を広げると、ジャスから貰ったお守りが握られていた。
「なに、を…?」
「――我の『思い』で形作っただけじゃ。我に万が一の事があった時にの」
そう言うと、少女は倒れているシャオの前にお守りを置いて背を向けて歩き出した。
「何処に、行くの…?」
「安心せい。消えに行く訳ではない……守る為に行くのじゃ」
少女は言い切ると共に足を止め、シャオに振り返る。
美しい銀色の目に、強い意思を宿して。
「我らの希望の光を、闇に染めぬ為に」
決意とも言える言葉を送ると共に、少女はその場から消え去った。
「守る…」
後に残されたシャオは、少しだけ考えると未だに痛む身体で上半身を起こす。
そして、道具袋を取り出すと中を漁り出した。
「そうだよね…こんな所で、寝てる場合じゃないんだ…!!」
シャオもまた決意を新たにすると、奥にあった『エリクサー』を取り出して一気に飲み干した。
その頃、城壁前の広場では未だに激戦が続いていた。
「くっそ、無駄に強いなこいつら…!!」
「無駄口叩いてる暇あるなら、手を動かしなさい!」
天使型のノーバディの放つ剣や梟型のノーバディの突進を翼で防ぐクウの後ろで、ウィドがハートレスを斬り捨てる。
「『ダイヤモンドダスト』!!」
「『フェイタルモード』!!」
別の所ではアクアが魔力を高めて周りに氷結を出現させて敵を凍らせ、テラは空中に飛び上がって武器を振り下ろすと共に衝撃波を起こして敵を薙ぎ倒す。
「『ケアル』!」
そんな中、レイアはサポートに回って少しでも傷ついた人達に癒しの魔法をかける。
この様子に、周りの敵を刀で薙ぎ払っていた無轟はレイアに叫んだ。
「レイア! 守護の魔法を全員にかけろ!」
「ハ、ハイ!! 『プロテラ』! 『シェルラ』!」
突然の無轟の指示に、レイアは驚きつつも守護の魔法をその場にいる全員にかける。
物理と魔法攻撃を軽減する障壁を張り終えると、無轟が刀に炎を纏いだした。
「全員防御しろ!! 一掃する!!」
「「なっ…!?」」
この言葉に、何をするのか理解したのかテラとクウは目を見開く。
しかし、他の人は何が何だか分からずに無轟を見ていると、上空に飛び上がった。
「『火之鳳琉』!!」
刀を振るい、空中から地上に向かい炎熱の衝撃波を放つ。
放たれた炎はハートレスとノーバディを呑み込むが、味方である彼らにも熱さが襲い掛かる。それでも、レイアの魔法のおかげでダメージはあまり無く、体力を蝕んだだけに留まった。
無轟は地面に降り立つと、刀を振るって残った炎を掻き消した。
「これでいいだろう」
「な、何て威力ですか…」
一瞬で敵を一掃した威力に、ゼロボロスも空いた口が塞がらない。
後の二人も唖然としている中、もう慣れてしまったクウとテラは諦めた顔で『ポーション』を飲み、レイアも回復魔法を唱えていた。
「『ケアルラ』…」
中級の魔法を唱え、全員に癒しの光が包み込む。
こうして回復を終えてレイアが一息入れると、アクアが心配そうに声をかけた。
「レイア、大丈夫?」
「え!? な、何がですか!?」
「大したことじゃないの。戦ってる間、ずっと私達の補助ばっかりしてくれたから…」
アクアが思った事を言うと、レイアは申し訳なさそうに頭を下げた。
「す、すみません…」
「あ、ううん。別にあなたの行動を責めてる訳じゃないの。実際、あなたのおかげで私達は凄く戦いやすいし」
落ち込むレイアに、すぐにアクアがフォローを入れる。
戦っている間、レイアは攻撃の魔法はしなかったものの、迅速に回復や補助の魔法を行ってくれたおかげで攻撃に専念出来たのだ。
この事をアクアが思い出していると、テラも心配そうに声をかけた。
「レイア…もしかして、今の敵が怖かったのか?」
すると、俯いていたレイアの目に暗い影が差しこんだ。
「そう、ですね…怖い、のでしょうか…」
「レイア――?」
何処か様子のおかしいレイアに、テラが思わず声をかけた時だ。
「テラー!! アクアー!!」
聞き覚えのある声に、テラとアクアが振り返る。
そこには、城壁広場の道からヴェンがソラと一緒にこちらに向かって走っていた。
「「ヴェン!?」」
二人が驚いている間にも、ヴェンは傍まで来ると笑顔で笑いかけた。
「良かった!! 二人とも、来てたんだ!!」
「へへっ、皆揃ったって感じだな! あれ…?」
ソラも頭の後ろに腕を組んで笑うが、途中で首を傾げる。
視線の先にあるのは、クウの背にある黒の双翼だ。
「ん、あぁ。そういや、お前らは俺の翼見るの初めてだったな」
ソラの視線に気づき、クウは思い返す様に呟くと頭を掻く。
そうこうしている内に、リク達三人もようやく追いつく。だが、姿の変わったリクを見てアクアが目を細めた。
「ヴェン、後ろの彼は?」
「それに、リクの姿が見えないが?」
「そ、それは…」
アクアとテラの質問に、ヴェンが困ったように顔を俯かせる。
他の4人もそれぞれ暗い表情や困った顔を浮かべ、どう説明しようか悩んでいた時だった。
「テラ、そいつならちゃんとここにいる…だろ?」
まるで助け舟を出すように、クウはゼアノートとなったリクに笑いかける。
誰も予想しなかった言葉に、殆どの人が目を丸くした。
「ええ!?」
「クウ、リクの事分かるの!?」
「どう言う事ですか!?」
テラとソラ、レイアが驚く様に声を上げると、クウはリクを見ながら説明した。
「闇に関連する物なら、俺の目は誤魔化せない。例え、それが闇で歪んだ虚像だろうがな」
「…あんたには、俺の本当の姿が見えているようだな」
クウの言葉の意味を理解したのか、リクは何処か納得したように頷く。
そんな二人に、ゼロボロスが苦笑しながら割り込んだ。
「付け加えるなら、僕もですよ。まあ、僕は彼と違って気配で、ですがね」
「ゼ、ゼロボロス? 一体、何の話をしているんですか?」
笑顔で語るゼロボロスにアクアも混乱している中、冷静にリクを見る者がいた。
「…あなたも、ルキルと同じように…」
同じ容姿を持つリクが別人に変わった事実を、ルキルと重ねて見る事ですんなりと受け入れるウィド。
そんな中、無轟は興味が無いのか刀を鞘に収めると徐にルキルに近づいた。
「オッサン?」
クウが声をかけると、無轟はルキルの腕を掴んで答えた。
「彼を担ぎながら戦うのは、お前達では不便だろう。俺がその任を引き受ける」
「大丈夫なんですか?」
不安そうにレイアが聞くと、無轟は小さく笑った。
「案ずるな。片手さえあれば刀は振るえる」
そう言うなり、無轟はルキルを背中に担く。
その状態で片手を放すと鞘に納めた刀を引き抜いて握った。
「うっわー…片手でおんぶするって凄い! 俺もやってみたいな!」
ソラが目を輝かせて無轟を見ると、クウが呆れた目で見返した。
「出来る訳ないだろ、そーんな細っこい腕じゃ」
「悪かったな! 俺だって、成長すればリクをあんな風に担いで戦って…」
「ソラ…本当は、俺を担ぎたいだけじゃないのか?」
「うえっ!? そ、そんな事ないって…あ、あはははっ…!」
ジト目で睨むリクに、ソラはビクリと身を震わせて作り笑いを浮かべる。
どうやら図星だったようで、この光景にカイリとレイアが笑い出した。
「「ふ、ふふっ…!」」
「何ででしょうかね…――肩の荷が、少しずつ降りていく感じがします」
「それでいいんですよ。気を張り詰めすぎれば、その分疲労が溜まるし」
三人の会話に何かが解れる感じをウィドが実感していると、ゼロボロスも笑みを浮かべる。
ようやく周りの空気が落ち着くと、オパールが質問を始めた。
「ねえ、聞きたいんだけど…この辺りで、何か怪しい物とか見なかった?」
この質問に、レイアは申し訳なさそうに頭を下げる。
「すみません…私達、今来たばかりですので詳しくはまだ…」
「私達も一緒なの。着いた途端に、セフィロスって人に襲われて…」
アクアも先程の事を説明していると、ソラの脳裏に金髪のツンツン頭の青年が過った。
「セフィロス…クラウド、まだ探してるのかな?」
「ソラ?」
「あ、何でもない! それじゃあ、まだ先にあるのかな?」
カイリが声をかけると、慌ててソラは首を振って話を戻す。
ソラの考え方に異論はないのか、オパールも頷いた。
「そう考えるのが妥当ね。早く原因突き止めないと…!!」
「とにかく、先に進みましょう」
ゼロボロスの言葉に、彼らは原因を探す為に渓谷の先へと進み出した。
「はぁ…はぁ…!」
白い空間にある、巨大な機械に設置された大きな白い鳥籠の中。
その中で、金髪の女性が辛そうに座り込んでいた。
「やっぱり…今の私じゃ、どうする事も出来ない…」
悔しそうに自分を閉じ込める柵を睨むが、状況は何も変わらない。
女性は表情に迷いを浮かべるが、それを振り払うように頭を振って前を見据えた。
「お願い…誰か、気づいて…!」
まるで祈るように呟くと、息を吸い込んで高らかな声を上げた。
三組が合流した事により、人数も戦力も恵まれた状態でソラ達は敵がいる中で渓谷の谷間を進んでいた。
「ここまで来たのに…まだ、見つからない…!」
「しかも、敵の数も多すぎる…!」
「何処に原因があるんだろ…?」
城壁前を出てから戦いながら進むが、何も見つからない状況にオパールとリクは苛立ちを感じる。
カイリも不安そうに辺りを見回していると、ヴェンが耳を澄ます様に顔を上げて目を閉じた。
「ヴェン、どうした?」
「何か、聞こえないか?」
「え?」
テラの問いかけにヴェンが答えると、アクアも耳を澄ます。
微かだが、高らかな声が渓谷に響いている。
「歌、か?」
「不思議な歌です。歌詞は朧げですが、心に響いてくるようで…」
無轟が訝しる中、ゼロボロスは歌声の美しさに聞き浸っている。
他の人も響いてくる歌を聞いたり困惑したりしていると、ウィドは難しい顔をした。
「この歌、何処かで…?」
「…嘘だ」
突然、静寂を破る様にポツリと呟く。
全員が振り返ると、クウが青い顔で目を見開いていた。
「クウ?」
「そんな筈ない…こんな所にいる訳ない…! なのに、どうして…っ!!」
ソラが声をかけるも、クウはブツブツと何かを呟く。
次の瞬間、全員から離れる様にその場から駆け出した。
「クウさん!?」
「クウ、どこに行く!?」
レイアと無轟が声をかけるが、聞く耳も持たずクウは走り続ける。
仕方なく他の人達も後を追いかけるが、格闘家の事もあるのかどんどん距離を離される。
誰も追いつけないまま結晶の狭間に辿り着くと、その隅に何やら捻じれた空間を見つけた。
「空間の裂け目!? どうしてこんな所に!?」
「ねえ、歌ってここから聞こえない!?」
驚くアクアに対し、カイリは歪んだ空間から歌声が聞こえるのに気づく。
すると、レイアが空間の裂け目の傍に近づいて腕を伸ばした。
「クウさんの羽根…」
裂け目の前に落ちている黒い羽根をレイアが拾う。
空間の裂け目、聞こえてくる歌声、クウの羽根。これらの事から、ソラは周りにいる人達を見回して言った。
「…行こう、この中に」