Another the last chapter‐11
空間に入り目の前に広がったのは、白い大理石で出来た不思議な通路。
その通路を、クウはひたすらに走っていた。
「くそっ…!!」
すでにその背から翼は消え、悪態を吐きながらも走り続ける。
先に進むにつれて、聞こえてくる歌声が少しずつ大きくなってくる。それと共に、心の中で焦燥が広がっていく。
(何で、この歌が…!! まさかこの事件、俺の所為で…!!)
自分にとって嬉しくて懐かしい歌声なのに、比例するように罪悪感が募っていく。
「クウー!!」
そんな時、後ろから大声で名前を呼ばれる。
思わず足を止めて振り返ると、ソラを先頭に全員が駆け付けていた。
「お前ら…何で…?」
「何でって事はないだろ!?」
「そうだって! 一人で勝手に走ったのはそっちだろ?」
「…悪い」
ソラとヴェンが半ば怒りながら言うと、クウは思わず頭を下げる。
反省を見せるクウに、すぐにテラは質問した。
「それより、何で先に行ったんだ?」
「それは、その…」
テラの問いに、答える事が出来ないのかクウは変に口籠る。
そんな時、カイリは通路の先を見て指を差した。
「ねえ、あの先。あれって、扉じゃない?」
白くボンヤリとした通路の先を見ると、確かに扉があり歌声もそこから聞こえる。
これを見て、アクアとゼロボロスも核心を得て頷いた。
「みたいね。あそこに、何かあるのかしら」
「かもしれませんね。同じ世界にある場所なのに、ここは異質な感じですし…何より、歌もあの奥から聞こえる」
「皆、警戒を怠るな」
無轟も周りの人達を見ながら注意を促す。
「――その必要はない」
しかし、ポツリと呟いたクウの言葉に全員は動きを止める。
その間に、クウはしっかりとした足取りで扉へと進んでいく。
「クウさん?」
「どう言う事です?」
レイアとウィドが聞くと、クウは背を向けたまま言い放った。
「行けば分かる…――何もかもが」
そう言うと、扉に手をかけて開け放った。
中には、同じように白い大理石で出来た広い部屋。しかし、その真ん中にはカプセルのような物が幾つも取りつけられた巨大な機械が設置されている。
そのカプセルを見ると、中からハートレスが生み出されて瞬時に闇に紛れて消えていく。この光景にオパールは唖然とした。
「まさか…この巨大な機械が…!?」
「あの人は!?」
ヴェンの視線の先に、まるで機械に繋がったように白い鳥籠がある。
その中で座り込んだ状態で歌っている人物に注目していると、女性は自分達に気づいて歌を止める。
辺りに沈黙が過る中、クウは一歩踏み出すと口を開いた。
「スピカ…」
クウの呟きに、女性―――スピカは目を見開いた。
「ク、ウ…?」
まるで信じられないと言ったように、クウの名を呟くスピカ。
この言葉に、ウィドもまた目を見開いた。
「姉さん…なん、です?」
茫然としながら質問すると、スピカは息を呑んだ。
「ウィド…? 本当に、あなたなの…?」
目の前の女性が正真正銘自分の姉だと分かり、ウィドは満面の笑顔を浮かべる。
「姉さん――!!」
駆け寄ろうとした直後、阻止するようにクウが腕を掴む。
そうしてウィドを押さえつけると、何とスピカに向かって叫んだ。
「スピカ!! 何でこんな所にいるんだよ!? 他の奴らはどうした!?」
「なっ…!? あなた、いきなり何を――!?」
邪魔された事にウィドが睨むが、クウは無視するように更に質問攻めする。
「それに、何でこんな檻に捕らわれたままなんだよ!? スピカの力量なら、こんなのすぐに――!!」
「ごめんなさい…出られないの。この中では、私の力は封じられるから」
「マジ、かよ…」
首を横に振って説明するスピカに、クウは茫然とする。
何とも言えない空気に包まれるが、それを払うようにスピカは微笑みながら口を開いた。
「…本当、成長したわね。最後に会った時は、まだ私の方が背が高かったのに」
「11年も旅してれば…嫌でも鍛えられる」
「そう、よね…11年もあれば、人は変われるわね」
「待ってください、姉さんっ!!!」
二人だけの会話に我慢の限界が訪れたのか、ウィドが大声で割り込んだ。
「姉さん、さっきからクウと親しげに話していますけど一体どう言う関係なんですか!? 折角会えたのに、どうしてクウばっかり――!?」
「俺から説明しようか? 二人の関係…――そして、俺達の繋がりをな」
突然の第三者の声に、全員は機械を見上げる。
機械に取りつけられたカプセルの一つに寄り掛る様に、セヴィルが立ってこちらを見下ろしている。
これを見て、アクアはキーブレードを取り出した。
「あなたは!?」
「敵か!?」
武器を構えるアクアに、初めて会ったリクも警戒を高める。
だが、セヴィルは気にする事も無く、そこから飛び降りると立ち憚る様にスピカの前に立った。
「セヴィル…まさか、あんたがスピカを――!?」
クウが怒りを露わにしていると、セヴィルは腰に手を当てて首を振った。
「残念だが、俺ではない。まあ…そいつの荷担はしているがな」
「てめぇ!!! 何でそんな事出来んだよ!!? スピカが何をしたって言うんだ!!?」
「ああ、スピカは何もしてない。現に、一年前からお前を探して旅をしていたほどだからな」
セヴィルの放った言葉に、全員がクウに注目した。
「姉さんが…クウを…!?」
「じゃあ、どうして!!?」
この事実にウィドが唖然とする中、クウはセヴィルに怒鳴りつける。
すると、セヴィルは何処か冷たい目でクウを睨みつけた。
「だったら、お前はこの世界に戻って来て何をしていた?」
「…っ!?」
この質問に、クウの表情に怯えが混ざる。
何も言えないクウに、セヴィルは呆れたように溜息を吐いた。
「質問を変えようか…11年前に俺やスピカ。お前の師匠、親友…そいつら全員裏切ってまで、何をしたかったんだ? クウ…――いや、【黒翼】と呼ぼうか?」
その言葉に心臓が跳ね上がったのか、クウは全身を震わせる。
「そ、れは…!!」
「裏切る…?」
「黒翼?」
セヴィルの質問とクウの様子に、テラとゼロボロスは訝しる目を向ける。
他の人も困惑の表情を浮かべていると、セヴィルは言い放った。
「お前に与えられた『組織』での使命…闇の世界を守るだけじゃない、恋人でもあったスピカを守る事だっただろ?」
更なる事実に、レイアとウィドが息を呑んだ。
「恋、人…!?」
「クウが、姉さんの恋人!?」
「闇の世界を、守る…? 一体、どう言う事なの?」
アクアも何が何だか分からずに混乱していると、セヴィルは意外な目でクウを見る。
「まさかとは思ったが…お前、何も言わなかったんだな? 彼らを仲間と思っていないからか? それとも――」
セヴィルの口が、途中で止まる。
彼の頬をすれすれに、クウが黒い羽根を投げてきたからだ。
「――黙れよ…!!」
「クウさ――」
「黙れよっ!!! あんたには関係ない問題だろ!!?」
レイアが声をかけるが、遮る様にセヴィルに怒鳴りつける。
だが、そんな脅しを何とも感じてないのか逆に呆れた目で腕を組む。
「そうやって、自分に都合の悪い所は隠すか…――子供じみた所は変わってないな」
「クッ…!!」
図星なのか、クウは悔しそうに歯を噛み締める。
二人だけの会話が続く中、ウィドが肩を震わせた。
「何なんですか…さっきから話が見えませんが、あなた何を隠しているんですっ!!?」
そう怒鳴りながら、クウに掴みかかるウィド。
いきなりの事に他の人達が動揺していると、クウに近づく人物がいた。
「あなたからは、闇の気配がしていた。今回の戦いで見て見ぬ振りをしてたけど…もう、そうも言ってられない」
アクアは鋭い目でクウを睨むと、キーブレードを握りしめる。
この様子に、すぐにテラが前に出てアクアを止める。
「アクア!? 待ってくれ、彼は――!!」
「テラはこのまま闇に落ちたいの!? 私もマスターも、あなたを闇に奪われたくないのっ!!」
アクアが心からの叫びをぶつけると、テラは動きを止める。
闇は世界にとって脅威であり、消し去るべき存在。友として、マスターとして、テラをこれ以上闇に近づけさせる訳にはいかないのだ。
そうアクアが覚悟を決めた時、思いもよらぬ言葉が返って来た。
「…そんなに闇が嫌なら、私を消しなさい」
スピカから放たれた言葉に、セヴィルを除く全員が驚いた顔で注目する。
そんな視線を浴びながら、スピカはアクアを見て胸を手に当てて言い放った。
「少なくとも、私は彼なんかよりも強い闇の力を持ってるわ…【闇の女王】としての力を封じられている今、消すなんて造作もない事よ」
「闇の、女王…!?」
「スピカ…」
誰も想像していなかった言葉にテラが驚く中、クウは悲しそうに呟く。
「あなた達は、一体…!?」
アクアすらも目に困惑を浮かべでいると、スピカが話し出した。
「私もクウもセヴィルも、光の世界を追い出され闇の住人となった者…――そんな私達は、闇の世界の一角で光の世界を守ると言う使命を帯びた…名前も無いその集団は、私達の中で『組織』と呼ばれるようになった」
「クウ達が闇の住人!?」
「闇の世界で、この光の世界を守ってるのですか!?」
カイリとアクアが信じられない顔をしていると、セヴィルが顔を背けて補足を入れる。
「一人、裏切り者がいるがな」
「裏切ったんじゃない!! 俺は…俺は一度だってスピカ達を忘れた事なんてなかった!!! あんたもだ!!!」
セヴィルの呟きを否定するように、クウは叫ぶ。
その声は真剣で、嘘を吐いているようには聞こえない。しかし、セヴィルは尚も冷めた目でクウを睨みつける。
「それが本当の事だとしても…――そんな言い分、掟を破った時点で無意味だと言う事が分からないのか?」
「掟?」
無轟が問い返すと、セヴィルはクウを見ながら説明する。
「闇の世界からこちらの世界に戻ったりすれば、何を引き起こすか分からない。だが、俺達の間でタブーとも言える行動をお前は取った。結果的には何も起きなかったようだが…沢山の奴らを傷付けて裏切った事には変わりない。違うか?」
「…確かに、俺は掟を破ってみんなを捨てた…――けど…っ!!」
顔を俯かせて肩を震わせるが、クウは顔を上げるとセヴィルを睨みながら胸に手を当てて叫んだ。
「この世界に帰りたいって思う事の何がいけないんだ!!! 自由を求めて、何が悪いんだよっ!!?」
「クウ…」
クウの心からの叫びに、リクは何処か辛そうに顔を俯かせる。
かつては外の世界に飛び出したいと願い、闇の力を使って実現させた。そんな自分だからそこ、クウの気持ちが分かる。
リクだけでなく他の人達も黙り込むと、セヴィルは静かに口を開いた。
「お前にとって、やはり俺達より自由…――翼を持っているからこその選択だな」
軽く肩を竦めると、セヴィルは真剣な目でキーブレードを取り出した。
「なら、お前達はどっちを選ぶんだろうな?」
直後、振り返ると共に背後にあるスピカを閉じ込めている鳥籠を斬った。
その通路を、クウはひたすらに走っていた。
「くそっ…!!」
すでにその背から翼は消え、悪態を吐きながらも走り続ける。
先に進むにつれて、聞こえてくる歌声が少しずつ大きくなってくる。それと共に、心の中で焦燥が広がっていく。
(何で、この歌が…!! まさかこの事件、俺の所為で…!!)
自分にとって嬉しくて懐かしい歌声なのに、比例するように罪悪感が募っていく。
「クウー!!」
そんな時、後ろから大声で名前を呼ばれる。
思わず足を止めて振り返ると、ソラを先頭に全員が駆け付けていた。
「お前ら…何で…?」
「何でって事はないだろ!?」
「そうだって! 一人で勝手に走ったのはそっちだろ?」
「…悪い」
ソラとヴェンが半ば怒りながら言うと、クウは思わず頭を下げる。
反省を見せるクウに、すぐにテラは質問した。
「それより、何で先に行ったんだ?」
「それは、その…」
テラの問いに、答える事が出来ないのかクウは変に口籠る。
そんな時、カイリは通路の先を見て指を差した。
「ねえ、あの先。あれって、扉じゃない?」
白くボンヤリとした通路の先を見ると、確かに扉があり歌声もそこから聞こえる。
これを見て、アクアとゼロボロスも核心を得て頷いた。
「みたいね。あそこに、何かあるのかしら」
「かもしれませんね。同じ世界にある場所なのに、ここは異質な感じですし…何より、歌もあの奥から聞こえる」
「皆、警戒を怠るな」
無轟も周りの人達を見ながら注意を促す。
「――その必要はない」
しかし、ポツリと呟いたクウの言葉に全員は動きを止める。
その間に、クウはしっかりとした足取りで扉へと進んでいく。
「クウさん?」
「どう言う事です?」
レイアとウィドが聞くと、クウは背を向けたまま言い放った。
「行けば分かる…――何もかもが」
そう言うと、扉に手をかけて開け放った。
中には、同じように白い大理石で出来た広い部屋。しかし、その真ん中にはカプセルのような物が幾つも取りつけられた巨大な機械が設置されている。
そのカプセルを見ると、中からハートレスが生み出されて瞬時に闇に紛れて消えていく。この光景にオパールは唖然とした。
「まさか…この巨大な機械が…!?」
「あの人は!?」
ヴェンの視線の先に、まるで機械に繋がったように白い鳥籠がある。
その中で座り込んだ状態で歌っている人物に注目していると、女性は自分達に気づいて歌を止める。
辺りに沈黙が過る中、クウは一歩踏み出すと口を開いた。
「スピカ…」
クウの呟きに、女性―――スピカは目を見開いた。
「ク、ウ…?」
まるで信じられないと言ったように、クウの名を呟くスピカ。
この言葉に、ウィドもまた目を見開いた。
「姉さん…なん、です?」
茫然としながら質問すると、スピカは息を呑んだ。
「ウィド…? 本当に、あなたなの…?」
目の前の女性が正真正銘自分の姉だと分かり、ウィドは満面の笑顔を浮かべる。
「姉さん――!!」
駆け寄ろうとした直後、阻止するようにクウが腕を掴む。
そうしてウィドを押さえつけると、何とスピカに向かって叫んだ。
「スピカ!! 何でこんな所にいるんだよ!? 他の奴らはどうした!?」
「なっ…!? あなた、いきなり何を――!?」
邪魔された事にウィドが睨むが、クウは無視するように更に質問攻めする。
「それに、何でこんな檻に捕らわれたままなんだよ!? スピカの力量なら、こんなのすぐに――!!」
「ごめんなさい…出られないの。この中では、私の力は封じられるから」
「マジ、かよ…」
首を横に振って説明するスピカに、クウは茫然とする。
何とも言えない空気に包まれるが、それを払うようにスピカは微笑みながら口を開いた。
「…本当、成長したわね。最後に会った時は、まだ私の方が背が高かったのに」
「11年も旅してれば…嫌でも鍛えられる」
「そう、よね…11年もあれば、人は変われるわね」
「待ってください、姉さんっ!!!」
二人だけの会話に我慢の限界が訪れたのか、ウィドが大声で割り込んだ。
「姉さん、さっきからクウと親しげに話していますけど一体どう言う関係なんですか!? 折角会えたのに、どうしてクウばっかり――!?」
「俺から説明しようか? 二人の関係…――そして、俺達の繋がりをな」
突然の第三者の声に、全員は機械を見上げる。
機械に取りつけられたカプセルの一つに寄り掛る様に、セヴィルが立ってこちらを見下ろしている。
これを見て、アクアはキーブレードを取り出した。
「あなたは!?」
「敵か!?」
武器を構えるアクアに、初めて会ったリクも警戒を高める。
だが、セヴィルは気にする事も無く、そこから飛び降りると立ち憚る様にスピカの前に立った。
「セヴィル…まさか、あんたがスピカを――!?」
クウが怒りを露わにしていると、セヴィルは腰に手を当てて首を振った。
「残念だが、俺ではない。まあ…そいつの荷担はしているがな」
「てめぇ!!! 何でそんな事出来んだよ!!? スピカが何をしたって言うんだ!!?」
「ああ、スピカは何もしてない。現に、一年前からお前を探して旅をしていたほどだからな」
セヴィルの放った言葉に、全員がクウに注目した。
「姉さんが…クウを…!?」
「じゃあ、どうして!!?」
この事実にウィドが唖然とする中、クウはセヴィルに怒鳴りつける。
すると、セヴィルは何処か冷たい目でクウを睨みつけた。
「だったら、お前はこの世界に戻って来て何をしていた?」
「…っ!?」
この質問に、クウの表情に怯えが混ざる。
何も言えないクウに、セヴィルは呆れたように溜息を吐いた。
「質問を変えようか…11年前に俺やスピカ。お前の師匠、親友…そいつら全員裏切ってまで、何をしたかったんだ? クウ…――いや、【黒翼】と呼ぼうか?」
その言葉に心臓が跳ね上がったのか、クウは全身を震わせる。
「そ、れは…!!」
「裏切る…?」
「黒翼?」
セヴィルの質問とクウの様子に、テラとゼロボロスは訝しる目を向ける。
他の人も困惑の表情を浮かべていると、セヴィルは言い放った。
「お前に与えられた『組織』での使命…闇の世界を守るだけじゃない、恋人でもあったスピカを守る事だっただろ?」
更なる事実に、レイアとウィドが息を呑んだ。
「恋、人…!?」
「クウが、姉さんの恋人!?」
「闇の世界を、守る…? 一体、どう言う事なの?」
アクアも何が何だか分からずに混乱していると、セヴィルは意外な目でクウを見る。
「まさかとは思ったが…お前、何も言わなかったんだな? 彼らを仲間と思っていないからか? それとも――」
セヴィルの口が、途中で止まる。
彼の頬をすれすれに、クウが黒い羽根を投げてきたからだ。
「――黙れよ…!!」
「クウさ――」
「黙れよっ!!! あんたには関係ない問題だろ!!?」
レイアが声をかけるが、遮る様にセヴィルに怒鳴りつける。
だが、そんな脅しを何とも感じてないのか逆に呆れた目で腕を組む。
「そうやって、自分に都合の悪い所は隠すか…――子供じみた所は変わってないな」
「クッ…!!」
図星なのか、クウは悔しそうに歯を噛み締める。
二人だけの会話が続く中、ウィドが肩を震わせた。
「何なんですか…さっきから話が見えませんが、あなた何を隠しているんですっ!!?」
そう怒鳴りながら、クウに掴みかかるウィド。
いきなりの事に他の人達が動揺していると、クウに近づく人物がいた。
「あなたからは、闇の気配がしていた。今回の戦いで見て見ぬ振りをしてたけど…もう、そうも言ってられない」
アクアは鋭い目でクウを睨むと、キーブレードを握りしめる。
この様子に、すぐにテラが前に出てアクアを止める。
「アクア!? 待ってくれ、彼は――!!」
「テラはこのまま闇に落ちたいの!? 私もマスターも、あなたを闇に奪われたくないのっ!!」
アクアが心からの叫びをぶつけると、テラは動きを止める。
闇は世界にとって脅威であり、消し去るべき存在。友として、マスターとして、テラをこれ以上闇に近づけさせる訳にはいかないのだ。
そうアクアが覚悟を決めた時、思いもよらぬ言葉が返って来た。
「…そんなに闇が嫌なら、私を消しなさい」
スピカから放たれた言葉に、セヴィルを除く全員が驚いた顔で注目する。
そんな視線を浴びながら、スピカはアクアを見て胸を手に当てて言い放った。
「少なくとも、私は彼なんかよりも強い闇の力を持ってるわ…【闇の女王】としての力を封じられている今、消すなんて造作もない事よ」
「闇の、女王…!?」
「スピカ…」
誰も想像していなかった言葉にテラが驚く中、クウは悲しそうに呟く。
「あなた達は、一体…!?」
アクアすらも目に困惑を浮かべでいると、スピカが話し出した。
「私もクウもセヴィルも、光の世界を追い出され闇の住人となった者…――そんな私達は、闇の世界の一角で光の世界を守ると言う使命を帯びた…名前も無いその集団は、私達の中で『組織』と呼ばれるようになった」
「クウ達が闇の住人!?」
「闇の世界で、この光の世界を守ってるのですか!?」
カイリとアクアが信じられない顔をしていると、セヴィルが顔を背けて補足を入れる。
「一人、裏切り者がいるがな」
「裏切ったんじゃない!! 俺は…俺は一度だってスピカ達を忘れた事なんてなかった!!! あんたもだ!!!」
セヴィルの呟きを否定するように、クウは叫ぶ。
その声は真剣で、嘘を吐いているようには聞こえない。しかし、セヴィルは尚も冷めた目でクウを睨みつける。
「それが本当の事だとしても…――そんな言い分、掟を破った時点で無意味だと言う事が分からないのか?」
「掟?」
無轟が問い返すと、セヴィルはクウを見ながら説明する。
「闇の世界からこちらの世界に戻ったりすれば、何を引き起こすか分からない。だが、俺達の間でタブーとも言える行動をお前は取った。結果的には何も起きなかったようだが…沢山の奴らを傷付けて裏切った事には変わりない。違うか?」
「…確かに、俺は掟を破ってみんなを捨てた…――けど…っ!!」
顔を俯かせて肩を震わせるが、クウは顔を上げるとセヴィルを睨みながら胸に手を当てて叫んだ。
「この世界に帰りたいって思う事の何がいけないんだ!!! 自由を求めて、何が悪いんだよっ!!?」
「クウ…」
クウの心からの叫びに、リクは何処か辛そうに顔を俯かせる。
かつては外の世界に飛び出したいと願い、闇の力を使って実現させた。そんな自分だからそこ、クウの気持ちが分かる。
リクだけでなく他の人達も黙り込むと、セヴィルは静かに口を開いた。
「お前にとって、やはり俺達より自由…――翼を持っているからこその選択だな」
軽く肩を竦めると、セヴィルは真剣な目でキーブレードを取り出した。
「なら、お前達はどっちを選ぶんだろうな?」
直後、振り返ると共に背後にあるスピカを閉じ込めている鳥籠を斬った。