Another the last chapter‐15
スピカの作り出した歪みを抜けた先は、白い靄がかかったさまざまな色が混じりあった薄暗い空間だった。
「狭間の回廊か…確かに、逃げるのに打って付けの道だな」
クウは辺りを見回しながら場所を確認するなり、後ろで入口となった歪みを見る。
自分が来たのを最後に、歪みは消えていく。最後まで見送っていると、カイリの声が響いた。
「レイア、しっかりして!!」
目を向けると、レイアを寝かせた状態でアクアが回復魔法をかけている。
だが、どんなに癒しても身体から溢れる闇は止まらない。限界を感じたのか、アクアは力なくキーブレードを下ろした。
「アクア!? どうして回復しないんだ!!」
「ヴェン、駄目。これはもう私の力で治せるものではないわ…」
「そんな…!?」
今にも泣きそうなヴェンと同じ気持ちなのか、ソラもアクアに詰め寄った。
「じゃあ、レイアはこのまま消えちゃうのか!? スピカみたいに助けられないのかよ!?」
「それは…!!」
ソラの言葉に、アクアが悔しそうにキーブレードを握り締める。
他の人達も顔を曇らせる中、クウは動いた。
「――どけ、お前ら」
「クウ?」
すぐにソラが振り返ると、クウはこちらに近づいてくる。
そうして周りにいた人達を掻き分け、レイアの傍にしゃがみ込んだ。
「何をする気なんだ!?」
「助けるに決まってんだろ」
そうテラに言うと、クウは手をレイアに翳す。
すると、彼女を中心に黒い魔法陣が現れる。
「闇の陣よ、かの者を包みこめ」
一つの呟きと共に、魔方陣から放たれた黒い光がレイアを包み込む。
「――『ダークサークル』」
やがて黒い光が収まると、レイアの身体から溢れていた闇が消える。
どうにか一命を取り留めてクウが安堵の息を吐くと、ソラが驚きながら呟いた。
「すごい…」
「すごくない…致命傷負ってたら、さすがの俺でも治せなかった」
「そうね…これを持っていなかったら、危なかったわ」
クウに同意するようにアクアも頷くなり、小さな袋を取り出す。
袋はウィドが貫いた所為で破れているが、よく見ると何かに当たったのか貫通した穴が少しずれている。
そうして空いた穴から、何かの破片が見えた。
「貝殻?」
その破片の正体に気づき、思わずリクが訝しる。
袋の中には不思議な色をした貝殻が幾つか入っていたようで、今となっては身代わりのように割れてしまっている。
割れてしまった貝殻を見て、カイリはある事に気が付いた。
「これ、サラサ貝!?」
「サラサ貝?」
「私達の島にある貝殻なの。海に出る船乗り達が無事に帰ってこられるように、お守りとしてその貝殻で作ったアクセサリーを渡すの」
「それって、前にカイリが見せてくれた奴?」
カイリがヴェンに教えると、オパールも休憩中での会話の記憶を引き出す。
そんな中、ソラはアクアの持つ貝殻を見て笑みを浮かべた。
「サラサ貝が、レイアを守ってくれたんだな…」
故郷の物がレイアを守ってくれた事に、ソラは何処か嬉しさを感じる。
レイアはゆっくりと目を開けると、肩を震わせながらクウを見た。
「クウ…さん…」
「今は、眠ってろ。俺がある程度説明してやるから」
「…ハイ…」
クウが優しく頭を撫でると、安心したのかレイアはまた目を閉じる。
そうして眠ったレイアを見て、テラは座り込むクウに聞いた。
「クウ、説明って――」
「今はここから出る事が先決だ…説明は歩きながらする」
そう言ってレイアを背中に担ぐと、クウは先の見えない道を歩き出した。
レイアを抱えたクウを先頭に、全員は出口のない道を歩く。
その状態で、クウは背中を向けながらレイアの事を話し出した。
「今から半年ぐらい前の話だ。旅の途中である世界の路地裏を彷徨っていたら、俺はノーバディとして生まれたレイアに出会った。だが、その時にはある男に勧誘をされていた」
「勧誘?」
同じくルキルを背中に担いでいる無轟が聞くと、クウは一つ頷いて話を進めた。
「俺も詳しくは分からないが…――特別なノーバディの集団の仲間にならないかって話だった。確か、その男の名前は…ザルディンって言ってたな」
「ザルディン!?」
「知ってるのか、ソラ?」
大きく反応するソラに、ヴェンが不思議そうに問う。
すると、リクが顔を歪めてヴェンに叫んだ。
「知ってるも何も、そいつは世界に脅威を齎した]V機関の一人だ!!」
「俺の嫌な予感は当たってた訳かよ…」
リクの答えに、クウは嫌そうな表情を浮かべて天を見上げる。
まるで何かを見通してたような言葉に、思わずリクがクウを訝しげに見た。
「どう言う事だ?」
「そのままの意味だ。遠くで話を聞いて、俺はすぐにその男に喧嘩売ったんだ。どうにか相手は引いたんだが、その後はレイアをほおって置く事も出来ずに一緒に旅をする事になった」
「では、彼女が着ているローブはあなたが?」
続けてゼロボロスが質問すると、クウはコクリと頷く。
「知り合いに頼んだ。丁度その世界に闇の世界から帰還できた『組織』のメンバーがいたんでな。昔の事いろいろ言われたけど、『闇の回廊』による浸食を起こさずノーバディの気配を隠せるローブを作って貰ったんだ」
「もし、クウが助けてなかったら…――俺達、レイアとも戦う事になってたんだな…」
「あの、一ついいですか?」
起こりえた未来を想像して顔を青くするソラに対し、ゼロボロスは尚も冷静にクウに質問をぶつける。
「あなたが所属していた『組織』の掟では、こちらの世界に戻ってはいけないそうですよね? なのに、何故スピカやセヴィルのように他の人達が戻っているのですか?」
「…事情が変わったんだ。一年前をキッカケにな」
「一年前?」
この説明にゼロボロスを始め、過去から来た五人には話が分からない。
だが、リクは思い当たる節があるのか何かに気づいた様に顔を上げた。
「闇に落ちた世界が、元に戻った事か?」
「ああ…俺やスピカのように闇に呑まれた者の他にも、世界が闇に消えて来た奴らもいた。そいつらが元の世界に戻って、メンバーが減った…――までは、普通だった。でも、元の世界に戻ったのに帰って来た奴が結構いたんだ。で、その際に使った『闇の回廊』の道をそっくりそのまま使えば――」
「そっか! あたし達の世界に被害を負う事無く闇の世界に行く事の道が出来たんだから、帰る道にもなるって事ね!」
「そう言う事。多分、スピカやセヴィルもその道を使って『組織』が築いた世界からこっちに戻ったんだろう。詳しくは本人に聞かなきゃ分かんないけどな」
オパールも手を叩いて結論に至ると、クウも補足を入れつつ頷く。
と、ここで話を終えると急に足を止めた。
「…で、どうするんだ?」
「え?」
「俺は知ってる。お前らがノーバディと戦っていた事を、闇の脅威とも戦っていた事をな」
急に言われて目を丸くするソラに、クウは静かに淡々と述べる。
そして、全員に背を向けたまま言い放った。
「――レイアはノーバディ。だから、消すのか?」
クウから放たれた言葉に、殆どの人が息を呑む。
だが、すぐにソラとヴェンが何処か怒りながら反論を上げた。
「何言ってんだよ!! レイアは]V機関のような奴らじゃないだろ!?」
「ああ!! 友達を消すなんて出来るかよ!!」
「お前らはいい。だが…あんた達はどうなんだ? 俺を消そうとしたんだ、レイアも闇の脅威に思ってるんじゃないのか?」
その場で振り返るなり、クウは後ろにいるアクア達を半ば睨みつける。
明らかに不審な目で見るクウに、アクアは迷いを浮かべる。
「私は…」
「よく、そんな事言えますね…」
その時、冷たい声の呟きが辺りに響く。
全員が目を向けると、ウィドが睨みながら大股でクウに近づいた。
「っ!?」
「ウィド!?」
先程の決闘を思い出し、慌ててテラとアクアが止めようとする。
だが、まだ理性が残っているのかウィドは剣を抜く事はせずに睨んだままクウの胸倉を掴み上げた。
「姉さんを犠牲にしておいて、その子は消したくない!!? さすがは姉さんを捨てただけの事はありますよねぇ!!!」
「それは…」
「姉さんは助けなくて、ノーバディを助けるだと!!? ノーバディは心を持たない敵なのに、どうしてそっちを選ぶんですかっ!!?」
もう教師としての優しさが彼の中から消え、酷い言葉を浴びせるウィド。
―――直後、ウィドの頬が殴られた。
「…ざけんなよ、てめえ…っ!!!」
「クウ…!?」
ソラが呟く先には、クウが怒りで拳を震わせている。
そのまま歯を食い縛ると、拳を解いてウィドの胸倉を掴み上げた。
「ノーバディだから、心が無い? その理屈が本当に正しいと信じてるのかよっ!!?」
「正しいも何も、本当の事でしょう!!! その子はノーバディですよ!!? 心なんて持ってるはずが――!!!」
「だったら、何でレイアは笑えるんだよ!!? 俺を守ろうと犠牲に出来たんだよ!!? スピカの事だって…こいつ、本当に悲しそうにしてたんだぞっ!!?」
「っ…!?」
その時の事を思い出したのか、ウィドが一瞬だけ怯む。
しかし、それよりも怒りの方が強いのか尚もクウを睨みつけた。
「でも…心が無いのは事実でしょう!!?」
「じゃあ、お前が言う“事実”は何処から仕入れたんだ!!? 実際に心が無いって確かめたのか!!? 人に聞いた情報全部が正しいって言うのかよ!!?」
「そう言うあなたはどうなんですか!!? その子が感情のあるフリして、騙している可能性だってあるでしょう!!?」
「何っ…!!?」
怒りが高まってウィドを睨んでいると、急に背中の服を強く掴まれる。
クウが振り返ると、何とレイアが苦しそうにしながらも服を掴んで首を振っていた。
「レイア!?」
「クウ、さん…もう、いいから…」
「…悪い」
必死で止めようとするレイアに、クウの中で怒りが静まる。
そうして頭を下げていると、ウィドは無言で手を放すとクウの横を通り過ぎた。
「ウィド…」
「一人にさせてください。もう、誰とも話したくない」
カイリが声をかけるが、ウィドは背を向けて拒絶の姿勢を取る。
そのまま先に進んでいくウィドに、全員は何も言えなくなる。
そうしていると、不意にクウが顔を俯かせて呟いた。
「ホントは、ノーバディに心なんてないって分かってる…でも、信じたいんだ。心が無くても、心を持つ誰かが傍に居れば…心は作られてるんじゃないかって」
クウを見ると、今にも泣きそうな顔をしていた。
「そうでも考えないと、俺…何の為にレイアの傍にいるのか、分かんなくなっちまう…」
「クウ…」
目的を見失いつつあるクウに、ソラでさえもどうする事が出来なかった。
「狭間の回廊か…確かに、逃げるのに打って付けの道だな」
クウは辺りを見回しながら場所を確認するなり、後ろで入口となった歪みを見る。
自分が来たのを最後に、歪みは消えていく。最後まで見送っていると、カイリの声が響いた。
「レイア、しっかりして!!」
目を向けると、レイアを寝かせた状態でアクアが回復魔法をかけている。
だが、どんなに癒しても身体から溢れる闇は止まらない。限界を感じたのか、アクアは力なくキーブレードを下ろした。
「アクア!? どうして回復しないんだ!!」
「ヴェン、駄目。これはもう私の力で治せるものではないわ…」
「そんな…!?」
今にも泣きそうなヴェンと同じ気持ちなのか、ソラもアクアに詰め寄った。
「じゃあ、レイアはこのまま消えちゃうのか!? スピカみたいに助けられないのかよ!?」
「それは…!!」
ソラの言葉に、アクアが悔しそうにキーブレードを握り締める。
他の人達も顔を曇らせる中、クウは動いた。
「――どけ、お前ら」
「クウ?」
すぐにソラが振り返ると、クウはこちらに近づいてくる。
そうして周りにいた人達を掻き分け、レイアの傍にしゃがみ込んだ。
「何をする気なんだ!?」
「助けるに決まってんだろ」
そうテラに言うと、クウは手をレイアに翳す。
すると、彼女を中心に黒い魔法陣が現れる。
「闇の陣よ、かの者を包みこめ」
一つの呟きと共に、魔方陣から放たれた黒い光がレイアを包み込む。
「――『ダークサークル』」
やがて黒い光が収まると、レイアの身体から溢れていた闇が消える。
どうにか一命を取り留めてクウが安堵の息を吐くと、ソラが驚きながら呟いた。
「すごい…」
「すごくない…致命傷負ってたら、さすがの俺でも治せなかった」
「そうね…これを持っていなかったら、危なかったわ」
クウに同意するようにアクアも頷くなり、小さな袋を取り出す。
袋はウィドが貫いた所為で破れているが、よく見ると何かに当たったのか貫通した穴が少しずれている。
そうして空いた穴から、何かの破片が見えた。
「貝殻?」
その破片の正体に気づき、思わずリクが訝しる。
袋の中には不思議な色をした貝殻が幾つか入っていたようで、今となっては身代わりのように割れてしまっている。
割れてしまった貝殻を見て、カイリはある事に気が付いた。
「これ、サラサ貝!?」
「サラサ貝?」
「私達の島にある貝殻なの。海に出る船乗り達が無事に帰ってこられるように、お守りとしてその貝殻で作ったアクセサリーを渡すの」
「それって、前にカイリが見せてくれた奴?」
カイリがヴェンに教えると、オパールも休憩中での会話の記憶を引き出す。
そんな中、ソラはアクアの持つ貝殻を見て笑みを浮かべた。
「サラサ貝が、レイアを守ってくれたんだな…」
故郷の物がレイアを守ってくれた事に、ソラは何処か嬉しさを感じる。
レイアはゆっくりと目を開けると、肩を震わせながらクウを見た。
「クウ…さん…」
「今は、眠ってろ。俺がある程度説明してやるから」
「…ハイ…」
クウが優しく頭を撫でると、安心したのかレイアはまた目を閉じる。
そうして眠ったレイアを見て、テラは座り込むクウに聞いた。
「クウ、説明って――」
「今はここから出る事が先決だ…説明は歩きながらする」
そう言ってレイアを背中に担ぐと、クウは先の見えない道を歩き出した。
レイアを抱えたクウを先頭に、全員は出口のない道を歩く。
その状態で、クウは背中を向けながらレイアの事を話し出した。
「今から半年ぐらい前の話だ。旅の途中である世界の路地裏を彷徨っていたら、俺はノーバディとして生まれたレイアに出会った。だが、その時にはある男に勧誘をされていた」
「勧誘?」
同じくルキルを背中に担いでいる無轟が聞くと、クウは一つ頷いて話を進めた。
「俺も詳しくは分からないが…――特別なノーバディの集団の仲間にならないかって話だった。確か、その男の名前は…ザルディンって言ってたな」
「ザルディン!?」
「知ってるのか、ソラ?」
大きく反応するソラに、ヴェンが不思議そうに問う。
すると、リクが顔を歪めてヴェンに叫んだ。
「知ってるも何も、そいつは世界に脅威を齎した]V機関の一人だ!!」
「俺の嫌な予感は当たってた訳かよ…」
リクの答えに、クウは嫌そうな表情を浮かべて天を見上げる。
まるで何かを見通してたような言葉に、思わずリクがクウを訝しげに見た。
「どう言う事だ?」
「そのままの意味だ。遠くで話を聞いて、俺はすぐにその男に喧嘩売ったんだ。どうにか相手は引いたんだが、その後はレイアをほおって置く事も出来ずに一緒に旅をする事になった」
「では、彼女が着ているローブはあなたが?」
続けてゼロボロスが質問すると、クウはコクリと頷く。
「知り合いに頼んだ。丁度その世界に闇の世界から帰還できた『組織』のメンバーがいたんでな。昔の事いろいろ言われたけど、『闇の回廊』による浸食を起こさずノーバディの気配を隠せるローブを作って貰ったんだ」
「もし、クウが助けてなかったら…――俺達、レイアとも戦う事になってたんだな…」
「あの、一ついいですか?」
起こりえた未来を想像して顔を青くするソラに対し、ゼロボロスは尚も冷静にクウに質問をぶつける。
「あなたが所属していた『組織』の掟では、こちらの世界に戻ってはいけないそうですよね? なのに、何故スピカやセヴィルのように他の人達が戻っているのですか?」
「…事情が変わったんだ。一年前をキッカケにな」
「一年前?」
この説明にゼロボロスを始め、過去から来た五人には話が分からない。
だが、リクは思い当たる節があるのか何かに気づいた様に顔を上げた。
「闇に落ちた世界が、元に戻った事か?」
「ああ…俺やスピカのように闇に呑まれた者の他にも、世界が闇に消えて来た奴らもいた。そいつらが元の世界に戻って、メンバーが減った…――までは、普通だった。でも、元の世界に戻ったのに帰って来た奴が結構いたんだ。で、その際に使った『闇の回廊』の道をそっくりそのまま使えば――」
「そっか! あたし達の世界に被害を負う事無く闇の世界に行く事の道が出来たんだから、帰る道にもなるって事ね!」
「そう言う事。多分、スピカやセヴィルもその道を使って『組織』が築いた世界からこっちに戻ったんだろう。詳しくは本人に聞かなきゃ分かんないけどな」
オパールも手を叩いて結論に至ると、クウも補足を入れつつ頷く。
と、ここで話を終えると急に足を止めた。
「…で、どうするんだ?」
「え?」
「俺は知ってる。お前らがノーバディと戦っていた事を、闇の脅威とも戦っていた事をな」
急に言われて目を丸くするソラに、クウは静かに淡々と述べる。
そして、全員に背を向けたまま言い放った。
「――レイアはノーバディ。だから、消すのか?」
クウから放たれた言葉に、殆どの人が息を呑む。
だが、すぐにソラとヴェンが何処か怒りながら反論を上げた。
「何言ってんだよ!! レイアは]V機関のような奴らじゃないだろ!?」
「ああ!! 友達を消すなんて出来るかよ!!」
「お前らはいい。だが…あんた達はどうなんだ? 俺を消そうとしたんだ、レイアも闇の脅威に思ってるんじゃないのか?」
その場で振り返るなり、クウは後ろにいるアクア達を半ば睨みつける。
明らかに不審な目で見るクウに、アクアは迷いを浮かべる。
「私は…」
「よく、そんな事言えますね…」
その時、冷たい声の呟きが辺りに響く。
全員が目を向けると、ウィドが睨みながら大股でクウに近づいた。
「っ!?」
「ウィド!?」
先程の決闘を思い出し、慌ててテラとアクアが止めようとする。
だが、まだ理性が残っているのかウィドは剣を抜く事はせずに睨んだままクウの胸倉を掴み上げた。
「姉さんを犠牲にしておいて、その子は消したくない!!? さすがは姉さんを捨てただけの事はありますよねぇ!!!」
「それは…」
「姉さんは助けなくて、ノーバディを助けるだと!!? ノーバディは心を持たない敵なのに、どうしてそっちを選ぶんですかっ!!?」
もう教師としての優しさが彼の中から消え、酷い言葉を浴びせるウィド。
―――直後、ウィドの頬が殴られた。
「…ざけんなよ、てめえ…っ!!!」
「クウ…!?」
ソラが呟く先には、クウが怒りで拳を震わせている。
そのまま歯を食い縛ると、拳を解いてウィドの胸倉を掴み上げた。
「ノーバディだから、心が無い? その理屈が本当に正しいと信じてるのかよっ!!?」
「正しいも何も、本当の事でしょう!!! その子はノーバディですよ!!? 心なんて持ってるはずが――!!!」
「だったら、何でレイアは笑えるんだよ!!? 俺を守ろうと犠牲に出来たんだよ!!? スピカの事だって…こいつ、本当に悲しそうにしてたんだぞっ!!?」
「っ…!?」
その時の事を思い出したのか、ウィドが一瞬だけ怯む。
しかし、それよりも怒りの方が強いのか尚もクウを睨みつけた。
「でも…心が無いのは事実でしょう!!?」
「じゃあ、お前が言う“事実”は何処から仕入れたんだ!!? 実際に心が無いって確かめたのか!!? 人に聞いた情報全部が正しいって言うのかよ!!?」
「そう言うあなたはどうなんですか!!? その子が感情のあるフリして、騙している可能性だってあるでしょう!!?」
「何っ…!!?」
怒りが高まってウィドを睨んでいると、急に背中の服を強く掴まれる。
クウが振り返ると、何とレイアが苦しそうにしながらも服を掴んで首を振っていた。
「レイア!?」
「クウ、さん…もう、いいから…」
「…悪い」
必死で止めようとするレイアに、クウの中で怒りが静まる。
そうして頭を下げていると、ウィドは無言で手を放すとクウの横を通り過ぎた。
「ウィド…」
「一人にさせてください。もう、誰とも話したくない」
カイリが声をかけるが、ウィドは背を向けて拒絶の姿勢を取る。
そのまま先に進んでいくウィドに、全員は何も言えなくなる。
そうしていると、不意にクウが顔を俯かせて呟いた。
「ホントは、ノーバディに心なんてないって分かってる…でも、信じたいんだ。心が無くても、心を持つ誰かが傍に居れば…心は作られてるんじゃないかって」
クウを見ると、今にも泣きそうな顔をしていた。
「そうでも考えないと、俺…何の為にレイアの傍にいるのか、分かんなくなっちまう…」
「クウ…」
目的を見失いつつあるクウに、ソラでさえもどうする事が出来なかった。
■作者メッセージ
何だかんだで、夢さんからバトンを貰って二ヶ月以上が経ってしまった事に気づいた今日この頃。
下手すれば4月になっても終わらないんじゃないかと弱気な事も考えちゃっていますが、ちゃんと完結させる気はありますので。
下手すれば4月になっても終わらないんじゃないかと弱気な事も考えちゃっていますが、ちゃんと完結させる気はありますので。