Another the last chapter‐17
無轟が刀に炎を宿し、エンに斬りかかる。
だが、攻撃は障壁に弾かれ逆に無轟に大量の炎が襲い掛かる。
しかし、無轟は訝しげの表情のまま自分を包む炎を斬り裂く。しかも、身体には火傷一つ負っていない。
「無傷、か…!?」
「それはこちらのセリフですよ。あれだけの炎を喰らったにも関わらず、火傷すら負っていないんですから」
「自分の炎で、焼かれては堪らないからなっ!!」
何やら雰囲気の違う炎を刀に纏い、エンに斬り付けようとする。
その攻撃の真意を理解したのか、エンはダブルセイバーを取り出して刀を防御した。
「そうですか。そうして――」
互いの刃で弾き合うと共に、後ろを振り向き斬り付けるように武器を振るう。
そこには、ゼロボロスが『式』を使って足に白黒の炎を宿しており、即座に避けたのか頬に掠り傷が出来ていた。
「炎に紛れて魔法を打ち消すつもり、だった訳ですか?」
「くっ!?」
考えが読まれ、ゼロボロスは悔しそうに後ろに跳んで一旦距離を取る。
余裕を保つエンに、アクアは歯を噛み締めて睨みつけた。
「あの魔法、本当に厄介だわ!!」
「そんなの、攻撃すればいつかは――!!」
「リク、落ち着けって!?」
怒り心頭で攻撃しようとするリクに、すぐにソラが止めに入る。
ここで攻撃しても、倍でこちらに跳ね返される。彼も分かっている筈なのに、怒りで冷静さを欠いている。
しかし、ソラはリクに気を取られて忘れていた。怒っているのはリクだけではなかった事に。
「『ダークソード』!!」
「『風陣斬刀』!!」
「これぞ色彩の傑作!! 『エレメンタル』!!」
何とクウが天から幾つもの闇の剣を降らせる魔法を、ウィドが無数の鎌鼬を、オパールが炎・氷・雷・風の属性をエンにぶつけてくる。
結果、全て障壁で跳ね返り倍となってソラ達に襲い掛かった。
「ちょ…!? うわぁ!?」
「きゃあ!?」
ヴェンとアクアがとっさにガードをするも、あまりの攻撃に悲鳴を上げる。
さすがのリクも攻撃を『ダークシールド』で防御する中、同じくガードしていたテラは三人に向かって叱りつけた。
「何やっているんだ!? 下手に攻撃なんて――!!」
「うっせぇ!! 黙ってろ!!」
「壊せればそれでいいでしょう!?」
「まだまだ予備は大量にあるんだから…!!」
もはや聞く気がないのか、三人は尚もエンを憎しげに睨みつける。
これに対し、エンは肩を竦めるなり腕を上げた。
「そうですか、では怒りで煮え切った頭、冷やして差し上げましょうか。『アブソリュートゼロ』」
直後、空間全体に冷気が襲い掛かる。
エンの放った魔法に、ゼロボロスが顔色を変えて叫んだ。
「全員防御を!?」
それと同時に、視界が真っ白に染まり上がり。
「「「「うあぁ(きゃあ)!?」」」」
冷気と共に、何名かの悲鳴が響き渡る。
視界が晴れると、何と防御が遅れたのかクウ、ウィド、リク、オパールが分厚い氷に閉じ込められていた。
「クウ、ウィド!?」
「リク、オパール!?」
「カイリは!?」
翼で身を覆っていたゼロボロスとソラの『リフレガ』で守られたヴェンが叫ぶ中、無轟の炎で助かったテラが後ろを見る。
見ると、顔色を悪くして座り込むレイアの後ろで、カイリは未だに眠るルキルの傍にしゃがみ込んでいた。
「あ…ありがとう、レイア」
「はぁ…はぁ…」
間一髪でレイアが魔法を使ったようで、少しでも息を落ち着かせようと小さな背中を擦っている。
「『テラーバースト』!!」
「「うわぁ!?」」
「ヴェン、ソラ!?」
カイリ達に意識を持って行った隙に、エンが黒い暴風をソラとヴェンにぶつけてきた。
大きく吹き飛ばされる二人にアクアが叫ぶと、エンは標的を変えて彼女にダブルセイバーを振るった。
「『ブラッドクロス』!!」
「『炎産霊神』!!」
だが、エンが放った黒い十字架の衝撃波を無轟は炎を纏わせて斬り捨てる。
黒い衝撃波は炎に包まれ、そのまま消滅させた。
「…相手の攻撃は相殺出来るようだな」
「そうですね…彼らには悪いですが、あのまま凍らせた方がいいでしょう」
無轟に頷きつつ、ゼロボロスは氷漬けになった四人を見る。
少し可哀想だが、感情を暴走させたまま戦わせればこちらが全滅してしまう。相手の魔法を打ち消すまでは、大人しくさせた方が良い。
何としてでも状況を打破する為に、ゼロボロスはアクアを見た。
「アクア、『デスペル』の魔法は使える?」
「『デスペル』、ですか?」
「その様子じゃ、知らないか…テラは?」
「俺も使えない。レイアは使えるんだが…」
そう言って、レイアの方を見ると。
「レイア、これ使って! ソラ! ヴェン!」
顔色を悪くするレイアに『エーテル』を渡すと、カイリは遠くで倒れるソラとヴェンに『ハイポーション』を投げる。
アイテムを使ってサポートに回るカイリと疲労の色を見せるレイアに、ゼロボロスは困ったように顔を歪ませる。
「今の彼女は防御するだけで精一杯か。重傷を治したばかりだから、無理をさせる訳にはいかないけど…」
「諦めるな…こうなった以上、俺達でどうにかするしか――」
無轟が刀を構えながら言い聞かせていると、氷の割れる音が響く。
目を向けると、何とクウが自力で氷を壊して脱出した所だった。
「やっと、出れたぜ…!! よくもやってくれたなぁ!!!」
「クウ、駄目!?」
羽根を具現化させるなり魔力を溜めこむクウに、アクアが叫ぶ。
しかし、アクアの忠告も聞かずにクウは羽根をエンに向けて投げた。
「そう…無意味だ」
何処か冷たい声でエンが呟くと共に、羽根が突き刺さる。
そして、黒い炎が倍となってクウに襲い掛かった。
「っ!?」
避ける暇もなく、『ダークフレイム』の炎がクウを呑み込んでいく。
テラ達が絶句していると、無轟が舌打ちしつつ動いた。
「クウの回復を頼む!!」
それだけ言うと、再び魔法を打ち消す解呪用の炎を宿して黒い炎を突き進む。
それに気付き、エンは武器を後ろに構えて空いた手を無轟に翳した。
「『炎魔覇煌閃』!!」
「『ルインガ』!!」
無轟が攻撃の為に踏み込むのと同時に、光の球体が飛んでくる。
球体は途中で収縮すると共に大きく爆発するものだから、無轟はやむなく球体を斬り捨てた。
「くっ…!!」
「『破邪炎穿』!!」
悔しそうに噛み締める中、エンの後ろを再びゼロボロスが躍り出る。
そうして、解呪の篭った炎の蹴りを浴びせようとするが、エンはダブルセイバーを手放した。
「舞え、『バウンドレイド』」
すると、手放したダブルセイバーは上昇するように上に跳び上がる。
至近距離にいたゼロボロスは見事巻き込まれ、回転する刃に襲われながら吹き飛ばされた。
「ぐぅ!?」
「どうしました、もう終わり――」
その時、二つの氷が割れる音が辺りに響いた。
「「――まだだぁ!!」」
その声と共に、クウと同じく自力で氷を割って脱出したリクとウィドがそれぞれ手と剣に闇と光を込めている。
この予備動作に、すぐさまアクアとソラが動いた。
「テラ、後ろに!! 『リフレク』!!」
「危ない、ヴェン!! 『リフレガ』!!」
二人が魔法で防御すると共に、リクとウィドは『ダークファイガ』と『光弾』をぶつける。
闇と光の弾はエンに当たるものの、一回り大きくなって跳ね返る。
その二つの攻撃をアクアとソラが更に跳ね返すと、何故かエンは横に跳んで闇と光の弾を避けた。
「避けた…?」
アクアが思わず目を瞠っていると、また氷が砕ける音が鳴る。
見ると、オパールが息を荒くして座り込んでいる所だった。
「オパール!?」
すぐにヴェンが駆け寄るが、氷の中にいた疲労と体温の低下で顔色を悪くしている。
「う、あぅ…!」
「凄く冷たい…!! 待ってろ、すぐに…」
苦しそうに呼吸するオパールにヴェンが回復魔法をかける。
この様子を見たリクは、更に金色の瞳に怒りを宿した。
「オパールまで…!! 絶対に許さないぞ!!」
エンを睨んだまま、再び手に闇の力を込めるリク。
魔法を使うのだと理解したのか、ソラが慌てて叫んだ。
「リク!? そんな攻撃やったら――!!」
「ソラ、さっきの魔法で防御して!!」
「へ!?」
だが、突然のアクアの指示にソラは動きを止める。
それと同時に、リクは手を突き出した。
「『ダークオーラ』ァ!!!」
そうして幾つもの闇の気弾をエンにぶつけるが、さっきのように一回り大きくなって跳ね返された。
「うわわわぁ!?」
「フッ!!」
慌ててソラが『リフレガ』を発動させると共に、アクアは何処か冷静に攻撃を防御する。
上手くリクの放った攻撃を跳ね返すと、エンに初めて焦りが見えた。
「くっ! 『ホーリースター』!」
再び向かってくる闇の気弾に、エンは光の球体を放つ。
闇の気弾を巻き込む様に爆発を起こし、攻撃を相殺した。
「――なるほど、どうやら反射魔法による宿命には抗えないようですね」
後ろから聞こえたゼロボロスの声に、エンが振り返る。
『破邪炎穿』の構えを取るゼロボロスが、笑いながら翼を羽ばたかせている。
「『ブリザガ』!」
即座にエンは魔法を発動し、巨大な氷結を呼び寄せて攻撃する。
仕方なくゼロボロスは蹴りを放って氷結を打ち消すが、その表情には笑みが保たれている。
「その魔法は相手の攻撃を倍にして反射する。だが、相手もその攻撃を反射してしまえば――」
横からの声に視線を送ると、今まさに無轟が斬ろうとしていた。
「防ぎようがない訳か!! 『炎魔覇煌閃』っ!!」
「ぐっ…!」
エンがゼロボロスに魔法を使った隙を見て、無轟が斬り込む。
すると、エンが炎に包まれると共に何かが割れたような音が響く。
『リフレクトウォール』の効果が無くなったのを見て、ゼロボロスは全員に叫んだ。
「魔法は解けた!! 今なら攻撃出来る、『双月斬脚』!!」
「今までの分、お返しさせて貰うわ!! 『マジックアワー』!!」
「「『ソニックレイヴ』!!」」
「『ファイナルブレイク』!!」
ゼロボロスを中心に、今まで防戦だったアクア、テラ、ヴェン、ソラも集中的に攻撃する。
四方からの攻撃に加え、魔法を繰り出しても簡単には止まらない。更に未だに武器を持たないエンには防ぎようがない。誰もが攻撃のチャンスを得たと思った。
「駄目、避けてぇ!!!」
カイリの悲鳴が聞こえてこなければ。
「『フォール・ナイトメア』」
エンの呟きと共に何かが急速に落ちてくる。
何と、上空に飛んだままのダブルセイバーがエンの目の前に落ちると共に、周りに闇の衝撃波を繰り出した。
「「「「「うわぁ(きゃあっ)!!?」」」」」
「みんなぁ!?」
衝撃波に巻き込まれ、五人は散り散りに吹き飛ばされる。
カイリが『ポーション』を握りながら叫ぶ中、エンは軽く肩を竦めるなり床に刺さったダブルセイバーを引き抜いた。
「これぐらいの対策も予想出来ないとは…」
「おのれ…!!」
思わず無轟が歯噛みをしていると、空気を切る様な風が吹いた。
「『一閃』!!」
「『ナックル・フィスト』!!」
「『ダークブレイク』!!」
ウィドが後方から、クウが前方から、リクは頭上からそれぞれ斬撃と拳と剣を繰り出そうとする。
三人の素早い攻撃に、エンはすぐにその場にしゃがみ込んだ。
拳に魔力を溜めこんで。
「『ブリッツ』」
そうして地面に拳を叩きつけると、まるで爆発する様に魔力の衝撃波が急速に広がる。
近くにいた三人は見事に巻き込まれ、さっきの五人よりも大きく吹き飛ばされた。
「「「があぁ!?」」」
「リ、ク…使って!!」
アイテムを使って回復したオパールは、ふらふらながらもリクに透明な緑色の結晶を投げる。
結晶が光ると共に、リクにも光が纏わりつき―――…直後、拒絶するように光は儚く霧散してしまった。
「エ…?」
「そんな…何で『ライジンクウイング』が使えないの…!!」
何の力も獲れなかったリクはもちろん、作ったオパールさえも絶句する。
そうこうしてる間に、三人は地面に激突する。攻撃のチャンスすらも与えてくれないエンに、無轟は何処か苛立ちを見せた。
「これだけの人数を、こうも手玉に取るか…」
「これでもまだ3割程度ですがね…――お望みならば、5割ほど本気を出しましょうか?」
不敵な笑みを布越しで見せるなり、バッと腕を上げるエン。
すると、無轟の足元が光り大きく爆発した。