第一章 永遠剣士編第十話「歌姫/流星」
閉鎖次元
ジェミニは負けた。フェイトの一撃で倒され、彼は力なく天を仰ぎながら倒れている。
一方のフェイトは帰刃を解除し、白服の少年に戻っていた。
「……にしても」
倒れたジェミニの傍に腰を下ろしたフェイトは仮面をとんとんと指で突いた。すでに仮面は全体的な亀裂を走らせ、崩れかかっている。
そして、突いた事で完全に崩れた。いや、消滅したというべきほどに微塵に霧散した。
「……コレで大丈夫なのかな」
仮面が洗脳の証だと読んだフェイトは限りなくダメージを与えて倒す事で洗脳を解く手段と踏んでいた。
もし、洗脳が続いていたら――――。
「その時は全身縛って、仮面の女を引っ張り出すか」
「―――うっ……っ」
「! ジェミニ」
呻き声と共に、意識を回復したジェミニは視界に入ったフェイトの顔を見て、ほっと胸を撫で下ろした。
「……大丈夫、もう操られてはいないよ」
「そう。もしもの時は君を縛っておこうと思っていたところだ」
「ふ……ふふ。その心配はいらない……ありがとう」
自分を救い出してくれて。
ジェミニは心の底から、フェイトへお礼の言葉を言った。彼は首を小さく振り、気にするなという表情を見せた。
「ジェミニ、記憶は憶えているの?」
「……操られていた時の間の、か…………一応は、憶えている。―――『彼女』は、決して自分の名を打ち明けなかった。だが、つれさらわれた場所とこの襲撃の目的はは覚えている…!」
「……教えてくれる?」
フェイトは何故、洗脳を受けたものの記憶を保存させ、尚且つ、その場所の名前まで打ち明けた女に疑問を抱いた。
「神の聖域……レプセキア」
攻撃を受けた市街地にて。
チェルは町を攻撃する敵と対峙していた。
相手は一人。緑の混じった銀髪、戦場には不釣合いなドレスの様な衣装を身に纏った仮面の女性。だが、彼女の攻撃性を示すかのようにその手に握り締められた透き通った青色の刀剣が煌めいている。
チェルは燃え上がっていない市街の屋上から空中に佇む彼女を攻撃を始めた。
「!」
銃撃に、彼女は剣を振り上げると、周囲から赤や青、緑や黄色といった球体が流星のように放たれ、銃撃を打ち消し、残った球体はチェルへと迫った。
「くっ!」
幾ら、弾丸を撃ち込んでもまるで消える気配は無い。そのまま彼と直撃する刹那―――
「―――ッゥスゥウウウ―――ッッバアアアアアアーーーー!!!」
爆音とも言える絶叫が流星を掻き消した。
その咆哮に、チェルは耳を押さえて蹲っていた。
「……誰だ」
仮面の女性は刀剣の切先を咆哮の主に向けて、誰何する。その方向が自分の背後と気付いたチェルは手を下ろして、振り返った。
「お、お前は…!」
「――っはあ。あー、あー、んんっ……アンタ、大丈夫か?」
見覚えのあるその人物は、顔に仮面の名残をつけた白服の衣装をした胸元に孔がある水色の髪をした少女――カナリアだった。
「耳が……ちっ、お前の声はなんだ?! 爆弾か!!」
「ああ? ちょっと『大声』出したくらいでなんだよ……」
「大声ってレベルじゃねえーよ!! 鼓膜破れるかと想ったわ!!」
「―――」
「っと!」
「チッ!」
二人は彼女の攻撃を察して躱す。すかさず追撃の流星を放つと、再びカナリアはチェルの方へと迫ったほうに割り込んだ。
「!!」
「っ…あああ!!」
流星群が全弾、カナリアに衝突し、彼女は激痛の悲鳴を零した。チェルの攻撃では流星は打ち消せない。
だが、彼女の咆哮なら打ち消す事はできたのに。
「なんで、庇った!?」
「……」
負傷したカナリアに構わず、女は流星群をつ。それはチェルとカナリアへと狙いを定めたものだった。
チェルはだんまりな彼女を腰に手を回して、自身の俊敏な足と跳躍のある脚力で屋根を飛び移ったりして、躱す。
「―――大声って、言うから……」
「あ……」
「吼えたら、耳が痛いんだろ? だから……これ以上、此処に迷惑はかけるなってフェイトに言われたし―――」
「―――ッ……お前ってやつは………じゃあ、手を抜かれるのは俺に取っちゃあ迷惑だ。思い切り、吼えていい」
「! いいのか?」
「だったら俺がお前をサポートする。銃は元々遠距離だ。離れていたら耳は問題ないさ」
カナリアは了承の頷きをして、チェルは彼女を放した。空中で受身を取り、彼の前に立ち、女を阻んだ。
「逃げるのはお終い?」
「ええ。こっちも、やっと思い切り吼えれる」
「へえ……」
「覚悟しなさいよ、アンタ。――――月夜を照らせ」
―――『月華歌姫(ディーヴァ)』―――
「―――っと」
「……姿が、変わった……」
「んだよ…あの変身?」
帰刃したカナリアの姿は元着た衣装が変異し、白いタイトスカートのように片足を多く露出した衣装に変化し、装飾品を身に纏い、歌姫の名を冠するに相応しい姿になった。
帰刃能力を知らない二人は彼女の姿に困惑を抱く。だが、女は構えを取り、誰何の意思を示した。
「貴女、何者」
「そうねえ、アンタが名のりゃあこっちも名乗るわ」
カナリアは女の誰何をあえて、逆に聞き返した。
もし、それで戦闘へ続行しても別に気にはしなかった。だが、身に纏う雰囲気が少し変わったのは感じ取れた。
多少は『認識』したようだ。
「―――アトス」
女―――アトスは素直に名乗り、切先をカナリアと向ける。つまり、「次はお前だ」という意味だ。
カナリアは彼女の素直さに笑みを零した。少し離れた場所に潜んでいたチェルは呆れた。
「カナリアよ。カナリア・ナイチンゲール」
「ナイチンゲール……」
「月に歌う鳥さ。あたしには相応しい名前よ」
自信に満ちた笑み、そして、その背にある月と重なり、相応な姿に見えたアトスは切先から流星を無数はなった。
彼女は笑みを納め、再び、胸一杯に吸い上げる。
「すぅ――――! ッウウァアアアアアアーーーーーーー!!!」
「ッ」
今度の咆哮の衝撃はアトスにも堪えるものだった。勿論、ビルの屋上で物陰に潜伏しているチェルも耳を押さえながらアトスに狙いを定めた。
「流星が、消されたか」
先ほどの流星は先ほどのものよりも強化したものだが、彼女のほう咆哮の前ではあまり意味が無いようだ。
アトスは剣を両手で握り締め、構えを取る。カナリアは吼える体勢から臨戦態勢に変える。虚空より藍色の刀身、白い柄のある刀を抜き取った。
「……行くわよ」
アトスが切り込む前に、カナリアは響転の先手を打つ。
まずは背後に回りこんで一閃を狙う。だが、アトスは身を翻して、同時の斬閃で唾競り合う。カナリアは片手を振った。
「ぐぁっ!?」
アトスの腹部に『殴られた』感覚、衝撃、痛みが襲った。崩れかかった頭上、カナリアは刀を思い切り振り下ろす。
「っ――……うおおぁあ!!」
剣を頭上、横に構えて、振り下ろした一撃を受け止める。だが、勢いはそのまま地上のビルの屋上に激突した。
「―――」
カナリアはその頭上から露出された左足に力を籠める。
吹き上げる煙の中から流星の衝撃波を放ってきた。それを狙いしまして居たカナリアは衝撃波を力で纏った左脚で蹴りつける。
衝撃波はすぐに消滅し、けりつけたと同時に衝撃波が真下へと衝突した。
「やるわね」
気配は既にカナリアと同じ空中へとあった。
多少汚れを纏っていたアトスだが、大した疲労の気配は無い。
「……悪いが、これ以上戦う必要がなくなった」
「何ですって―――ッ!」
上、上から物凄い速さで迫って来た何かに恐怖を感じたカナリアはアトスから思い切り、間合いを取った。狙いを済ましていたチェルも銃を下ろす。
「……なんだ、アイツは」
迫って来た何かはアトスの元に舞い降りると、姿を確認したカナリア。
同じくアトスと似たような仮面を顔半分ほど包んだ女性。だが、身を纏う雰囲気は紛れも無く「この場」の全員を凌駕した存在だった。
「姉さん」
アトスが姿を現した女性を姉と呼び、姉と呼ばれた彼女は素顔のある半分の顔で微笑みを浮かべた。
「――此処での目的、永遠剣士の捕縛は達成した」
「な……」
女の言葉に、カナリアは驚愕とした声を漏らす。
「そう。じゃあ、帰還ね」
「ええ。他の仲間にはもう引き返させている。後は私たち」
「ま、待て!!」
去ろうとする二人を呼び止めたカナリア。二人は止まると、女だけが振り返った。
「……何かしら」
「答えろ! 誰を―――永遠剣士の誰を捕らえた?!」
「……残念だけど」
すっと動いた――あまりにも小さな動作にチェルはすぐに声を出した。
「おい、下がれ!!」
「っ」
「答える義理は無いわ」
ペスキスをすり抜け、眼前に迫った彼女の斬閃がカナリアの身体に走った。噴出す鮮血が雨のように降り、地へと落ちていった。
女は剣を彼女の血を帯びた透き通った水色の長剣を振り払って、虚空へと納めた。
「行くわよ、アトス」
「はい……姉さん」
アトスの前に闇色の壁が浮き上がってきた。
それが『闇の回廊』である事を知っていたチェルは追いかけたかった。だが、地上へ落ちたカナリアへと集中した。
(くそっ、アイツの大声なんかにへっぴり腰の所為で……)
自分が不甲斐無いことを痛感した。無力を味わった。だが、己を唯せめても彼女が助かるわけではない。
チェルはカナリアの落ちた場所へと向かった。
ジェミニは負けた。フェイトの一撃で倒され、彼は力なく天を仰ぎながら倒れている。
一方のフェイトは帰刃を解除し、白服の少年に戻っていた。
「……にしても」
倒れたジェミニの傍に腰を下ろしたフェイトは仮面をとんとんと指で突いた。すでに仮面は全体的な亀裂を走らせ、崩れかかっている。
そして、突いた事で完全に崩れた。いや、消滅したというべきほどに微塵に霧散した。
「……コレで大丈夫なのかな」
仮面が洗脳の証だと読んだフェイトは限りなくダメージを与えて倒す事で洗脳を解く手段と踏んでいた。
もし、洗脳が続いていたら――――。
「その時は全身縛って、仮面の女を引っ張り出すか」
「―――うっ……っ」
「! ジェミニ」
呻き声と共に、意識を回復したジェミニは視界に入ったフェイトの顔を見て、ほっと胸を撫で下ろした。
「……大丈夫、もう操られてはいないよ」
「そう。もしもの時は君を縛っておこうと思っていたところだ」
「ふ……ふふ。その心配はいらない……ありがとう」
自分を救い出してくれて。
ジェミニは心の底から、フェイトへお礼の言葉を言った。彼は首を小さく振り、気にするなという表情を見せた。
「ジェミニ、記憶は憶えているの?」
「……操られていた時の間の、か…………一応は、憶えている。―――『彼女』は、決して自分の名を打ち明けなかった。だが、つれさらわれた場所とこの襲撃の目的はは覚えている…!」
「……教えてくれる?」
フェイトは何故、洗脳を受けたものの記憶を保存させ、尚且つ、その場所の名前まで打ち明けた女に疑問を抱いた。
「神の聖域……レプセキア」
攻撃を受けた市街地にて。
チェルは町を攻撃する敵と対峙していた。
相手は一人。緑の混じった銀髪、戦場には不釣合いなドレスの様な衣装を身に纏った仮面の女性。だが、彼女の攻撃性を示すかのようにその手に握り締められた透き通った青色の刀剣が煌めいている。
チェルは燃え上がっていない市街の屋上から空中に佇む彼女を攻撃を始めた。
「!」
銃撃に、彼女は剣を振り上げると、周囲から赤や青、緑や黄色といった球体が流星のように放たれ、銃撃を打ち消し、残った球体はチェルへと迫った。
「くっ!」
幾ら、弾丸を撃ち込んでもまるで消える気配は無い。そのまま彼と直撃する刹那―――
「―――ッゥスゥウウウ―――ッッバアアアアアアーーーー!!!」
爆音とも言える絶叫が流星を掻き消した。
その咆哮に、チェルは耳を押さえて蹲っていた。
「……誰だ」
仮面の女性は刀剣の切先を咆哮の主に向けて、誰何する。その方向が自分の背後と気付いたチェルは手を下ろして、振り返った。
「お、お前は…!」
「――っはあ。あー、あー、んんっ……アンタ、大丈夫か?」
見覚えのあるその人物は、顔に仮面の名残をつけた白服の衣装をした胸元に孔がある水色の髪をした少女――カナリアだった。
「耳が……ちっ、お前の声はなんだ?! 爆弾か!!」
「ああ? ちょっと『大声』出したくらいでなんだよ……」
「大声ってレベルじゃねえーよ!! 鼓膜破れるかと想ったわ!!」
「―――」
「っと!」
「チッ!」
二人は彼女の攻撃を察して躱す。すかさず追撃の流星を放つと、再びカナリアはチェルの方へと迫ったほうに割り込んだ。
「!!」
「っ…あああ!!」
流星群が全弾、カナリアに衝突し、彼女は激痛の悲鳴を零した。チェルの攻撃では流星は打ち消せない。
だが、彼女の咆哮なら打ち消す事はできたのに。
「なんで、庇った!?」
「……」
負傷したカナリアに構わず、女は流星群をつ。それはチェルとカナリアへと狙いを定めたものだった。
チェルはだんまりな彼女を腰に手を回して、自身の俊敏な足と跳躍のある脚力で屋根を飛び移ったりして、躱す。
「―――大声って、言うから……」
「あ……」
「吼えたら、耳が痛いんだろ? だから……これ以上、此処に迷惑はかけるなってフェイトに言われたし―――」
「―――ッ……お前ってやつは………じゃあ、手を抜かれるのは俺に取っちゃあ迷惑だ。思い切り、吼えていい」
「! いいのか?」
「だったら俺がお前をサポートする。銃は元々遠距離だ。離れていたら耳は問題ないさ」
カナリアは了承の頷きをして、チェルは彼女を放した。空中で受身を取り、彼の前に立ち、女を阻んだ。
「逃げるのはお終い?」
「ええ。こっちも、やっと思い切り吼えれる」
「へえ……」
「覚悟しなさいよ、アンタ。――――月夜を照らせ」
―――『月華歌姫(ディーヴァ)』―――
「―――っと」
「……姿が、変わった……」
「んだよ…あの変身?」
帰刃したカナリアの姿は元着た衣装が変異し、白いタイトスカートのように片足を多く露出した衣装に変化し、装飾品を身に纏い、歌姫の名を冠するに相応しい姿になった。
帰刃能力を知らない二人は彼女の姿に困惑を抱く。だが、女は構えを取り、誰何の意思を示した。
「貴女、何者」
「そうねえ、アンタが名のりゃあこっちも名乗るわ」
カナリアは女の誰何をあえて、逆に聞き返した。
もし、それで戦闘へ続行しても別に気にはしなかった。だが、身に纏う雰囲気が少し変わったのは感じ取れた。
多少は『認識』したようだ。
「―――アトス」
女―――アトスは素直に名乗り、切先をカナリアと向ける。つまり、「次はお前だ」という意味だ。
カナリアは彼女の素直さに笑みを零した。少し離れた場所に潜んでいたチェルは呆れた。
「カナリアよ。カナリア・ナイチンゲール」
「ナイチンゲール……」
「月に歌う鳥さ。あたしには相応しい名前よ」
自信に満ちた笑み、そして、その背にある月と重なり、相応な姿に見えたアトスは切先から流星を無数はなった。
彼女は笑みを納め、再び、胸一杯に吸い上げる。
「すぅ――――! ッウウァアアアアアアーーーーーーー!!!」
「ッ」
今度の咆哮の衝撃はアトスにも堪えるものだった。勿論、ビルの屋上で物陰に潜伏しているチェルも耳を押さえながらアトスに狙いを定めた。
「流星が、消されたか」
先ほどの流星は先ほどのものよりも強化したものだが、彼女のほう咆哮の前ではあまり意味が無いようだ。
アトスは剣を両手で握り締め、構えを取る。カナリアは吼える体勢から臨戦態勢に変える。虚空より藍色の刀身、白い柄のある刀を抜き取った。
「……行くわよ」
アトスが切り込む前に、カナリアは響転の先手を打つ。
まずは背後に回りこんで一閃を狙う。だが、アトスは身を翻して、同時の斬閃で唾競り合う。カナリアは片手を振った。
「ぐぁっ!?」
アトスの腹部に『殴られた』感覚、衝撃、痛みが襲った。崩れかかった頭上、カナリアは刀を思い切り振り下ろす。
「っ――……うおおぁあ!!」
剣を頭上、横に構えて、振り下ろした一撃を受け止める。だが、勢いはそのまま地上のビルの屋上に激突した。
「―――」
カナリアはその頭上から露出された左足に力を籠める。
吹き上げる煙の中から流星の衝撃波を放ってきた。それを狙いしまして居たカナリアは衝撃波を力で纏った左脚で蹴りつける。
衝撃波はすぐに消滅し、けりつけたと同時に衝撃波が真下へと衝突した。
「やるわね」
気配は既にカナリアと同じ空中へとあった。
多少汚れを纏っていたアトスだが、大した疲労の気配は無い。
「……悪いが、これ以上戦う必要がなくなった」
「何ですって―――ッ!」
上、上から物凄い速さで迫って来た何かに恐怖を感じたカナリアはアトスから思い切り、間合いを取った。狙いを済ましていたチェルも銃を下ろす。
「……なんだ、アイツは」
迫って来た何かはアトスの元に舞い降りると、姿を確認したカナリア。
同じくアトスと似たような仮面を顔半分ほど包んだ女性。だが、身を纏う雰囲気は紛れも無く「この場」の全員を凌駕した存在だった。
「姉さん」
アトスが姿を現した女性を姉と呼び、姉と呼ばれた彼女は素顔のある半分の顔で微笑みを浮かべた。
「――此処での目的、永遠剣士の捕縛は達成した」
「な……」
女の言葉に、カナリアは驚愕とした声を漏らす。
「そう。じゃあ、帰還ね」
「ええ。他の仲間にはもう引き返させている。後は私たち」
「ま、待て!!」
去ろうとする二人を呼び止めたカナリア。二人は止まると、女だけが振り返った。
「……何かしら」
「答えろ! 誰を―――永遠剣士の誰を捕らえた?!」
「……残念だけど」
すっと動いた――あまりにも小さな動作にチェルはすぐに声を出した。
「おい、下がれ!!」
「っ」
「答える義理は無いわ」
ペスキスをすり抜け、眼前に迫った彼女の斬閃がカナリアの身体に走った。噴出す鮮血が雨のように降り、地へと落ちていった。
女は剣を彼女の血を帯びた透き通った水色の長剣を振り払って、虚空へと納めた。
「行くわよ、アトス」
「はい……姉さん」
アトスの前に闇色の壁が浮き上がってきた。
それが『闇の回廊』である事を知っていたチェルは追いかけたかった。だが、地上へ落ちたカナリアへと集中した。
(くそっ、アイツの大声なんかにへっぴり腰の所為で……)
自分が不甲斐無いことを痛感した。無力を味わった。だが、己を唯せめても彼女が助かるわけではない。
チェルはカナリアの落ちた場所へと向かった。