Another the last chapter‐18
突如無轟を中心に白い炎が爆発したように広がる。
あまりの威力に、誰もが顔を覆って攻撃の余波をヒシヒシと感じていた。
「くっ…!? 無轟!?」
いち早くテラが無轟のいた場所を見ると、無轟は所々に火傷を負っていたがしっかりと立っていた。
「――さすが、だな」
「そちらこそ、即席で仕込んだ『フラゴール・フレア』を受けてもまだ立っていられるとは…」
少し前に、別の世界で敵対する人物達の戦闘力を量る為に使った魔法。
その時よりは多少威力は落ちてるが、諸に喰らっても尚立っていられる無轟に驚きを通り越して呆れを浮かべるエン。
そんな中、知識に長けたゼロボロスは今のカラクリに気づいた。
「地面に魔法を仕込んでいたんですか…何時の間に」
「暇はありましたよ?」
布越しに笑うなり、エンは腕を今度は横に振るった。
「さっきあなた達が作戦会議している間にね!!」
直後、地面の一部が光ると辺り一帯に巨大な雷が降り注ぐ。
この魔法攻撃に、全員一斉にガードや避けたりした。
「なんて強力な『サンダガ』なの!?」
「ひ、一溜りもなかったぞ…!!」
アクアが悲鳴に似た叫びを上げると、同じ考えなのかテラも冷や汗を掻く。
当たっていたら黒焦げは確実だった攻撃が終わると、今度は巨大な暴風が襲い掛かる。
「今度は『エアロガ』!?」
ソラの『リフレガ』に守られながらヴェンが丈違いの暴風を見ていると、エンがダブルセイバーを二刀に変えていた。
「『イノセンス』!!」
剣を振るい、真空の刃を次々と暴風に紛れて飛ばしていく。
更なる攻撃が組み合わさり、誰もが息を呑んで目を見開いた。
「『火之鎖刈突』――!!」
その時、暴風の中で無轟が炎の鎖をエンに投げつけ、腕に絡みつける。
そのまま引き寄せようとした直後、巨大な氷結が飛んできて炎の鎖を引き千切った。
「なに!?」
「私を抑え込めば、仕込んだ魔法は発動しないと思いました? まったく――」
『ブリザガ』で炎の鎖から解放されるなり、二刀の剣を構え後ろを振り向く。
瞬間、甲高い金属音が鳴り響いた。
「単純なバカほど、腹立たせるものはない」
冷たい目をして低い声で呟くエンの前には、クウが蹴りを放ったまま二刀の剣で抑え込まれていた。
「なめんなぁ!! 『メテオドライヴ』――!!」
即座に距離を取るなり、エンに掴みかかろうとするクウ。
しかし、クウが一歩踏み出すと共に黒い魔方陣が周りに現れる。
すぐに逃げようとするが、何故か身体が拘束されたように動かない。
「なっ…!?」
「クウ!?」
「下手に動くと…闇の雨が襲い掛かるぞ?」
ソラが助けに行こうとすると、エンが尚も冷たい目で睨みつける。
その言葉と共に地面の一部がが怪しく光ると、頭上に闇色の空間が開き漆黒の刃が雨の様に降り注いだ。
「こんな魔法まで!?」
「これじゃあ近づけない!?」
遠くで見守るカイリはもちろん、ゼロボロスさえもこの魔法に驚きを隠せない。
誰もが『カラミティ・レイン』に翻弄される中、エンは拘束されたクウを睨みつけた。
「『ダークネス・ジャベリン』を喰らう覚悟は出来たか?」
「う、動かな…!?」
どうにかクウは動こうとするが、拘束する黒い魔方陣から刀や剣、槍などと言った闇の刃が現れる。
それらは刀身をクウに突き立て、串刺しにしようと一斉に放たれた。
「『ダークバラージュ』!!」
だが、貫く直前に無数のキーブレードが闇の刃を粉々に砕く。
この光景に思わずクウが息を呑んでいると、エンは横に目を向ける。
そこには、回復したリクがキーブレードを手元に戻しながら着地していた。
「どうやら、頭は冷めてるようですね?」
「ああ。同じように怒っていたのに、冷静になってるオパールを見ていたらなぁ!!」
そう言うなり、リクはエンに向かって斬りかかる。
それを二刀で防御しながら軽くオパールに目を向けると、アイテムで無轟を回復している。他の仲間に気を配るほど、理性を取り戻したのが分かる。
一方で、クウは攻撃が終わったのに未だに魔方陣に捕らわれていた。
「くっ…!! まだ、解けないのかよ…!!」
「あの三下の真似になりますけど――」
必死に身体を動かしていると、一つの呟きが聞こえる。
見ると、拳に光のような白い炎を纏わせたゼロボロスの姿があった。
「四の五の言ってられませんからね!! 『崩煌弾』!!」
そう言うと、クウを拘束している魔方陣の部分に白い炎をぶつける。
すると、魔方陣はまるで溶けるように崩れていく。
やがてクウの拘束が解けると、エンはリクと戦いながら何処か感心した声を上げた。
「フェンと違って、魔力を削る炎と言う訳ですか」
「ええ。動けないままにしておくのはあまりにも可哀想なので、ねぇ!!」
翼を羽ばたかせ、リクの加勢に入るゼロボロス。
更にクウも翼で迫って拳をぶつけようとするが、エンは二刀の剣で三人の攻撃を防御する。
「私を忘れるなぁ!!!」
「はああぁ!!!」
そんなエンの後ろで、ようやく回復したウィドと無轟が斬りかかる。
周りを囲まれたエンは、急に立ち止まると一言呟いた。
「『コラプサーノヴァ』」
直後、エンの前方で眩い光が収縮する。
それに気付いた時には、光は五人が隠れるほどの激しい大爆発を起こした。
「「「「「があぁ!!?」」」」」
この威力に、四人はもちろん無轟すらも体力を大幅に削られてしまう。
そうして、カイリ達がいる程の距離まで五人は吹き飛ばされてしまった。
「みんな!?」
「足元に設置してて正解でした」
カイリが『ポーション』を取り出して叫ぶ中、エンは軽く息を吐くと残りの人達に向かおうとする。
しかし、二つの影がエンの前方に現れた。
「『ラッシュブレード』!!」
「『ラストアルカナム』!!」
ソラとヴェンが素早く流れる攻撃を叩きつけようとするが、エンはその攻撃を大きく距離を取って避ける。
このエンの行動に、ソラとヴェンはニヤリと笑って挑発した。
「避けるなんてどうしたんだよ?」
「俺達の攻撃に恐れをなしたな!!」
「避けたくもなりますよ」
二人の挑発にも動じず、エンは淡々と言葉を述べた。
「今の魔法から、危険な現象が起きるんですから」
耳を疑う言葉が出てきたと同時に、二人に向かって風が吹く。
思わず後ろを振り返ると、少し先…丁度エンが魔法を放った場所にサッカーボールぐらいの小さな黒い穴が出来ていた。
「何だこれ!?」
「って言うか、引き込まれる!?」
黒い穴に引き寄せられていると分かり、ソラとヴェンがキーブレードを床に突き刺す。
二人だけでなく他の人も目を疑っていると、エンは何処か面白そうに説明を始めた。
「攻撃の後に追撃が出来る魔法があったら便利でしょう? 今の魔法は、星が消滅する際の大規模な爆発を元にした魔法でね。その後に、《ブラックホール》と言う圧縮した重力の空間を作る様にしたんですよ」
「そんな物を魔法で作ったの!?」
「どう言う事だ!?」
意味を悟ったオパールが驚いていると、テラが聞き返す。
「ブラックホールってのは、光さえも脱出出来ない高密度の重力の塊なの!! 重力場に入ったら最後、呑み込まれて跡形も無く潰されるわよ!!」
「「それ早く言ってぇぇぇ!!?」」
大声でオパールが説明するなり、一番近くにいるソラとヴェンはさっきよりも必死でキーブレードにしがみ付く。あの黒い穴に入ったら、問答無用でお陀仏になるのだから当然だろう。
「ヴェン、すぐに助けて――!!」
「そのまま私が何もしないと?」
アクアが助けようと動こうとすると、エンが意味ありげな言葉を返してくる。
それと共に再び地面の一部が光り、炎や氷、雷・風などの嵐がアクア達に襲い掛かった。
「何だ、この魔法のオンパレード!?」
テラが真下から湧き上がる光の波動を避けていると、エンがクスリと笑った。
「『ブラスタースペル』、全ての属性の上級魔法を次々と放つ中で助けにいけます?」
「ならば、それごと燃やし尽くす!! 『火之鳳琉』!!」
「俺もだ!! 『アルテマキャノン』!!」
「『メガフレア』!!」
いち早く復帰した無轟が頭上に飛び上がり、黒い穴に向かって炎熱の衝撃波を繰り出す。
テラも負けじと属性の嵐の中キーブレードを大砲に変えて強大な砲弾を打ち、アクアは湧き上がる闇を打ち払うようにキーブレードの切先に高熱の炎を溜めこんで大爆発を起こす。
「待って!? 駄目!!」
だが、三人の攻撃にオパールが止めようと声を荒げるがもう遅い。
結果、襲い掛かる上級魔法は三人の攻撃で相殺されて止まったが、比例して黒い穴は何故か先程よりも大きくなっていた。
「穴が大きくなった!?」
「ブラックホールってのは、元の質量より軽い物を吸い込んだら成長しちゃうの!! 同じ質量なら相殺出来るだろうけど、あいつの強さ考えたらそんな攻撃じゃ意味がない!!」
驚くテラに、冷や汗を垂らしながら原理を説明するオパール。
そんな中、離れているにも関わらずアクア達にも引き寄せる重力が届いてくる。
「距離があるのに、ここまで引き寄せられる…!? ヴェン!!」
「ソラー!!」
アクアとカイリが声をかける先では、ソラとヴェンが先程よりも強力になった重力に耐えながら辛そうにキーブレードを握っていた。
「もう、持たない…!!」
「もう駄目…!!」
我慢の限界が訪れたのか、刺さっているキーブレードが傾き穴へと引き寄せられる。
そうして重力の圧力に負け、とうとう二人は手放してしまう。
「『マグネガ』!!」
「「ふぎゃ!?」」
その時、黒い穴から引きはがす様に前方の空中に現れた磁力の塊に思いっきり引き寄せられる。
魔法の影響で二人は空中で情けない悲鳴を上げるが、荒療治で助けた人物にアクアは叫んだ。
「レイア!?」
「っ…!!」
レイアを見ると、顔色を悪くしながらもソラとヴェンを引き寄せる磁力に魔力を注ぎ込んでいる。
通常なら消える魔法を無理に維持させていると、エンが動いた。
「『アーククロウ』」
魔法を中断させようと、レイアに向かってダブルセイバーを回転させながら飛ばす。
「させるかぁ!! 『ガントレットハーデス』!!」
しかし、回復を終えたクウが向かってくるダブルセイバーを横から殴りつけるように地面に叩きつける。
ついでに蹴りを放って遠くに吹き飛ばす様子に、レイアは笑みを浮かべた。
「クウ、さん…!」
「遅れてすみません、皆さん」
助けてくれたクウに続き、一つの声が響き渡る。
「すぐに終わらせます!!」
ゼロボロスが叫ぶと、頭上に巨大な魔法陣が敷かれていく。
そこから、黒い穴に向かって巨大な隕石がゆっくりと現れる。
この光景に、エンはゼロボロスを見て軽く舌打ちした。
「なるほど、攻撃されたまま復帰して来ないと思えば下準備してた訳ですか」
「ええ、おかげでその邪魔なブラックホールも消せるほどの魔力を溜めこむ事が出来ました」
「それにしては、やけに大きすぎますが?」
「構いませんよ」
ここで言葉を切ると、セロボロスは笑顔で言い放った。
「彼が何とかしてくれますから」
それを合図に、黒い影が隕石に向かって飛び上がる。
「はあああぁ!!!」
見ると、リクがキーブレードを構えて隕石に向かって飛び上がっている。
そうして隕石の地点に辿り着くと、隕石を一閃するように突き刺す。
直後、キーブレードを引き抜く様に振るうと隕石は大きな破片となって砕けた。
「「『メテオレイン』!!!」」
破片は辺り一帯に降り注ぎ、地面に激突する度に衝撃波が襲い掛かる。
その猛攻はブラックホールだけでなくエンをも巻き込んでいく。
やがて攻撃が止むと、ブラックホールだけではなくエンも消えていた。
「リク、ありがと!」
「助かったよ、レイア!」
レイアの魔法が解けるなり、着地したリクにソラが駆け寄る。
そしてヴェンもお礼を述べる中、無轟は未だに険しい表情を浮かべて一括した。
「二人とも、気を抜くな!!」
「大丈夫だって。だって、あんな攻撃受けたなら倒せて――」
姿の見えないエンに、楽観的に考えを述べるソラ。
確かに、ブラックホールさえも打ち消した隕石の嵐に見舞われれば倒せてもおかしくはないだろう。現に、エンの姿はどこにもない。
「――『エンジェル・ラメント』」
直後、そんな彼の考えは光の波動によって打ち消された。