Another the last chapter‐19
『『『うわああぁ(きゃああぁ)!!?』』』
「ぐっ…!? やはりか!?」
突如響いた声と同時に、避ける間もなく広範囲の光の波動が襲い掛かる。
警戒していた無轟はダメージを負いながらも『炎魔覇煌閃』を放って魔法を打ち消すが、被害は止められなかった。
「ソラ!?」
「ヴェン!?」
「リク!?」
魔法が発動した中心点にいたからか、三人のダメージは大きくその場に崩れ落ちてしまう。
どうにか耐えきったゼロボロス、テラ、オパールが声をかけていると、僅かに足音が響く。
「『シャドウスライサー』」
少し離れた場所から黒い残像が現れる。
まるで影の様にアクアとオパールをすり抜けると、二人に斬撃が襲い掛かった。
「「うああっ!?」」
「アクア、オパール!?」
二人が傷付けられ、テラは困惑を浮かべる。
ゼロボロスは何かに気づいて翼で身を覆うと、大きく斬られてしまう。
「うぐぅ!?」
「どうすれば…!?」
彼らから離れた場所にいて無事だったクウも冷や汗を掻く中、動く人物がいた。
「姿が見えないなら――」
風の様に駆け出し、数秒も使わずに中央で剣を構え立ち止まる。
「全土に攻撃すればいいだけの事だぁ!!!」
そう怒鳴り付けるなり、ウィドは剣を振う体制に入る。
この構えに、クウは目を見開くと大声で叫んだ。
「お前ら、すぐに防御しろっ!!」
「なっ!?」
突然の指示にテラが振り返ると、カイリとレイアとルキルを守る様に翼を広げて盾にしている。
クウと同じくウィドが何をするか気づいたのか、無轟が叫んだ。
「炎産霊神!!」
『分かった!!』
炎が現れて炎産霊神が現れると、ウィド以外の全員を炎で包み込む。
突然人一人分の炎のドームに包まれ、負傷した人達も目を疑う。
しかし、それも長くは続かなかった。
「――『月光明血桜』っ!!!」
ウィドが剣を振るうと同時に、何故か自分達を守っている炎が一刀両断で切り裂かれる。
翼で守っていたクウも剣技を受ける中、切り裂かれた炎はまるで桜の花弁のように辺りに舞って散っていく。
だが、美しい光景とは裏腹に全員は唾を呑み込んだ。
「なんで、俺達まで…!?」
「味方すらも区別なく攻撃するとは、何て技ですか…」
テラとゼロボロスが唖然とする中、カイリは無轟の隣にいる炎産霊神を見て混乱していた。
「そ、それより、あの子は誰!?」
「話は…後、です! 『デスペル』!」
レイアは炎に紛れて微かに血と刀身が赤い剣が飛んでいるのを見つけ、魔法を放つ。
淡い煌めきに包まれて光が弾けると、二刀の内の一刀を持ったエンの姿が現れる。
これを見て、レイアは更に魔法を発動させる。
「光よ! 『ホーリー』!!」
すると、エンの真下から光の柱が次々と立ち上る。
この攻撃をエンは距離を取って回避すると、レイアを見て笑った。
「なかなかですね。『バニッシュ』は奇襲に結構使えるのですが」
魔法を当てられたのはウィドのおかげだが、それでもレイアに賞賛を送る。
あの連携攻撃を凌ぎ何事もないように振る舞うエンに、ゼロボロスは苦笑いを浮かべてしまう。
「あの攻撃を凌ぐなんて、化け物ですか…!?」
「完全に凌げた訳ではないですよ。現に、『マイティガード』をかけてもダメージを負ってますから」
「またややこしい魔法を!!」
「その魔法は、たった今彼女に解かれました。その分、無茶をしたようですが」
苛立つウィドに簡潔に説明すると、レイアに視線を送る。
「はぅ…うぁ…!」
地面に手を付けて息を荒くしており、顔色も悪く脂汗が滲み出ている。
無理もない。消えかけた身体を回復させてから、そんなに時間は経っていないのだ。通常よりも負荷がかかっている状態で魔法を使えば、身体に支障が出る。
それでもレイアは援護を捨てて攻撃を行った。無理してでも戦おうとしたレイアに、エンは軽く肩を竦めた。
「その年齢でノーバディとなった上に、魔法の才能も長けているあなたには驚きますよ…まあ」
そこで言葉を切ると、腕を大きく上げた。
「どっちみち、あなたには退場して貰いますが」
頭上を見ると、もう一つの赤い刀身が宙に浮いている。
その切先は、レイア達に狙いを定めている。
「「カイリっ!?」」
「レイアァ!!」
「ルキル…!?」
「もう遅い。『マスティマレイザー』」
回復していたソラとリク、そしてクウが駆け出すと同時にエンの持つ剣から闇のレーザーが放たれ、レイア達を狙う切先からは光のレーザーが放たれる。
茫然とするウィドを差し置いてソラとリクは思わず避ける中、クウは闇のレーザーの先にもレイア達がいるのに気付き翼でガードした。
「レイアっ!!」
それでも斜め上から光のレーザーが迫り、カイリがレイアを庇うように抱きしめる。
直後、光のレーザーは二人に直撃した。
「「きゃああっ!!?」」
二人が悲鳴を上げると、レーザーはクウの翼に当たったようにすぐに消える。
だが、カイリとレイアは傷だらけでその場に倒れており、ルキルはレーザーが着弾した風圧で転がっていく。この光景に、助けようとした三人に怒りの火が付いた。
「お前…よくもぉ!!!」
「もう好きにさせないっ!!!」
「覚悟しろぉ!!!」
ソラとリクはキーブレードを、クウは拳を構えエンへと走り込む。
「『炎魔覇討』!!」
「「「ぐぅ…!?」」」
だが、三人の行く手を阻む様に無轟が刀に纏った炎を増長させて振り下ろす。
どうにか止まった事で攻撃は当たらなかったが、半端無い熱が三人に襲い掛かった。
「オッサン、邪魔すんじゃ――!?」
熱によって体力が幾分か削れるが、何度もされて慣れたのかクウが怒鳴り付ける。
しかし、前にいる無轟は何時の間にか二刀流となったエンによって斬られていた。
「今のは…?」
「まさか、俺達の身代わりに…!?」
リクが動きを止める中、クウはようやく目の前の状況に気づかされる。
もし無轟が止めていなかったら、確実に自分達は今の攻撃を喰らっていた。
「よくもカイリを!! 『トルネドストライク』!!」
そんな中、ソラは冷静さを欠いているのか前に出て風を纏った回転攻撃を放つ。
だが、エンは二刀でその攻撃を受け流す。そうしていると、後ろに影が差した。
「『空衝撃・双錬』!!」
何とウィドが剣を二回振るい、衝撃波を二つ繰り出す。
その攻撃をエンは難なく避ける。ウィドが悔しがると、ソラが叫んだ。
「ウィド!?」
「邪魔だ、どけぇ!!」
ソラに怒鳴るなり、まるで押しのけるようにエンの元に向かうウィド。
ルキルまで傷付けられて完全に頭に血が上っているウィドに続く様に、回復したヴェンもエンの後ろに現れた。
「悪いけど、俺も許せない!! 『ホーリー』!!」
「『フリーズウォール』」
後ろからヴェンが光の柱を呼び寄せるが、エンも負けじと周りを覆う氷壁を呼び寄せる。
光の柱は回転しながら攻撃するものの、氷壁を削る事しか出来なかった。
「隙だらけだ!! 『ブラックボレー』――!!」
そんなヴェンの援護をしようと、遠くからテラが闇の力を高めてエンに狙いを定める。
そのまま闇の弾を発射しようとしたその時、アクアが後ろから抱き締める様に止めに入った。
「テラ、止めてっ!?」
「どうしたんだ、アクア!?」
「分からないの!? それは闇の力よ!!」
「そんな事言ってる場合か!!」
「さっきのクウの行動忘れたの!? 彼が闇に呑まれたのを見たでしょ!?」
「っ…!!」
アクアの叫びに、テラは動きを止めてその時の事を思い浮かべる。
何時もと違う、正気の無い黒い目。全身に纏わりつく闇のオーラ。ウィドから剣を奪い取り、一閃した際に見せた狂気に満ちた笑み。
今まで闇に魅入られた人達を見てきたが、その時のクウは闇に落ちたと言ってもいい。その後はどう言う訳か正気に戻っていたが、少なくとも闇の怖さを思い知らすには十分な出来事だった。
アクアに抱かれたまま固まるテラに、ゼロボロスは焦りを浮かばせる。
「駄目だ、このままじゃ…!」
再びエンを見ると、無轟によって動きを止めたリクとクウも再び攻撃を仕掛けている。
段々と感情の縺れ合いで戦いの流れが悪循環に陥った光景に、ゼロボロスは悔しそうに歯を食い縛る。
こうなってしまった今、自分の力ではどうする事も――
「――いい加減にしてぇぇぇぇ!!!!!」
その時、一つの怒鳴り声が全員の耳を揺さぶる。
戦っているソラ達だけでなくエンですらも動きを止め、声のした方を見た。
「カイリ…?」
ソラがポツリと呟く先で、傷だらけの状態にも関わらずカイリは肩で息をしながら立っている。
全員が注目する中、カイリは『ポーション』を一気に飲み干す。そうして傷を治すと、怒りをぶつける様に空の瓶を地面に投げ捨てて叫んだ。
「さっきから皆おかしいよっ!! 私達、仲間でしょ!? どうして仲間が信じられないの!!」
「…っ…!」
「カイリ、さん…」
カイリの言葉に思わずテラが動揺を浮かべると、レイアは貰った『ポーション』を握ったまま呟く。
「怒る気持ちも分かるし、不安になる気持ちも分からなくないけど…皆で協力しないと、あいつに勝てないって分からないのっ!!!」
エンを指しながらカイリが怒鳴っていると、ゼロボロスも肯定して頷いた。
「彼女の言う通りですよ…彼は強い、闇雲に戦って勝てる相手ではありません」
「闇雲に、なんて…」
「そうか? 正直、今まで見てきた連携とやらがお前達は取れていない。俺一人で戦う方がまだ気楽だ」
思わずアクアが否定しようとするが、無轟が遮るように事実を述べる。
この二人の言葉に沈黙が過っていると、ウィドが口を開いた。
「…何が、“仲間”だ…」
「ウィド?」
近くにいたソラが振り返ると、ウィドは顔を俯いたまま肩を振るわせていた。
「何が、信じるだ…!! そうするぐらいなら、私一人で戦った方がマシだぁ!!!」
三人の言葉を拒絶すると、ウィドは剣を鞘に納める。
これを見て、真っ先にクウがウィドを後ろから羽交い絞めにして拘束した。
「待て、止めろっ!!」
「離せぇ!! 姉さんを捨てたお前となんて、一緒にいたくもない!! 今すぐにでも斬り捨てたいくらいだっ!!!」
「このシスコンがぁ!! いい加減に――!!」
さすがのクウもウィドに怒鳴り付けていると、無轟が前に出る。
すぐにウィドが睨んだ瞬間、無轟は鞘で鳩尾を殴りつけた。
「ぐぅ…!?」
「オッサン…」
無轟の行動に、クウは呻き声を上げて気絶したウィドを抱えながら呟く。
すると、無轟は顔を逸らしてクウに一言述べた。
「このままでは邪魔になるだけだからな。どこか隅にでも寝かせて置け」
「あ、ああ…」
思わずクウが頷いていると、無轟は炎を纏った刀を握り直して全員に言い放った。
「お前達全員、離れろ。少しでも近づいたら焼け焦げるぞ」
「へ?」
突然の指示に、ヴェンが声を上げる。
しかし、答えを返すことなく無轟は炎を従えてエンへと迫った。
「無轟さん!?」
ゼロボロスが声をかけるが、無轟は無視してエンへと斬りかかる。
エンもまたダブルセイバーに戻して攻撃を受け止めると、火の粉の舞う中で会話を始めた。
「ほう、あなたが?」
「貴様をこれ以上、《奴》に接触させる訳にはいかないからな…!!」
互いの刃を受け止めながら無轟の放った言葉に、エンの目の色が変わった。
「――もしかして、私の正体をご存じで?」
「正直、今でも半信半疑だ。だが…――こうして刃を交えれば、嫌でも核心を持ってしまう!!」
そうしてエンを弾き飛ばすが、受け身を取って着地する。
無轟は周りを見て仲間がいないスペースを確認すると、再びエンを見据えた。
その透き通った紫の瞳に、決意を込めて。
「行くぞ、炎産霊神」
『…分かったよ』
今まで傍観していた炎産霊神は、一つ頷くと炎を纏いその場から消える。
直後、無轟を中心に激しい熱風が巻き起こった。
「これは…!?」
「無轟さん…!」
さすがのエンも吹き飛ばされるが、態勢を立て直しながら目を細める。
ゼロボロスも腕を覆っていると、熱風は収まる。
そうして全員が視界を上げると、武器である『明王・凛那』は炎を吐き出すように燃え盛り、両腕には紅の篭手が供わり霞の炎をオーラのように纏わせていた。
「『焔王武具・緋乃炎産霊神』…――これが、全力の俺だ」
真紅となった双眸を、灼熱の剣尖をエンに向けて無轟は答えた。
「ぐっ…!? やはりか!?」
突如響いた声と同時に、避ける間もなく広範囲の光の波動が襲い掛かる。
警戒していた無轟はダメージを負いながらも『炎魔覇煌閃』を放って魔法を打ち消すが、被害は止められなかった。
「ソラ!?」
「ヴェン!?」
「リク!?」
魔法が発動した中心点にいたからか、三人のダメージは大きくその場に崩れ落ちてしまう。
どうにか耐えきったゼロボロス、テラ、オパールが声をかけていると、僅かに足音が響く。
「『シャドウスライサー』」
少し離れた場所から黒い残像が現れる。
まるで影の様にアクアとオパールをすり抜けると、二人に斬撃が襲い掛かった。
「「うああっ!?」」
「アクア、オパール!?」
二人が傷付けられ、テラは困惑を浮かべる。
ゼロボロスは何かに気づいて翼で身を覆うと、大きく斬られてしまう。
「うぐぅ!?」
「どうすれば…!?」
彼らから離れた場所にいて無事だったクウも冷や汗を掻く中、動く人物がいた。
「姿が見えないなら――」
風の様に駆け出し、数秒も使わずに中央で剣を構え立ち止まる。
「全土に攻撃すればいいだけの事だぁ!!!」
そう怒鳴り付けるなり、ウィドは剣を振う体制に入る。
この構えに、クウは目を見開くと大声で叫んだ。
「お前ら、すぐに防御しろっ!!」
「なっ!?」
突然の指示にテラが振り返ると、カイリとレイアとルキルを守る様に翼を広げて盾にしている。
クウと同じくウィドが何をするか気づいたのか、無轟が叫んだ。
「炎産霊神!!」
『分かった!!』
炎が現れて炎産霊神が現れると、ウィド以外の全員を炎で包み込む。
突然人一人分の炎のドームに包まれ、負傷した人達も目を疑う。
しかし、それも長くは続かなかった。
「――『月光明血桜』っ!!!」
ウィドが剣を振るうと同時に、何故か自分達を守っている炎が一刀両断で切り裂かれる。
翼で守っていたクウも剣技を受ける中、切り裂かれた炎はまるで桜の花弁のように辺りに舞って散っていく。
だが、美しい光景とは裏腹に全員は唾を呑み込んだ。
「なんで、俺達まで…!?」
「味方すらも区別なく攻撃するとは、何て技ですか…」
テラとゼロボロスが唖然とする中、カイリは無轟の隣にいる炎産霊神を見て混乱していた。
「そ、それより、あの子は誰!?」
「話は…後、です! 『デスペル』!」
レイアは炎に紛れて微かに血と刀身が赤い剣が飛んでいるのを見つけ、魔法を放つ。
淡い煌めきに包まれて光が弾けると、二刀の内の一刀を持ったエンの姿が現れる。
これを見て、レイアは更に魔法を発動させる。
「光よ! 『ホーリー』!!」
すると、エンの真下から光の柱が次々と立ち上る。
この攻撃をエンは距離を取って回避すると、レイアを見て笑った。
「なかなかですね。『バニッシュ』は奇襲に結構使えるのですが」
魔法を当てられたのはウィドのおかげだが、それでもレイアに賞賛を送る。
あの連携攻撃を凌ぎ何事もないように振る舞うエンに、ゼロボロスは苦笑いを浮かべてしまう。
「あの攻撃を凌ぐなんて、化け物ですか…!?」
「完全に凌げた訳ではないですよ。現に、『マイティガード』をかけてもダメージを負ってますから」
「またややこしい魔法を!!」
「その魔法は、たった今彼女に解かれました。その分、無茶をしたようですが」
苛立つウィドに簡潔に説明すると、レイアに視線を送る。
「はぅ…うぁ…!」
地面に手を付けて息を荒くしており、顔色も悪く脂汗が滲み出ている。
無理もない。消えかけた身体を回復させてから、そんなに時間は経っていないのだ。通常よりも負荷がかかっている状態で魔法を使えば、身体に支障が出る。
それでもレイアは援護を捨てて攻撃を行った。無理してでも戦おうとしたレイアに、エンは軽く肩を竦めた。
「その年齢でノーバディとなった上に、魔法の才能も長けているあなたには驚きますよ…まあ」
そこで言葉を切ると、腕を大きく上げた。
「どっちみち、あなたには退場して貰いますが」
頭上を見ると、もう一つの赤い刀身が宙に浮いている。
その切先は、レイア達に狙いを定めている。
「「カイリっ!?」」
「レイアァ!!」
「ルキル…!?」
「もう遅い。『マスティマレイザー』」
回復していたソラとリク、そしてクウが駆け出すと同時にエンの持つ剣から闇のレーザーが放たれ、レイア達を狙う切先からは光のレーザーが放たれる。
茫然とするウィドを差し置いてソラとリクは思わず避ける中、クウは闇のレーザーの先にもレイア達がいるのに気付き翼でガードした。
「レイアっ!!」
それでも斜め上から光のレーザーが迫り、カイリがレイアを庇うように抱きしめる。
直後、光のレーザーは二人に直撃した。
「「きゃああっ!!?」」
二人が悲鳴を上げると、レーザーはクウの翼に当たったようにすぐに消える。
だが、カイリとレイアは傷だらけでその場に倒れており、ルキルはレーザーが着弾した風圧で転がっていく。この光景に、助けようとした三人に怒りの火が付いた。
「お前…よくもぉ!!!」
「もう好きにさせないっ!!!」
「覚悟しろぉ!!!」
ソラとリクはキーブレードを、クウは拳を構えエンへと走り込む。
「『炎魔覇討』!!」
「「「ぐぅ…!?」」」
だが、三人の行く手を阻む様に無轟が刀に纏った炎を増長させて振り下ろす。
どうにか止まった事で攻撃は当たらなかったが、半端無い熱が三人に襲い掛かった。
「オッサン、邪魔すんじゃ――!?」
熱によって体力が幾分か削れるが、何度もされて慣れたのかクウが怒鳴り付ける。
しかし、前にいる無轟は何時の間にか二刀流となったエンによって斬られていた。
「今のは…?」
「まさか、俺達の身代わりに…!?」
リクが動きを止める中、クウはようやく目の前の状況に気づかされる。
もし無轟が止めていなかったら、確実に自分達は今の攻撃を喰らっていた。
「よくもカイリを!! 『トルネドストライク』!!」
そんな中、ソラは冷静さを欠いているのか前に出て風を纏った回転攻撃を放つ。
だが、エンは二刀でその攻撃を受け流す。そうしていると、後ろに影が差した。
「『空衝撃・双錬』!!」
何とウィドが剣を二回振るい、衝撃波を二つ繰り出す。
その攻撃をエンは難なく避ける。ウィドが悔しがると、ソラが叫んだ。
「ウィド!?」
「邪魔だ、どけぇ!!」
ソラに怒鳴るなり、まるで押しのけるようにエンの元に向かうウィド。
ルキルまで傷付けられて完全に頭に血が上っているウィドに続く様に、回復したヴェンもエンの後ろに現れた。
「悪いけど、俺も許せない!! 『ホーリー』!!」
「『フリーズウォール』」
後ろからヴェンが光の柱を呼び寄せるが、エンも負けじと周りを覆う氷壁を呼び寄せる。
光の柱は回転しながら攻撃するものの、氷壁を削る事しか出来なかった。
「隙だらけだ!! 『ブラックボレー』――!!」
そんなヴェンの援護をしようと、遠くからテラが闇の力を高めてエンに狙いを定める。
そのまま闇の弾を発射しようとしたその時、アクアが後ろから抱き締める様に止めに入った。
「テラ、止めてっ!?」
「どうしたんだ、アクア!?」
「分からないの!? それは闇の力よ!!」
「そんな事言ってる場合か!!」
「さっきのクウの行動忘れたの!? 彼が闇に呑まれたのを見たでしょ!?」
「っ…!!」
アクアの叫びに、テラは動きを止めてその時の事を思い浮かべる。
何時もと違う、正気の無い黒い目。全身に纏わりつく闇のオーラ。ウィドから剣を奪い取り、一閃した際に見せた狂気に満ちた笑み。
今まで闇に魅入られた人達を見てきたが、その時のクウは闇に落ちたと言ってもいい。その後はどう言う訳か正気に戻っていたが、少なくとも闇の怖さを思い知らすには十分な出来事だった。
アクアに抱かれたまま固まるテラに、ゼロボロスは焦りを浮かばせる。
「駄目だ、このままじゃ…!」
再びエンを見ると、無轟によって動きを止めたリクとクウも再び攻撃を仕掛けている。
段々と感情の縺れ合いで戦いの流れが悪循環に陥った光景に、ゼロボロスは悔しそうに歯を食い縛る。
こうなってしまった今、自分の力ではどうする事も――
「――いい加減にしてぇぇぇぇ!!!!!」
その時、一つの怒鳴り声が全員の耳を揺さぶる。
戦っているソラ達だけでなくエンですらも動きを止め、声のした方を見た。
「カイリ…?」
ソラがポツリと呟く先で、傷だらけの状態にも関わらずカイリは肩で息をしながら立っている。
全員が注目する中、カイリは『ポーション』を一気に飲み干す。そうして傷を治すと、怒りをぶつける様に空の瓶を地面に投げ捨てて叫んだ。
「さっきから皆おかしいよっ!! 私達、仲間でしょ!? どうして仲間が信じられないの!!」
「…っ…!」
「カイリ、さん…」
カイリの言葉に思わずテラが動揺を浮かべると、レイアは貰った『ポーション』を握ったまま呟く。
「怒る気持ちも分かるし、不安になる気持ちも分からなくないけど…皆で協力しないと、あいつに勝てないって分からないのっ!!!」
エンを指しながらカイリが怒鳴っていると、ゼロボロスも肯定して頷いた。
「彼女の言う通りですよ…彼は強い、闇雲に戦って勝てる相手ではありません」
「闇雲に、なんて…」
「そうか? 正直、今まで見てきた連携とやらがお前達は取れていない。俺一人で戦う方がまだ気楽だ」
思わずアクアが否定しようとするが、無轟が遮るように事実を述べる。
この二人の言葉に沈黙が過っていると、ウィドが口を開いた。
「…何が、“仲間”だ…」
「ウィド?」
近くにいたソラが振り返ると、ウィドは顔を俯いたまま肩を振るわせていた。
「何が、信じるだ…!! そうするぐらいなら、私一人で戦った方がマシだぁ!!!」
三人の言葉を拒絶すると、ウィドは剣を鞘に納める。
これを見て、真っ先にクウがウィドを後ろから羽交い絞めにして拘束した。
「待て、止めろっ!!」
「離せぇ!! 姉さんを捨てたお前となんて、一緒にいたくもない!! 今すぐにでも斬り捨てたいくらいだっ!!!」
「このシスコンがぁ!! いい加減に――!!」
さすがのクウもウィドに怒鳴り付けていると、無轟が前に出る。
すぐにウィドが睨んだ瞬間、無轟は鞘で鳩尾を殴りつけた。
「ぐぅ…!?」
「オッサン…」
無轟の行動に、クウは呻き声を上げて気絶したウィドを抱えながら呟く。
すると、無轟は顔を逸らしてクウに一言述べた。
「このままでは邪魔になるだけだからな。どこか隅にでも寝かせて置け」
「あ、ああ…」
思わずクウが頷いていると、無轟は炎を纏った刀を握り直して全員に言い放った。
「お前達全員、離れろ。少しでも近づいたら焼け焦げるぞ」
「へ?」
突然の指示に、ヴェンが声を上げる。
しかし、答えを返すことなく無轟は炎を従えてエンへと迫った。
「無轟さん!?」
ゼロボロスが声をかけるが、無轟は無視してエンへと斬りかかる。
エンもまたダブルセイバーに戻して攻撃を受け止めると、火の粉の舞う中で会話を始めた。
「ほう、あなたが?」
「貴様をこれ以上、《奴》に接触させる訳にはいかないからな…!!」
互いの刃を受け止めながら無轟の放った言葉に、エンの目の色が変わった。
「――もしかして、私の正体をご存じで?」
「正直、今でも半信半疑だ。だが…――こうして刃を交えれば、嫌でも核心を持ってしまう!!」
そうしてエンを弾き飛ばすが、受け身を取って着地する。
無轟は周りを見て仲間がいないスペースを確認すると、再びエンを見据えた。
その透き通った紫の瞳に、決意を込めて。
「行くぞ、炎産霊神」
『…分かったよ』
今まで傍観していた炎産霊神は、一つ頷くと炎を纏いその場から消える。
直後、無轟を中心に激しい熱風が巻き起こった。
「これは…!?」
「無轟さん…!」
さすがのエンも吹き飛ばされるが、態勢を立て直しながら目を細める。
ゼロボロスも腕を覆っていると、熱風は収まる。
そうして全員が視界を上げると、武器である『明王・凛那』は炎を吐き出すように燃え盛り、両腕には紅の篭手が供わり霞の炎をオーラのように纏わせていた。
「『焔王武具・緋乃炎産霊神』…――これが、全力の俺だ」
真紅となった双眸を、灼熱の剣尖をエンに向けて無轟は答えた。