Another the last chapter‐20
今まで、敵を討滅する為に振るってきた力。一人で生きる為に使って来た力だ。
これまでの旅の中でその世界の住人、自分と同じ世界を渡る者達と共に戦ったりはしたが、誰かを守る為に使った記憶はあまりない。
そうやって生きていて、ある日を境に伴侶と出会い、息子が生まれ…家族が出来た。
しかし、今まで戦いの中で生きてきた自分が、果たして家族を守れるのか。息子に正しい事を教える事が出来るのか。幸せな時間の中で、何かある度にそんな自問自答を繰り返した。
だからこそ、一度自身を見つめ直す為に再度旅に出た。父親として、妻と息子に出来る事を見つける為に。
そして今。全力を持って戦う為に使う力を解放する。“彼”を殲滅する為に。そして仲間として接してくれた彼ら、この地へ送った彼女の願いを守る為に。
「――はああぁぁ!!!」
灼熱を宿した燃え盛る炎を刀に纏わせ、エンへと斬りかかる。
その刃をダブルセイバーで防御するが、それだけで炎が直に当たりエンの顔が歪んだ。
「ぐっ…!?」
「『炎魔槍』!!」
一瞬の怯みを見て、無轟は纏っている炎を槍の形に変える。
そのままエンへと突き出すが、すぐに刃を離して距離を取るとダブルセイバーを振るった。
「『テラーバースト』!!」
「効かぬ!! 『炎魔槍・龍頭』!!」
エンが黒い暴風で掻き消そうとするのを読み、無轟は炎の槍を今度は龍の形に変える。
すると、炎の龍はエンの放った黒い暴風を掻き消し牙を向いて襲い掛かる。
今にも喰らい付くそうとする龍に、エンはダブルセイバーの切先を向けると闇を溜めこんだ。
「『カラミティブリンガー』!!」
闇の球体を発射すると同時に、炎の龍がぶつかって来た。
まるで炎と闇が互いに喰らい尽くすかのように、少しずつ相殺されていく。
やがてそれぞれのエネルギーが収縮するように小さくなると、限界に達したのか大きく爆発して攻撃は相殺された。
「さすがだ――だが、そんな事ではこの俺には勝てんっ!!!」
雄叫びと共に、更に全身に炎を纏わせる無轟。
空間全体が炎による熱で蝕まれていく。遠くで戦いを見守っている人達が感じる中、エンはダブルセイバーを構え直した。
「それは…こちらも一緒ですよっ!!!」
無轟の圧倒的な力を直に感じてるのに、怯む事無く鋭い目で睨みつけるエン。
そうしてダブルセイバーのそれぞれの刀身に光と闇を纏わせて斬りにかかる。
「ふん!!」
振り下ろされる光の刃を無轟は受け止め、エンを炎に包み込もうとする。
しかし、相手も馬鹿ではなく即座に弾き返し再び斬りかかり、また防ぎ返す。
炎が、光が、闇が弾けながら刃を鳴らし合い、もはや肉眼では見えない速度でお互いに何度も斬り合っていた時だった。
『無轟』
(分かっている)
突然聞こえた炎産霊神の声に、無轟は刀を振るう動作は止めずに心の中で即答する。
『凄く複雑な気分だよ。これだけ戦える敵と会えて嬉しい筈なのに…無轟も僕も全然気持ちが高揚しない。こんなの初めてだ』
(そうだな。だからこそ、改めて分かる…『奴』は、確かに『彼』だと言う事が!!)
炎産霊神に叫ぶと、大きく刀を振るって紅蓮の炎をエンにぶつける。
一度だけだが、覚えがある。相手の武器を振るう、防ぐ感覚。例え武器や強さが違おうとも、根本的な所は決して変えられない。
だからこそ分かる。荒々しさを抜かせば、全てが仲間である“彼”と瓜二つな事に。だが、その感覚が今、無轟を鈍らせている。
「はああああっ!!」
それを振り払おうと、再度エンに斬り込む。
すると、エンはダブルセイバーの持ち手を外し二刀に変えた。
「『トワイライトエッジ』!!」
纏っていた光と闇の刃を交差するように、無轟の刀を受け止める。
そのまま互いに押し合いが始まるが、少しもしない内に無轟の方から距離を取って離れた。
「どうしました、それで終わりじゃないですよね?」
「ああ。だが…――次で、終わりにしよう。構えろ」
そう言って、無轟はエンに向かって刀の切先を向ける。
刀に纏っている炎は勢いを増し、一点に燃え上がっている。
「これが、俺の本気――…いや、全霊だ」
激しく燃え上がる炎を背に、無轟は静かに刀を構える。
これを見て、エンも持ち手を重ね合わせてダブルセイバーに戻すと、無轟を見据えながら構えに入る。
「――いいでしょう。受けて立ちますよ、その全力に」
エンはそう言うと、再び刀身に光と闇を纏わせる。
同時に、空間全体が高熱によって支配される。
遠くで見ているソラ達も熱さで体力が蝕まれる。それでも固唾を呑んでいると、お互いに地面を蹴り飛ばした。
「いくぞぉ!!! 『真一刀・焔乃炎産霊輝神』!!!」
「『エクリプス・サンシャイン』!!!」
無轟が灼熱と威力を解放し刀を振るうと、エンもまた刀身に溢れんばかりの闇をぶつけあう。
炎と闇。それぞれが蝕み合い喰らい付く中で、無轟はある事に気づく。
エンの持つダブルセイバーの刀身。その下の部分がない事に。
「これで…最後だぁ!!!」
輝かんばかりの光を宿したもう一つの刀身が、もう片方の手に握られ、闇の刀身と交差するようにぶつけてくる。
光の力が合わさっただけでも不利なのに、炎とのぶつけあいで弱まっていた闇は再び威力を高めるなり無轟を押し返す。
自身の奥義が押し返される光景に目を疑う。だが、このまま負ける訳にもいかない。
「――うぉおおおおおっ!!!」
自分の残る全ての力を解放して、再び紅蓮の炎を呼び戻す。
無轟の灼熱の炎、エンの光と闇が鬩ぎ合い、やがて辺り一帯に大爆発を起こした。
「す、凄い…」
「こんな、力が…」
事の成り行きを見ていたヴェンとリクは、何処か放心しながら思った事を呟く。
そうしていると、中央に漂っていた爆煙と炎の中から、【炎産霊神】による強化が解けたのか元の姿に戻った無轟が見えた。
「無轟…」
テラが声をかけると、背を向けていた無轟が振り返る。
そして無表情のまま、彼は一言だけ呟いた。
「――すまない」
直後、無轟がその場に膝を付いて倒れ込む。
同時に、握っていた愛刀も地面に切先を付けた途端真っ二つに折れてしまった。
「オッサン!?」
「そんな…!?」
思わずクウが叫びながら駆け寄ると、ゼロボロスは信じられないとばかりに目を見開く。
「――さすが、と言っておきましょう」
その時、煙と炎の中から声が響く。
全員が目を向けると、風が吹いて煙が払われる。
そこには、未だに燃え盛る炎の中でエンが顔を下に向けて手で押さえながら静かに佇んでいた。
「翼を具現化させないといけないくらいに追い込まれたんですから…!」
その言葉と同時に、エンの背に純白の双翼が現れる。
無轟の炎によって燃えてしまったのか、顔を隠していた布は無くなり今では手で押えている。
だが、その手はすぐに自らの意思で取り払い顔を上げた。
「なん、で…!?」
「そ、その顔は…っ!?」
ようやくエンの見せた素顔に、ソラに目が覚めたウィドだけでなくその場にいる全員が息を呑む。
肩より少し後ろが伸びている黒髪。金色に輝く瞳。大人の風貌を漂わせた整った顔立ち。
だが、顔立ちや輪郭。目や鼻などの形は―――
「《クウ》…さ、んっ…!?」
紛れもなく、今目の前にいるクウそのものだった。
「お前…何者だ…っ!!?」
レイアが震える中、自分と同じ顔をしているエンに呟くクウ。
動揺を隠しきれないクウに、エンは顔を俯かせ静かに答えた。
「私は、エン。そして――」
ここで言葉を切ると、顔を上げてクウに言い放った。
「こことは別次元の、貴様のノーバディだ」
■作者メッセージ
ようやく…ようやくここまで書く事が出来ました…!!
と言っても、あちこちで伏線貼ったりはしてたんですけどね。番外編の方でも、ネタバレに近い会話とかもちょろちょろはしてましたけど…(苦笑
ただ…この後、まだまだ話を詰め込んじゃってしまって…4月までに終わるか不安になってきた…。
と言っても、あちこちで伏線貼ったりはしてたんですけどね。番外編の方でも、ネタバレに近い会話とかもちょろちょろはしてましたけど…(苦笑
ただ…この後、まだまだ話を詰め込んじゃってしまって…4月までに終わるか不安になってきた…。