Another the last chapter‐22
「あの男に身体を奪われた私を、あなた達は救おうとした。だが、奴はχブレードを手にして強大な力を手に入れた。そして…――次々とあなた達を闇に消した」
淡々と言いつつも、悲しみを隠しきれてないエンを見て全員は何も言えなくなる。
「消えゆく意識の中でその光景を眺める事しか出来なかった…そして最後の一人であるソラを消そうとした時…命がけで、スピカが捨て身覚悟で助けた。その一瞬の隙を使って、あいつはχブレードを胸に刺した…――χブレードは均衡な光と闇で生まれたものだから、自らの心を使って打ち崩そうとしたんです」
「ソラって、どの世界でも無茶するんだね?」
「ご、ごめん…」
カイリが不満そうに睨むと、ソラは身を縮こませて謝る。
前にソラの中に入っていたカイリの心を解き放つ為、人の心のキーブレードを何の迷いもなく自分の胸に刺した事があるのだ。
「そうして均衡を崩されたχブレードは、たちまち暴走を始めた。抑え切れない強大な力が鍵を中心に自分達のいた世界だけでなく、他の世界にも広がり…全てが無に消え去った。その時の力に巻き込まれた私は、別の異世界に飛ばされ『キーブレード墓場』と同じ世界で目覚めた」
「まさか、その力に巻き込まれたから…あなたはノーバディに?」
ゼロボロスが聞くと、エンは自傷するように笑い出した。
「不思議な物ですよ。目覚めた瞬間、《何かが足りない》って感じるんですから。怒りも悲しみも感じず、ただ茫然となって…」
「私と同じです…」
同じノーバディであるレイアも頷くと、その時の事が過る。
記憶にはない別の世界で目覚めたのに、不安も恐れも感じなかった。まるで人形のように、意識が茫然としていた。
「…あんたの過去は分かった。けど、何でスピカを敵にした? てめえも俺と同じなら――」
直後、クウの顔の横を光の弾がスレスレに通り抜ける。
即座に『ルイン』の魔法を使ってクウの口を塞ぐと、エンは思いっきり睨みつけた。
「――確かに、客観的に見れば同じですよ。でも…貴様みたいな奴と一緒にされるくらいなら、この場で消えた方がずっとマシだっ!!!」
クウに対して拒絶の姿勢を取るエンに、堪らずヴェンが反論をする。
「異世界の人間でも、クウと一緒なんだろ!? 何でそんな事言うんだよ!?」
「憎くもなるでしょうね…何も出来ないまま全てを失ってしまったら」
その答えは、エンではなく意外な人物の口から出て来た。
「ゼロさん…」
そう呟きながら、今の言葉を述べた人物をレイアが見る。
ゼロボロスは、何処か遠くの目をしつつもエンを見ていた。
「僕もあなたと似た経験したから、分かりますよ。倒すべき敵との戦いの果てに戦友を、大事な人の命をそいつに奪われ…何も出来なかった自分を憎む気持ちは」
「ゼロ、お前…」
過去を思い出しながら話すゼロボロスに、クウは顔を俯かせる。
周りもエンの語った壮絶な過去に口を開けずにいた。
ただ一人を除いて。
「話を戻す…――お前の目的は何だ?」
そう言って、今まで黙っていた無轟がエンを見る。
すると、エンも気を取り直したのか無轟を見つめ返した。
「『χブレード』を作り出し、全てを取り戻す。その為に――」
そこで武器を持ち直すと、一直線に倒れたままのウィドに駆け込む。
突然の事に他の人達は反応が遅れてしまう。その間に、エンはウィドに向かってダブルセイバーを振り下ろした。
「つぅ!?」
だが、即座にクウが割り込み、エンの振り下ろした刃を両手で握って受け止める。
特殊な手袋のおかげで手は傷つかずに済む中、エンはクウを無視してウィドの持つ剣を見た。
「お前の持つ“シルビア”を手に入れる」
「「「「「シルビア!?」」」」」
エンが放った単語に、ソラ達メンバー五人は目を見開く。
あまりの驚き様に、アクアはヴェンに聞いた。
「ヴェン、知ってるの!?」
「ああ、大昔に作られたキーブレードだって!!」
「でも何でウィドが!?」
「そんなのどうでもいい!! てめえ、χブレードで世界を滅ぼしたんだろ!! だったらどうしてそんなの求めるんだ!?」
カイリも混乱してると、クウは刃を持ったままエンを睨みつける。
「χブレードの力に干渉して手に入れた異世界を巡る回廊を使って、分かったんですよ。χブレードが司るのは、終焉と再生。だから、再生を使って滅んだ世界を取り戻す!! 例えどんな犠牲を払おうとなぁ!!」
そうしてクウごと斬ろうと武器に体重をかけるエンに、オパールが叫んだ。
「ちょ、犠牲って何よ!?」
「前にセヴィルから聞いた事がある!! この世界は一度闇に呑まれて再生した…――要はこの世界滅ぼして、お前の世界に作り変えるって事かぁ!!」
「合ってはいますが、一つだけ違う…――滅ぼすのは、他の異世界だ!!」
そうクウに叫ぶなり、エンは急に力を緩め武器を軽く捻じる。
すると武器を握る手が緩み、刃をその手から引き剥がすと共に後ろに大きく跳躍してクウから距離を取る。
そのまま一度周りを見回し、話を続ける。
「その世界は、本物の神が存在している…だが、世界が闇に呑まれても救いを求めても、その者達を見捨てる愚神がいる世界。そんな世界、滅ぼしてより良い世界に作り変えても問題はない。違いますか?」
「そんな世界が…!」
思いもしないエンの話に、アクアが唖然となる。
この世界ではなく、救いを与えぬ神が存在する世界を滅ぼす。確かに、エンの行動は一種の正しい行いに感じるし、願いだって闇を持つ者達のように悪ではない。
誰もがエンの行動に否定出来ず黙っていると、低い声が響く。
「何だよ…それ…!!」
視線を向けると、ソラが震えながらエンを睨んでいた。
「例えどんな世界でも…誰かを犠牲にするなら、異世界の俺達が蘇っても絶対に喜ばないっ!!! 分かんないのかよ、エンっ!!?」
ソラと同じ気持ちなのか、カイリもエンを説得する。
「そうだよ!! そんなのただの独り善がりだよ!? そんな事して生き返るなんて私達は望んでないし、絶対に後悔する!!! だからこんな事もう止めてっ!!!」
「言われなくても分かってるっ!!!」
直後、エンが空間一帯を震わせるほど二人に怒鳴り付けた。
突然の叫びに全員が怯むと、エンは悔しそうに歯を食い縛り、今にも泣きそうな目でソラを睨みつけた。
「俺が何もしないでこの道を選んだと思ってるのかっ!!? 俺が『χブレード』を求める為だけに世界を巡って来たと本気で思ってるのかよっ!!?」
胸に手を当てながら、溜め込んだ感情を爆発させるように怒鳴り付けるエン。
先程までの丁寧な言葉は完全に崩れ去り、クウのように―――否、素を露わにするエンに誰もが言葉を失ってしまう。
「気が遠くなるぐらい、いろんな方法を探した!! 犠牲を生まない方法を模索して、旅で得た沢山の知識を使って考えた…――だけど、見つからなかった!!! どれもこれも中途半端なものばっかりだ!!! 完全な世界、完全な人達を蘇らせるにはもうこれしか残されていないんだっ!!!」
そこで言葉を切ると、拳を頑なに握り締める。
「あのジジイと同じ道は取りたくない……でも、そうも言ってられない時期に俺は来ているんだっ!!! 分かるか!!? 大事な人を、新しい家族さえも守れなかった俺の気持ちが!!? 何も出来ずに戦友を消してしまった俺の痛みが!!? 喜ぶ訳がないって知りながらも方法が残されていない苦汁がぁ!!!」
今まで隠していたエンの本心の声に、全員は顔を俯かせてしまう。
ゼアノートによって失ってしまった仲間、家族、世界。長い間探した結果、取り戻す方法は他の世界を犠牲にすると言う事だけ。
今のエンの状況に自分達が口を挟める余地が無く、辺りに沈黙が圧し掛かる。
「それでも…」
再びソラが口を開くと、ゆっくりと顔をエンに向けた。
「あんたは間違ってるっ!!!」
大声でハッキリと告げると、ソラはエンを睨みながらキーブレードを構える。
意地でも戦おうとするソラの姿に、カイリが嬉しそうに叫んだ。
「ソラ!!」
「例え俺達の世界が消えなくても、そんな事しちゃ駄目だ!! あんたも俺達も絶対悲しむ!!」
揺るぎない目でソラが叫ぶのを見て、周りに動揺が走る。
それにより、傾いていた意思が徐々に元に戻っていく。
「…俺も同意見だ、エン」
クウは静かにエンに告げると、拳を叩いて宣言した。
「あんたは俺を認めない…それは俺も同じだ。あんたのような道を取るくらいなら、俺は最後まで犠牲を生まない道を探し出す!!」
「クウさん!」
エンを睨みながら言い切ったクウに、レイアは笑みを浮かべる。
「僕も手伝うよ。彼の気持ちは痛い程分かるけど…――優先するべきなのは、いなくなってしまった人の気持ちだからね」
「そうだよな…テラ、アクア。一緒に止めよう」
「「ヴェン…」」
ゼロボロスとヴェンの言葉に、テラとアクアの心境がこちらに傾く。
これを見て、無轟は立ち上がって丁度後ろにいたオパールを見た。
「お前はどうする?」
「…戦う。あいつの気持ち、分からなくないけど…こっちは故郷襲われてたんだし。リク! 協力しなかったら殴るわよ!!」
「まったく…強引だな」
拳を作るオパールにリクは苦笑いを浮かべてしまう。
ウィドは未だに茫然としているが、それでもほとんどの者達が戦う意思を取り戻す。
そして、それはエンも同じだった。
「そうか…ならば、もう容赦はしない!!!」
全員を鋭く睨むなり、ダブルセイバーを地面に突き刺す。
それと同時に、エンを覆うように足元から闇が噴き出した。
「これが――私の全力だっ!!! 『アローザス・ベリアル』!!!」
高密度の闇がエンを中心に、一気に広がる。
辺りが闇に包まれると共に、辺り一帯に出現した闇の刃が全員に容赦なく襲い掛かった。
『『『『『『うわああああああああ(きゃああああああああ)っ!!!??』』』』』』
まるで全身を切り刻まれる感覚に、全員は悲鳴を上げる。
幾度となく襲い掛かる激痛に、誰もが意識を手放そうとしていた。
(俺達…ここで、終わるのかよ…?)
遠くなる意識の中、クウは夢現な状態でそんな事を考える。
もはや指一本すら動かす事も出来ず、そのまま意識を繋ぐ糸が切れる。
だが、そんな闇の中に光が差しこんだ。
(え…!?)
思わず目を見開くと、辺りが光に染まる。
そうして闇が取り払われ、元の景色に戻る。
更に、驚くべき事に全員は無傷のまま地面に倒れていた。
「何故だ!? あんな攻撃、防御出来る筈が…!?」
顔を上げると、エンは着ていた白の衣装は黒く染まり、服にあちこち鎧のようなパーツを付けている。そして、ダブルセイバーも刀身の幅が広がり、色も金と銀に変わっている。
強化したエンが信じられないとばかりに目を瞠るが、それはこちらも一緒だった。
「うそ…?」
「あれだけの攻撃が、一体…」
「どうなってるの…?」
ソラとテラが無傷となった身体を見回す中、オパールも茫然としている。
「クウさん…何か、光ってますよ?」
その時、レイアが首を傾げて光が漏れているポケットを指す。
すぐにそれを取り出すと、先程スピカがくれた指輪が光っていた。
「さっき、スピカがくれた指輪…」
「それは…『リレイズ』の魔法!?」
ゼロボロスが指輪に込められた魔法を言い当てると同時に、指輪は役目を終えたとばかりにクウの手の中で粉々に砕け散った。
「お守り代わりって、こう言う事だったのか…」
スピカのおかげで命拾いし、クウが笑みを溢す。
この一部始終を、エンは震えながら見ていた。
「どう、して…!?」
「繋がってるんだ」
ソラは自信を持って言うと、胸に手を当てる。
「俺達の心は繋がってる。それは目に見えないけど…――スピカとの繋がりが、こうして俺達を助けてくれたんだっ!!!」
「そうだな…どの世界でも、スピカは本当に力を持っている。だが、彼女の加護はもう消え失せた!!! お前達を守る者は、もう何もない!!!」
「それがどうした!?」
「スピカさんのおかげで、こっちは全回復させて貰った!!」
「力を貸してくれた彼女の為にも、負ける訳にはいかない!!」
エンが形の変わったダブルセイバーを向けるが、負けじとヴェン、テラ、アクアを筆頭に全員は武器を構えた。
淡々と言いつつも、悲しみを隠しきれてないエンを見て全員は何も言えなくなる。
「消えゆく意識の中でその光景を眺める事しか出来なかった…そして最後の一人であるソラを消そうとした時…命がけで、スピカが捨て身覚悟で助けた。その一瞬の隙を使って、あいつはχブレードを胸に刺した…――χブレードは均衡な光と闇で生まれたものだから、自らの心を使って打ち崩そうとしたんです」
「ソラって、どの世界でも無茶するんだね?」
「ご、ごめん…」
カイリが不満そうに睨むと、ソラは身を縮こませて謝る。
前にソラの中に入っていたカイリの心を解き放つ為、人の心のキーブレードを何の迷いもなく自分の胸に刺した事があるのだ。
「そうして均衡を崩されたχブレードは、たちまち暴走を始めた。抑え切れない強大な力が鍵を中心に自分達のいた世界だけでなく、他の世界にも広がり…全てが無に消え去った。その時の力に巻き込まれた私は、別の異世界に飛ばされ『キーブレード墓場』と同じ世界で目覚めた」
「まさか、その力に巻き込まれたから…あなたはノーバディに?」
ゼロボロスが聞くと、エンは自傷するように笑い出した。
「不思議な物ですよ。目覚めた瞬間、《何かが足りない》って感じるんですから。怒りも悲しみも感じず、ただ茫然となって…」
「私と同じです…」
同じノーバディであるレイアも頷くと、その時の事が過る。
記憶にはない別の世界で目覚めたのに、不安も恐れも感じなかった。まるで人形のように、意識が茫然としていた。
「…あんたの過去は分かった。けど、何でスピカを敵にした? てめえも俺と同じなら――」
直後、クウの顔の横を光の弾がスレスレに通り抜ける。
即座に『ルイン』の魔法を使ってクウの口を塞ぐと、エンは思いっきり睨みつけた。
「――確かに、客観的に見れば同じですよ。でも…貴様みたいな奴と一緒にされるくらいなら、この場で消えた方がずっとマシだっ!!!」
クウに対して拒絶の姿勢を取るエンに、堪らずヴェンが反論をする。
「異世界の人間でも、クウと一緒なんだろ!? 何でそんな事言うんだよ!?」
「憎くもなるでしょうね…何も出来ないまま全てを失ってしまったら」
その答えは、エンではなく意外な人物の口から出て来た。
「ゼロさん…」
そう呟きながら、今の言葉を述べた人物をレイアが見る。
ゼロボロスは、何処か遠くの目をしつつもエンを見ていた。
「僕もあなたと似た経験したから、分かりますよ。倒すべき敵との戦いの果てに戦友を、大事な人の命をそいつに奪われ…何も出来なかった自分を憎む気持ちは」
「ゼロ、お前…」
過去を思い出しながら話すゼロボロスに、クウは顔を俯かせる。
周りもエンの語った壮絶な過去に口を開けずにいた。
ただ一人を除いて。
「話を戻す…――お前の目的は何だ?」
そう言って、今まで黙っていた無轟がエンを見る。
すると、エンも気を取り直したのか無轟を見つめ返した。
「『χブレード』を作り出し、全てを取り戻す。その為に――」
そこで武器を持ち直すと、一直線に倒れたままのウィドに駆け込む。
突然の事に他の人達は反応が遅れてしまう。その間に、エンはウィドに向かってダブルセイバーを振り下ろした。
「つぅ!?」
だが、即座にクウが割り込み、エンの振り下ろした刃を両手で握って受け止める。
特殊な手袋のおかげで手は傷つかずに済む中、エンはクウを無視してウィドの持つ剣を見た。
「お前の持つ“シルビア”を手に入れる」
「「「「「シルビア!?」」」」」
エンが放った単語に、ソラ達メンバー五人は目を見開く。
あまりの驚き様に、アクアはヴェンに聞いた。
「ヴェン、知ってるの!?」
「ああ、大昔に作られたキーブレードだって!!」
「でも何でウィドが!?」
「そんなのどうでもいい!! てめえ、χブレードで世界を滅ぼしたんだろ!! だったらどうしてそんなの求めるんだ!?」
カイリも混乱してると、クウは刃を持ったままエンを睨みつける。
「χブレードの力に干渉して手に入れた異世界を巡る回廊を使って、分かったんですよ。χブレードが司るのは、終焉と再生。だから、再生を使って滅んだ世界を取り戻す!! 例えどんな犠牲を払おうとなぁ!!」
そうしてクウごと斬ろうと武器に体重をかけるエンに、オパールが叫んだ。
「ちょ、犠牲って何よ!?」
「前にセヴィルから聞いた事がある!! この世界は一度闇に呑まれて再生した…――要はこの世界滅ぼして、お前の世界に作り変えるって事かぁ!!」
「合ってはいますが、一つだけ違う…――滅ぼすのは、他の異世界だ!!」
そうクウに叫ぶなり、エンは急に力を緩め武器を軽く捻じる。
すると武器を握る手が緩み、刃をその手から引き剥がすと共に後ろに大きく跳躍してクウから距離を取る。
そのまま一度周りを見回し、話を続ける。
「その世界は、本物の神が存在している…だが、世界が闇に呑まれても救いを求めても、その者達を見捨てる愚神がいる世界。そんな世界、滅ぼしてより良い世界に作り変えても問題はない。違いますか?」
「そんな世界が…!」
思いもしないエンの話に、アクアが唖然となる。
この世界ではなく、救いを与えぬ神が存在する世界を滅ぼす。確かに、エンの行動は一種の正しい行いに感じるし、願いだって闇を持つ者達のように悪ではない。
誰もがエンの行動に否定出来ず黙っていると、低い声が響く。
「何だよ…それ…!!」
視線を向けると、ソラが震えながらエンを睨んでいた。
「例えどんな世界でも…誰かを犠牲にするなら、異世界の俺達が蘇っても絶対に喜ばないっ!!! 分かんないのかよ、エンっ!!?」
ソラと同じ気持ちなのか、カイリもエンを説得する。
「そうだよ!! そんなのただの独り善がりだよ!? そんな事して生き返るなんて私達は望んでないし、絶対に後悔する!!! だからこんな事もう止めてっ!!!」
「言われなくても分かってるっ!!!」
直後、エンが空間一帯を震わせるほど二人に怒鳴り付けた。
突然の叫びに全員が怯むと、エンは悔しそうに歯を食い縛り、今にも泣きそうな目でソラを睨みつけた。
「俺が何もしないでこの道を選んだと思ってるのかっ!!? 俺が『χブレード』を求める為だけに世界を巡って来たと本気で思ってるのかよっ!!?」
胸に手を当てながら、溜め込んだ感情を爆発させるように怒鳴り付けるエン。
先程までの丁寧な言葉は完全に崩れ去り、クウのように―――否、素を露わにするエンに誰もが言葉を失ってしまう。
「気が遠くなるぐらい、いろんな方法を探した!! 犠牲を生まない方法を模索して、旅で得た沢山の知識を使って考えた…――だけど、見つからなかった!!! どれもこれも中途半端なものばっかりだ!!! 完全な世界、完全な人達を蘇らせるにはもうこれしか残されていないんだっ!!!」
そこで言葉を切ると、拳を頑なに握り締める。
「あのジジイと同じ道は取りたくない……でも、そうも言ってられない時期に俺は来ているんだっ!!! 分かるか!!? 大事な人を、新しい家族さえも守れなかった俺の気持ちが!!? 何も出来ずに戦友を消してしまった俺の痛みが!!? 喜ぶ訳がないって知りながらも方法が残されていない苦汁がぁ!!!」
今まで隠していたエンの本心の声に、全員は顔を俯かせてしまう。
ゼアノートによって失ってしまった仲間、家族、世界。長い間探した結果、取り戻す方法は他の世界を犠牲にすると言う事だけ。
今のエンの状況に自分達が口を挟める余地が無く、辺りに沈黙が圧し掛かる。
「それでも…」
再びソラが口を開くと、ゆっくりと顔をエンに向けた。
「あんたは間違ってるっ!!!」
大声でハッキリと告げると、ソラはエンを睨みながらキーブレードを構える。
意地でも戦おうとするソラの姿に、カイリが嬉しそうに叫んだ。
「ソラ!!」
「例え俺達の世界が消えなくても、そんな事しちゃ駄目だ!! あんたも俺達も絶対悲しむ!!」
揺るぎない目でソラが叫ぶのを見て、周りに動揺が走る。
それにより、傾いていた意思が徐々に元に戻っていく。
「…俺も同意見だ、エン」
クウは静かにエンに告げると、拳を叩いて宣言した。
「あんたは俺を認めない…それは俺も同じだ。あんたのような道を取るくらいなら、俺は最後まで犠牲を生まない道を探し出す!!」
「クウさん!」
エンを睨みながら言い切ったクウに、レイアは笑みを浮かべる。
「僕も手伝うよ。彼の気持ちは痛い程分かるけど…――優先するべきなのは、いなくなってしまった人の気持ちだからね」
「そうだよな…テラ、アクア。一緒に止めよう」
「「ヴェン…」」
ゼロボロスとヴェンの言葉に、テラとアクアの心境がこちらに傾く。
これを見て、無轟は立ち上がって丁度後ろにいたオパールを見た。
「お前はどうする?」
「…戦う。あいつの気持ち、分からなくないけど…こっちは故郷襲われてたんだし。リク! 協力しなかったら殴るわよ!!」
「まったく…強引だな」
拳を作るオパールにリクは苦笑いを浮かべてしまう。
ウィドは未だに茫然としているが、それでもほとんどの者達が戦う意思を取り戻す。
そして、それはエンも同じだった。
「そうか…ならば、もう容赦はしない!!!」
全員を鋭く睨むなり、ダブルセイバーを地面に突き刺す。
それと同時に、エンを覆うように足元から闇が噴き出した。
「これが――私の全力だっ!!! 『アローザス・ベリアル』!!!」
高密度の闇がエンを中心に、一気に広がる。
辺りが闇に包まれると共に、辺り一帯に出現した闇の刃が全員に容赦なく襲い掛かった。
『『『『『『うわああああああああ(きゃああああああああ)っ!!!??』』』』』』
まるで全身を切り刻まれる感覚に、全員は悲鳴を上げる。
幾度となく襲い掛かる激痛に、誰もが意識を手放そうとしていた。
(俺達…ここで、終わるのかよ…?)
遠くなる意識の中、クウは夢現な状態でそんな事を考える。
もはや指一本すら動かす事も出来ず、そのまま意識を繋ぐ糸が切れる。
だが、そんな闇の中に光が差しこんだ。
(え…!?)
思わず目を見開くと、辺りが光に染まる。
そうして闇が取り払われ、元の景色に戻る。
更に、驚くべき事に全員は無傷のまま地面に倒れていた。
「何故だ!? あんな攻撃、防御出来る筈が…!?」
顔を上げると、エンは着ていた白の衣装は黒く染まり、服にあちこち鎧のようなパーツを付けている。そして、ダブルセイバーも刀身の幅が広がり、色も金と銀に変わっている。
強化したエンが信じられないとばかりに目を瞠るが、それはこちらも一緒だった。
「うそ…?」
「あれだけの攻撃が、一体…」
「どうなってるの…?」
ソラとテラが無傷となった身体を見回す中、オパールも茫然としている。
「クウさん…何か、光ってますよ?」
その時、レイアが首を傾げて光が漏れているポケットを指す。
すぐにそれを取り出すと、先程スピカがくれた指輪が光っていた。
「さっき、スピカがくれた指輪…」
「それは…『リレイズ』の魔法!?」
ゼロボロスが指輪に込められた魔法を言い当てると同時に、指輪は役目を終えたとばかりにクウの手の中で粉々に砕け散った。
「お守り代わりって、こう言う事だったのか…」
スピカのおかげで命拾いし、クウが笑みを溢す。
この一部始終を、エンは震えながら見ていた。
「どう、して…!?」
「繋がってるんだ」
ソラは自信を持って言うと、胸に手を当てる。
「俺達の心は繋がってる。それは目に見えないけど…――スピカとの繋がりが、こうして俺達を助けてくれたんだっ!!!」
「そうだな…どの世界でも、スピカは本当に力を持っている。だが、彼女の加護はもう消え失せた!!! お前達を守る者は、もう何もない!!!」
「それがどうした!?」
「スピカさんのおかげで、こっちは全回復させて貰った!!」
「力を貸してくれた彼女の為にも、負ける訳にはいかない!!」
エンが形の変わったダブルセイバーを向けるが、負けじとヴェン、テラ、アクアを筆頭に全員は武器を構えた。