Another the last chapter‐23
長年求めてきた純粋な願い。それを打ち崩さんとする決意。
誰もが譲れない思いを抱く中、バトルは激しさを増していく。
「『トライスパーク』!!」
「『零斬』!!」
「『サンダーストーム』!!」
オパールが雷の結晶を投げると共に、ゼロボロスが手に魔力を宿して接近し、テラがエンに狙いを定めキーブレードの切先を向けて複数の雷の弾丸を発射する。
「『エンジェルハイロゥ』」
しかし、エンが一回転するようにダブルセイバーを振るうだけで、強大な風圧と共に光の輪が現れる。
周りに落ちた三つの雷や複数の雷の弾丸は光の輪で防御され、手刀で斬り付けようとしたゼロボロスは風圧の攻撃で吹き飛ばされた。
「威力が上がってる…!」
「どうやら、変わった服装や武器は見掛け倒しじゃないって事か…それでも!」
「勝って見せる!! 『ラグナロク』!!」
顔を顰めるオパールにクウが叫ぶと、ソラが飛び上がって光を溜めて複数の光線を放つ。
「『メテオバースト』!!」
「『スピードレイヴ』!!」
「『ファイアブレイザー』!!」
先陣を切るソラに続く様に、リクは上空からエンに迫り、ヴェンも一気に近づいて素早い攻撃を、アクアは上空に飛び上がって炎の力を込めたキーブレードを放つ。
「『ヘイトレッド』」
だが、エンが双剣に変えて握り込むと共に、黒い衝撃波が包み込む。
衝撃波が壁となり光線や地面から噴出する炎は防がれ、悪い事に上空から叩き斬ろうとしたリクと接近していたヴェンにダメージが襲い掛かった。
「ぐぁ!?」
「うぐっ!?」
「『ブレードリング』」
衝撃波に巻き込まれ地面に叩きつけられた二人に、エンはダブルセイバーを横に回転させながら近づいて斬り刻もうとする。
「『無爻祓』!!」
だが、片腕に魔力を纏った無轟が間に割って入る。
そして、回転するダブルセイバーに片腕をぶつけて弾いた。
「刀が無くてもこの力量…さすがですね」
「これも修行で得たものだからな。『無刃刀』!!」
攻撃を弾かれた事に評価するエンに、無轟はさっきの片腕を手刀に変えて薙ぎ払う。
その攻撃をエンは後ろに跳んで回避していると、背後で影が差した。
「『疾風迅雷』!!」
ウィドが飛び上がりながら斬り裂こうとするのを見て、とっさに白の双翼を盾にする。
まるで竜巻のように高く飛翔すると、雷光のように一気に真下に叩き斬る。
しかし、エンはその攻撃を諸ともせず、盾代わりの翼の間から声をかけた。
「私に攻撃ですか。さっきまであいつを憎んでいたのに?」
「勘違いするな!! 貴様の次に、あいつを斬る!! 『氷蒼剣』!!」
怒鳴り付けるなり、ウィドは剣を振るって氷の剣を作り出す。
そうしてエンに飛ばすが、白の翼に憚られ虚しく砕けてしまった。
それと同時に、エンは翼を広げて防御を解く。
「『カオスペイン』」
だが、即座に反撃とばかりに闇の魔法を打ち込む。
すると、ウィドと無轟、リクとヴェンに闇の瘴気が包み込んで弾けた。
「ぐっ…!?」
「うぁ…!?」
魔法によるダメージと共に、身体に不調をきたしたのかリクとウィドが苦しそうに声を上げる。
膝を付いて動けなくなった四人に、エンは一歩踏み出した。
「おっと! 俺を忘れるなよ!」
その時、クウが横から近づく。
エンが苛立ちを交えて見ると、右手に魔力を込めている。
「その技は…!」
「『ブリッツ』改め…『チャージドロップ』!!」
魔力を込めた右手を握り込み、エンに殴りかかる。
すぐに翼を使って防御するものの、爆発による威力までは防御出来ず地滑りを起こしながら後方へと飛ばされた。
「人の技を盗むとは、手癖の悪い!!」
「技術は盗んで覚えるモノ、そう師匠に叩き込まれたんでな!! それに…」
「手癖の悪さはあたしが一番なんだから」
予想しなかった声が聞こえ、翼の合間から覗き見る。
そこには、オパールが金色の大きめの結晶を持って自信ありげに笑っていた。
「モーグリ族の技術、見せてあげる!! レイア!!」
「はいっ!! 癒しの光よ、集え!」
少し離れた場所にいたレイアも杖を水平に構えると、魔力を高める。
レイアもスピカの残してくれた魔法で回復していたのだと理解していると、オパールが結晶を上空に投げて光らせる。
空間全体を暖かな光が包み込む。この光景に、エンは目を細めて腕を振るった。
「「『サンチュクアリサークル』!!!」」
暖かだった光が一気に輝き、全体を聖なる光で覆いこむ。
やがて光が晴れると、四人の不調はもちろんダメージも回復している。
それからエンを見るが、薄い黒い障壁を張って身を纏っていた。
「効いてない!?」
「やれやれ、『セイントガード』をかけて正解でした」
味方を回復しただけでなく、聖なる光で攻撃する連携技にエンは魔法の障壁に守られながら肩を竦める。
未だに余裕を保つエンに、ソラとリクが駆け込んだ。
「リク、一緒に!!」
「ああ!!」
そうして二人が声をかけ合うと、一気にエンに近づいた。
「「はあああっ!!」」
エンに向かって素早く突きを放つが、翼で防御させられる。
それでも防御を崩そうと光の剣を作り出していると、エンが小声で魔法を唱えた。
「『シールド』」
その呟きと共に、エンに見えない魔法の障壁が包み込む。
それと同時に光で作られた剣をぶつけるが、何事も無いようにエンの前では掻き消えていく。
「効いてない!?」
「構わず攻撃して! 『崩煌弾』!」
攻撃しながらソラが焦りを浮かべるが、ゼロボロスが白い炎の火球をぶつける。
すると、エンの周りに張ってあった障壁は白い炎をぶつけた所から溶ける様に消えていった。
「くっ…!」
「これで決めるよ!!」
「リク!!」
「全てを失え!!」
魔法を打ち消されて僅かに表情を歪めるエンに、ゼロボロスはより多く魔力を纏わせて手刀を更に伸ばす。
そして、ソラとリクもキーブレードを高く投げつけると切先から放たれた高出力の光と闇を放つ。
「「『オールオーバー』!!!」」
「『虚無幻影・零王斬』!! 貫けぇ!!!」
空間全体を極光で包み込むと共に、ゼロボロスはより強化した『零斬』から白黒のレーザーを放つ。
これだけ強力な攻撃だ。魔法による防御を失ったエンには耐えられないだろう。
普通ならば。
「『グラビティブレイク』!!」
エンが手を上げると同時に、彼を中心に広範囲の黒いドームが現れその中で重力による衝撃波が連動して起こる。
たまたま誰も近くにいなかったから攻撃の範囲には巻き込まれなかったが、ドーム内で放つ重力の衝撃波によって三人の攻撃はエンに全て相殺されてしまう。
こうして三人の攻撃を防御すると、エンは悠然と翼を羽ばたかせた。
「まったく、爪が甘い」
「だったらその余裕面、今砕いてやるよ!! オッサン!!」
「任せろ!! はああぁ!!」
クウの掛け声と共に、無轟が拳に魔力を込めてエンの前に踊り出る。
これを見て、エンは翼で身を守るが二人は気にせずに互いに拳や蹴りをぶつけ合う。
その甲斐あってか、二人が同時に蹴りを放つと翼によるガードが僅かに崩れる。訪れたチャンスに、無轟は拳に炎を纏わせた。
「飛べ、クウ!!」
「ああっ!!」
クウが黒の双翼を羽ばたかせて飛び上がると、無轟は球体状にした炎の塊を上空に投げつける。
そうして投げてきた炎の塊を、クウは空中でバク転しながらエンに向かって蹴り放った。
「「『ブレイズブリッツ』!!!」」
クウの蹴った炎はエンに着弾すると共に、大爆発を起こす。
辺りが炎による煙で包まれる中、クウはバク転したまま落ちる。
「最後は頼むぜ、三人共っ!!!」
視線の先にいる人物達に笑顔で叫ぶと、軽く身を捻って着地する。
そんな彼の声援の先には、光で出来た紋章の上にテラ、ヴェン、アクアが静かに立っていた。
「テラ、ヴェン…準備は!!」
「もちろん!!」
「これで最後だ!!」
三人が一斉にキーブレードを天に突き上げ、切先を合わせる。
キーブレードの力が解放され、眩い光が辺りを包み込む。
「「「『トリニティ・リミット』!!!」」」
キーブレードの光が閃光となり、一気に弾ける。
光が収まると、目の前にいるエンは服がボロボロになり負傷したのか腕を押さえている。
戦えない程追い込んだと確信し、ソラとカイリが声をかけた。
「俺達の勝ちだ、エン!!」
「エン、もう諦めて」
「ええ…認めましょう」
二人の言葉に頷くと、顔を上げて言った。
「――そちらの敗北を、ね」
今の状況と真逆な事を言うエンに、困惑が浮かぶ。
それでも、クウが訝しげな目でエンを睨みつける。
「はぁ? それだけボロボロのクセに何を――」
「では逆に聞きますが、それ以外に私に何か変わった点は?」
「変わった点――っ!?」
リクが聞き返してエンを見ると、ある事に気付く。
腕を押さえている手はもちろん、下ろしている手にも“武器”を持っていないのだ。
よくよく思い出せば、エンは武器を手放した際にも何かしらの攻撃を行っていた。
ゼロボロスもそれに気付き周りを見ると、頭上で二つに分けた剣が輝いていた。
「やけに大人しいと思ったら、大技を仕込んでいたんですか!?」
「皆さん、すぐに私の傍に――!!!」
「もう遅い!! 『クライシスセイバー』!!!」
レイアが障壁で防御しようとするが、エンが腕を振り下ろす。
すると、金と銀に輝く剣が光を増し、地面へと一気に突き刺さる。
それと同時に、辺り一帯に無数の光線が幾度となく彼らに襲いかかり、二つの剣が全員を挟み込む様に光と闇の大爆発を起こす。
先程よりも強力な攻撃に、もはや悲鳴すら上げられない。やがて攻撃が終わると全員はボロボロの状態で地面に倒れていた。
「終わった?」
エンが元の白衣装に戻っていると、一つの足音と共に声が響く。
振り返ると、白黒の衣装に仮面を付けた女性―――カルマが悠然と立っていた。
「…ええ、後は任せますよ」
エンはそれだけ言うと、ウィドに近づいて落ちていた剣を奪い取る。
そうして全員から背を向けて離れていると、虫の息になりながらもテラが声を上げた。
「誰だ…!?」
「名乗る必要はないわ」
笑いながらそう言うと、手を広げて腕を伸ばす。
手から光が現れると、金色の刀身の鍵が具現化した。
「キー…ブレード…?」
「何を、する気だ…!?」
見慣れた武器にヴェンが小さく呟くと、アクアがカルマを睨みつける。
そんな動けない彼らに、カルマは笑いながら答えた。
「同胞にするの、彼をね」
そう言って、キーブレードの切先を向ける。
仰向けに倒れているソラに。
「なにっ…!!」
「彼は『鍵』を握っているそうだから……そうでしょ?」
リクが息を呑む中、カルマはエンに向かって同意を求める。
だが、エンは背を向けたまま何も答えない。それでも、ソラを狙っている事だけは誰もが理解した。
「どう言う…意味、ですか…?」
レイアが残る気力で質問をぶつけると、カルマはキーブレードを下ろして答えた。
「『シルビア』、『アウルム』……この二つは、かつて『キングダムチェーン』から作られた物だからよ」
この言葉に、倒れている全員が視線を上げてエンの持つウィドの剣を見る。
「この二つを融合させれば、あの戦争で現れたのと同じ…――『χブレード』が作られる」
「それが…ソラと、何の関係が…!?」
カルマの話と現状に関係性が見出せず、リクが声を振り絞って疑問をぶつける。
そんなリクに、カルマは顔を向けて答えた。
「融合を阻止する為に、『シルビア』にはキーブレードと同じ所有者を決める権利が与えられている。その絆が融合を拒む…そうして結ばれた絆は『シルビア』の元である『キングダムチェーン』でしか解く事が出来ないからよ。自分の意志でも出来るらしいけど、ホンの一時期、しかもある程度の制限があるから」
「何で…そんな、事を…!!」
狙われているソラもカルマを睨むと、顔を向けて静かに言った。
「――私の計画、そして彼の計画の為に」