Another the last chapter‐24
「あなたの…計画…!?」
「ええ…――私のいた世界を壊し、作り変えるの。彼の世界にね」
ゼロボロスが歯を食い縛ると、カルマは頷いてエンに軽く視線を送る。
そして、カルマはこれで話は終わりとばかりにキーブレードを握り締め歩き出す。
コツコツと冷たい足音を響かせ、ソラのすぐ傍で足を止めた。
「大丈夫、すぐに済むわ。ああ、キーブレードを使ったら“彼女”と同じように駒として使ってあげる。もちろん、他の人達もね?」
この言葉に、ウィドが目を見開いて反応した。
「まさ、か…!? お前が…姉さんを…!?」
「論より証拠よ。今見せてあげるわ」
カルマがキーブレードを振り上げる様子に、誰もが身体を必死で動かそうとする。
しかし、エンによって痛めつけられた身体は僅かに動くだけでも激痛を起こす。
それでも助けようと呻き声を上げる中、クウは目の前の光景を悔しそうに見ていた。
(俺は…また失うのか…!?)
目の前でスピカを救えなかったのに、レイアを斬られたのに、また同じ事を繰り返すのか?
《彼を守って》って最後に頼まれたのに。守るって約束したのに。
俺は…守れないのか? あいつを、約束を?
嫌だ。
いやだいやだイヤダイヤダ――!!!
―――ドクン…っ!!
鼓動が大きく跳ね上がると同時に、クウに異変が起こる。
そんな事は知らず、カルマが白と黒の光を宿したキーブレードを振り下ろした。
直後、横から黒い影が突進しカルマを吹き飛ばした。
「がぁ!?」
「なっ…!?」
「クウ…?」
カルマのくぐもった声にエンが反応していると、ソラが目を見開く。
先程までカルマのいた場所に、クウが蹴った状態で立っている。
だが、様子がおかしい。
「ハハッ…」
虚ろな目で笑いながら、クウは闇のオーラを立ち上らせる。
そのまま不穏な空気が包み込み、双翼を形作っていた羽根が鋭くなっている。
「ハハハ、アハ…アハハハ…!!」
乾いた笑い声を上げながら、狂気に満ちた笑みを浮かべるクウ。
正気を保っていないこの様に、ソラ達に一つの記憶が蘇る。
レイアが刺された後からスピカを抱きかかえる間に見せた、クウの姿に。
「あれ…さっきの…!?」
「クウ…!?」
倒れながらヴェンとテラが呟くと、クウはカルマに視線を合わせる。
すぐに構えを作ると同時に、クウが一瞬で近づいてきて拳を放った。
「くっ…!!」
カルマはキーブレードで受け止めるが、あまりの力強さに膝を折る。
これを見て、クウは更に闇を纏った拳を振り下ろそうとするが、すぐに横に跳ぶ。
エンが横から双剣を振って来たからだ。
「エンっ!!?」
「――『ホワイトウィング』っ!!!」
思わずカルマが叫ぶと、エンは無視するように一つの魔法を唱える。
白い風が空間全体に靡き、倒れている人達の傷を癒す。
これには敵であるソラ達はもちろんカルマも驚くが、余裕はないのかクウを睨みながらエンは全員に叫んだ。
「カルマ、今の内に退けっ!!! あなた達もすぐに逃げなさい!!!」
「なんで…!?」
「今のこいつは危険だっ!!! 闇の力で暴走している!!!」
「そんなの、私の『パラドックス』で――!!」
オパールが唖然とする中、エンの説明を聞いたカルマは再び刀身に黒の光を宿す。
それに気付き、クウは拳を振るってドス黒い衝撃波を出す。
あまりの大きさに加え速く飛ぶ衝撃波に、さすがのカルマも防御を取るしかなかった。
「ぐうぅ!?」
「チィ!!」
カルマの怯む一瞬の隙にクウが向かうが、動きを読んでエンが前に出る。
結果、クウとエンは中間地点で拳と双剣を押し合う形となった。
「カルマ、分かったでしょう…!? 今のこいつは危険すぎる…『Sin化』を起こす前にやられてしまう!!」
「みたいね…!?」
さすがのカルマも、今のクウの状態に歯を食い縛る。
その時、クウがもう片方の手で双剣の間からエンの頭部を鷲掴みする。
すると、そのままエンを地面に力強く叩きつけた。
「ひっ…!?」
「ぐぅ…!! カルマ、後は任せます…!!」
「なっ…!? エン!!」
クウの非情な行いにカイリが小さく悲鳴を上げていると、エンが地面に押し付けられながらもカルマに手を伸ばす。
カルマが叫ぶと、エンは優しく微笑んだ。そう…クウと同じ顔で。
「ちゃんと戻ってくる…それぐらい、信用してください――…『テレポ』」
魔法を発動させると共に、カルマの姿が光と共に消える。
こうして彼女を逃がすと、エンは鋭くクウを睨みつけた。
「貴様…とうとう化け物に成り下がったかぁ!!!」
双剣を握り込むと同時に、エンがその場から消える。
それからクウの頭上に現れ双剣で斬り込もうとするが、翼が棘のように変化する。
攻撃が防御され、翼の棘に腕が貫かれた。
「ククク…ハハハハっ!!!」
「こんな事なら、強化を解かなければ良かった…!!」
『フォール・テレポ』を使って脱出は出来たが、攻撃を跳ね返された状況にエンは顔を歪ませさっきの行いを悔いる。
その間にもクウは拳や蹴りを放ってくる。それらを避けつつ、エンは魔法を唱えた。
「『カーズ・スロウ』!」
闇の瘴気が現れ、クウに纏わりつく。
そのまま掻き消える光景を見て、エンは軽く息を吐く。
(後は時間稼ぎすれば、あいつは終わる!)
そう確信すると、エンは素早く魔法を唱え、放つ。
「災厄よ! 『メテオ』!!」
手を振り上げると共に、辺り一帯に隕石が降り注ぐ。
上級にも値する強力な魔法だ。例え倒れなくとも、時間稼ぎにもなる。
しかし、クウは翼で身を覆い固めて降り注ぐ隕石の中を一筋の矢のように高速で突っ切っていく。
気付いた時には狂気に満ちた黒の瞳と合い…思いっきり激突された。
「がはぁ…!!?」
速度も合わさった鋭い突進に、エンは全身で倒れ込みながら地面を滑る。
それでもエンは立ち上がろとするが、上からクウが闇による圧力をかけて片足で背中を踏みつけた。
「う、ぐ…ここまで、か…っ!?」
暴走する闇の強さに身動き出来ず、視線をクウに送る。
見ると、クウは尚も笑いながら渦巻く闇を拳に溜めて振り上げている。
完全に闇で跡形も無く消すのだと分かり、エンは悔しそうに目を閉じた。
しかし、何時まで経っても拳は振り下ろされなかった。
「うっ、くっ…!!」
「ぬぎぎぎ…!!」
「ううっ…!!」
そうこうしていると、何かを耐える様な声が聞こえる。
恐る恐るエンが目を開けると、信じられない光景が飛び込んだ。
「なに、を…してる…!?」
拳を振り下ろそうとするクウを、後ろからソラ、ヴェン、レイアがそれぞれ腕や腰に抱きついて動きを封じていたのだ。
「クウ!! 何やってんだよ!!」
「もういいだろ!! 落ち着けよ!!」
「クウさん、止めてぇ!!」
「アアアアアアアッ!!!」
三人が声をかけるが、クウは振り払うかのように身体を激しく動かす。
それでも必死で止めようとする三人に、エンは信じられないとばかりに呟いた。
「どうして…私を…!?」
「あんたの、為じゃない…!! クウは、俺を守ろうとしただけだろ…!!」
「そうです…!! クウさんは、本当は優しい人です…あなたも、そうですよね…!!」
「こんな終わり方、俺達は納得しない…――だから、止めるんだ…!!」
ソラやレイア、ヴェンがクウを抑え込みながら答えると、エンは失望に似た色を瞳に宿す。
「無駄だ、止められない…こいつはもう、闇に呑まれてる…」
「だから何ですか!!?」
「ああ…――クウが闇に呑まれたのなら、俺達の光で助ければいいっ!!!」
レイアが叫ぶと、ソラも否定するように自信を持って宣言する。
そんな三人の目には、仲間を救うと言う決意を宿している。
エンだけでなく周りもそれを感じていると、三人はクウに大声で叫んだ。
「クウ!! 目を覚ませよ!!?」
「クウさん!! 私達の声を聞いてっ!!!」
「止めてくれ!!! クウっ!!!」
「ア、ア…ウアアアアッ!!!」
しかし、三人の叫びも虚しくクウは拒絶するように全身から闇を噴出させる。
まるでしがみ付く三人を呑み込もうと、闇が身体を浸食する。
「「う、ぐっ…!?」」
だんだん身体が重くなるのを感じ、ソラとヴェンが苦しそうに声を上げる。
ローブの効力を失っているレイアも表情を歪める中、リクが叫んだ。
「ソラ、離れろ!? お前まで闇に呑まれるぞ!!」
「い、やだ…!! 絶対、クウを助けるんだ…!!」
リクの忠告に首を振ると、ソラは尚もクウにしがみ付く。
同じようにヴェンとレイアも助けようとしがみ付く光景に、アクアは顔を俯かせながら呟いた。
「闇に心を捕らわれた者は、破滅の道を辿る…マスターの言う通りだった」
そう言ってアクアは立ち上がると、キーブレードを握りクウを睨みつける。
その瞳に映るのは、敵意だ。
「アクア、駄目だ!! クウはソラを助けようとした!! アクアだって――!!」
「分かってる!! だけど…もう彼は闇に堕ちた存在!! このままあなた達が消えるくらいなら、私はマスターとして彼を――!!」
ヴェンが止めようとするが、アクアは何かを堪える様にクウに向かってキーブレードを構える。
「――こんな奴の為に…手を汚す必要はない」
突然の呟きと共に、ソラ達四人が暴風によって吹き飛ばされる。
それが『エアロ』の魔法と気づいた時にはそれぞれが別方向に離れて行った。
「エン!?」
四人を離れさせるように魔法を放ったエンに、ゼロボロスが驚きを見せる。
その間にも、クウは吹き飛ばされながらも身体を捻って体制を立て直そうとする。
直後、急にクウが痙攣を起こしたかのように身体を震わせ、受け身を取れないまま地面に激突した。
「クウ!?」
「グゥ…ガッ…!!」
「ようやく発動しましたか。しかも、全ての体力と魔力を奪う効果とは私も運がいいですね」
無轟が声をかけるが、クウはロクに身体を動かせないのか倒れたまま苦しそうに呻き声を上げる。
そんなクウとは打って変わり、回復したエンが立ち上がると血まで凍らせるような睨みを放つ。
「闇に呑まれてでも助けようとした所までは認めますが、自らの怒りや悲しみの感情に捕らわれ仲間すら傷付ける…――想像以上に、貴様は最低な奴だったな…!!」
低い声で喋りながらクウを睨む眼光に、誰もが心の奥底で恐怖を抱く。
その威圧感に動けずにいると、エンはダブルセイバーに変えると闇を纏わせて振り上げた。
「そんなに闇が好きなら、闇だけの世界に堕ちろ!!! 『デジョネイトゲート』!!!」
ダブルセイバーを振るうと同時に、巨大な闇の衝撃波が現れる。
人一人を軽く呑み込めるそれは、体力を全て奪われて蹲るクウに迫る。
「いやぁ!!! クウさぁん!!?」
クウに迫る闇の衝撃波に、レイアが魔法を発動させようとする。
テラや無轟も攻撃を止めようと動くが、どうあがいても間に合わない。
しかし、闇が到達するよりも早くソラがクウの後ろに素早く移動する。
そのまま、キーブレードを強く握り締め…――横に振るってクウを大きく吹き飛ばした。
『『『え…?』』』
目の前に広がった光景に、誰もが目を疑う。
その間にもクウは離れるように吹き飛ばされ、代わりにソラはキーブレードを振るったままその場に留まっている。
そうして吹き飛ばしたクウと目が合うと、『ハードストライク』を使ったソラはその状態で笑いかけた。
直後、闇の衝撃波はソラにぶつかって全てを覆うように呑み込んだ。
「がはぁ!」
「ソラ――!?」
クウが地面に叩きつけられると同時に、リクが叫びながら手を伸ばす。
だが、数秒もしない内にソラを呑み込んだ闇は掻き消える。
僅かな希望を信じて全員が目を凝らすが…ソラの姿は、何処にもなかった。
「ソラ…?」
「嘘、でしょ…!」
信じられないと言った表情でヴェンとオパールが呟くが、現状は何も変わらない。
この最悪の結末に、カイリは震えながらソラが消えた場所を見ていた。
「ソ、ラ…――ソラァーーーーーーーーーーーーーっ!!!??」
「ええ…――私のいた世界を壊し、作り変えるの。彼の世界にね」
ゼロボロスが歯を食い縛ると、カルマは頷いてエンに軽く視線を送る。
そして、カルマはこれで話は終わりとばかりにキーブレードを握り締め歩き出す。
コツコツと冷たい足音を響かせ、ソラのすぐ傍で足を止めた。
「大丈夫、すぐに済むわ。ああ、キーブレードを使ったら“彼女”と同じように駒として使ってあげる。もちろん、他の人達もね?」
この言葉に、ウィドが目を見開いて反応した。
「まさ、か…!? お前が…姉さんを…!?」
「論より証拠よ。今見せてあげるわ」
カルマがキーブレードを振り上げる様子に、誰もが身体を必死で動かそうとする。
しかし、エンによって痛めつけられた身体は僅かに動くだけでも激痛を起こす。
それでも助けようと呻き声を上げる中、クウは目の前の光景を悔しそうに見ていた。
(俺は…また失うのか…!?)
目の前でスピカを救えなかったのに、レイアを斬られたのに、また同じ事を繰り返すのか?
《彼を守って》って最後に頼まれたのに。守るって約束したのに。
俺は…守れないのか? あいつを、約束を?
嫌だ。
いやだいやだイヤダイヤダ――!!!
―――ドクン…っ!!
鼓動が大きく跳ね上がると同時に、クウに異変が起こる。
そんな事は知らず、カルマが白と黒の光を宿したキーブレードを振り下ろした。
直後、横から黒い影が突進しカルマを吹き飛ばした。
「がぁ!?」
「なっ…!?」
「クウ…?」
カルマのくぐもった声にエンが反応していると、ソラが目を見開く。
先程までカルマのいた場所に、クウが蹴った状態で立っている。
だが、様子がおかしい。
「ハハッ…」
虚ろな目で笑いながら、クウは闇のオーラを立ち上らせる。
そのまま不穏な空気が包み込み、双翼を形作っていた羽根が鋭くなっている。
「ハハハ、アハ…アハハハ…!!」
乾いた笑い声を上げながら、狂気に満ちた笑みを浮かべるクウ。
正気を保っていないこの様に、ソラ達に一つの記憶が蘇る。
レイアが刺された後からスピカを抱きかかえる間に見せた、クウの姿に。
「あれ…さっきの…!?」
「クウ…!?」
倒れながらヴェンとテラが呟くと、クウはカルマに視線を合わせる。
すぐに構えを作ると同時に、クウが一瞬で近づいてきて拳を放った。
「くっ…!!」
カルマはキーブレードで受け止めるが、あまりの力強さに膝を折る。
これを見て、クウは更に闇を纏った拳を振り下ろそうとするが、すぐに横に跳ぶ。
エンが横から双剣を振って来たからだ。
「エンっ!!?」
「――『ホワイトウィング』っ!!!」
思わずカルマが叫ぶと、エンは無視するように一つの魔法を唱える。
白い風が空間全体に靡き、倒れている人達の傷を癒す。
これには敵であるソラ達はもちろんカルマも驚くが、余裕はないのかクウを睨みながらエンは全員に叫んだ。
「カルマ、今の内に退けっ!!! あなた達もすぐに逃げなさい!!!」
「なんで…!?」
「今のこいつは危険だっ!!! 闇の力で暴走している!!!」
「そんなの、私の『パラドックス』で――!!」
オパールが唖然とする中、エンの説明を聞いたカルマは再び刀身に黒の光を宿す。
それに気付き、クウは拳を振るってドス黒い衝撃波を出す。
あまりの大きさに加え速く飛ぶ衝撃波に、さすがのカルマも防御を取るしかなかった。
「ぐうぅ!?」
「チィ!!」
カルマの怯む一瞬の隙にクウが向かうが、動きを読んでエンが前に出る。
結果、クウとエンは中間地点で拳と双剣を押し合う形となった。
「カルマ、分かったでしょう…!? 今のこいつは危険すぎる…『Sin化』を起こす前にやられてしまう!!」
「みたいね…!?」
さすがのカルマも、今のクウの状態に歯を食い縛る。
その時、クウがもう片方の手で双剣の間からエンの頭部を鷲掴みする。
すると、そのままエンを地面に力強く叩きつけた。
「ひっ…!?」
「ぐぅ…!! カルマ、後は任せます…!!」
「なっ…!? エン!!」
クウの非情な行いにカイリが小さく悲鳴を上げていると、エンが地面に押し付けられながらもカルマに手を伸ばす。
カルマが叫ぶと、エンは優しく微笑んだ。そう…クウと同じ顔で。
「ちゃんと戻ってくる…それぐらい、信用してください――…『テレポ』」
魔法を発動させると共に、カルマの姿が光と共に消える。
こうして彼女を逃がすと、エンは鋭くクウを睨みつけた。
「貴様…とうとう化け物に成り下がったかぁ!!!」
双剣を握り込むと同時に、エンがその場から消える。
それからクウの頭上に現れ双剣で斬り込もうとするが、翼が棘のように変化する。
攻撃が防御され、翼の棘に腕が貫かれた。
「ククク…ハハハハっ!!!」
「こんな事なら、強化を解かなければ良かった…!!」
『フォール・テレポ』を使って脱出は出来たが、攻撃を跳ね返された状況にエンは顔を歪ませさっきの行いを悔いる。
その間にもクウは拳や蹴りを放ってくる。それらを避けつつ、エンは魔法を唱えた。
「『カーズ・スロウ』!」
闇の瘴気が現れ、クウに纏わりつく。
そのまま掻き消える光景を見て、エンは軽く息を吐く。
(後は時間稼ぎすれば、あいつは終わる!)
そう確信すると、エンは素早く魔法を唱え、放つ。
「災厄よ! 『メテオ』!!」
手を振り上げると共に、辺り一帯に隕石が降り注ぐ。
上級にも値する強力な魔法だ。例え倒れなくとも、時間稼ぎにもなる。
しかし、クウは翼で身を覆い固めて降り注ぐ隕石の中を一筋の矢のように高速で突っ切っていく。
気付いた時には狂気に満ちた黒の瞳と合い…思いっきり激突された。
「がはぁ…!!?」
速度も合わさった鋭い突進に、エンは全身で倒れ込みながら地面を滑る。
それでもエンは立ち上がろとするが、上からクウが闇による圧力をかけて片足で背中を踏みつけた。
「う、ぐ…ここまで、か…っ!?」
暴走する闇の強さに身動き出来ず、視線をクウに送る。
見ると、クウは尚も笑いながら渦巻く闇を拳に溜めて振り上げている。
完全に闇で跡形も無く消すのだと分かり、エンは悔しそうに目を閉じた。
しかし、何時まで経っても拳は振り下ろされなかった。
「うっ、くっ…!!」
「ぬぎぎぎ…!!」
「ううっ…!!」
そうこうしていると、何かを耐える様な声が聞こえる。
恐る恐るエンが目を開けると、信じられない光景が飛び込んだ。
「なに、を…してる…!?」
拳を振り下ろそうとするクウを、後ろからソラ、ヴェン、レイアがそれぞれ腕や腰に抱きついて動きを封じていたのだ。
「クウ!! 何やってんだよ!!」
「もういいだろ!! 落ち着けよ!!」
「クウさん、止めてぇ!!」
「アアアアアアアッ!!!」
三人が声をかけるが、クウは振り払うかのように身体を激しく動かす。
それでも必死で止めようとする三人に、エンは信じられないとばかりに呟いた。
「どうして…私を…!?」
「あんたの、為じゃない…!! クウは、俺を守ろうとしただけだろ…!!」
「そうです…!! クウさんは、本当は優しい人です…あなたも、そうですよね…!!」
「こんな終わり方、俺達は納得しない…――だから、止めるんだ…!!」
ソラやレイア、ヴェンがクウを抑え込みながら答えると、エンは失望に似た色を瞳に宿す。
「無駄だ、止められない…こいつはもう、闇に呑まれてる…」
「だから何ですか!!?」
「ああ…――クウが闇に呑まれたのなら、俺達の光で助ければいいっ!!!」
レイアが叫ぶと、ソラも否定するように自信を持って宣言する。
そんな三人の目には、仲間を救うと言う決意を宿している。
エンだけでなく周りもそれを感じていると、三人はクウに大声で叫んだ。
「クウ!! 目を覚ませよ!!?」
「クウさん!! 私達の声を聞いてっ!!!」
「止めてくれ!!! クウっ!!!」
「ア、ア…ウアアアアッ!!!」
しかし、三人の叫びも虚しくクウは拒絶するように全身から闇を噴出させる。
まるでしがみ付く三人を呑み込もうと、闇が身体を浸食する。
「「う、ぐっ…!?」」
だんだん身体が重くなるのを感じ、ソラとヴェンが苦しそうに声を上げる。
ローブの効力を失っているレイアも表情を歪める中、リクが叫んだ。
「ソラ、離れろ!? お前まで闇に呑まれるぞ!!」
「い、やだ…!! 絶対、クウを助けるんだ…!!」
リクの忠告に首を振ると、ソラは尚もクウにしがみ付く。
同じようにヴェンとレイアも助けようとしがみ付く光景に、アクアは顔を俯かせながら呟いた。
「闇に心を捕らわれた者は、破滅の道を辿る…マスターの言う通りだった」
そう言ってアクアは立ち上がると、キーブレードを握りクウを睨みつける。
その瞳に映るのは、敵意だ。
「アクア、駄目だ!! クウはソラを助けようとした!! アクアだって――!!」
「分かってる!! だけど…もう彼は闇に堕ちた存在!! このままあなた達が消えるくらいなら、私はマスターとして彼を――!!」
ヴェンが止めようとするが、アクアは何かを堪える様にクウに向かってキーブレードを構える。
「――こんな奴の為に…手を汚す必要はない」
突然の呟きと共に、ソラ達四人が暴風によって吹き飛ばされる。
それが『エアロ』の魔法と気づいた時にはそれぞれが別方向に離れて行った。
「エン!?」
四人を離れさせるように魔法を放ったエンに、ゼロボロスが驚きを見せる。
その間にも、クウは吹き飛ばされながらも身体を捻って体制を立て直そうとする。
直後、急にクウが痙攣を起こしたかのように身体を震わせ、受け身を取れないまま地面に激突した。
「クウ!?」
「グゥ…ガッ…!!」
「ようやく発動しましたか。しかも、全ての体力と魔力を奪う効果とは私も運がいいですね」
無轟が声をかけるが、クウはロクに身体を動かせないのか倒れたまま苦しそうに呻き声を上げる。
そんなクウとは打って変わり、回復したエンが立ち上がると血まで凍らせるような睨みを放つ。
「闇に呑まれてでも助けようとした所までは認めますが、自らの怒りや悲しみの感情に捕らわれ仲間すら傷付ける…――想像以上に、貴様は最低な奴だったな…!!」
低い声で喋りながらクウを睨む眼光に、誰もが心の奥底で恐怖を抱く。
その威圧感に動けずにいると、エンはダブルセイバーに変えると闇を纏わせて振り上げた。
「そんなに闇が好きなら、闇だけの世界に堕ちろ!!! 『デジョネイトゲート』!!!」
ダブルセイバーを振るうと同時に、巨大な闇の衝撃波が現れる。
人一人を軽く呑み込めるそれは、体力を全て奪われて蹲るクウに迫る。
「いやぁ!!! クウさぁん!!?」
クウに迫る闇の衝撃波に、レイアが魔法を発動させようとする。
テラや無轟も攻撃を止めようと動くが、どうあがいても間に合わない。
しかし、闇が到達するよりも早くソラがクウの後ろに素早く移動する。
そのまま、キーブレードを強く握り締め…――横に振るってクウを大きく吹き飛ばした。
『『『え…?』』』
目の前に広がった光景に、誰もが目を疑う。
その間にもクウは離れるように吹き飛ばされ、代わりにソラはキーブレードを振るったままその場に留まっている。
そうして吹き飛ばしたクウと目が合うと、『ハードストライク』を使ったソラはその状態で笑いかけた。
直後、闇の衝撃波はソラにぶつかって全てを覆うように呑み込んだ。
「がはぁ!」
「ソラ――!?」
クウが地面に叩きつけられると同時に、リクが叫びながら手を伸ばす。
だが、数秒もしない内にソラを呑み込んだ闇は掻き消える。
僅かな希望を信じて全員が目を凝らすが…ソラの姿は、何処にもなかった。
「ソラ…?」
「嘘、でしょ…!」
信じられないと言った表情でヴェンとオパールが呟くが、現状は何も変わらない。
この最悪の結末に、カイリは震えながらソラが消えた場所を見ていた。
「ソ、ラ…――ソラァーーーーーーーーーーーーーっ!!!??」
■作者メッセージ
えー、ここまで読んでくれた皆さんにとりあえず一言。
今回のソラの事は、後のあとがきで詳しく書かせて貰います。
今回のソラの事は、後のあとがきで詳しく書かせて貰います。