Another the last chapter‐25
目の前でソラが消えた。その事だけで、彼らの心に絶望が染み渡る。
仲間を失ったショックを隠し切れず、誰もが声を出せずにいた。
「俺の…せい、なのか…?」
そんな中で、喉から絞り出すような声でポツリと呟く。
視線を向けると、狂気が走っていた目が虚ろな状態に変わったクウが、ソラが消えた場所を見ている。
逃がす為の攻撃か今の光景かは分からないが、正気に戻ったクウにエンは憎悪の眼差しを向けた。
「やっと正気に戻ったか、この馬鹿が…!!」
「なに…っ!?」
怒りを露わにするエンの言葉に、クウが蹲りつつも反応する。
「結局、貴様は誰も救えない。その身に宿る闇が、貴様の周りをすべてを壊す」
「寝言言ってんじゃねーよっ!!! 元はと言えば、てめえが全部やった事だろうが!!! 自分自身が憎いからって、俺に責任転換してんじゃねーぞ!!! 何が自分の世界を取り戻すだっ!!! てめえの厄介事を俺達の世界におしつけるなぁ!!!」
クウは心にある感情を爆発させるなり、エンに向かって怒鳴り付ける。
大声で叫んだからか肩で呼吸するクウに、ゆっくりとエンが口を開いた。
「――遺言はそれで全部か?」
それと同時に、クウの足元に炎が集約して大きく爆発した。
「がはぁ…!?」
「クウ!?」
エンの放った『ファイガ』を受けるクウに、無轟が駆け寄ろうとする。
だが、鋭い目で睨むと勢いよく手を上げた。
「『ダークパニッシャー』!!」
辺り一帯に黒い魔方陣が不気味に光りながら現れるなり、闇の光線が上空から降り注ぐ。
『『『ぐわああああっ(きゃああああっ)!!?』』』
突然の攻撃に反応出来ず、全員は闇の光線を受けて悲鳴を上げる。
こうして回復した分を一気に削ったエンは、ダブルセイバーを握りながら倒れるクウに近づいた。
「て、めっ…!! ぐあああああっ!!?」
クウが悪態を吐くなり、丁度丹田となる部分を刃で貫かれる。
あまりの激痛に悲鳴を上げていると、背中にあった黒の双翼が解ける様に消えていく。
「お前の闇と精神を結ぶ力を切った。翼の折れた鳥には、もう何も出来はしない。自由になる事も、誰かを守る事も…何もなぁ!!!」
エンは冷たい目で睨みつけながら、貫いた刃を引き抜いてクウを思い切り蹴り飛ばす。
「あ、がぁ…!!」
「このまま消え去れぇ!!!」
抵抗すら出来ずに倒れるクウに向かって、エンはダブルセイバーを両手で握って振り上げる。
しかし、一筋の光の矢がエンの武器に当たって彼の手の内から放した。
「『ウィングアロー』…!?」
エンの攻撃を阻止した光の矢に、彼らの中で唯一の使い手であるアクアが呟く。
その間に、エンの手から放れたダブルセイバーは宙を舞うと少し先に突き刺さる。
矢が飛んできた方向に目を向けると、一人の少年がキャノン砲に変えたキーブレードを構えていた。
「“師匠”から離れろぉ!!!」
灰色の髪に青い目の少年がそう叫ぶなり、エンに向かって巨大な光弾を放つ。
だが、エンは即座に『ホーリースター』を放ち、中間点で光の爆発を起こして相殺させた。
「あれ、テラが使う技…!?」
突然現れた少年が使った『アルテマキャノン』に、ヴェンが唖然とする。
しかし、少年がキャノン砲をガンブレードに変えるとテラ達は驚きで目を見開いた。
「キーブレード…!?」
「あなたは…!?」
少年の持つキーブレードにテラやアクアが息を呑む中、エンは敵意を露わにする少年に向かって微笑んだ。
「シャオ、でしたか? よくあの空間から抜け出せたものですね」
「あんまり舐めないでくれる? ボクだって、キーブレードの使い手なんだから」
「こいつの事を師匠、と言ってましたね……差し詰め、異世界では私の弟子と言う関係になるんでしょうか?」
「あんたはボクの師匠じゃないっ!!!」
エンの言葉を全力で否定するなり、シャオは切先の銃口を向ける。
その様子に、エンは少しばかり驚いた顔をした。
「私が別世界の彼だから、ですか? しかし、そうなるとあなたが助けた彼も同じ事なんですが…」
「ボクの知ってる師匠は!! いい加減で、だらしなくて、奥さんいるのに他の女性に目が無くて、仕事もサボる大人として最低な奴さっ!!!」
『『『…………』』』
「そんな…目で、見ないでくれ…っ!!!」
あの無轟すらからも送られる冷たい仲間達の視線に、今すぐにでも死にたい衝動に駆られるクウ。
そんな事知ってか知らずか、シャオは尚もエンに叫ぶ。
「だけどっ!! 師匠はボクにいろんな事を教えてくれた!! 戦い方、仲間の大切さ、大事なモノを守る強さ、くだらない事までそれこそいろんな事を!!」
今も鮮明に残る師匠であるクウとの修行の記憶を思い返しながら、シャオは目の前にいるエンを睨む。
例え同じ顔、同じ存在でも…自分にとって彼(クウ)こそ師匠で、彼(エン)は敵でしかない。
「ボクにとって、師匠は大事な人だっ!!! 異世界だとしても構わない、ボクはそんな師匠を助けるんだっ!!!」
そう決意を述べるシャオに、エンは軽く溜息を吐くと何処か呆れた目で見返した。
「具体的には、どうするおつもりで?」
エンが問いかけるなり、シャオはすぐに腕を交差させた。
「第二段階、チェンジ…『ライト・モード』!!」
身体を光らせて能力を変えると共に、シャオの服装を白黒にさせる。
白黒の光球を周回させながらキーブレードを構え、高速で移動する。
「『絶影』!!」
目にも見えぬ速さでエンを切り裂こうとするが、双翼で防御される。
辺りに甲高い金属音が鳴り響くだけで終わるものの、シャオは負けじとキーブレードに光を溜める。
「『フォトレジストアワー』!!」
辺り一帯に光の雨を降らせると、エンはその場から跳躍する。
重傷を負っているクウから離す事に成功しつつ、シャオは光線が降り注ぐ中で一気にエンに向かって飛びこむ。
だが、シャオは気づいていなかった。
「『エンジェルハイロゥ』」
「うわぁ!?」
いつの間にか持った武器で光の輪を作ると共に、近づいたシャオに回転切りを放つエン。
距離を取ったのは逃げる為でなく、武器を取る為。シャオがその事に気付いた時には、吹き飛ばされて地面に突っ伏されていた。
「グッ…!?」
「もう終わりですか? あれだけ大口を叩いて、あっけないものです」
「うる、さいな…!!」
余裕を見せるエンに、シャオは痛みを耐えて起き上がる。
そして、キーブレードを握りながら歯を食い縛る。
(こうなったら…成功するか分からないけど…!!)
禁断の奥の手とも言える行為に躊躇が浮かぶが、シャオは無理やりその感情を抑え込む。
そうして精神を整えつつ、ゆっくりと自身に眠る力を湧き上がらせる。
「最終段階…――ッ!?」
腕を交差させて身体を光らせていると、自身の力が突然鬩ぎ合うように暴れ始める。
「あ…ぐぅ…!?」
力を上手くコントロール出来ず、シャオに壮絶な痛みが襲う。
更に急激な力が流れ込む事により、吐き気までも襲い掛かる。これらの事に、シャオの意識が遠くなる。
「…うおおあああああああっ!!!!!」
それでも、シャオは雄叫びと共に持てる精神を使って暴れる力を押さえつける。
そうしてシャオの身体が極限にまで輝き終えて光が弾けると、その姿を現した。
右手に《キングダムチェーン》を、左手には《ソウルイーター》を携えて。
「――『マスターキー・モード』…」
元の服装に戻り荒い息で静かに呟くシャオの持つ武器に、全員は目を見開く。
「あれ…ソラが使ってる…!?」
「俺が使ってた武器…!?」
信じられないとばかりにカイリとリクが目を見開く中、シャオはエンを睨みながら後ろに跳んだ。
「『ジャッジオブ3』!!」
キーブレードを振るうと共に、三つに分裂してエンへと跳んでいく。
エンはすぐにダブルセイバーで跳ね飛ばすが、シャオは更なる行動に出た。
「『キーレイン』っ!!」
軽くキーブレードを回転させて飛び上がると、両手に持っていた武器をエンに投げつける。
二つの剣が迫るが、エンはそれを避けて虚しく地面に突き刺さる。
その直後、エンを追尾するようにまるで雨のようにさまざまな形のキーブレードを降らせる。
「どう…なって、いやがる…!?」
「こんなの…見た事、ない…」
大量のキーブレードを自在に操るシャオに、クウはもちろんマスターの称号を持つアクアでさえも唖然となる。
やがてシャオが攻撃を終えて地面に降り立つと、両手を光らせた。
「師匠、イオン先輩、力借りるね!」
「え…?」
突然そんな事を言われ、クウは困惑する。
だが、シャオは構わず右手に『対極の翼』を、左手に『マティウス』を取り出す。
違うタイプのキーブレードを取り出すシャオに驚く中、背後に白黒の翼を生やしマティウスでの強化を発動させる。
そうしてシャオは翼による飛翔と時間加速を組み合わせ、光速とも言える速さでエンを斬り裂いた。
「っ…!?」
「一気に決める!!」
肉眼では見えない攻撃で確かなダメージを負わせ、シャオは力を解放させる。
すると、シャオとエンの周りをキーブレードが囲むように幾つも出現する。
その中には、ソラやリクのキーブレードはもちろん、テラ、ヴェン、アクアの物まで浮かんでいる。
「これは…!?」
ゼロボロスが驚いている間に、シャオは自身のキーブレードを取り出すとエンをすり抜けるように斬り付ける。
そのまま別のキーブレードの元に行くと、まるで合わさるかのように光って再びエンへと斬り込みまた他のキーブレードと一つにする。
最初は見えていた攻撃が段々と早くなり、もはや残像でしかシャオの姿を捕える事が出来ない。そうして最後のキーブレードであるキングダムチェーンが消えると、一つの巨大な鍵となった。
「終わりだぁ!!! 『インフィニティ・オーバー』――!!!」
両手で握り込みながらシャオはエンに向かって思いっきり振り上げる。
直後、シャオの身体に激痛が走り出した。
「がぁ…うぐぅ…!!」
あまりの苦痛に、思わず攻撃の手が止まってしまう。
巨大な鍵は消えてしまい、シャオの両手にキングダムチェーンとソウルイーターが戻る。だが、シャオはその場で膝を付き二つの武器を杖代わりにする。
荒い呼吸をしながら目を見開いていると、目の前で攻撃を耐えきったエンが呟いた。
「――やはり、推測は正しかった…」
「な…に…っ!?」
「リバウンド、ですよ…それだけの力を使うとなれば、相当体力共に精神を消耗するようなもの…――意識を保つのもやっとなのでしょう?」
「ッ…!!」
図星を突かれ、シャオは言葉を失ってしまう。
このモードは自分の記憶にあるキーブレードを自由自在に扱えると言う優れた能力。それでも今まで使わなかったのは、こう言った弱点があるからだ。
限界が来たのか、少しずつ意識が薄れていく。それでもシャオは歯を食い縛った。
「そうだよ…――気を抜けば、ボクの中にある沢山の記憶に飲み込まれる…それでも、構わない…っ!! 守るって決めたんだから…!!!」
握る手だけでなく顔全体に汗が浮かぶ中、力を込めて立ち上がろうとする。
「例え、ボクが…――ボクじゃ、なく…なっても……皆を、助けるんだ…!!」
そう言うものの、話すだけでもやっとでガクガクと膝が震えている。
誰が見ても体力と精神の限界なのに、シャオは無理やり立ち上がってエンを睨んだ。
瞬間、シャオの胸を一筋の光線が貫いた。
「えっ…?」
何が起こったのか分からないまま、シャオは両手の武器を手放す。
ゆっくりと後ろを振り向くと、足元まである長い銀髪と銀の瞳の少女が手を翳して立っていた。
「あの子は…っ!?」
見覚えのある少女に、ゼロボロスが息を呑む。
その間に、少女は手を翳しながら悲しそうに首を振った。
「もう、やめるんじゃ…――お主は充分にやった」
「あ…あぁ…!」
シャオはその場で膝を付くと、意識と反して身体を光らせる。
能力が解除されたのか、落ちた武器は消えてシャオもその場に倒れる。
そんなシャオに、少女は近づくと頭を撫でて微笑んだ。
「さあ、疲れたじゃろう。今は、眠るがいい…」
子守唄にも聞こえる声に、シャオは意識を沈める。
こうして眠ったシャオを見ると、少女はエンに目を向ける。
そして、エンもまた少女に視線を合わせ微笑んだ。
「また会えましたね…シルビア」
仲間を失ったショックを隠し切れず、誰もが声を出せずにいた。
「俺の…せい、なのか…?」
そんな中で、喉から絞り出すような声でポツリと呟く。
視線を向けると、狂気が走っていた目が虚ろな状態に変わったクウが、ソラが消えた場所を見ている。
逃がす為の攻撃か今の光景かは分からないが、正気に戻ったクウにエンは憎悪の眼差しを向けた。
「やっと正気に戻ったか、この馬鹿が…!!」
「なに…っ!?」
怒りを露わにするエンの言葉に、クウが蹲りつつも反応する。
「結局、貴様は誰も救えない。その身に宿る闇が、貴様の周りをすべてを壊す」
「寝言言ってんじゃねーよっ!!! 元はと言えば、てめえが全部やった事だろうが!!! 自分自身が憎いからって、俺に責任転換してんじゃねーぞ!!! 何が自分の世界を取り戻すだっ!!! てめえの厄介事を俺達の世界におしつけるなぁ!!!」
クウは心にある感情を爆発させるなり、エンに向かって怒鳴り付ける。
大声で叫んだからか肩で呼吸するクウに、ゆっくりとエンが口を開いた。
「――遺言はそれで全部か?」
それと同時に、クウの足元に炎が集約して大きく爆発した。
「がはぁ…!?」
「クウ!?」
エンの放った『ファイガ』を受けるクウに、無轟が駆け寄ろうとする。
だが、鋭い目で睨むと勢いよく手を上げた。
「『ダークパニッシャー』!!」
辺り一帯に黒い魔方陣が不気味に光りながら現れるなり、闇の光線が上空から降り注ぐ。
『『『ぐわああああっ(きゃああああっ)!!?』』』
突然の攻撃に反応出来ず、全員は闇の光線を受けて悲鳴を上げる。
こうして回復した分を一気に削ったエンは、ダブルセイバーを握りながら倒れるクウに近づいた。
「て、めっ…!! ぐあああああっ!!?」
クウが悪態を吐くなり、丁度丹田となる部分を刃で貫かれる。
あまりの激痛に悲鳴を上げていると、背中にあった黒の双翼が解ける様に消えていく。
「お前の闇と精神を結ぶ力を切った。翼の折れた鳥には、もう何も出来はしない。自由になる事も、誰かを守る事も…何もなぁ!!!」
エンは冷たい目で睨みつけながら、貫いた刃を引き抜いてクウを思い切り蹴り飛ばす。
「あ、がぁ…!!」
「このまま消え去れぇ!!!」
抵抗すら出来ずに倒れるクウに向かって、エンはダブルセイバーを両手で握って振り上げる。
しかし、一筋の光の矢がエンの武器に当たって彼の手の内から放した。
「『ウィングアロー』…!?」
エンの攻撃を阻止した光の矢に、彼らの中で唯一の使い手であるアクアが呟く。
その間に、エンの手から放れたダブルセイバーは宙を舞うと少し先に突き刺さる。
矢が飛んできた方向に目を向けると、一人の少年がキャノン砲に変えたキーブレードを構えていた。
「“師匠”から離れろぉ!!!」
灰色の髪に青い目の少年がそう叫ぶなり、エンに向かって巨大な光弾を放つ。
だが、エンは即座に『ホーリースター』を放ち、中間点で光の爆発を起こして相殺させた。
「あれ、テラが使う技…!?」
突然現れた少年が使った『アルテマキャノン』に、ヴェンが唖然とする。
しかし、少年がキャノン砲をガンブレードに変えるとテラ達は驚きで目を見開いた。
「キーブレード…!?」
「あなたは…!?」
少年の持つキーブレードにテラやアクアが息を呑む中、エンは敵意を露わにする少年に向かって微笑んだ。
「シャオ、でしたか? よくあの空間から抜け出せたものですね」
「あんまり舐めないでくれる? ボクだって、キーブレードの使い手なんだから」
「こいつの事を師匠、と言ってましたね……差し詰め、異世界では私の弟子と言う関係になるんでしょうか?」
「あんたはボクの師匠じゃないっ!!!」
エンの言葉を全力で否定するなり、シャオは切先の銃口を向ける。
その様子に、エンは少しばかり驚いた顔をした。
「私が別世界の彼だから、ですか? しかし、そうなるとあなたが助けた彼も同じ事なんですが…」
「ボクの知ってる師匠は!! いい加減で、だらしなくて、奥さんいるのに他の女性に目が無くて、仕事もサボる大人として最低な奴さっ!!!」
『『『…………』』』
「そんな…目で、見ないでくれ…っ!!!」
あの無轟すらからも送られる冷たい仲間達の視線に、今すぐにでも死にたい衝動に駆られるクウ。
そんな事知ってか知らずか、シャオは尚もエンに叫ぶ。
「だけどっ!! 師匠はボクにいろんな事を教えてくれた!! 戦い方、仲間の大切さ、大事なモノを守る強さ、くだらない事までそれこそいろんな事を!!」
今も鮮明に残る師匠であるクウとの修行の記憶を思い返しながら、シャオは目の前にいるエンを睨む。
例え同じ顔、同じ存在でも…自分にとって彼(クウ)こそ師匠で、彼(エン)は敵でしかない。
「ボクにとって、師匠は大事な人だっ!!! 異世界だとしても構わない、ボクはそんな師匠を助けるんだっ!!!」
そう決意を述べるシャオに、エンは軽く溜息を吐くと何処か呆れた目で見返した。
「具体的には、どうするおつもりで?」
エンが問いかけるなり、シャオはすぐに腕を交差させた。
「第二段階、チェンジ…『ライト・モード』!!」
身体を光らせて能力を変えると共に、シャオの服装を白黒にさせる。
白黒の光球を周回させながらキーブレードを構え、高速で移動する。
「『絶影』!!」
目にも見えぬ速さでエンを切り裂こうとするが、双翼で防御される。
辺りに甲高い金属音が鳴り響くだけで終わるものの、シャオは負けじとキーブレードに光を溜める。
「『フォトレジストアワー』!!」
辺り一帯に光の雨を降らせると、エンはその場から跳躍する。
重傷を負っているクウから離す事に成功しつつ、シャオは光線が降り注ぐ中で一気にエンに向かって飛びこむ。
だが、シャオは気づいていなかった。
「『エンジェルハイロゥ』」
「うわぁ!?」
いつの間にか持った武器で光の輪を作ると共に、近づいたシャオに回転切りを放つエン。
距離を取ったのは逃げる為でなく、武器を取る為。シャオがその事に気付いた時には、吹き飛ばされて地面に突っ伏されていた。
「グッ…!?」
「もう終わりですか? あれだけ大口を叩いて、あっけないものです」
「うる、さいな…!!」
余裕を見せるエンに、シャオは痛みを耐えて起き上がる。
そして、キーブレードを握りながら歯を食い縛る。
(こうなったら…成功するか分からないけど…!!)
禁断の奥の手とも言える行為に躊躇が浮かぶが、シャオは無理やりその感情を抑え込む。
そうして精神を整えつつ、ゆっくりと自身に眠る力を湧き上がらせる。
「最終段階…――ッ!?」
腕を交差させて身体を光らせていると、自身の力が突然鬩ぎ合うように暴れ始める。
「あ…ぐぅ…!?」
力を上手くコントロール出来ず、シャオに壮絶な痛みが襲う。
更に急激な力が流れ込む事により、吐き気までも襲い掛かる。これらの事に、シャオの意識が遠くなる。
「…うおおあああああああっ!!!!!」
それでも、シャオは雄叫びと共に持てる精神を使って暴れる力を押さえつける。
そうしてシャオの身体が極限にまで輝き終えて光が弾けると、その姿を現した。
右手に《キングダムチェーン》を、左手には《ソウルイーター》を携えて。
「――『マスターキー・モード』…」
元の服装に戻り荒い息で静かに呟くシャオの持つ武器に、全員は目を見開く。
「あれ…ソラが使ってる…!?」
「俺が使ってた武器…!?」
信じられないとばかりにカイリとリクが目を見開く中、シャオはエンを睨みながら後ろに跳んだ。
「『ジャッジオブ3』!!」
キーブレードを振るうと共に、三つに分裂してエンへと跳んでいく。
エンはすぐにダブルセイバーで跳ね飛ばすが、シャオは更なる行動に出た。
「『キーレイン』っ!!」
軽くキーブレードを回転させて飛び上がると、両手に持っていた武器をエンに投げつける。
二つの剣が迫るが、エンはそれを避けて虚しく地面に突き刺さる。
その直後、エンを追尾するようにまるで雨のようにさまざまな形のキーブレードを降らせる。
「どう…なって、いやがる…!?」
「こんなの…見た事、ない…」
大量のキーブレードを自在に操るシャオに、クウはもちろんマスターの称号を持つアクアでさえも唖然となる。
やがてシャオが攻撃を終えて地面に降り立つと、両手を光らせた。
「師匠、イオン先輩、力借りるね!」
「え…?」
突然そんな事を言われ、クウは困惑する。
だが、シャオは構わず右手に『対極の翼』を、左手に『マティウス』を取り出す。
違うタイプのキーブレードを取り出すシャオに驚く中、背後に白黒の翼を生やしマティウスでの強化を発動させる。
そうしてシャオは翼による飛翔と時間加速を組み合わせ、光速とも言える速さでエンを斬り裂いた。
「っ…!?」
「一気に決める!!」
肉眼では見えない攻撃で確かなダメージを負わせ、シャオは力を解放させる。
すると、シャオとエンの周りをキーブレードが囲むように幾つも出現する。
その中には、ソラやリクのキーブレードはもちろん、テラ、ヴェン、アクアの物まで浮かんでいる。
「これは…!?」
ゼロボロスが驚いている間に、シャオは自身のキーブレードを取り出すとエンをすり抜けるように斬り付ける。
そのまま別のキーブレードの元に行くと、まるで合わさるかのように光って再びエンへと斬り込みまた他のキーブレードと一つにする。
最初は見えていた攻撃が段々と早くなり、もはや残像でしかシャオの姿を捕える事が出来ない。そうして最後のキーブレードであるキングダムチェーンが消えると、一つの巨大な鍵となった。
「終わりだぁ!!! 『インフィニティ・オーバー』――!!!」
両手で握り込みながらシャオはエンに向かって思いっきり振り上げる。
直後、シャオの身体に激痛が走り出した。
「がぁ…うぐぅ…!!」
あまりの苦痛に、思わず攻撃の手が止まってしまう。
巨大な鍵は消えてしまい、シャオの両手にキングダムチェーンとソウルイーターが戻る。だが、シャオはその場で膝を付き二つの武器を杖代わりにする。
荒い呼吸をしながら目を見開いていると、目の前で攻撃を耐えきったエンが呟いた。
「――やはり、推測は正しかった…」
「な…に…っ!?」
「リバウンド、ですよ…それだけの力を使うとなれば、相当体力共に精神を消耗するようなもの…――意識を保つのもやっとなのでしょう?」
「ッ…!!」
図星を突かれ、シャオは言葉を失ってしまう。
このモードは自分の記憶にあるキーブレードを自由自在に扱えると言う優れた能力。それでも今まで使わなかったのは、こう言った弱点があるからだ。
限界が来たのか、少しずつ意識が薄れていく。それでもシャオは歯を食い縛った。
「そうだよ…――気を抜けば、ボクの中にある沢山の記憶に飲み込まれる…それでも、構わない…っ!! 守るって決めたんだから…!!!」
握る手だけでなく顔全体に汗が浮かぶ中、力を込めて立ち上がろうとする。
「例え、ボクが…――ボクじゃ、なく…なっても……皆を、助けるんだ…!!」
そう言うものの、話すだけでもやっとでガクガクと膝が震えている。
誰が見ても体力と精神の限界なのに、シャオは無理やり立ち上がってエンを睨んだ。
瞬間、シャオの胸を一筋の光線が貫いた。
「えっ…?」
何が起こったのか分からないまま、シャオは両手の武器を手放す。
ゆっくりと後ろを振り向くと、足元まである長い銀髪と銀の瞳の少女が手を翳して立っていた。
「あの子は…っ!?」
見覚えのある少女に、ゼロボロスが息を呑む。
その間に、少女は手を翳しながら悲しそうに首を振った。
「もう、やめるんじゃ…――お主は充分にやった」
「あ…あぁ…!」
シャオはその場で膝を付くと、意識と反して身体を光らせる。
能力が解除されたのか、落ちた武器は消えてシャオもその場に倒れる。
そんなシャオに、少女は近づくと頭を撫でて微笑んだ。
「さあ、疲れたじゃろう。今は、眠るがいい…」
子守唄にも聞こえる声に、シャオは意識を沈める。
こうして眠ったシャオを見ると、少女はエンに目を向ける。
そして、エンもまた少女に視線を合わせ微笑んだ。
「また会えましたね…シルビア」