Another the last chapter‐26
何処からともなく現れた少女に、何事も無いように話すエン。
そんなエンの言葉に、誰もが驚愕の表情を浮かべて少女―――シルビアを見た。
「シルビア…!?」
「シルビアって、あの剣の事じゃ…!?」
リクとテラが耳を疑っていると、シルビアは軽く息を吐いてシャオを楽な体制に寝かせる。
そうして立ち上がると、エンを見たまま説明を始める。
「ああ、そうじゃ。そして、我は大昔に作られた鍵である“シルビア”の本体に宿る意思そのものじゃ」
「でも、おかしいよ…!? シルビアは大昔に壊されたのに、どうしてウィドが持ってるの…!?」
淡々とシルビアが説明していると、カイリが疑問を叫ぶ。
レオン達が見つけたデータには、シルビアは大昔に破壊されたと書いてあった。そして、その情報を齎した王様の言葉が間違っているとはとても思えない。
「――拾わせたんですか…あなたが…?」
ゼロボロスが静かに呟くと、ジッとシルビアを見つめる。
「前に、ウィドが言っていた。『拾って自分の武器にした』って…あなた自身がそう仕組んだんですか、彼を選んだから…?」
「少しだけ、間違っておる…我は奴を所有者に選んでなどおらぬし、その剣はあくまでも我を守る『殻』…我の力で作った代用品でしかない。本体は、本来の世界にある」
「じゃあ、どうして私に持たせたんですか…!?」
シルビアの語る事実に、思わずウィドが睨みつける。
彼女は自分を選んだ訳ではない。代用品と言う事は、偽物を掴まされたようなもの。誰でも良かったかもしれないのに、何故自分に持たせたのか。
すると、シルビアはウィドに目を向けて告げた。
「――信じたからじゃ。我の世界のスピカが、弟であるお前の事をな」
「姉さん、が…?」
「それに、所有者としての力を与えない…そう、スピカと約束した。これ以上、我の所為で誰かが不幸になるのはもう見たくない」
所有者になる為の試練。そして絆を結び与えられる特別な力。この二つの所為で、一つの悲劇を起こした。
その時の記憶が脳裏を巡り、シルビアは表情を歪ませて顔を俯かせる。
そんな中、アクアはある言葉が引っ掛かりを抱いた。
「シルビア…“我の世界”って事は、あなたも…」
「お主の想像通り…――エンと同じように、我はこことは根本的に違う異世界から逃げて来た。そう、我が生き延びた世界から」
「生き延びた、世界…!?」
壊された筈のシルビアが今ここに存在する理由にカイリが唖然としていると、エンが軽く肩を竦めて補足を入れる。
「本来、シルビアが存在する異世界ではどれも大昔に壊されていた。それそこ、歴史の闇に葬られ誰の記憶にも留めなかった程に」
「じゃが、異世界と言っても全てが一緒ではない。エンのように、まったく同じ世界なのにさまざまな選択により枝分かれしている平行世界も存在する。そんな中、さまざまな選択の中で我は運よく【壊されない未来】を手に入れた…そう言う事じゃ」
言い終わるなり、シルビアは腕を組むなりエンを軽く睨みつける。
「お主に一つだけ聞きたい。我を逃がした方のスピカはどうした?」
「彼女はかなり無茶したので、彼の中で眠って貰いました」
「そうか…無事なら何も言わぬ」
エンと初めて出会った時に起きた戦い。本来の世界でエンが自分を手に入れようとしたが、スピカがレプリカであるルキルに乗り移って助けて逃がしてくれた。
エンがここにいる事でスピカが負けたのは簡単に想像出来た。スピカがどうなったのか不安に思ったが、消えていないならそれでいい。
一つの心残りを解消し、シルビアが安堵の息を吐いていた時だった。
「シルビア…あなたはこの世界に逃げてきた。そして、あいつはその後を追ってきた…」
急に、ブツブツと低い声で今までの会話を纏める様に呟くウィド。
思わず視線を向けていると、ウィドが憎しげに睨みつけてきた。
「それって…要は、この事件の原因はあなたの所為って事ですよね!!? 姉さんが『Sin化』したもの、私がこんな男に会ったのも、奴らが私を狙ってたのも、全部あなたがこの世界に逃げて来たからっ!!!」
「ウィド!? 幾ら何でも言い過ぎ――!!」
「そう言うあなた達は何も思わないんですか!!? 彼女が来なければ十年後の未来に飛ばされずに済んだし、あの世界もハートレスに襲われることもなかった!!! ルキルだって意識を失わずに済んだし、ソラも闇に呑まれる事は無かったんですっ!!!」
「それは…!」
ゼロボロスが止めようとするが、怒りと憎しみによって暴走したウィドの言葉にオパールが怯む。
ウィドの言い分はある意味では正しい。シルビアがこの世界に逃げこんだから、今回の事件が起きた。彼女が来なければ、エン達の戦いに巻き込まれる事は無かったはずだ。
「――確かに、お主の言う通りじゃ」
不穏な空気が漂う中、静かにシルビアは呟く。
「数ある異世界の中で、我が逃げ込んだのが偶然この世界だった。そして、この世界に起こる筈のない災いと歴史を齎した。その事に関して、否定も言い訳もせぬ」
「シルビア…」
ウィドの言葉を肯定して認めるシルビアに、無轟は事の成り行きを見守る。
「我はキーブレードによって作られた存在。だからこそ心を持ち、意思を持ち…この姿を持ち、アウルムからずっと逃げてきた。奴は始まりの象徴と考えているが、我にとって『χブレード』は終焉を司る恐ろしい代物。そんな物にならぬよう所有者を探しては身を守り、ずっと逃げてきた…ずっとな」
大昔から生きているからか、彼女の言葉に何らかの重みを感じる。
そんな哀愁の漂う顔で語るシルビアに、ウィドすらも声を出す事が出来なかった。
やがてシルビアは倒れている全員に顔を向けると、深々と頭を下げた。
「済まなかったの。我の所為で世界を巻き込んだだけでなく、大切な仲間をも闇の世界に落として。この罰は…我が全て受ける」
そう言って頭を上げると、決意の篭った目を浮かべていた。
そのままシルビアは、エンの方に向き直る。何をするのか理解したのか、クウは拳を握り締める。
「ざけ、んなよ…!! く…そぉ――!!」
身体は当に限界を迎えているにも関わらず、歯を食い縛って立ち上がろうとするクウ。
この様子に、シルビアは冷めた声で忠告を入れた。
「無理をするでない。下手に動けば、お主は死ぬぞ」
「うっせぇ…!! 俺は…俺はもう、誰も…失いたく…っ!!!」
「それは我も一緒じゃ!!!」
突然の怒鳴り声に、クウは動きを止める。
他の人も固まっていると、シルビアは両手を強く握って顔を俯かせた。
「例え異世界のお主らでも…これ以上傷つく光景は見たくないっ!!! お主らならきっと何とかしてくれると、我の浅はかな願いでこうなったのじゃ…だったら、こうなった全ての責任を我自身が償うと言うものじゃろう…」
「シルビアさん…」
何処か泣きそうな声で呟くシルビアに、レイアも表情を歪めてしまう。
今まで黙って見ていたエンもまた、シルビアから顔を逸らしていた。
「自分の存在を捧げて助けようとする、ですか…《作られた鍵》と言えど、本当に何の力も持たないのですね」
「そうじゃな。お主の言う通り、我には戦う力も守る力も存在しない」
シルビアは大きく頷くと、スッと音もなく手を上げる。
「それでも…――彼らを逃がす力は持っておるっ!!!」
大声で叫ぶと同時に、シルビアは腕を横に大きく振るう。
直後、エンとシルビアの除く全員に蒼い光が包み込んだ。
「なっ…!?」
「これ、あの時の…!!」
「一体、何を…!?」
自分達が未来の世界に送られたのと同じ光に、テラとヴェンが息を呑む。
予想もしなかった行動にゼロボロスがシルビアを見ると、背を向けたまま答えた。
「無理やり巻き込んで置いて、勝手なのは分かっておる…――それでも、お主達は我の希望なのじゃ!!! ここで消したりなどせぬっ!!!」
「ふざ、けんな…!! 俺は…まだ、戦える!!! だからこの光を消せ、シルビアっ!!!」
クウは残る力を振り絞って膝で立ち、シルビアに向かって怒鳴り付ける。
しかし、シルビアは背を向けたままクウの言葉に笑った。
「お主は…どの世界でも、本当にバカじゃ」
何処か嬉しそうに呟き、顔を振り向く。
「だからこそ――…信じておるぞ」
クウにそう笑顔で笑いかけ…――そのまま、一筋の涙を流した。
「ッ――シルビアァァァ!!!」
思わずクウは手を伸ばして叫ぶが、届く事は叶わず光と共に消えてしまう。
こうして彼らを別の世界に移動させると、二人きりになった空間でシルビアは軽く腕を組んで目を閉じた。
「そこにいるのじゃろう…アウルム?」
呟くと共に、僅かに空間の歪みを感じる。
ゆっくりと振り返ると、そこには長い金髪に金の瞳。黒と金の布で作られた服を着た男性―――アウルムが腕を組んで立っていた。
そんなエンの言葉に、誰もが驚愕の表情を浮かべて少女―――シルビアを見た。
「シルビア…!?」
「シルビアって、あの剣の事じゃ…!?」
リクとテラが耳を疑っていると、シルビアは軽く息を吐いてシャオを楽な体制に寝かせる。
そうして立ち上がると、エンを見たまま説明を始める。
「ああ、そうじゃ。そして、我は大昔に作られた鍵である“シルビア”の本体に宿る意思そのものじゃ」
「でも、おかしいよ…!? シルビアは大昔に壊されたのに、どうしてウィドが持ってるの…!?」
淡々とシルビアが説明していると、カイリが疑問を叫ぶ。
レオン達が見つけたデータには、シルビアは大昔に破壊されたと書いてあった。そして、その情報を齎した王様の言葉が間違っているとはとても思えない。
「――拾わせたんですか…あなたが…?」
ゼロボロスが静かに呟くと、ジッとシルビアを見つめる。
「前に、ウィドが言っていた。『拾って自分の武器にした』って…あなた自身がそう仕組んだんですか、彼を選んだから…?」
「少しだけ、間違っておる…我は奴を所有者に選んでなどおらぬし、その剣はあくまでも我を守る『殻』…我の力で作った代用品でしかない。本体は、本来の世界にある」
「じゃあ、どうして私に持たせたんですか…!?」
シルビアの語る事実に、思わずウィドが睨みつける。
彼女は自分を選んだ訳ではない。代用品と言う事は、偽物を掴まされたようなもの。誰でも良かったかもしれないのに、何故自分に持たせたのか。
すると、シルビアはウィドに目を向けて告げた。
「――信じたからじゃ。我の世界のスピカが、弟であるお前の事をな」
「姉さん、が…?」
「それに、所有者としての力を与えない…そう、スピカと約束した。これ以上、我の所為で誰かが不幸になるのはもう見たくない」
所有者になる為の試練。そして絆を結び与えられる特別な力。この二つの所為で、一つの悲劇を起こした。
その時の記憶が脳裏を巡り、シルビアは表情を歪ませて顔を俯かせる。
そんな中、アクアはある言葉が引っ掛かりを抱いた。
「シルビア…“我の世界”って事は、あなたも…」
「お主の想像通り…――エンと同じように、我はこことは根本的に違う異世界から逃げて来た。そう、我が生き延びた世界から」
「生き延びた、世界…!?」
壊された筈のシルビアが今ここに存在する理由にカイリが唖然としていると、エンが軽く肩を竦めて補足を入れる。
「本来、シルビアが存在する異世界ではどれも大昔に壊されていた。それそこ、歴史の闇に葬られ誰の記憶にも留めなかった程に」
「じゃが、異世界と言っても全てが一緒ではない。エンのように、まったく同じ世界なのにさまざまな選択により枝分かれしている平行世界も存在する。そんな中、さまざまな選択の中で我は運よく【壊されない未来】を手に入れた…そう言う事じゃ」
言い終わるなり、シルビアは腕を組むなりエンを軽く睨みつける。
「お主に一つだけ聞きたい。我を逃がした方のスピカはどうした?」
「彼女はかなり無茶したので、彼の中で眠って貰いました」
「そうか…無事なら何も言わぬ」
エンと初めて出会った時に起きた戦い。本来の世界でエンが自分を手に入れようとしたが、スピカがレプリカであるルキルに乗り移って助けて逃がしてくれた。
エンがここにいる事でスピカが負けたのは簡単に想像出来た。スピカがどうなったのか不安に思ったが、消えていないならそれでいい。
一つの心残りを解消し、シルビアが安堵の息を吐いていた時だった。
「シルビア…あなたはこの世界に逃げてきた。そして、あいつはその後を追ってきた…」
急に、ブツブツと低い声で今までの会話を纏める様に呟くウィド。
思わず視線を向けていると、ウィドが憎しげに睨みつけてきた。
「それって…要は、この事件の原因はあなたの所為って事ですよね!!? 姉さんが『Sin化』したもの、私がこんな男に会ったのも、奴らが私を狙ってたのも、全部あなたがこの世界に逃げて来たからっ!!!」
「ウィド!? 幾ら何でも言い過ぎ――!!」
「そう言うあなた達は何も思わないんですか!!? 彼女が来なければ十年後の未来に飛ばされずに済んだし、あの世界もハートレスに襲われることもなかった!!! ルキルだって意識を失わずに済んだし、ソラも闇に呑まれる事は無かったんですっ!!!」
「それは…!」
ゼロボロスが止めようとするが、怒りと憎しみによって暴走したウィドの言葉にオパールが怯む。
ウィドの言い分はある意味では正しい。シルビアがこの世界に逃げこんだから、今回の事件が起きた。彼女が来なければ、エン達の戦いに巻き込まれる事は無かったはずだ。
「――確かに、お主の言う通りじゃ」
不穏な空気が漂う中、静かにシルビアは呟く。
「数ある異世界の中で、我が逃げ込んだのが偶然この世界だった。そして、この世界に起こる筈のない災いと歴史を齎した。その事に関して、否定も言い訳もせぬ」
「シルビア…」
ウィドの言葉を肯定して認めるシルビアに、無轟は事の成り行きを見守る。
「我はキーブレードによって作られた存在。だからこそ心を持ち、意思を持ち…この姿を持ち、アウルムからずっと逃げてきた。奴は始まりの象徴と考えているが、我にとって『χブレード』は終焉を司る恐ろしい代物。そんな物にならぬよう所有者を探しては身を守り、ずっと逃げてきた…ずっとな」
大昔から生きているからか、彼女の言葉に何らかの重みを感じる。
そんな哀愁の漂う顔で語るシルビアに、ウィドすらも声を出す事が出来なかった。
やがてシルビアは倒れている全員に顔を向けると、深々と頭を下げた。
「済まなかったの。我の所為で世界を巻き込んだだけでなく、大切な仲間をも闇の世界に落として。この罰は…我が全て受ける」
そう言って頭を上げると、決意の篭った目を浮かべていた。
そのままシルビアは、エンの方に向き直る。何をするのか理解したのか、クウは拳を握り締める。
「ざけ、んなよ…!! く…そぉ――!!」
身体は当に限界を迎えているにも関わらず、歯を食い縛って立ち上がろうとするクウ。
この様子に、シルビアは冷めた声で忠告を入れた。
「無理をするでない。下手に動けば、お主は死ぬぞ」
「うっせぇ…!! 俺は…俺はもう、誰も…失いたく…っ!!!」
「それは我も一緒じゃ!!!」
突然の怒鳴り声に、クウは動きを止める。
他の人も固まっていると、シルビアは両手を強く握って顔を俯かせた。
「例え異世界のお主らでも…これ以上傷つく光景は見たくないっ!!! お主らならきっと何とかしてくれると、我の浅はかな願いでこうなったのじゃ…だったら、こうなった全ての責任を我自身が償うと言うものじゃろう…」
「シルビアさん…」
何処か泣きそうな声で呟くシルビアに、レイアも表情を歪めてしまう。
今まで黙って見ていたエンもまた、シルビアから顔を逸らしていた。
「自分の存在を捧げて助けようとする、ですか…《作られた鍵》と言えど、本当に何の力も持たないのですね」
「そうじゃな。お主の言う通り、我には戦う力も守る力も存在しない」
シルビアは大きく頷くと、スッと音もなく手を上げる。
「それでも…――彼らを逃がす力は持っておるっ!!!」
大声で叫ぶと同時に、シルビアは腕を横に大きく振るう。
直後、エンとシルビアの除く全員に蒼い光が包み込んだ。
「なっ…!?」
「これ、あの時の…!!」
「一体、何を…!?」
自分達が未来の世界に送られたのと同じ光に、テラとヴェンが息を呑む。
予想もしなかった行動にゼロボロスがシルビアを見ると、背を向けたまま答えた。
「無理やり巻き込んで置いて、勝手なのは分かっておる…――それでも、お主達は我の希望なのじゃ!!! ここで消したりなどせぬっ!!!」
「ふざ、けんな…!! 俺は…まだ、戦える!!! だからこの光を消せ、シルビアっ!!!」
クウは残る力を振り絞って膝で立ち、シルビアに向かって怒鳴り付ける。
しかし、シルビアは背を向けたままクウの言葉に笑った。
「お主は…どの世界でも、本当にバカじゃ」
何処か嬉しそうに呟き、顔を振り向く。
「だからこそ――…信じておるぞ」
クウにそう笑顔で笑いかけ…――そのまま、一筋の涙を流した。
「ッ――シルビアァァァ!!!」
思わずクウは手を伸ばして叫ぶが、届く事は叶わず光と共に消えてしまう。
こうして彼らを別の世界に移動させると、二人きりになった空間でシルビアは軽く腕を組んで目を閉じた。
「そこにいるのじゃろう…アウルム?」
呟くと共に、僅かに空間の歪みを感じる。
ゆっくりと振り返ると、そこには長い金髪に金の瞳。黒と金の布で作られた服を着た男性―――アウルムが腕を組んで立っていた。
■作者メッセージ
話もいよいよあと一回で最終話となりました。
早ければ明日、遅くても明後日までには投稿したいと思っています。
早ければ明日、遅くても明後日までには投稿したいと思っています。