第一章 永遠剣士編第十二話「仮面の情報」
チェルの家にて。
「貴方……大丈夫で?」
家に項垂れたまま帰還した夫の姿に少し戸惑いを浮かべる妻ウィシャス。何年もの彼の妻として傍に居たが、こんな彼は久しく見た。
「……不甲斐無いな、俺」
「……」
「酷い話、俺も「老いた」わけだ。正直、これ以上戦線に出る必要はない気がしてきた。イザナギにした所で、俺は『新しく』はならない」
「……」
「正直、あんな奴ら追い払えば良かった。そうすりゃあ、こんな事は起きなかったんだ。ああ、もう、なんかなあ……」
「……貴方」
「ん」
パンッ
「1度の失敗くらいなんです。失敗した責任をしっかりと果たしましょうよ。
老いなんて言い訳、あなたらしく無いです」
妻に思い切り叩かれたチェルは唖然と、打たれた頬をなでながらため息を零した。
「すまん」
「シンクにはそんな姿見せないほうがいいですよ」
「……そうだな。ニュクスの塔に行くよ、落ち合うことになってる」
「そう。いってらっしゃい」
妻は笑顔で、だらしない姿勢の夫の背を思い切りたたいて気合を入れた。チェルは涙目ながらに家を出た。
ニュクスの塔・書庫。
落ち合いの時間には全員が集ってきていた。チェルは回復に時間の掛かるカナリアがこの場に居たことに驚いていたが、フェイトが自信に満ちた顔で、
「私が動ける程度には治しましてね。――さて、此処で落ち合うってことは情報を集めてくれたのですか」
2つの塔の管理者の屍(かばね)は頷いた。
「ああ……彼女が持ってきた『映像』と情報を持ち合わせて、『確かな』情報になりました。結論を先に述べましょう。
―――仮面の女性は此処に来て、住んで居たことがあります」
その結論に、一同は固唾を呑んで、話の続きを促した。
「彼女の来た頃、生まれたばかりのタルタロスはまだこれほど発展はしていませんでした。ハートレスも頻繁に現れる。人々も疲弊が極まった時、彼女は此処に流れ着いてきたそうです」
「それっていつごろだ」
「ざっと1000年ほど」
「もういい続けろ」
「はい」
チェルもタルタロスの歴史が1000年もあることに驚いていた。基本、タルタロスは様々な世界が流れるままに行き来を繰り返す。此処で住まうものもいれば、旅立つものだっている。チェル自身も住まうものだった。
そして、殆どの住人はこのタルタロスの歴史は知らなかった。
「――此処に来た彼女に、当時の住民は助けを乞うたそうだ。それに了承した彼女はハートレスを『鍵のような剣』で倒し、やがて倒しつくしたそうだ。まるで『英雄』のような讃えるような書き方だった。
そこから数年ほど定住し、ふらっと姿を消した。―――気になるところは『鍵のような剣』ですよね」
「キーブレード」
答えたのはチェルだった。
「キーブレードは特殊な武器なそうで、使い手はそうはいないそうです。かなり、劣化はしていますが…彼女の仮面と、キーブレードの画像が此処に」
映りだされた仮面、そして、キーブレード。
アビスが何十回も繰り返して見た仮面の女と同じ仮面だった。モノクロの機械的な不気味な。
「……!」
「どうやら、合致はしていたようですね。―――これだけです。此処にはこれ以上の仮面の女の情報は無いんです」
「ああ、砂漠にダイヤをみつけるような賭け事だ。情報を得るだけでも充分。―――一応、その居場所と思える場所は有るんだよね」
「なんだと、フェイト。その居場所とは」
「うーん……形容しがたいが、シンプルでわかりやすいよ、場所」
神の聖域レプセキア
■作者メッセージ
ひとまずこれで、永遠剣士編の1話は終わりとなります。とりあえず、後は断章を1つ書き加えて、バトンを変えようかと。